対談 横山和正×小野美由紀 沖縄空手を巡る対話 07(最終回)

| 横山和正、小野美由紀

本サイトで「沖縄空手の基本」を連載されている横山和正師範と、この連載を読んだのを切っ掛けに沖縄空手に入門した作家・小野美由紀さんの異色の対談を、数回に渡ってお届けします。

最終回(七回目)の今回は、アメリカでの指導の難しさから、小野さんの5000本突きです。

対談/横山和正(空手家)×小野美由紀(作家)

第七回 (最終回) 自分の人生をデザインする

語り横山和正、小野美由紀
構成コ2【kotsu】編集部

 

アメリカでの指導

コ2 アメリカ人って国民性も違いますから、教えるのも大変じゃないですか?

横山 大変ですよ。何が大変ってまず上下関係の歴史がない。全員平等だって考えるじゃないですか。だから例えば技を見せる時でも変に手加減できない。日本だったら「相手は先生なんだから空気読んで」ってのあるじゃないですか。アメリカ人はないですから。だから本当に手加減するとかからないことがあるんですよ。向こうは絶対にやられまいと思ってるし、先生も生徒もないって心のどっかにありますからね。空気読めないですから。

だからハプニングも起こりますよ。護身術の先生が生徒に絞め落とされて気絶しちゃったりとか。

小野 そうなんですか。

横山 イベントなどで他の先生方と一緒にデモンストレーションを見せることがあるんですよね。その時、ある先生に会場から「こんな風に抑えられたらどうすれば良いんですか?」と質問が出て、「では、やってみせましょう」とやろうとしたら、そのまま気絶。

小野 (笑)

横山 結構ありますよ。そういうの。だから自分がデモンストレーションを見せるとみんな引いちゃうんです。アメリカはなんだかんだ言って人種差別のある国です。一方こちらは華奢な日本人なので、頭一つくらいの差を見せつけても厳しいんですよ。完全に差を見せつけないと言うことを聞いてくれない。相手がドン引きされるくらい(笑)。だから結構たいへんですね。もう昔の様な東洋の神秘ではなく格闘技の域なんですよね、空手は

その点、ヨーロッパは違いますよ。ただヨーロッパの人もジレンマがあるようです。よく言われるのが、「日本からくる先生の講習会は、手の位置や気合のタイミングとかそういうマニュアル的なことしか教えてくれない」ということ。でもそれができないと昇段審査に受かれないから、従わざるをえない。でも私がいくと流派が違うし、技術も教える。色んな流派の人が来ますからね。

やっぱり空手神話ってあるんですよね。みんなそれを信じたいけど、心のどこかで疑っている。結局、体の大きさがモノを言うんじゃないかというね。だから自分は体験させるようにするんですよ。いわゆる「瞬撃手」を見せてほしいと言われたら、バーっと見せる。すると「自分も、自分も」と次から次へとやってきて、気付いたらアントニオ猪木の闘魂注入みたいに行列ができたこともありました

そういうのを見ると、空手をやってる人って純粋なんだなって思いますよね。自分たちがすごい空手が好きだし、凄いものを見たい。目に見えないすごさのある先生もたくさんいると思うんです。でも私は「見えないもの」をいかにして見せてあげるか、ということを心がけています実感してもらうのが一番ですから。

その意味でアメリカ人に対しては、まず凄いものを見せて自分のペースにしてから、技を体験させるようにしています。ヨーロッパの人間はもうちょっと素直で、生徒として敬意をもった態度で「あれを体験させてください」って来ますよね。アメリカ人は前のめりなチャレンジャータイプ。「ちょっと実力見せてみろ」みたいな上目目線(笑)

私は日本でよく「横山先生って空手家っぽくない」って言われるんですが、それも結局、アメリカにでいくら日本人が強そうに見せても、強そうには見えないから。向こうなんて一般人からして強そうですから。日本人が同じようにしても一切通用しない。だから違ったアピールの仕方があるんですよね。「強そうにしても強く見えないんだから、強く見せるのをやめてしまえ」と。

