コ2【kotsu】レポート システマ・ヴラディミア・ヴァシリエフセミナー

| 渡辺かおり

この記事は無料です。

昨年11月におこなわれた、システマインストラクター・ヴラディミア・ヴァシリエフ氏によるセミナーの模様を、東京でシステマを学ぶ渡辺かおりさんよりレポートでご寄稿頂いた。
東京はもちろん大阪セミナーへも足を運んだ渡辺さんの目に今回のセミナーはどのように映ったのか、ここではご紹介したい。

コ2【kotsu】レポート システマ・セミナー

東京〜大阪、ヴラッドセミナーで感じたこと

レポート渡辺かおり(システマ東京会員)
取材協力システマジャパン、システマ大阪(大西 亮代表)

 

初めてのヴラッドセミナー!

2015年11月、数年ぶりに東京と大阪でヴラディミア・ヴァシリエフ(通称:ヴラッド)のセミナーが開催されました。私はこれまでシステマの創始者であるミカエル・リャブコや、その高弟であるコンスタンチン・コマロフのセミナーには参加したことがあります。でもヴラッドのははじめてなので、わくわくしながら会場に向かいました。
細かなテクニックなどについては、追って発売される予定のDVDや、システマクラスでのシェアに譲るとして、個人的に印象に残ったことを中心にレポートしたいと思います。

久しぶりのヴラディミア先生来日で大盛況となった東京セミナー 。

 

東京セミナーのテーマは、「ホールド、ストライク、ウェポン」
初日にストライクの打ち方、受け方を学び、二日目にはナイフワークに進んでいきます。
これに対して大阪セミナーのテーマは「ディフェンス、コントロール、アタック」。
初日に丸一日かけて相手の姿勢を崩すテクニックを学び、翌二日目には相手の先をとるような、よりセンシティブなワークへと展開しました。

通常、システマのセミナーは即興で進められていきますが、今回は大阪と東京の4日間でできるだけ多くの情報を提供しようと、綿密に準備して来たのがうかがわれる内容でした。

 

◯東京セミナー(11月7〜8日)

東京セミナーの初日はストライクの準備から。
システマトレーニングの定石通り、ストライクを受ける練習から始めるのですが、目新しい感じがしたのは、息を吸いながらパンチを受けるトレーニングをしたことです。
通常、システマでは打たれた瞬間に息を吐くようにと教えられます。確かにそれによって衝撃を逃がすことができますが、必ずしも吐いてばかりいられるわけではありません。不意打ちを受けることもあるし、息が続かないほどの連打を受けることもあるでしょう。こうした状況でもリラックスできるようにするために、スムーズに息を吸ったり吐いたりしながらストライクを受ける練習をするのです。
最終的には40回連続でお腹にストライクを受けるのですが、スムーズな呼吸を心がけ、慣れてない人に対しては無理することなく、段階的に強くしていくようにします。

 

ストライクの打ち方に関しても、細かいけれどもとても大切なポイントを教わりました。拳の握り方についてです。指先から、関節をひとつひとつを曲げるようにして、握りこんでいくのです。この拳を作るためには手の筋肉がリラックスしている必要があります。そのために、

手首から先を伸ばしたり揉んだりマッサージすると良い

という説明を受けました。ストライクには頑丈な拳の方が適しているような気がしてしまうのですが、それよりも柔らかな手の方が大切ということに、“なるほど”という感じでした。他にはストライクの妨げとなる肩や肘の力みを抜くワークを、ゲーム形式のものも交えて色々と。

また拳の力を相手に伝えるワークもやりましたが、似たようなワークをミカエルがやると、相手の内側に直接働きかけてしまうため、傍目には何が起きたか良くわかりません。でもヴラッドはそれよりもう少し、傍目にも見やすくしてくれるため、何をすれば良いのかが明確になって助かりました。そうは言っても、難しいのには変わりないのですけれども。

ヴラディミア先生のストライクをうける筆者。

 

二日目は「ライトブリージング」と呼ばれる呼吸法からスタートです。
全身をパーツごとに区切っていっさい筋肉を緊張させることなく、すみずみまで呼吸を行き渡らせるようにしていきます。意識的に強く口からフーッと吐くブリージングよりは、ずっと軽く、音を立てずに行うので、ライトブリージングと言われるのでしょう。
こうして全身に呼吸が行き渡ると、姿勢が自然と整い、ざわついていた身体の内側や周囲の空気がすうーっと静まっていくのを感じます。この時、身体はリラックスして、強さ、スピード、正確さが高まります。この状態を保ちながら、プッシュしたり、掴んできたりする相手に対処するのがこの日のおおまかな流れでした。

この日もヴラッドは何度もデモを見せてくれましたが、相手の動きに逆らうことなく、無駄なく、ブレることもありません。また、ナイフワークの練習をする時に教わったのが、胴体を自由に動かせるようになることの大切さです。
仰向けに寝た姿勢で手足をあげ、胴体の動きだけでもぞもぞと前後左右に移動するエクササイズが紹介されたのですが、これは胴体と手足を切り離す目的があるとのこと。胴体の硬直から手足が解放されることで、全身がまんべんなく動くようになるのだそうです。普段のクラスでも時折やるエクササイズですが、そういう意味があったのかと、今更ながら腑に落ちました。

 

◯大阪セミナー(11月14〜15日)

翌週末、セミナー会場は大阪へと移ります。
こちらのテーマは「ディフェンス、コントロール、アタック」です。

大阪初日はとにかく情報量が多かった!

