鈴木秀樹の『エクレアと人間風車』 第八回  『CACC入門』の反響と今後は?

| コ2編集部

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本年1月19日に日貿出版社より『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を上梓した現役プロレスラーの鈴木秀樹さん。鈴木さんは“人間風車”の異名を持つ、名レスラー・ビルロビンソン氏より、キャッチ アズ キャッチ キャン(以下、CACC)と呼ばれる、プロレスの源流ともいえるレスリングを学び、現在フリーのレスラーとして、様々な団体で活躍しています。
そこでコ2【kotsu】では、『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』の出版記念集中連載として、鈴木さんにビル・ロビンソン氏とCACCについてお話しを伺いました。
第八回目の今回は、本を刊行して一月が経ったところで、改めてその反響やCACCの試合などについて伺いました。

『エクレアと人間風車』

第八回  『CACC入門』の反響と今後は?

語り鈴木秀樹
構成コ2【kotsu】編集部

 

『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を刊行

コ2【kotsu】編集部(以下、コ2) 『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』が発売されて1ヶ月(インタビューは2月に行われました)経ちましたけど、反響はどうでしょうか?

鈴木 内側の反響が大きい気がしますね。会場に行くと選手からもお客さんからも言われます。「買いました」って。あの大きさですからね。値段も高いですし。企画の段階で僕自身「高い!」と言ったくらいですから。買うにはハードルが高い気がするんですけれども、だからこそ選手が買ったのかも知れない。選手が買ってるんです。もちろんお客さんも買ってくれてるんですけれども、選手が買って読んでくれている。会場に行くと選手からも言われますもん。大日本プロレスの選手もそうですし、DDTの今成夢人さんにも言われました。「買いました!」って。何のひねりもない普通のファンみたいなことを。

コ2 勝村周一朗さんもTwitterで紹介してましたね。

鈴木 勝村さんはどうでも良いです。これは書いといてください。勝村さんはどうでも良い(笑)。あとはDDTのプロレスラーで9歳のゆにくん。彼もファンの人にもらったらしいですよ。でも文章が難しいって。まあ9歳の子には難しいでしょうね(笑)

コ2 ルビふってないですからね(笑)

鈴木 そうそう。だから「分かるところからやって下さい」と返事しましたよ。ただ子供に興味もってもらえるのは嬉しいですね。それと一番うれしかったのは「プロレスの試合の見方が変わった」って意見ですね。それはやって良かったと思いましたよ。昔だってロビンソンの他にも良いレスラーはいっぱいいたんです。今もいます。そういう人たちがやってることの解説書としても役立ってるなら嬉しいなと

コ2 ファンの再教育という意味でも役に立つと。

鈴木 それは昔、藤波さんに言われました。やっぱり時代が変わって忘れられたり、見えなくなっていることってあると思うんです。これは僕達レスラーの責任でもあるのですけれども、本来プロレスとはこういうものなんだってことを、もう一度知ってもらわないといけない。そうすることでレスラーのレベルも上がるし、お客さん達もより楽しめるようになります。

先日のセミナーのあと、参加者と飲みに行ったんですが、ずーっと猪木VSロビンソン戦の動画を見ながら解説してましたから。1時間フルで見たの久しぶりですよ。流石に猪木さんはすごかったですね。練習量もすごかったんだと思います。最初から最後までずっと同じテンションで動き続けてましたから。

技術が分かることで、全く別の見方ができるようになるんですよね。僕もロビンソンに習い始めた頃、そうでした。でも何よりも大事なの印税(笑)これが一番大事です。本の内容より印税が入ることの方が大事。だから立ち読みは絶対ダメです。自分が本を出して初めて、コンビニの雑誌にビニールがかかってるかが分かりました。「買えよ!」ってことなんですね(笑)

書店訪問の際に足を運んでくれた方と鈴木先生。
書店訪問の際に足を運んでくれた素晴らしい読者さんと鈴木先生。

 

CACCの試合について

コ2 もし本をきっかけにして愛好家が増えたら、必然的に試合や大会といった流れが出てくると思います。もしキャッチ アズ キャッ キャンの試合が行われるとしたら、どのようなルールになるのでしょう?