むしろ強くなさそうな人が凄い方が、ギャップがあってインパクトが強いじゃないですか。それに気付いて以来、強そうに見せることに意味がなくなりましたね。その代わりやる時は半端なくやる。そう開き直ってしまってね。

小野 そうなんですね。

横山 生徒でもそうですもん。組み手で一番困るのは、相手をうかつに叩けないこと。うっかり当てたらこちらが責められる。「先生だから当たって当たり前だろう」と。でも生徒が先生に当てるのは平気なんですよ。アメリカって。だから組手でも相手を打たないように止めても、向こうは気付かないで平気で技を出してくる。だからこちらはそれを避けつつ、当たらないように打たないといけないんです。パンと打って止めても、すぐに受けられる体勢に入ってないといけない。

当てて良いなら相手もそれなりのリアクションをするんでしょうけれども、そうでないものだからお構いなし。日本から来た武道家がボコボコにされるのは、だいたいそのパターンですね。文化の違いってのは怖いですよ。

小野 へー。

横山 アメリカは訴訟の問題があるから、先生が生徒を叩くと先生の立場が悪くなる。でも生徒が先生を傷つけても、赦されちゃうんですよね。

小野 おもしろいですね。

横山 そうなんですよ。だから良いチャレンジになるんです。実は私、いま住んでるテキサスが大嫌いなんですよ(笑)。住めば都なんてウソですからね。でも自分の空手にとっては良いチャレンジになるんですよね。それがうまく空手を磨いていく要素になってるんじゃないかな。いつも「この野郎」って思ってますもんね。テキサスに人間に対して。空手にはそういう楽しみ方もあるということですね(笑)

 

 

小野美由紀の5000本突き

小野 初めてのことをやるってこと自体、楽しめますよね。私はヨガとかダンスをやってたんですが、「突き」って動きは初めてで。先生がある時「5000回突き」をやったんです。最初はええ〜、できるわけないって思ったんですけど、「うわー(少年漫画の)『ハンター×ハンター』みたい」とか思いながらやってみたら意外とできて。3500回くらいから、肩甲骨の裏くらいの今まで全く動かしてなかったところが動く感覚があって。「おおっ!」と。それが本当に新感覚でした。そういう楽しさがありますね。

コ2 5000回ってぶっ続けで?

小野 はい。ぶっ続けで。

コ2 時間はどのくらい?

小野 それほど長くなかったと思いますけど。形は多少崩れても、とにかく5000回やって、と。

横山 5000回ってやってみると意外と短いんですよ。でも今時3000回突く女の人もいないですが(笑)

小野 そうですか? うちの道場ではやってました(笑)

コ2 そういう稽古って横山先生のところでもやるのですか?

横山 そうですね。あまりやらないかな……。むしろ時間も短いし本数も少ない。でも10回やるならそのうち一本でも、全力を注ぎ込めと言ってます。でも最初のうちはそういうのも良いですよね。

小野 無我夢中でやらされることって大人になるとなかなかないですからね。

コ2 小野さんはスペイン巡礼でかなりの距離を歩かれたりしてるじゃないですか。そういうのも、空手と同じ様なものを求めてのことなんでしょうか?

小野 スペインのカミノゼサンティエゴというキリスト教の巡礼路がありまして。全長1700キロくらいあるんですけど、私そこを3回歩いてるんです。単なる趣味というか、楽しみのために。一日25キロから、多いときで45キロくらい歩くんですけれども、とにかく曲がりくねったりしていない荒野の一本道をひたすら歩くんです。

歩いて疲れたら寝て、また起きて歩くというのをゴールまで一ヶ月かそれくらい繰り返すんですね。その時のなにも考えていない歩く感覚と、突きの感覚が、今思えば似てたなーと

 

