ダニール・リャブコセミナーで感じた、“第2の呼吸”

| コ2編集部

コ2【kotsu】レポート

ダニール・リャブコセミナーで感じた、
“第2の呼吸”

文・写真コ2編集部
協力システマ東京

去る5月20日から29日まで、システマ創始者のミカエル・リャブコ氏の長男であり、システマ・インストラクターであるダニール・リャブコ氏の日本セミナーが行われた。そこでコ2では、最終日となった5月29日のセミナーの模様を簡単にお伝えしたい。

システマについての最新トピックスと言えば、やはり昨年公開された“第2の呼吸”とも呼ばれる、新しい呼吸の概念だ。これまでシステマの呼吸法と言えば、強制的に呼吸をうながすバーストブリージングを始め、すべての動きに呼吸を伴わせて動くことで、システマで重要視されるリラックスをキープしたまま動くことが求められていた。

ところが今回のセミナーを取材して気がついたのは、教室から鋭い呼吸音が消えたことだ。

これまでのシステマのセミナーでは、そこかしこで「フッ、フッ、フッ」という強い呼吸音が起こっていたのだが、それがほとんど聞かれず、ごく日常的なレベルの呼吸音になっていたのだ。

このことについて コ2で「システマ随想」を連載している北川貴英氏(システマ東京)に伺ったところ、

「これまで強くしっかり呼吸をすることを強調していたのは、呼吸することを明確に意識の中に定着してもらう必要があったからなんです。ほとんどの場合、普段している呼吸を意識することはありませんし、ちょっとでも緊張するとつい息を詰めてしまいます。

ですからまず最初のステップとして、呼吸を意識してもらい、どんな状況でも呼吸を続けることを体に染みこませる必要があったわけです。“第2の呼吸”と呼ばれるものは、そうした段階から一歩進んだもので、簡単に言えばある程度意識しなくても呼吸を続けることが出来るようになったところで、“今度は普通の呼吸をずーっと保ったまま動きましょう”ということなんです」

というお返事を頂いた。

つまり、何か新しい概念やストーリーが登場したのではなく、呼吸の基礎固めが出来たところで、「それを踏まえてシステマを続けましょう」ということのようだ。

「ある意味でこれまでは“壮大な前振りだった”と言えるかもしれませんね(笑)」(北川氏)

 

相手のテンションを感じて崩す

この日のセミナーは日本最終日だったのだが、何か特別なことを行うのではなく、「相手のテンションを感じて崩す」という、システマとしては極めてオーソドックスなものだった。

指導にあたるダニール氏は、

「相手のテンションを見つけてそこを崩します。この時大事なのは呼吸です。鼻から50%、口から50%位の呼吸で自動的に呼吸を行っている感じで、静かに相手のテンションをキャッチして、そこを崩していきます。この時、相手に(自分のテンションを)与える必要はありません」

と説明、面白いように相手を崩してゆく。

システマ ダニエル氏
触れられているところから、相手のテンションを感じて崩すダニール氏。

 

静かに呼吸することが実際に相手にどういった影響を与えて、テンションを捉えているのか説明するのは難しいが、基本にあるのは、“自然に呼吸しリラックスした方が安定感が増す”というイメージだ。波一つない静かな湖面のような状態で相手に接することで、相手の中に起きているさざ波のようなテンションを捉えて崩す。

崩す時も、能動的に仕掛けるという感じではなく、静かに水が流れ込み相手のテンションによる小さな崩れを助けて大きくするような印象だ。したがって稽古は崩す方も崩される方も、いかに自分の状態を静かに保てるかが重要となる。

システマ ダニエル氏
触られた状態から次々に崩していくダニール氏。

 

こう書いてしまうと武術と言うよりもボディーワークのような印象を受けるが、「存在すること自体が相手に影響を与える」という点においては極めて近しいアプローチであり、武術で言う所謂「場を制する」や「間合いを取る」という感覚もまた、こうしたところから生ずるもののように思える。

とはいえ、そこは武術であるシステマだけあって、静かになろうとする相手の内側に巧みにテンションを引き起こす技術は無数にある。

システマ ダニエル氏
接触状態でのコントロールから、非接触の状態でのコントロールへと変化してゆく。

 

基本的にはじっくりテンションを味あわせて崩しているダニール氏だが、時に巧みに手を相手の視界に差し込んだり、微妙に自分のポジションを変えることで、相手の本能的な防衛反応を引き起こし、そのテンションを巧みに捉えている。また自分のテンションを相手に一瞬感じさせて、餌に食い付いて反応したところを取ることもあるようだ。ただ、原則は限りなく相手にテンションを与えず、それ故に相手の防衛反応を起こさせないまま間合いに入ることが本旨であり、逆にそこまで入ってしまえば何でも出来るように感じられた。

