対談 横山和正×小野美由紀 沖縄空手を巡る対話 06

| 横山和正、小野美由紀

本サイトで「沖縄空手の基本」を連載されている横山和正師範と、この連載を読んだのを切っ掛けに沖縄空手に入門した作家・小野美由紀さんの異色の対談を、数回に渡ってお届けします。

六回目の今回は、武芸のお話から始まります。

対談/横山和正(空手家)×小野美由紀(作家)

第六回  その日その日の練習を楽しむ

語り横山和正、小野美由紀
構成コ2【kotsu】編集部

 

武道であり、武芸

横山 ではどのように自分をデザインするのか。ここで思うのは、「空手とは武道であり武芸である」ということ。武道って案外、逃げが効いちゃうんですよね。「これがおれの道だよ」って言ってしまったらいくらでも妥協できちゃうんですよ。

小野 へー。意外ですね。

横山 だけど武芸って、逆に厳しいんです。「芸」だと考えれば。

小野 人に観られる厳しさがあるんですね

横山 そう。だから自分はもちろん武道は大事だけれども、実は「武芸」の部分も大事だと思うんですよ。「芸」というと、日本人は良いイメージがないかも知れませんが、英語では「Art」じゃないですか。武道だって訳せば「Martial Arts」になるわけで。

「Art」って、訓練したものを自分の中に限りなくインストールして、自分のレベルで完成させることだと思うんですよね。それがないとおもしろくない。だから生徒を型に当てはめてるだけじゃ面白くない。5人の生徒が同じ先生に習って、5通りの空手が生まれたって良いと思うんですよ。むしろそれが当然だと思うんです。そこに面白さがあって、カタチや組織などでガチガチに固めちゃうと空手の本当の面白さがない。

だからあるレベルからスタイルやそういうのを飛び越えて、個人の世界に入っていかないとホンモノにはなりませんし、修行している人自身にも欲が出ないですよね。やっぱり自分を見つけていくというか。自分というものを掘り下げていくというか。そういうものがないと。

小野 そうですよね。

横山 話、固いですか??

小野 いえ。固くないです。むしろ。やっと空手の面白さがわかりました。先生が書かれている本を読んでも、正直言って沖縄空手の魅力が伝わってこなくて。

横山 そうなんですか(爆笑)

小野 難しいことを仰られてるから、初心者には歯が立たないというか。

横山 うーむ。ちょっと連載の内容、考えた方が良いですかね(苦笑)。

小野 でもこうやってお聞きすると、すごく人生に素敵なものが含まれてるってことが分かって、空手やりたいな、という気持ちが改めて湧いてきました。普通に暮らしていると、特に女ですから、武道に対するとっかかりが何もないんですよね。

空手、特に沖縄空手が、現在人の普段の生活にどう生きてくるのか、知る機会がない。たまたま私は頭を使う仕事で煮詰まってきて、体を動かしたいという欲があったので、先生の記事を読んで、「ああ、これだ!」と思って道場に通い始めたんですよ。

横山 ってことはあったんじゃないですか。私の記事を読んでも分かるところが。

小野 ほんの一行だけ(笑)。 他の部分はまったく分からなかったんですよ。

横山 良いんですよ。記事の一行でも説得力があるところがあれば(笑)

 

小野 先生のお陰で空手に出会えたので感謝してるのですけれども。

横山 自分のレベルで楽しめることを続けていくことが大事ですよ。体を動かして楽しいというところから初めて、次に型を覚える楽しみ、それをやる楽しみといったものが出てくるわけじゃないですか。それを応用する楽しみも出てくる。そうやって少しずつ段階を追って行く。10年後のことを考えてもわからないから今の自分にできることをやっていく。雑誌を読んだりして大きな夢をもってやってくる人はそれで潰れるんですよ。

小野 へーっ。そうなんですか!

横山 そうなんですよ。入った時からそんな上を見てどうするの? と。

小野 確かに。

横山 すぐに結果が得られるわけないんだから、もっと目先のことを楽しんでいかないと。そうじゃないと「こんなハズじゃない」って不満になっていっちゃうんです。もっと違うことが習いたかったって。でもそれはその人の体のことだから。体が動かないといけない。だからその日、その日の練習を楽しむ方法を覚えるのが、上達の一番の近道だと思うんですよね。楽しくなかったら意味ないし。

私の指導は厳しいと言われることもありますが、私自身も沖縄で厳しい練習いっぱいやったんですよ。でも自分はその厳しさを楽しんでいたというか。これをやるために沖縄まで来たんだから、人より何倍も練習してやるってのが楽しかったわけで。充実してましたよね。なにかを覚えようとしてやってるんじゃなくて、「ここで言われた量の何十倍も練習してやろう」という充実感で動いていたわけだから。

だから日々の充実感がないと技なんか覚えないし、体も覚えないし、それにはその日その日の練習を楽しむということをやっていかないと。そうでないと気持ちも体もオープンしないでしょ?