鈴木 やはりピン・フォールでの3カウントは必要ですよね。肩を付けたら負け、というルールはやはりキャッチ アズ キャッチ キャンの原点ですから。それにMMAや柔術との違いが鮮明になりますし、端から見ててもわかりやすい。これがもしキャッチ アズ キャッチ キャンと言えば関節技だとばかりに、サブミッション・フォール(参った)に重点をおいたルールにしてしまうと、すでにあるグラップリングの試合と何が違うんだって話になりますからね。

コ2 もともと公式ルールってないんですよね。

鈴木 ルールブック的なものがあったかなかったか、という意味で言うならおそらくないはずなんですよ。だから僕には仮説がありまして。ランカシャーの辺りにはいわゆるランカシャー・スタイルだけでなく、ジャケットを着るコーニッシュ・スタイルや下半身への蹴りが有効とされたデボンシャー・スタイルなど数種類のレスリングがありました。それぞれの競技者みんなが参加できる最大公約数的なルールとして、キャッチ アズ キャッチ キャンが生まれて、広まったのではないかと。だからおおよそのルールはあるのでしょうけれども、はっきりしていたのはピン・フォールとサブミッション・フォールくらいだったんじゃないですかね。それとアメリカで始まったカラー・アンド・エルボー。

コ2 鈴木選手としては、試合はあったほうがいい、という考えなんですね。

鈴木 目指すものがあった方が良いんじゃないかと思うんですよね。言い方キツイかも知れないですけど、そういうものがなかったから、キャッチ アズ キャッチ キャンがここまで廃れたわけじゃないですか(笑) 柔道や柔術がこれだけ広まっているのに、キャッチ アズ キャッチ キャンはほとんど無いに等しい状態。

1月に行われた出版記念CACC講習会で指導をする鈴木選手。
1月に行われた出版記念CACC講習会で指導をする鈴木先生。

 

そういう状況があるので、まず大会なり開催して、キャッチ アズ キャッチ キャンが何かをやっているというのを、世に示していく必要があるんじゃないかと。だから第1回大会から100%完璧なルールを目指す必要もないと思うんです。やりながら見直していくことにして。ただ相手の肩をつけてピン・フォールを取るというゴールが明確なら良いかな、と。フリースタイルやグレコローマンとの違いとしては、やはりサブミッションがあるということでも良いですし、あと試合時間ですね。それとルールによって選手の発想が制限されてしまわないようにしたいですね。もちろん危ない面もあるのでしょうけれども、色々なことを考えてやってもらいたいし、そういうルールにしていきたい。昔のパンクラスではヒールホールドで選手がみんな怪我して欠場だらけになってしまったことがあります。こういう例は踏まえつつも、なるべく制限はしたくないですね。そこで考えているのが、ロープ・エスケープの導入です

コ2 ロープ・エスケープですか。

鈴木 そうです。どんなに技がうまくかかってても、相手がロープを掴んだら技を解かないといけない。だから関節技を仕掛けられてどうにも逃れられなくても、ロープまで這っていければ脱出することができます。普通の格闘技では場外というとポイントを失ったり、即負けてしまったりとネガティブな使われ方をしますが、こっちでは戦略の一部として使えるような位置づけにしようかなと

コ2 ロープエスケープの回数制限は?

鈴木 なし。無制限です。いくらでもロープエスケープしていい。それは僕がピーター・アーツとやった時に思ったんです。これはサブミッションが苦手な人にはいいルールだな、と。何回つかんだって良いんですから。

コ2 それだとサブミッションが得意な人には不利じゃないですか?

鈴木 そこはピン・フォールを狙えばいいんです。肩をつけばいいだけですから。例え相手が腕十字を一生懸命クラッチで耐えてても、3カウント肩がついてしまえばおしまいです。だからタップをとるほどしっかり関節技をかける必要もない。技のかかりが多少浅くても、肩を3カウント付けてれば勝てます。絶対にそっちの方が早いんですよ。寝技が得意な人にとってはそこが強みになります。

コ2 グラップリングとかだと、クラッチを解除するだけで下手すると1分くらい簡単にかかりますからね。

鈴木 そうそう。クラッチを切る切らないの膠着状態って10秒くらい平気で過ぎます。だったらピン・フォールで3カウントの方が早い。

コ2 それだと試合も膠着しにくい、動きのあるものになりそうですね。

鈴木 ロビンソンは「関節技からうまく逃げたとしても、その形に入られた段階ですでに負けてるんだ」と教えてましたしね。形に入ったところから逃げられるかどうかって、運の要素も大きいですから。だからアマチュアの大会とかだと怪我を防ぐ目的で、関節技の形に入ったら「見込み一本」を取ったりしますよね。そういう方法もあるかも知れません。あとは判定やポイントは一切なし

コ2 なしですか!?

