もっと!保健体育 第十回 「ひびきと対話・福島千種先生」

| 伊東昌美

中学生の時、保健体育はナゾでした。なんとなくエッチな感じがあって、でも真面目な顔をして先生は講義をしているし……。

その当時から体育が大好きだった私は、いまでも身体のことに興味があります。ただ、その頃のナゾだとかエッチな感じだとかそんな曖昧なことではなく、もっと身体のことを知って、大人になった今だからこそ、改めてこれからの人生を一緒に生きていく自分の身体と、もっと仲よくつきあいたいと考えています。

そこでこの連載では、私・伊東昌美が身体についてのセミナーやワークショップに参加して、それなりに自分の身体を使ってきた今だからこそ必要な、“保健体育”についてご紹介していきたいと思います。

「もっと!保健体育」第十回はサウンドセッション「ひびきと対話」開発者の福島千種先生です。

伊東昌美のもっと!保健体育

第十回 「ひびきと対話」開発者・福島千種先生

文・イラスト伊東昌美

 

“音”や“響き”で人の心身に働きかける

今回の「もっと! 保健体育」は、本邦初(といっても、いつも初めてのことばかりですが…)の音(サウンド)について取り上げます。

今回のサウンドセッション「ひびきと対話」は、クライアントの方が横たわるベッドのまわりで“三昧琴(ざんまいきん)”という楽器を演奏し、その響きで人を包み込むようなセッションです(三昧琴については、あとで説明します)。楽器を使ったセッションというと、なにやら不思議な気もしますが、“音”や“響き”で人の心身に働きかけるのは、何も特別なことではありません

たとえば、赤ちゃんに心臓の鼓動の“音”を聞かせると寝つきがよくなるといわれますし、川のせせらぎなどの自然現象に含まれる「1/f ゆらぎ」は、人に心地よさを与える“響き”とされています。
またチベット密教のニンマ派の行法として知られる「倍音声明」は、倍音によって生じる振動により、人を瞑想状態に導いてくれるともいわれています。

視覚優位とされる現代ではありますが、聞きなれた人の声に安心感を覚えたり、じっとりと暑い夏、風鈴の音に清涼感をもらったり……「聴覚=音の響きを感じとる」ことで、心地よさを感じる経験をされた方も多いのではないでしょうか。

とはいえ今回の福島千種先生、

「最初に『もっと!保健体育』の取材のお話をいただいた時、私でいいのかな? と思ったんですよ」と笑います。

“保健体育”といえば積極的に身体を使ったり、動かしたりするイメージだけれども、“聞くだけ”のセッションでも大丈夫? と。

ですが……と、そこに言葉を重ねる千種先生。

「このセッションを受けた方から、『ボディワークのセッションで身体を動かした時のような、爽快感を感じた』とか『終わってから、今までになくぐっすり眠れた』という感想をいただくことが、何度もありました。

ですから音だけで行うセッションですけれど、身体に働きかける“何か”は起きているのだ、とは感じています」とのこと。

では三昧琴とはどのような楽器で、何が行われるのか? このあと、千種先生の語り口のようにゆったり、やわらかく、お伝えしていけたらと思っています。

 


福島千種(ふくしま・ちぐさ)
サウンドセラピスト、三昧琴演奏家。2005年に家族の闘病をきっかけにセラピーの世界に足を踏み入れ、それまで20年近く生業としていた映像ディレクター兼ライターから転身。2012年に石川県在住の鍛冶師・河上知明氏の産み出す楽器「三昧琴」と出会い、その響きに魅了されて演奏をライフワークとすることを決意。現在は三昧琴演奏家として個人セッションのほか、各地でコラボイベントやサウンド瞑想会などを企画・開催。
Web site スペースU

 

三昧琴ってどんな楽器?

