実践、超護身術 第四回 間接護身に必須の「聴勁」03

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第四回 間接護身に必須の「聴勁」03

葛西真彦

 

五感を磨く秘訣は食事にあり

害を与える人間が近づく前に離れることや会話で相手の腹の内を察して、こちらに有利な駆け引きや交渉に持ち込んで勝つことが、間接護身の大事なポイントですが、それだけにとどまりません。これを応用すれば異性に好感を持たれたり、上司からも好意的に見られたり、お客様の心をわしづかみにできるなど、さまざまなことに応用できるのです。

私は刑事時代、葬儀屋さんと接することが多かったのですが、彼らのたたずまい、言動、気の使い方、全てが細やかで繊細で素晴らしいと、いつも感心していました。

人の死を扱うというデリケートな場面では、些細な配慮の足りなさが大きな誤解を生み、苦情やトラブルになったりするからでしょう。できる営業の方なども、同じように普通の人が気付かない細やかな配慮ができるがゆえに、お客さんを獲得しているのだろうと思ったものです。

慣れてくると、刑事の勘で、「こいつが犯人だ」と、取り調べや証拠などを分析する前から分かることがありますが、それはいわゆる過去の経験と、訓練された五感の作用が、言葉ではうまく説明できないけれど、確実な答えにつながるのだと思います。

この勘が鈍いと普段の仕事も鈍いし、犯人も捕まえる前に逃げていきます。これを刑事じゃなくて、一般の仕事に置き換えても、同じだと思います。

聴勁については最後にこの五感の作用を磨いて、人生をよりよくしたい、間接護身に役立てたいと思われる方へ、簡単に磨く方法を紹介しておきましょう。

まずは食事で磨く方法からご紹介します

やることは簡単です。「おいしい」と言われる店に行き、なぜおいしいのか、味以外のものも含めて、具体的に文章に表現できるぐらいに洞察する習慣をつけるのです

テレビで芸能人がよく言ってるような、「もちもちしておいしい」「ふわっふわ」といった抽象的な表現ではなく、もっと細かく表現することがポイントです。それによってより五感の感度を磨けます。文章で表現するには感覚を敏感にして気付かなければいけないからです

ですから「店員態度悪い、不愉快」というような表現では足りません。どんな態度や表情をしていて、それに対してあなたがどう感じたか。不愉快と言ってもどれぐらい不愉快だったのか。その心理的な影響は味にどう反映されたのか。感じたことを具体的に詳細な内容で文字にして捉える習慣を身につけるのです

また、食事をするからといっても味覚だけが全てではありません。

店の雰囲気、流れている音楽、料理や周囲のにおいももちろんそうですし、連れてきた知人や自分のそのときの精神的なコンディションや、来ている客層もまたしかりです。隣のテーブルにぺちゃ食いする人や、酔っぱらって大きな声で騒いでいる人、香水のきつい人がいたら、料理自体がおいしくても、食欲は失せ全てが台無しです。その時にも、台無しになった理由についてこと細かく文章で表現できるようにするのです。

その現場において把握した総合的な五感の作用をもって、結果的においしい、まずいという理由の根拠を表現できるようにすると、楽しみながら感度を磨くことができます

食という行為は、五感の作用全てを活用する素晴らしいものです。他の行為で五感の作用を、ここまでフルに活用するものはありません。なぜなら五感の一つである味覚を含めた全ての感覚を同時に駆使する作業は、食という行為以外にないのです。食べることも意識を変えるだけで、感覚を磨くことができるので、私は食という行為をとても大事にしています。

感覚を磨くと、人を見るいわゆる「洞察する技術」にも直結します。人の動作や態度、服装、においなど、離れたところから感じ取れる情報を収集し、危険かどうかを事前に察知することもできます。

もう少し間合いを近づけば、表情と所作の違和感を見ることができます

  • 肩が上がっている。
  • 目が血走っている。
  • 頬が紅潮している。
  • 呼吸に少し乱れがある。
  • 目の焦点がおかしい。
  • 目線の先が不必要なものを見ている。
  • 視線が泳いでいる。
  • 服のポケットに何か物を多く詰めている。
  • 歩き方が不自然だ。
  • 独り言を言っている。
  • 臭い、爪が伸びている、手が汚い、衣服が汚い、髪が洗ってなくてぼさぼさだ。
  • 服装のバランスが合っていない。
  • 酔っているような動きをしている。

などなども見抜くことができ、相手との物理的、心理的な距離を取ることもできるのです。

実際に私は外に出たら、多少違和感の兆候のある人間を見つけると離れます。別にその人が刃物を出して暴れるとは限りませんが、突然喧嘩を売られたり、つまらないトラブルや不愉快な思いをする可能性があるからです。

さらに応用していけば、恋人の浮気を見抜いたり、部下が職場で横領しているのを見破ったり、親しくなろうと近づいてきた人間に、とんでもない企みがあるのを見破ったりもできるようになります。

俗に「女の勘と」いうものも、あれはもともと備わった聴勁であると言っていいでしょう

葛西先生

 