鈴木 だから二人負けの可能性もあります。そこは考える余地があると思うんですけどね。つまらないほうが負けとか(笑) 来賓の方から、つまらない方に塩を贈呈していただく

コ2 しょっぱいってことですね(笑)

鈴木 つまらなかったらタオルじゃなくて塩が投入されるとか。そしたら負け(笑)。試合そのものがつまらなかったらどっちも負け。これは冗談だとしても、膠着するメリットをなくしたいんですよ。ポイントが優勢な人が時間を稼いだりできない。ポイント目的にちまちました技を仕掛けることもない。肩をつけるか、参ったさせるか。

コ2 ただ「両者負け」という結果があるとすると、トーナメントとか大変そうですね。

鈴木 僕の遊び心でもありますけど、両者負けがOKなら全員1回戦敗退ってことも有りえますからね(笑)

コ2 それは新しいですね。

鈴木 高専柔道とかだと、引き分けを狙いにいったりするじゃないですか。団体の勝利のために。僕はあれ、ありだと思うんですよ。死なないってことですから。負けさえしなければいつか勝つ。そうやって無敗の選手が生まれるかも知れない。勝ってないけど、負けてもいない。そういう考え方もあるし、勝つためには攻めなくてはいけないけれども、攻めるにはリスクがあるから、そのリスクを取らないで引き分けを狙う。そういう概念も通用するようにしたいですね。

コ2 トーナメントだと、引き分けはどんな扱いになるのでしょう。

鈴木 1分間サドンデスです。カウントもワンカウント。ロープ・エスケープもなしにします。ロープを掴むのは、タップと同様にみなします。本当はエスケープを有りにしたいんですけどね。ただ判定はつけられないですよね。アマレスで言うニアフォールにしても、判定しなくちゃいけない。だったらはじめから明確な判定材料をつけないといけないし。サドンデスまで判定無しでやってきたのに、いきなりサドンデスになると判定で勝敗が決まるのも選手がかわいそうな気がします。それでもダメなら、じゃんけん。運(笑)。バックを取った回数の多いほうが、サドンデスでは有利な態勢から始められるというのも考えたんですが、それではポイント制と変わらなくなってしまいます。ここのところはトーナメントなのか、ワンマッチなのかでルールを変えても良いかも知れないですよね。

コ2 ワンマッチなら引き分けでもいいわけですからね。

鈴木 そうですね。トーナメント方式だと引き分けが問題になるということですから。ただキャッチ アズ・キャッチ キャンの大会を開催するとして、はじめからトーナメント制でやるのもどうかなと思うんです。まだルールも技術も行き渡ってないうちからトーナメント制にしてしまうよりも、ワンマッチ制でできる人は2試合も3試合もできるという風にした方が良いように思うんです。

コ2 大会というより、交流会に近い感じでしょうか。

鈴木 最初はそれが良いかなと思います。いきなり大きな大会をやっても、理解のない人は参戦しようと思わないはずです。だから今も時折やってる技術セミナーの中でエキシビションマッチをやってみたり、セミナーの中で軽くルールに則ってやってみたり。こうしたことをセミナーの中で見せていきつつ、ワンマッチで試合もやってみる。そうやっていった先にトーナメントもあればいいかな、と。

コ2 総当たり戦だと試合数、大変ですしね。

鈴木 そうですね。終わらない(笑)

ベルトを巻く鈴木先生。
2017.3.30日の試合で、関本大介選手を破り、BJW認定世界ストロングヘビー級王者を奪取した。

 

(第八回 了)

 

『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』
鈴木秀樹さんの初の著書『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』が、現在全国書店、Amazonで発売中です。


「キャッチ アズ キャッチ キャン入門」
 定期講座開催のお知らせ!

これまで単発で行ってきた、鈴木秀樹さん直接指導による「キャッチアズキャッチキャン講座」が、新たに定期講座としてスタートすることが決定しました!
細かな指導が行き届くよう定員10名限定です。
まずは下記の2回が実施決定。以降も基本的に毎月第一日曜日or祝日の月1回ペースで実施予定です。

  • 4月2日 午前10時〜12時
  • 5月3日 午前10時〜12時

会場アカデミア・アーザ 3階マットフロア(http://www.academia-az.com/
参加費:5,000円
定員:先着10名

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–Profile–

鈴木秀樹選手

鈴木 秀樹(Hideki Suzuki
すずき・ひでき/本名同じ。1980年2月28日生まれ、北海道北広島市出身。生まれつき右目が見えないというハンディを抱えていたが、小学生時代は柔道を学ぶ。中学時代にテレビで見ていたプロレス中継で武藤敬司に魅了され、プロレスの虜になる。専門学校卒業後、上京。東京・中野郵便局に勤務。2004年よりUWFスネークピットジャパンに通うようになり、恩師ビル・ロビンソンに出会う。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンを学び、2008年11月24日、アントニオ猪木率いるIGF愛知県体育館大会の金原弘光戦でデビュー。2014年よりフリーに転向。ZERO1やWRESTLE-1、大日本プロレスなどを中心に活躍。191センチ、115キロ。
2017年1月に日貿出版社より『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を発表する。

Web Site:鈴木秀樹オフィシャルサイト

『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』