また慣れてくると、受ける側も感覚的に嫌なポジションに入られただけで崩れることもあり、接触から非接触へと変化していく様がよく分かった。

 

いかに自分の呼吸に誠実になれるか

こうした稽古で重要なのは、互いに正しくテンションを感じて、正しく崩れることだろう。

静かに相手のテンションを感じるためには、感覚を敏感にする必要があるが、過敏になりすぎて早く崩れては意味がなく、また逆に鈍感すぎても意味はない。ダニール氏も「相手が反応しなければ実際に叩いてしまえば良いだけ」と説明している。

不自然に力を抜きすぎても、入れすぎても無意味であり、崩れるべき時に崩れ、崩れていない時には崩れないことが大事であり、頭で感覚を先取りせず、“どれだけ自然にいられるか”こそが重要であるわけだ。

システマ ダニエル氏
ダニール氏は参加者一人一人に触れて感覚に触れさせていた。

 

そう考えると“第2の呼吸”へとステップが進められた理由も分かってくる。これまでシステマで推奨されきた呼吸は、意識的に行っている以上、どこかに不自然な部分が生じるのはしかたがなかった。実際に、過去のセミナーでも「呼吸をしようとすることで生じる緊張はどうすれば良いのでしょうか?」という質問が時折聞かれた。

そうした時、ミカエル氏は「自然に呼吸をしてください」と答えていたように思うが、この自然さを身につけるためには、まずバーストブリージングや、ことさら呼吸を意識して動く、言ってしまえば“不自然な呼吸”を行うことで、“呼吸を忘れてしまう”といった、もう一つの不自然さから抜け出す必要があったわけだ。

“第2の呼吸”で必要とされるのは、改めて自分の呼吸に対して誠実に向き合い、頭ではなく呼吸に従って自然に動くことのように思え、それこそがシステマの本質なのだろう

とは言え、これまでの呼吸法がこれで役割を終えたわけではなく、また別にそうした強い呼吸が初心者用ということとではない。今回のセミナーではストライク(打撃)を受けるシーンがほとんどなかったが、そうした際には従来の強い呼吸法も使われるのだろう。また多くの場合、大量の刺激の中で交感神経が優位な私たちの生活自体が、呼吸を不自然なものにしていることを考えれば、呼吸を思い出すツールとしてその価値は減ずるところはないだろう。

いずれにしろシステマは新しい段階に入ったことを印象づけるセミナーとなった。

システマ ダニエル氏
セミナーの最後はダニールセミナー恒例の三三七拍子で締められた。

 

今回のセミナーの指導を務めたダニール氏のインタビューはまた後日お届けする予定なので楽しみにして欲しい。

またシステマではこの秋にミカエルとダニールの二人を招いて富士山の麓で行う“Systema Rises in Japan @Mt.Fuji with Mikhail and Daniil Ryabko”を10月7日~10月9日の予定で企画している。濃厚なシステマ三昧を味わいたい人は要注目だ。

 

インフォメーション「北川貴英・イーストジャパンツアー」

システマグループがまだ少ない東日本エリアをシステマ東京が巡ります。近くにインストラクターやIitがいないエリアの皆さんに本場直伝のシステマを体験していただけます。

◯〈初開催〉盛岡 7月2日(日)
午前第1部:10時15分〜11時45分、午前第2部:11時45分〜13時15分、午後第1部:13時45分〜15時15分、午後第2部:15時15分〜17時45分
会場:カヨコフラメンコスタジオ 岩手県盛岡市中の橋通2ー4ー10ー1F
参加費:1コマのみ…3,000円 2コマ参加…5,000円 3コマ参加…7,000円 4コマ参加…9,000円
詳細&申込みページ http://systemablog.blog54.fc2.com/blog-entry-1549.html

◯〈初開催〉旭川&札幌
〈旭川〉7月16日(日) @旭川駅前ビル5階 貸し会議室内
午前第1部…10時30分〜12時、午前第2部…12時〜13時30分、午後第1部…14時〜15時30分 午後第2部…15時30分〜17時

〈札幌〉7月17日(月・祝) @スタジオベガ 第1スタジオ
午前第1部…9時30分〜11時 午前第2部…11時〜12時30分 午後第3部…13時〜14時30分 午後第4部…14時30分〜16時
参加費:1コマのみ…3,000円 2コマ参加…5,000円 3コマ参加…7,000円 4コマ参加…9,000円(札幌、旭川共通価格)
詳細&申し込みページ  http://systemablog.blog54.fc2.com/blog-entry-1547.html

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