実践、超護身術 第七回 身を護るための「証拠保全」 03

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第七回 身を護るための「証拠保全」 03

葛西真彦

 

録音の際の心得

前回に私が例にあげた不動産のケースは、最初からどこかで折り合いを付けることを目指したもので、その為には録音していることを相手に知らせないほうが有効なケースでした。

仮にこのケースで録音をしていることを最初に明かしていれば、相手も馬鹿ではありませんので、言葉も選ぶでしょうし、違う方法で、何か悪だくみを仕掛けていたことでしょう。その結果、互いに疲弊する徹底したぶつかり合いになっていたかもしれません。

付け加えると、これもすごく大事なことですが、音声を証拠化するためには当然、録音機が必要です。ただし操作に慣れてなければいけないし、相手に気付かれずにスイッチを入れなければなりません。

安い物は音質が良くないし、採取できる音の幅や距離にも限りがあるので、それなりに高音質に録音できるものを選び、かつポケットの中で、片手で操作可能なものがお薦めです。

私はポケットに手を突っ込んで操作する練習を繰り返し、相手に気付かれずに録音することができるように訓練しました

このやり方の注意点はズボンのポケットに入れた場合は、着衣の擦れる音で、録音した音が被って台無しになる可能性があります。ですから録音している時は、不必要に体を動かさないということも大事なポイントです。

いらいらしたり不安になってくると、人というのは面白いもので落ち着きがなくなり、体を動かして、不安を取り除こうとしてしまうのです。

こういう雑音が心配なら、話の途中で「トイレに行きます」と言って、トイレの中で録音機をカバンやポーチの中に入れた状態のまま録音をスタートさせ、自分に近くに置くという形でやり直しすることもいい方法です。(もちろん事前のシミュレーションは必須です)

または事前に録音・録画をセッティングした状態の場所へ相手をおびき出せるなら、その方が成功の確率は高いでしょう。

これらの訓練と心構えは、証拠保全というテーマでは、極めて大事なスキルの一つです。

 

証拠保全の必要性を見極める

あとは物事の軽重をよく考慮して、証拠保全をすることが大事です。なんでもかんでも証拠保全して人と激突していると、“あいつは頭がおかしい”と思われてしまいます。これもまた社会生活を営む上で気をつけるべき事です。

冷静にトラブルの軽重をきちんと考え、状況によっては自分の社会的な尊厳を全て失うことや、裁判になる可能性、身体および財産にひどい損害を被る可能性がある等、行動により明確に自分への危険やリスクがあることを算定することが大事です。

私の先輩に、なんでもかんでも録音する人がいましたが、やはり変人扱いされていました。

そのときは駄目な上司が、責任逃れのために、「俺は聞いてねえ、お前が勝手にやった」と逃げていたのですが、その先輩は常に録音しているので、録音機を突き付けて、「言ってるじゃねえかよ!」と、喧嘩腰でやっていました。当然というべきか、彼はすぐに左遷されました。

自分が正しいと証拠を突きつけて、相手を徹底的にやりこめることは、一種の快感があるのかもしれませんが、方法や客観的な周囲の評価を考えると、無駄に乱発してはいけないといういい例であると、私はその先輩を見て思いました。

間接護身の大事な心得の一つに、“激突した相手を叩き伏せるために証拠保全をするわけではない”ということがあります。このさじ加減を間違えると、無駄なトラブルをさらに生みだすことになります。争いは争いを生み続けます。始めるのであればまず終焉させることを念頭においた形でやらねばならないのです。

ですから、ケースごとに証拠保全が本当に必要なのか、そもそも戦う必要があるのかをよく考えて、実行することが大事です。

 

六何の原則

もう一つここで大事なことをお話ししたいと思います。これは警察機構では“六何の原則”と呼ばれるものです。民間では5W1Hと呼ばれているもので、これは、司法文書を書くときの原則です。

