対談 横山和正×小野美由紀 沖縄空手を巡る対話 04

| 横山和正、小野美由紀

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本サイトで「沖縄空手の基本」を連載されている横山和正師範と、この連載を読んだのを切っ掛けに沖縄空手に入門した作家・小野美由紀さんの異色の対談を、数回に渡ってお届けします。

四回目の今回は、空手の学びかたについてのお話しです。

対談/横山和正(空手家)×小野美由紀(作家)

第四回  空手の学びかた

語り横山和正、小野美由紀
構成コ2【kotsu】編集部

 

空手のキャパシティ

小野 他の道場での教え方は分からないんですけど、何もないところから「とりあえず真似をして」って始まったんですよね。何が正しいか、というインストラクションとか一切ない状態で何かを始めるということが、年齢を重ねると全くなくなってくるので。だいたいインターネットで調べればわかることも多いですし。でも空手の動きって動画を見ても何をやっているのか良くわからないですし、言葉で教えられても実践は無理です。そういう何も分からないことをただやるという楽しさが、私がいま一番感じていることなんです

横山 そうですよね。でもやってると色々と出てきますよね。先ほども言ったように空手の良さって初心者から上級者まで限りなくプラスになるし、楽しめるということ。初心者はまず型を覚えることから始めるじゃないですか。それが最初の楽しみかも知れない。私もいま小野さんがおっしゃったように、特に教えることなく「見て覚えろ」というやり方です。これは衛先生もそうでしたし、沖縄空手の仲里先生もそうでした。見て覚えるのってとても大事で、社会に出ても同じだと思うんです。仕事でもいちいち答えを教えてくれたりはしないでしょう。それは誰も答えなんて分かってないからだと思うんです。手探り状態で。そうした中で生き残っていいものをやっていくには、自分で模索して感じ取っていく能力が大事だと思います

私が場合、その経験が武道の試合ですごく活きたことがありました。見てコピーすることを教えられていたから、試合中でも相手の動きをすぐコピーできちゃう。すると次に相手が何をしてくるのかが分かりやすくなってくる。

だからいちいち人を頼って教えてもらうよりも、ぱっと見て自分のものにしてしまう能力って大事だと思うんですよね。そういうことで自分の発想も広がるようになる。だからあまり他人任せの教わり方よりも、自分で必要なものをどんどん盗み取ってしまうというか。自分が沖縄にいた時間は短いんですよ。私は見て盗むのは得意なんですが、さすがに「えっ」って思ったのが、トンファーを教わった時。仲里先生がトンファーを持ってきて突然、「君、これ、やりなさい」と。その時には先輩のを見てるから覚えちゃってるわけです。それで5分くらい先輩たちに混じってトンファーの練習をさせてもらい、後は先生自ら細かいところを直されて、そこから先は「アメリカで練習、研究してきなさい」って。それで終わり(笑)。そういうこともあったから、手とり足取り習ったことってないんですよね。だいたい先生がひらめいたことをその場で教わってそれでおしまい。そういう感じだったんです。

小野 習得までの正しいステップとかないわけですよね。

横山 言うなれば型が習得ステップなのですが、その稽古法に複雑なポイントがあるんです。自主練習にもできるレベルというのがあるんですよね。初心者の人が自主練習をする時は、道場で教わった型を覚えることに集中して細かいところを直したりしないほうが良いです。自己流になっちゃいますから。自分は自主練習がほとんどですが、これは感覚的なものですね。「なんだか今日はバランスがずれてるな」と思う時って、どこかしら動きがズレてるんですよね。そういう時に鏡で見てみると「ああ、やっぱり姿勢がズレてるな」って分かって修正する。そうやってまた動くとスムーズになって「ああ、今日もスムーズに動けてるな」という感じになる。自分の場合は自分の中にバンと広がる力の感覚が全て。それをもっての自主練習なんですよね。

小野 そういったズレをできるだけ早く気づいて直せるようになるには、どういう能力が必要ですか?

横山 それはけっこう時間がかかるかも知れませんね。例えばお医者さんが患者さんの脈を取るじゃないですか。その脈がおかしいかそうでないかは、正常な脈がどんなものなのか分からないことには分からないじゃないですか。だから大事なのは、スタンダードで動けるかってことだと思うんです。基本の段階で正しい姿勢を作っていくこと。先生の号令の中で型をやっていく中で、必ず自分の感覚の中でつかめますよ。それは「ああしなきゃいけない」、「こうしなきゃいけない」と雁字搦めになるわけじゃなくて。カタチを先に作ってきれいに見せる方法と、内面から鍛えてきれいに見せる方法というのがあるんですが、自分が昔、空手の大会で演武をやった時に、いちばん型がうけたんですよ。上級者の試合のあとにやったんですけれども。会場がしんと静まり返って、終わった途端にバーっと拍手が来た。そういう時ってやってる途中で分かるんですよね。会場と一体化しているのが。会場がしーんとなって見入ってるのが分かって、そのエネルギーが自分の中に入ってくるというか。

小野 それは体験してみたいですね。

小野美由紀さんと横山和正先生
小野美由紀さんと横山和正先生

 