小野 そうですね。閉じちゃいますね。

横山 だから大志を持って武道をやる人たちってのは最初のハードルが高すぎちゃうんですよ。勉強するのでも、覚えるために頭を開放するのではなくて、「勉強するぞ! 勉強するぞ!」と思いつめる方に頭が使われちゃう。そのせいで書いてあることが全然読めない。なんかそういう状況をよく見ますよ

小野 そうなりがちなんで良くわかります(苦笑)

横山 例えば空手の蹴りってあるじゃないですか。実際使わないから練習しなくていい、というわけじゃなくて体を作ったり、バランスを良くしたりと色んな意味で大事なんですよ。だからこの間も道場に行った時に、「まっすぐ蹴れ」と言ったのですが、普通の人にはなかなか真っ直ぐ蹴ることができない。

小野 そうなんですか。

横山 そうなんですよ。普段、歩いている時の体の癖も出てくるし、年齢によっては固くなって来たり、その固さも偏ったりしてて、まっすぐ蹴るだけということが意外にできない。でもそういうことをやることで得られる、体への良い影響もあるわけじゃないですか。

真っ直ぐ突くということ一つとっても、実戦性云々もありますけど、やっぱり自分の体を普段動かない動作で動かして使っていくということに対する効果もありますよね。

小野 そうですね。

横山 だから海外のセミナーで教える時も左右のコーディネーションとか入れていくんですけれども、やっぱりみんな思ったようには動けない。ボクシングにしたって、セコンドが「右!」と言った時に左を出してたらダメじゃないですか。自動車でも右にハンドルをきる時は右にきる、左の時は左と自分の手足のように使えて初めて安全に車を運転できる。人間の体って自分でわかっているようで分かってないですからね。目をつぶって両手を水平にあげたつもりが、左右で高さが違うくらいで。そういうズレがあるじゃないですか。

 

空手の良さは、そういうのを均等に動かしていくこと。突きでも立ち方でも、訓練するほど自分の体のバランスとかが分かってくる。それだけでも全然違いますよね。それができてくると自分の中のすっきり感も分かってくるし、微妙な気分の変化も出てくるし。

だから自分は空手の練習なしには生活できません。普通に歩いたり走ったり、色んなエクササイズをやったり、空手の組手もやったりしますけれども、そういう運動で転んだことって30年以上ないですよ。躓いたこともない。それって凄いなって改めて思うんですよ。何か取り落とした時に、無意識のうちに落ちる前に掴むなんてこともありますし。そういうのって、素直に普段の空手の練習だと思うんですよ。

特に年齢がいってくるとだんだん蹴りとかやりにくくなってくるけれども、そういう時こそ前蹴りなどのシンプルな蹴りをやっていくと他の動きも衰えなかったりして。自分としてはこれから65歳を目安にして、65歳でも同じ動きを保っていられるかってやっていこうと思いますし、この感覚が消えない限り絶対できるっていう確信はありますよね。

(第六回 了)

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–Profile–

横山和正(Kazumasa Yokoyama
本名・英信。昭和33年、神奈川県出身。幼少の頃から柔道・剣道・空手道に親しみつつ水泳・体操 等のスポーツで活躍する。高校時代にはレスリング部に所属し、柔道・空手道・ボクシングなどの活動・稽古を積む。

高校卒業の年、早くから進学が決まった事を利用し、台湾へ空手道の源泉ともいえる中国拳法の修行に出かけ、八歩蟷螂拳の名手・衛笑堂老師、他の指導を受ける。その後、糸東流系の全国大会団体戦で3位、以降も台湾への数回渡る中で、型と実用性の接点を感じ取り、東京にて当時はめずらし沖縄小林流の師範を探しあて沖縄首里空手の修行を開始する。帯昇段を期に沖縄へ渡り、かねてから希望していた先生の一人、仲里周五郎師に師事し専門指導を受ける。

沖縄滞在期間に米国人空手家の目に留まり、米国人の招待、及び仲里師の薦めもあり1981年にサンフランシスコへと渡る。見知らぬ異国の地で悪戦苦闘しながらも1984年にはテキサス州を中心としたカラテ大会で活躍し”閃光の鷹””見えない手”と異名を取り同州のマーシャルアーツ協会のMVPを受賞する。
1988年にテキサス州を拠点として研心国際空手道(沖縄小林流)を発足する。以後、米国AAUの空手道ガルフ地区の会長、全米オフィースの技術部に役員に籍を置く。
これまでにも雑誌・DVD・セミナー・ラジオ・TV 等で独自の人生体験と古典空手同理論他を紹介して今日に至り。その年齢を感じさせない身体のキレは瞬撃手と呼ばれている。近年、沖縄の空手道=首里手が広く日本国内に紹介され様々な技法や身体操作が紹介される一方で、今一度沖縄空手の源泉的実体を掘り下げ、より現実的にその優秀性を解明して行く事を説く。

全ては基本の中から生まれ応用に行き着くものでなくてはならない。
本来の空手のあり方は基本→型→応用全てが深い繋がりのあるものなのだ。
そうした見解から沖縄空手に伝えられる基本を説いて行こうと試みる。

書籍『瞬撃手・横山和正の空手の原理原則』

ビデオ「沖縄小林流空手道 夫婦手を使う」・「沖縄小林流空手 ナイファンチをつかう」

web site 「研心会館 沖縄小林流空手道
blog「瞬撃手 横山和正のオフィシャルブログ

 

小野 美由紀(Miyuki Ono
文筆家。1985年生まれ。慶応義塾大学フランス文学専攻卒。恋愛や対人関係、家族についてのブログやコラムが人気。デビュー作エッセイ集「傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎)を発売。著作に、自身のスペイン巡礼の旅を記した『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』(光文社新書)、原子力エネルギーの歴史について描いた絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版)がある。

Twitter:@MiUKi_None
ブログ:http://onomiyuki.com/