  • いつ
  • どこで
  • 誰が
  • 何を
  • どのように
  • どうした

この6つを必ず項目として書けるようにしないといけないわけですが、証拠を保全するときもまた同様です。

よくありがちな失敗が“いつ=時間”で、いつ証拠化したか分からなくなるというものです。

“録音したけどこれいつだっけ?”となって、記憶を呼び起こしつつ、“いつごろだっけかな……”などとやっていると、証拠としての価値を疑われかねません。

また時間についてもできれば客観性もあったほうがいいわけです。

私がよくやっていたのは、電波時計の日付と時間、これも並行して撮影するようにしていました。これにより客観的にかつ正確な時間を、証拠化することができます。

音声録音のときは、最初に時間を吹き込めれば理想ですが、それが状況的に難しい場合、最後に吹き込むことが大事です。

発生日時は何月何日何時から何時まで発生場所はどこどこで、被害者は誰で、関係者は誰でどういう事件でどうなったということを、六何の原則でふきこんでおくと、後でもし裁判になったり、第三者に証拠を見せねばならないときに非常に役立ちます。

よくお金の貸し借りでのトラブルで、「詐欺事件だ」と相談に来られる方も多いのですが、詐欺事件を立証するには人を欺罔(嘘を言ったり嘘の状況を真実と思いこませて相手を騙す行為)して錯誤(嘘を信じ込ませる)に陥らせ、財物(お金や貴重品)を交付させる(だまし取る)という一連の流れが必要です。

借用書しか証拠がない状態で警察に相談しても、「これは民事トラブルだから無理」と追い返されます。また警察も本音では、この手の小さな事件は大して評価もされないため、あまり関わりたくないと思っていることもあります。また、取り扱う事件の件数が増えると、署長の評価も下がることもあり、極力、認知件数が増えないように処理する傾向もあります。

お読みの読者の中にも、警察に何か事件の相談に行って、「これは絶対に受理しけなければおかしいだろう」という思っていたのに、警察で扱ってくれなかったことはありませんか。そうしたケースの場合にはこうした事情があるわけです。

また、こうした時の警察担当者は、「言った言わないでは無理です」とか、「借用書だけじゃ証拠になりません」と、まともに話を聞いてくれないのが実情です。

ただ、もしこのお金の貸し借りのやりとりを六何の原則に基づいてきちんと撮影していて、さらには欺罔行為であるということが立証できたらどうでしょう、話は大きく変わります。

例えば「いまやってる仕事の入金が○月○日に入るんだ。そのお金が入金されたら返すからそれまでの期間でいい、100万円貸して欲しい」と言われた状況を撮影等で記録しておき、かつ実はその仕事は全くやっていない等の裏が取れたら、“嘘を言ってお金をだまし取った証拠”となるわけです。

しかも同じようなことを複数やっている等の話まで取れるとさらに理想です。これだけで警察が動いてくれるとは断言できませんが、刑事事件として受理できる可能性につながるのです。

「返済のためにどういうことをして、どういう理由で返済が可能なのか」そうした言質を録音しておき、あとで裏を取れるように仕込んでおくのはとても大事なことです。

お金の貸し借りだけで例を出しましたが、他の件でも同様です。必ず言質を取り、後で裏を取れるようにしておくのが、トラブルを早期に解決するため大事なことなのです。

(第七回 了)


第1回 全日本競技推手選手権大会開催のお知らせ

 

写真提供●全日本競技推手連盟

 

本連載の著者・葛西真彦先生が取り組んでいる競技推手の第1回 全日本競技推手選手権大会が来る6月25日(日)に開催されます。またこの大会に前後して、競技推手の講座も開催される予定です。

単純な力勝負だけでは勝てず、太極拳を中心にした中国武術の巧みな崩しの技術がフルに活用できる奥深い競技です。台湾では別の武術・武道・格闘技を中心に活動されている方も参加されています。この機会にぜひご参加ください。

大会参加申し込みや講座情報など、詳しくはこちらからご覧ください。

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–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練資格認定を取るための研修を受けながら、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

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