横山 そういう経験があって、あれはすごいなと自分では思ったんですけど、本当にあるんですね。会場のみんなの空気が自分の中に入っていってそれが余裕とかそういうのに変化して、自分が動ける。自分はあくまでも沖縄の空手で大会の参加者とはぜんぜん違うにも関わらず、一番拍手も多くてすごい反響があった。その体験があったことで、古いとか新しいとか関係なくて、ただ魅力あるものなんだな、と思ったんですよ。人間でも若い人のフレッシュな魅力とある程度年齢のいった人の魅力って違うじゃないですか。でもある程度若かったらみんなそれなりに光ってるものだと思うんです。でも年齢がいった時に光るかどうかは、それまでの生き方で変わってきますよね。考え方や色々な要素が合わさってすごく魅力的になる人間もいれば、経験を積んだためにダメになってしまう人間もいます。空手の魅力はそういうところにあると思うんですよ。空手は自分の中に良い経験を積ませてくれる。やっぱり訓練というのは経験ですから。だから自分にとって空手は限りなく人生に密着したものなのです。

アメリカで指導している時に、こんな言葉が浮かびました。「知るだけでは不十分だ。勉強しろ。勉強するだけでは不十分だ、それを活用しろ」と。知識が多いだけでは無意味、道場でいくら強くてもダメ。道場でやったことを道場の外で活かせないと。道場で強いけれども、仕事をやっても何をやってもダメだというのでは通用しないと思うんですよ。だから生徒には「道場で失敗するのは良い」と言っています。そこで覚えたことを外で活用できれば良いわけで。道場というのは失敗する場なんです。自分の恥ずかしい部分をさらけ出す場でもあるし、そういう場で良いと思うんですよ。だから生徒には「おれの前でうまく見せるのはやめてくれ」と。「ありのままを見せてくれ」と。装ってもわかりますからね。自分とにとって空手というのは人生全て、人生をデザインするもの。だから空手で得たものをいかにして生活に活かしていくか、ということだと思うし。それをやるには活力がないといけないし。自信の持てない人生というのも面白くないじゃないですか。……なんでこんな話になったんだろう(笑)

(第四回 了)

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–Profile–

横山和正(Kazumasa Yokoyama
本名・英信。昭和33年、神奈川県出身。幼少の頃から柔道・剣道・空手道に親しみつつ水泳・体操 等のスポーツで活躍する。高校時代にはレスリング部に所属し、柔道・空手道・ボクシングなどの活動・稽古を積む。

高校卒業の年、早くから進学が決まった事を利用し、台湾へ空手道の源泉ともいえる中国拳法の修行に出かけ、八歩蟷螂拳の名手・衛笑堂老師、他の指導を受ける。その後、糸東流系の全国大会団体戦で3位、以降も台湾への数回渡る中で、型と実用性の接点を感じ取り、東京にて当時はめずらし沖縄小林流の師範を探しあて沖縄首里空手の修行を開始する。帯昇段を期に沖縄へ渡り、かねてから希望していた先生の一人、仲里周五郎師に師事し専門指導を受ける。

沖縄滞在期間に米国人空手家の目に留まり、米国人の招待、及び仲里師の薦めもあり1981年にサンフランシスコへと渡る。見知らぬ異国の地で悪戦苦闘しながらも1984年にはテキサス州を中心としたカラテ大会で活躍し”閃光の鷹””見えない手”と異名を取り同州のマーシャルアーツ協会のMVPを受賞する。
1988年にテキサス州を拠点として研心国際空手道(沖縄小林流)を発足する。以後、米国AAUの空手道ガルフ地区の会長、全米オフィースの技術部に役員に籍を置く。
これまでにも雑誌・DVD・セミナー・ラジオ・TV 等で独自の人生体験と古典空手同理論他を紹介して今日に至り。その年齢を感じさせない身体のキレは瞬撃手と呼ばれている。近年、沖縄の空手道=首里手が広く日本国内に紹介され様々な技法や身体操作が紹介される一方で、今一度沖縄空手の源泉的実体を掘り下げ、より現実的にその優秀性を解明して行く事を説く。

全ては基本の中から生まれ応用に行き着くものでなくてはならない。
本来の空手のあり方は基本→型→応用全てが深い繋がりのあるものなのだ。
そうした見解から沖縄空手に伝えられる基本を説いて行こうと試みる。

書籍『瞬撃手・横山和正の空手の原理原則』

ビデオ「沖縄小林流空手道 夫婦手を使う」・「沖縄小林流空手 ナイファンチをつかう」

web site 「研心会館 沖縄小林流空手道
blog「瞬撃手 横山和正のオフィシャルブログ

 

小野 美由紀(Miyuki Ono
文筆家。1985年生まれ。慶応義塾大学フランス文学専攻卒。恋愛や対人関係、家族についてのブログやコラムが人気。デビュー作エッセイ集「傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎)を発売。著作に、自身のスペイン巡礼の旅を記した『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』(光文社新書)、原子力エネルギーの歴史について描いた絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版)がある。

Twitter:@MiUKi_None
ブログ:http://onomiyuki.com/