人を見るスキル

優秀な警察官は、これまで述べたような挙動の不自然さを見て、そこからさらに犯罪の嫌疑の可能性が高いであろうという者を選別し、職務質問をして効率的に検挙します。駄目な警察官は、誰を見ても何が悪いか区別もつかないので、とりあえず自転車に乗っている人だけ限定で職務質問をしたり、バッグを持ってる人間だけを、何も考えずに手当たり次第職務質問するのです。

警察官でも私が定義しているような聴勁ができなければ、なんとかノルマを達成するために、スキルがなくてもやれることだけを最低限やっていくわけです。

そういう警察的な裏事情もあるのですが、私は伝説の昭和名刑事だった平塚八兵衛のようになりたいと思っていたので、卒配当時から、積極的にガンガン職務質問をしました。最初のうちはやっぱり誰かれ構わずです。

特に夜中は人がいれば手当たり次第にやりました。現場でチンピラみたいな連中に囲まれて、収拾が付かなくなって応援を呼ぶこともしょっちゅうで、同僚や先輩たちに大変迷惑をかけたなと、今自分を省みています。

おかげで苦情も殺到しました。当直明けは苦情の謝罪や報告書を書くことに明け暮れたこともあります。普通の警察官はここで、「駄目な奴」とレッテルを貼られ、ここでめげます。しかし私は自分で言うのも何ですが、めげませんでした(笑)。失敗を繰り返す中でたまに大物を捕まえることもあり、おぼろげながら勘とコツが掴めそうになっていたからです。

そんなことを繰り返していたら、中国人の空き巣の大物を数回捕まることができ、それが評価され、ひったくり専門の刑事見習いをさせてもらえることになり、ここで私は、「人を見る」ということのスキルが、大きく跳ね上げる環境に恵まれたのでした

この時期に、私は人相学と心理学の勉強に没頭し、人を見るための次のレベルにある、取り調べ中に相手の挙動を洞察する技術を研究することにつながっていったのです。

よく巷にあるFBI心理学のような、質問に対する目の動きの方向だの、座り方だのみたいなものだけをただ単に覚えても机上論にすぎず、現場の実践で全く通じません。実践で何度も繰り返し失敗しては試して、答えを導いて培ったものなので、解釈や技法も一味違います。

それらについては、またいずれ細かく触れたいと思います、台湾でそのテーマについて少しだけ触れたものを出版したのですが、結構評判がよかったです。

 

ヒューマンウォッチングで人を読む

少し話が脱線しましたが、これまで述べたこと以外でも、五感の作用を磨いて日常護身の聴勁の養成に効果があるのはヒューマンウォッチングです。街を歩く人や、外にいる人たちの行動観察をするわけです。私は今和次郎氏の「考現学」にかなりの影響を受けていて、人や物をじっくりと観察して記録したり、物の仕組みを勉強したり名前を覚えたり、「なぜこの人がこういう行動を取るんだろう」という分析をすることにこだわり、異様とも言えるほどに繰り返して経験値を積み重ねてきました。

これを繰り返していくと、人を読む経験値が大幅に増えてきます。「こういうタイプの人間は何をする傾向がある」など予測するトレーニングになるのです。

野生動物は、自分より相手が強いか弱いか、瞬時に察知する能力があり、差が圧倒的なら戦いを避けるなどという話もありますが、私は競技推手という格闘技で常に大会に出ているので、相手が強いかどうか、やる前から、そのたたずまいや態度、雰囲気ですぐに分かります。相手の強さを戦う前から分かるというのも、非常に大事な生活護身なのです

私は現在台湾で道場を出しているのですが、よく初心者を装って、道場破りみたいなことをする人もいます。そうした場合は相手の腹の内を事前に察知して、実際に反則技を仕掛けられて怪我をさせられる前に、心を折ってしまわないといけないこともあるので、相手の態度、振る舞い、言動、人相などから、そういった邪心を察知して、判断し対処しています。

宣伝のようで申し訳ないのですが、私が今日本で普及活動をしている競技推手は、間接護身に必要な五感の作用を養うのにも、非常にお勧めです。

人は感情によって動きも変化しますし、感情の変化によって触れたときに感じる手ごたえも変わります。ですのでいつもと同じ人と推手をやっても、相手のその日の心理で動きが変わることにも気付きますし、また、自分も同様で、感情の変化が著しい日は、推手でも普段と動きが違うことに気付きます。

それだけにとどまらず、組んだことのない人と交流してみると、その人の武術のスキルだけではなく、性格、生活環境なども、触れている接点からの五感の作用で分かってきます。人を触覚から読むという訓練にも、推手はお勧めなのです。

今回は聴勁の習得法の基礎的なことについて触れました。ここから希望や感想などを聞いて、要望が多ければ深堀りしてもっと専門的なテーマで触れていくかもしれません。皆さんのご意見をいただきながら、次のお話しに反映させていきたいと思います。では今回はここまでにさせていただきます。ありがとうございました。

(第四回 了)

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–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練資格認定を取るための研修を受けながら、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

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