横山 そういう経験が近道したんじゃないですか。5000回突けるような感覚を掴むうえで。

小野 そうなんですかね。

横山 そう思いますよ。人間には歴史があるから。その人の経験が絡み合って結果として出て来るものだと思うんですよ。だから何もやってない女の人じゃそうはいかないかも知れないですしね。

小野 強くなりたいという目的があるわけじゃなく、体感の気持ち良さを求めてるみたいなところがあるんで。それは近い気がしますね。「ただ動くことのフィーリング」を得たいというか。

横山 「自分の体が動くというフィーリング」を得るためには、例えば、仕事の世界に入り切っていて、そこから抜けて日常に戻らないといけないような時。ちょっとストレッチとか入れるんですよ。私は洗い物したりするとき、必ず足を台に乗せてストレッチしながらやってますよ。指をこちらに向けるようにして体をまっすぐたてるんです。その体勢で食器を洗う。

小野 その伸びるのが良いんですか?

横山 ある程度歳をとると体が固くなるじゃないですか。それを伸ばすと体の中がスッキリするんですよね。蹴る時も筋が伸びたり縮んだりするわけじゃないですか。大事なのは自分の中での気持ち良さですね。普段は楽な格好をしてるんですが、自分の体がいつでも動けるという感覚をインストールしてるんです。あまり堅苦しい格好をしてると気持ちも動きも固くなるような気がする。いつでも自分がパッと動ける状態、体というよりそういう気持ちを維持しておきたいんですよね。

型が道具で動きを磨いていくのと同じで、普段の自分の体の感覚をもとに、自分の体が動くというフィーリングを自分の中で持ち続けたい。それを生活の中でもつねに求めてます。別にそう努力しているわけではなくて、ただ動けるフィーリングがあると気持ちいいから。すると普段の行動や生活も自ずとそうなっていきます。予期しない仕事がパッときても、さっと対応できる

それって普段、自分の気持の中で「自分はいつでも動ける」という気持ちを保っているからですね。本当にちょっとしたことなんですが。それって作家さんにも役立つと思うんですよね。些細なことでも積み重ねていくと、大きな違いになってくる。

小野 そうですか。取り入れてみます。

横山 空手もやり込むと生活の一部になってくるじゃないですか。小さなことから始まってだんだん広がり、ゆくゆくは考え方が変わって興味の枠が拡がってくる。そうやって拡がるからさらに大きな効果も得られる。するとさらに応用できるし、広く活用することもできる。そうなってくるとどんどん新しいものが自分の中に芽生えてくるものなんですよね。

小野 自分の中でも、少しずつ「動けるようになってきた」という感覚が広がっている気がしてるんです。やり始めてから。それで「もっと動けるようになりたい」って。

横山 私が原稿を書く時、内容を考えるのってだいたい走ってる時なんですよ。私、走るのが好きなんですよね。別にスタミナをつけたいわけではなくて、ただ走ると頭が活発になるような心地よさがあるから。ジョギングって体よりも言葉とか、イメージとか、そういうのが頭に浮かぶようになる作用がある気がしています。

だから走ってアイディアが出来上がって、休憩している時にストレッチでもしながら適当にメモしていく。自分の場合は「動く」ってことが全ての基本なんですよね。だからじっと座って考えても次の言葉も出てこない。でも走ることで頭が整理されて言葉も浮かんでくるんです。

小野 私も空手をやったあとによく書けたりします

横山 そうなんですか。

小野 ただ体が柔らかくなっていく感じがあるんで。素直に書けたりします。

横山 「頭が固い」って言いますけど、体が固いんじゃないかと思うんですよね。

小野 そうかもしれませんね。きっと。

横山 体が柔らかく動く感覚があると、発想も柔らかくなると言うか。普段、こういう話はしないんですが、自分にとって空手って武道から武芸に変わって、ある意味ではアートでありデザインでもあります。だからやっぱりko2とか活字として発表できる場を与えてもらってるから発表したいとも思うし。それっていわゆる空手家とは少し違った活動だと思うんです。空手の活動によって得られた効果の一つですよね。

