鈴木秀樹の『エクレアと人間風車』 第九回  CACC競技化への道、マスクもあり!?

| 鈴木秀樹

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本年1月19日に日貿出版社より『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を上梓した現役プロレスラーの鈴木秀樹さん。鈴木さんは“人間風車”の異名を持つ、名レスラー・ビルロビンソン氏より、キャッチ アズ キャッチ キャン(以下、CACC)と呼ばれる、プロレスの源流ともいえるレスリングを学び、現在フリーのレスラーとして、様々な団体で活躍しています。
そこでコ2【kotsu】では、『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』の出版記念集中連載として、鈴木さんにビル・ロビンソン氏とCACCについてお話しを伺いました。
第九回目の今回は前回に引き続き、CACCの競技化へのアイデアを鈴木さんに伺いました。

『エクレアと人間風車』

第九回  CACC競技化への道、マスクもあり!?

語り鈴木秀樹
構成コ2【kotsu】編集部

 

「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン大会」構想
 〜パンタロンとマスクはOK!

 

コ2 試合時間はどうしますか?

鈴木 3分、6分、12分という3種類がいいかなと思ってます。12分は疲れるので、3分がメインになる気がしますけれども。6分でも長いかな。だったら3分とか5分とか。でも3分1ラウンドというラウンド制の名残は残したいんですよね。

昔はタイトルマッチでもボクシングのようなラウンド制があったらしいんです。例えば5分12ラウンド60分とか。60分1本勝負にしてもトータルで3の倍数になっているのは、ラウンド制の名残と言えますよね。例えばトーナメントは3分1ラウンドにして、決勝は3分2ラウンドにするとか。もしくは6分1本勝負でも良いですよね。3分2ラウンドと6分1ラウンドはだいぶ違いますよね。あとは場外エスケープはありにします。

コ2 それは反則として?

鈴木 10カウント以内に戻らなければ負け。だから10カウントは外にいても良い。

コ2 そこはプロレスなんですね

鈴木 そう。プロレス(笑) 僕がどうなるのか観たいだけ(笑)。逃げてるんですけれども、10カウント以内に戻ればOK。戻った瞬間に攻撃するのもOK。

コ2 戻って来ようとするのを、押し戻して邪魔するのもOK?

鈴木 そうすると別の競技になりますよね。それはそれでおもしろいですけれども(笑) そうすると相撲取りみたいな人が強くなりますけど、それは巌流島でやってますからね。だから一方が場外エスケープしたら、レフェリーがもう一方を真ん中に戻してカウントするとか。

ただ試合中の怪我とかあるじゃないですか。アクシデントでどこか怪我したけど、すぐに戦闘不能というわけじゃないから、いったん離脱して様子を確かめたい。ダメならリタイアするし、行けそうなら戻る。そういう使い方ができるんじゃないかと思うんですよね。

ただ打撃はなしですよね。やっぱり。だけど拳を押し付けるのはOK。当ててグリグリするのはOKです。そういうのは元々ロビンソンからたくさん教わりましたし。するとブルース・リーのワンインチパンチみたいなのはどうしたら良いのかと。密着したところからドンと来る打撃。あれはありになりますよね。それは良いのかどうか、悩みどころです(笑) だから寸勁の打てるジークンドーの選手とか出てきたら強いかも知れない。立って組んだと思ったら、いきなり相手がパタリと倒れているという(笑)

ただプロレスもそうですけど、グレーなものも含めて脊椎への打撃は一切、禁止ですね

コ2 でも背骨に肘を押しあてて姿勢を崩したりするのはOKですよね。

鈴木 そうですね。そういう技術も本の中で紹介してますから。ただ衝撃を与えることを目的とした打撃に関しては禁止にしたいですねボーン・トゥ・ボーン(骨で骨を圧迫する)の痛み技はOK。そういう試合を見てみたいですね。自分はやられるの痛いから嫌だけど、人がやってるのを見てみたい(笑)