システマのセミナーはだいたい、一つのテーマをどんどん掘り下げていく方式で行われます。ですからセミナーを終えて、内容をまとめてみると一つのことを様々な角度から練習していることが良くわかります。
でもこの日の内容は少し違いました。知っておくと良さそうなテクニックを、片っ端から詰め込むような内容だったのです。それでもそこはヴラッド、きっちり整理されているのでそれほど混乱することなく先に進むことができます。やったことは、相手の関節をコントロールして姿勢を崩すこと。その数々のテクニックを、頭→首→肩→背骨→手→足といったように上から順に紹介していったのです。

大阪セミナーも大盛況となった。

特に頭や首のコントロールは使いやすいということもあって、念入りに練習をしました。ほかにおもしろかったのが、相手の指から崩すテクニックです。相手と手のひらを合わせ、指を組み合わせた状態だと、自分より力の強い相手を崩そうとしても抵抗されてしまって崩せません。でも手のひらを少し回転させ、相手の指に対して斜め45度でこちらの握力が加わるようにすると、あっけないほど簡単に相手の姿勢を崩すことができるのです。

続く二日目は、独特のストレッチで身体をほぐしたあと、相手の動きをコントロールするトレーニングへと移ります。
歩くパートナーを任意の進行方向に誘導したり、そこから逃れようとする相手をやはり狙った方向に連行したりするワークです。この時、力任せに相手を連れて行くのではなく、相手の動きに乗り、まるで相手が自分でその方向を選んだかのように方向付けるようにします。
ヴラッドは、

嫌がる友達をパブに連れて行くように

と冗談交じりにデモンストレーションを見せてくれましたが、強引さがまったく見当たらず、相手も苦笑しながらヴラッドのされるがままになっています。

 

こうして和やかに進められたワークは、いつしか相手の動き出しを読み取るトレーニングへと繋がっていきます。ここでヴラッドが出した指示は、「攻撃を仕掛ける際、必ずその準備をする動作がある。その準備動作がどのように始まるのかを観察し、対応するように」というもの。

でも、なかなかこれが多くの参加者にとって難しいようでした。なぜなら、攻撃の準備ではなく、準備をし終えたあとの攻撃を仕掛ける動きの始まりを見ようとしてしまうのです。でもここを間違えたままでは、先に進むことができません。なぜなら最終的に、相手が攻撃を仕掛けるタイミングをコントロールするトレーニングへと移るからです。
システマでは攻撃と防御では、防御のほうをずっと優先します。そのため、自分から攻撃を仕掛けるようなテクニックを習うことはありません。でも相手が仕掛けてきた攻撃に対処するのは、いちばん遅いタイミングです。相手の「攻撃の気配」よりも先にある「攻撃の準備の気配」を読み、今度はさらにその先にある「攻撃を準備しようとする意思」をコントロールするのです。
以前、モスクワ本部のヴラディミア・ザイコフスキーが「動きの源」をテーマにセミナーをやってくれたことがありましたが、そのヴラッド版という感じです。

この「気配の源」について説明をしている時、ヴラッドがちょっと不思議を体験させてくれました。誰かに攻撃をしかけようとする時、その人の内面には緊張感のようなものがこみ上げてきます。それは周囲の人の身体に伝わり、なんらかの変化をもたらします。その「内面の緊張感がこみ上げた状態」をヴラッドが実演してくれたのです。するとヴラッドはただ静かに立っているだけなのに、本当にこちらまで胸苦しくなってくるのです。

本気でやると、みんな部屋から出て行ってしまうだろうから

と、ヴラッドとしては控えめなつもりだったみたいですが、その変化はありありと伝わりました。他の人も「頭がのぼせる感じがした」など、いろいろな変化を体験していたみたいです。こうした触れることなく伝わる「なにか」を扱うのも、システマのおもしろいところなのかも知れません。

東京と大阪、あわせて4日間参加して感じたのは、ミカエルのセミナーとは異なった空気感です。
特に男性陣はキラキラした表情でヴラッドを見ている人も多く、憧れている人が多いのだなと感じました。ただ憧れが強すぎるためか、ヴラッドのように動きたくなるような心のテンションが生まれて、アグレッシブな動きになりがちなように思いました。それが少し怖く感じられたこともあって、こんな質問をしてみました。

「みんな、スーパーマンになろうとしているように思う。自分がシステマで目指しているものとは違う気がするのだけど、どうなのでしょう?」

ヴラッドの答えは、

どちらでも良いんだよ

というもの。

システマ創始者のミカエルは、

システマをやると、普通の人になるのだ

と言ってますし、ヴラッドも基本的に同じ考えなんじゃないかと思います。でもあえて「どちらでも良いんだよ」と、答えるところにシステマの懐の深さがあるような気がします。
マスターが教えるものと違うものを求める人も、その場にいることをゆるしてしまうような包容力とでも言いましょうか。もしくは人のことなど気にせず、自分のトレーニングに専念しなさいということなのかも知れません。

拙いレポートでしたが、もしヴラッドに興味を持たれたかたがいたら、ぜひ実際に会ってみてください。今回は4年ぶりの来日でしたが、今年11月にも再び来てくれることが決まりました。セミナー会場ではヴラッドの動きを目の前で見られるのはもちろん、直接質問することも、技を受けることもできます。DVDや動画では派手なデモンストレーションばかりが注目されがちですが、人柄やたたずまい、生徒に接する態度など、直接会うからこそ感じられることから教わることも多いはずです。

(了)

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–Profile–

渡辺かおり(Kaori Watanabe
システマ歴4年。主にシステマ東京で練習。フィジカルセラピスト。