そういうのを通じて、改めて空手って凄いなって思う。いつでも体が動かせる状態にしておく、ということが自分のファッションを作ったりするわけじゃないですか。そうなってくると自分の人生そのものをデザインすることになりますし、別の仕事にも対応できる。

先月、アメリカの子供番組に出演したんですが、そこでアニメと話をしたんです。他にも子供の質問に答えたり。そういう活動も自分の空手からデザインしたものから生まれてきたものだと思うんですよね。空手から得たもの、生活スタイルが呼び込んでくれるものではないかと。そうやって全部がつながっていくんじゃないかと思うんですよね。

小野 今のお話も自分の仕事に直接生きるなって感じがします。お話させていただいて良かったです。ありがとうございました。

(第七回(最終回) 了)

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–Profile–

横山和正(Kazumasa Yokoyama
本名・英信。昭和33年、神奈川県出身。幼少の頃から柔道・剣道・空手道に親しみつつ水泳・体操 等のスポーツで活躍する。高校時代にはレスリング部に所属し、柔道・空手道・ボクシングなどの活動・稽古を積む。

高校卒業の年、早くから進学が決まった事を利用し、台湾へ空手道の源泉ともいえる中国拳法の修行に出かけ、八歩蟷螂拳の名手・衛笑堂老師、他の指導を受ける。その後、糸東流系の全国大会団体戦で3位、以降も台湾への数回渡る中で、型と実用性の接点を感じ取り、東京にて当時はめずらし沖縄小林流の師範を探しあて沖縄首里空手の修行を開始する。帯昇段を期に沖縄へ渡り、かねてから希望していた先生の一人、仲里周五郎師に師事し専門指導を受ける。

沖縄滞在期間に米国人空手家の目に留まり、米国人の招待、及び仲里師の薦めもあり1981年にサンフランシスコへと渡る。見知らぬ異国の地で悪戦苦闘しながらも1984年にはテキサス州を中心としたカラテ大会で活躍し”閃光の鷹””見えない手”と異名を取り同州のマーシャルアーツ協会のMVPを受賞する。
1988年にテキサス州を拠点として研心国際空手道(沖縄小林流)を発足する。以後、米国AAUの空手道ガルフ地区の会長、全米オフィースの技術部に役員に籍を置く。
これまでにも雑誌・DVD・セミナー・ラジオ・TV 等で独自の人生体験と古典空手同理論他を紹介して今日に至り。その年齢を感じさせない身体のキレは瞬撃手と呼ばれている。近年、沖縄の空手道=首里手が広く日本国内に紹介され様々な技法や身体操作が紹介される一方で、今一度沖縄空手の源泉的実体を掘り下げ、より現実的にその優秀性を解明して行く事を説く。

全ては基本の中から生まれ応用に行き着くものでなくてはならない。
本来の空手のあり方は基本→型→応用全てが深い繋がりのあるものなのだ。
そうした見解から沖縄空手に伝えられる基本を説いて行こうと試みる。

書籍『瞬撃手・横山和正の空手の原理原則』

ビデオ「沖縄小林流空手道 夫婦手を使う」・「沖縄小林流空手 ナイファンチをつかう」

web site 「研心会館 沖縄小林流空手道
blog「瞬撃手 横山和正のオフィシャルブログ

 

小野 美由紀(Miyuki Ono
文筆家。1985年生まれ。慶応義塾大学フランス文学専攻卒。恋愛や対人関係、家族についてのブログやコラムが人気。デビュー作エッセイ集「傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎)を発売。著作に、自身のスペイン巡礼の旅を記した『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』(光文社新書)、原子力エネルギーの歴史について描いた絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版)がある。

Twitter:@MiUKi_None
ブログ:http://onomiyuki.com/