他に反則は普通に噛みつき、目潰し、金的攻撃。あと指関節。本当は指関節もなんでもありにしたいんですけど怪我しやすいですから。でも指関節をなくすのも、もったいないので人差し指から小指までの4本を同時にキャッチして曲げるのはOK。1本だけとか3本とかなら反則です。指の関節技って難しそうにみえて、意外に簡単にとれるんです。もちろん折れない範囲で加減してやりますけれど。

コ2 ボディプレスはどうでしょう。打撃という扱いなら反則でしょうけれども、勢いのある押さえ込みと見なすならOKになります。

鈴木 そこはどうでしょうね。でも僕が見てみたいという意味ではありですね。僕はプロレスラーになる前、フライングボディプレスとか受けても痛くないものだと思ってたんですよ。というのも、僕がやってたファミコンのプロレスゲームではボディプレスって威力ないんですよ。全然ダメージを与えられない。でも実際に受けてみるとすっごい痛かった(笑)。100キロくらいある人が落ちてくるってすごい衝撃ですよね。しかもトップロープから。

でも試合としてはどうなんでしょう。ロビンソン風に言えば食らう方が悪いということになりますから。ありにしたい気もしますが、フォールに向かうという意味では意味ないですからね。そういう人が好きな人がいますけれども。僕みたいなタイプとか(笑)。こういう意味のない、おもしろいだけの技をやるタイプは引き分けた時、「どちらがおもしろいか」という判定になった時に圧倒的に有利(笑)。ただ実際に試合をやるとしたら、なしでいい気がします。距離をあけて勢い良くぶつかるのは打撃として禁止

コ2 ブラジリアン柔術みたいに、自分から仰向けになって背中がついた場合も、ピン・フォールの対象になるのでしょうか

鈴木 なります。肩をついた瞬間に3カウントが始まる。だから三角絞めをかけても、両肩がついてたらかけてる方がピン・フォール。昔、そんな試合があったんですよ。ある選手が三角絞めされてたんです。それを持ち上げて耐えてたんだけど、締めが決まって意識が落ちてしまった。それで倒れた拍子に締めてた選手がマットに頭から落ちて気絶してしまったんです。この試合がどっちが勝ったか忘れましたが、キャッチ アズ キャッチ キャンの試合なら両肩をついた方が負けです。もちろん絞め落とされた時点でレフェリーが気づいて止めて、サブミッション・フォールが成立したら落とした方が勝ちですけれども、もし締めてる側が肩を3カウントついたら負け。だから先に気絶した方が勝っちゃう、ということもあるかも知れません(笑)

講習会で指導をする鈴木選手。
講習会で指導をする鈴木選手。

 

3カウントが早いか、落ちるのが早いか。レフェリーは大変かも知れないですけど。あとはバックからチョークスリーパーをかけられても、そのまま仰向けになって相手の背中をマットにつけちゃえば、3カウントでピン・フォールです。すると首を締めてる側は動かざるを得ないから、チョークをかけられている側にエスケープするチャンスが生まれる。

コ2 投げ技は? パイルドライバーのような脳天から落とすような技に関しては?

鈴木 あれはなしですね。僕がくらっても痛いですし。脳天から落とすのはだいたいどの格闘技でも禁止ですよね。プロレスはリングの上だからできるわけであって。

コ2 背中から落とすような投技はOKですね。

鈴木 そうですね。ファイヤーマンキャリーを受け損ねて、たまたま頭から落ちるようなケースは仕方ないですね。ちゃんと受け身取れよってことですから。ロビンソンには「投げられそうになったら首を丸めろよ」って教わっただけですけどね。受け身の練習とかやらない。投げられながら覚えるんです(笑)

コ2 本人もしてないんでしょうね。

鈴木 きれいに投げられたら負けですからね。むしろ受け身を取らない練習が出てくる。例えばレスリングとかだと、バク転とかハンドスプリングとかやりますよね。あれは投げられても空中で身体を操作して、背中ではなく足の裏から着地するためのものですから。

コ2 会場はどうしましょう。

鈴木 リングかリングと同じ四角い会場が良いですね。一つ考えたのが、新木場にレンタルできるリングがあるんですよね。花道もついてるんです。だから花道を通って入場できるんですけど、入場曲はなし

コ2 そこはなしなんですか。

鈴木 なしです。入場曲つけちゃうと、みんな一世一代の勝負をしようとするんですよ。それが延々と続くと見てる方が疲れるじゃないですか。もしつけるなら僕がつける。基本的に80年代アイドル

コ2 ただの嫌がらせじゃないですか(笑)

鈴木 事故の予防とか現実的な問題はあるにせよ、やっぱりリングで試合するのって違うじゃないですか。赤コーナーと青コーナーがありますし。グラップリングの試合をリングでやったりしますけど、そういう場合はマットのスプリングを締めてるはずなんです。プロレスの場合は投技の衝撃を吸収するようにゆるめてるんですが、それだとふわふわしてやりづらかったりするので。なのでここはスプリングもプロレスと同じように調整します。これなら投技をくらっても、ある程度の受け身が取れれば大丈夫なはずなので

コ2 正式にはリングだけれども、柔道場でも代替可能ということですね。

鈴木 柔道場なら四角い赤畳のところがロープの代わりになりますね。手首や足首から先が赤畳の上に出たらロープ・エスケープ扱いになります。それだと柔道場をそのまま使えますし、柔道場なら区の体育館などにたくさんあるから、練習や試合もやりやすい。皆さんにやってもらいやすくなるでしょう。

コ2 年齢によるカテゴリ分けは? 柔術とかレスリングとか年齢カテゴリがありますが。

鈴木 ああ。どうしましょうか。やる人からしたら気になりますもんね。練習期間やキャリアで分けるのも良いかも知れませんね。まあピークを超えた40代が元気な20代とやって引き分けに持ち込むというシーンが見られるかも知れないですし、そこから得られることもあるでしょうし。そうやって自分の弱みを修正して強みにしていくこともできますしね。ただ20代、30代とざっくり分けても良いかも知れないですね。あるいは申込み書に年齢やキャリアを書いてもらって、それをもとに運営側がワンマッチを組むとか。だから経歴詐称は制裁ですね(笑)ただ年配の人にもやってもらえるような雰囲気は出したいですね。

コ2 すると年齢別でルールが変わるとか?

鈴木 確かに40過ぎてスープレックス受けるのはきついでしょうからね。ただ持ち上げて叩きつける行為って勝ちにはつながらないんですよね。ピン・フォールに持ち込む過程としてたいした意味はない。だって相手を持ち上げられるなら、押さえつけた方が早いですから。柔道のような投げて一本もない。だから勝ちを狙うならスープレックスは出てこないと思いますよ。その意味では禁じ手にしても良いのかも知れませんね。無駄な故障を防ぐためにも。

ただ、そういう技や発想を奪うようなことはしたくない。意味がないことでも、可能性としては残しておきたい。確かにテイクダウンとしては使えるかも知れませんが、それだけじゃピン・フォールになりませんから。昔のヨーロッパでは、スープレックスで相手を投げても、すぐにコントロールしなかったらレフェリーに立たされたそうです。そういうルールにしても良いかも知れませんね。ただ、何をコントロールと見なすのかという基準を作らないといけなくなりますけれども。

コ2 ウェアはどうしましょう。グラップリングのようにラッシュガードとか? それともプロレスのように半裸にトランクスとか。

鈴木 ラッシュガードで良いと思います。Tシャツは指が引っかかったりして危ないので、ダメですけれども。下も普通にポケットのないスパッツ、ショートスパッツとか。シューズはどっちでも良いかな。履いても履かなくても。ただ足を踏まれるリスクはありますけどね。反則じゃないから。あとパンタロンをありにしたいですね

コ2 パンタロンですか!?

鈴木 ポケットがついてなければ。だってプロレスラーでいるじゃないですか。小林邦昭さんとか。だからありです(笑) 履きたければ履いてもOK。掴まれる可能性ありますけどね。

コ2 掴んでいいんですか。だったら不利じゃないですか。

鈴木 不利ですよ(笑) それでも履きたいってことだからいいじゃないですか。どうしてもパンタロンを履いて戦いたいなら、その気持ちは尊重したい。だからマスクもあり。

コ2 マスクありですか

鈴木 ありです。どうしても顔を出したくなければかぶってもよし。

コ2 マスクを回されて前が見えなくなっても、自己責任ということでしょうか。

鈴木 それは回される方が悪いんですから。まあ回されないように固定すれば良いんですけれども。でもマスクを取られたら、取った方が反則負け。それはかわいそうですから。まあ取られる方も悪いんですけど、マスクを取ることにメリットが生じるとピン・フォールではなくマスクを取りにいく選手が出かねないじゃないですか。ただ引っ掛けるのはあり。脱がしたら反則負けですけど、指を引っ掛けてコントロールするのはOKです。

大日本プロレスでタイトルマッチに挑む鈴木選手。
大日本プロレスでタイトルマッチに挑む鈴木選手。(撮影・コ2【kotsu】編集部)

 

ただ正直、僕もやってみないと分からないところがいっぱいあるので、やりながらルールを微調整していくことになるでしょうね。僕にはそれなりのイメージがあるのですが、それじゃなくてはいけないわけではないですし、ロビンソンがやってたことを忠実に再現するというわけでもないですし。ただピン・フォールとサブミッション・フォールが揺るがぬ前提としてあると。それだけ守ってればドロップキックだって良いよってことにしたいんですけどね。本音では。絶対やりたがる人が出てくるんで(笑)必要ないの分かっててやるヤツ。僕がアマなら絶対やりますもん。禁止されてないんだったら。だから学生プロレスの人にも出てきてもらいたいですね。プロレスオタクの人が「この技をかけてみたい!」と、全く勝負に意味のないことをしてくるかも知れない。そういうのも良いんじゃないかと。そうやって色々とやって、人口が増えていく過程でトーナメントが出てくるってのが自然な流れじゃないですかね

(第九回 了)

 

『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』
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対談【中井祐樹×鈴木秀樹】なぜ僕らはプロレスラーを夢見たのか?

中井祐樹先生、鈴木秀樹選手

パラエストラ東京主宰、日本ブラジリアン柔術連盟会長 中井 祐樹
プロフェッショナルレスラー 鈴木 秀樹

 

フリースタイル・レスリングとプロレスの両方の源流でありながら、その実態が謎のヴェールに覆われていた格闘技「キャッチアズキャッチキャン」。
その入門書を上梓した話題のプロレスラー鈴木秀樹が、格闘技界のレジェンド中井祐樹とともにプロレスの映像を振り返りつつ、そこに秘められた奥深い技術や格闘技の未来について語り合います。
(講座紹介文章より)

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細かな指導が行き届くよう定員11名限定です。
以降も基本的に毎月第一日曜日or祝日の月1回ペースで実施予定です。

  • 5月3日 午前10時〜12時

会場アカデミア・アーザ 3階マットフロア(http://www.academia-az.com/
参加費:5,000円
定員:先着11名

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–Profile–

鈴木秀樹選手

鈴木 秀樹(Hideki Suzuki
すずき・ひでき/本名同じ。1980年2月28日生まれ、北海道北広島市出身。生まれつき右目が見えないというハンディを抱えていたが、小学生時代は柔道を学ぶ。中学時代にテレビで見ていたプロレス中継で武藤敬司に魅了され、プロレスの虜になる。専門学校卒業後、上京。東京・中野郵便局に勤務。2004年よりUWFスネークピットジャパンに通うようになり、恩師ビル・ロビンソンに出会う。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンを学び、2008年11月24日、アントニオ猪木率いるIGF愛知県体育館大会の金原弘光戦でデビュー。2014年よりフリーに転向。ZERO1やWRESTLE-1、大日本プロレスなどを中心に活躍。191センチ、115キロ。
2017年1月に日貿出版社より『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を発表する。

Web Site:鈴木秀樹オフィシャルサイト

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