まず「三昧琴」という楽器のことを。初めて聞いた方も多いかもしれません。

これはお皿のような形をした楽器で、鉄製のものと純チタン製のものがあります。石川県在住の鍛治師、河上知明さんがすべてを手作りをされているため、一枚一枚、音が異なります。

三昧琴
三昧琴。様々な大きさがあり、りん棒で音を奏でる。大きいほど低い音、小さいと高い音が鳴る

 

りん棒(仏壇に置かれている“おりん”を鳴らす棒)で音を鳴らし、小さいほど高音が、大きいほど響きのある低音がでます。「鉄は大地の響き、チタンは天の響き」とも称され、豊かな倍音が含まれるのが特徴だといいます。ミュージシャンの方にも愛好家が多いそうです。

この三昧琴にひと目惚れ(ひと聞き惚れ?)した千種先生、河上さんのところに何度も足を運び、自分が気に入った音を奏でる一枚を選んでは、少しずつ数を増やしているのだとか。

セッションをはじめる前に、三昧琴がどのような音を出すのか体験させてもらうことにしました。

三昧琴を鳴らしてみたら…

両手にりん棒を持ち、まずは好き勝手に三昧琴を鳴らしてみました。はじめるまでは自分にも鳴らせるのだろうか……とためらったのですが、いったんりん棒を手にすると、“鳴らす”という行為をしながら、自分が音に包まれる感じ。響きに感じ入りながら、黙々と続けてしまいました。

どのように鳴らしても耳障りな音がいっさいなく、とても気持ちがいいのです。これだけですでに、なかなかいい感じです。

三昧琴を試しに叩かせてもらう。耳に残る音が心地いい

さらに千種先生がお持ちの三昧琴のうち、一番大きいの(“ボス”と呼んでいるそうです)をなんと、逆さまにして頭に掲げ、上から音を鳴らしてもらいました。

頭上から鳴り響く振動がジ〜〜〜ンと、身体にしみ込んでくる感じ。身体そのものの変化までは気づかなかったですが、音に対して“しみ込む”という表現を使いたくなるのは、初めてのことかもしれません。

ちなみに、今回の取材に同行した編集者にも“ボス”を体験してもらったのですが、「音が身体の中を通り抜け、姿勢が整う感じ。音だけなのに、なんでこんなにシャンとするんだろう」と驚いたそうです。

千種先生いわく、日によって、受け手の体調によっても三昧琴の響きや感じ方は異なり、「今日のセッションはなぜか、この倍音だけが(クライアントさんの身体に)吸い込まれるな」と感じることもあるといいます。

三昧琴の“ボス”をかぶる
三昧琴の“ボス”をかぶり、千種先生に鳴らしてもらう

 

三昧琴セッション「ひびきと対話」を体験

いよいよ、セッションの体験です。

「さぁ、はじめましょうか」

と千種先生に促され、ベッドに横たわります。目を閉じるとピンとした空気を感じます。いやな緊張ではありません。清廉な空気に身をひたす感じです。

奏でる前に、千種先生がそっと足をタッチしてくれます。これまで経験したことのない、はじめてのタッチでした。

私は最初に触れられた時に、「あぁ、これなのか〜〜」と思いました。そして「これだったら安心〜〜」という思いが続きます(何が“これ”なのかもわからないのに)。

三昧琴を奏でる前に身体にタッチ
三昧琴を奏でる前にまず、身体にタッチをしてもらう

 

一番強烈だったのは、〈第三の目〉といわれたりもする眉間の少し上の部分が、空気製のツボ押し棒のようなもので、クリクリと押された感じがしたこと。ふわっと風が抜けるような軽いものではなく、とてもくっきりとした感触でした。あとで千種先生にききましたら、両手の平を顔の上にかざしていただけだとのこと。不思議です。

そして現在触れられている場所も、さっきまで触られていた場所も「いま、触れてもらっている」ような感触が、いつまでも残ります。

目を閉じたあとにイメージが残ることを<残像>と呼びますが、まるで<残触>とでもいうような感じで、あたかも千手観音のもつ幾つもの手が、私に触れているかのようでした。
やがて、三昧琴が響きはじめました。

 

stillnessという「安心感」


■動画:千種先生の奏でる三昧琴作品「stillness」
(写真家・大関学氏とのコラボレーション作品。セッションを受けている時は、このような演奏が身体の周りで鳴っています)

 

千種先生の奏でる三昧琴は、メロディーを聞かせるというよりは、音の振動で私にタッチしてくれる感じ。左肩の近くで音がしていたかと思うと、右の側頭部で音が響いたり。やはり幾つもの手が私を取り囲み、<音で触れられている>かのようでした。

「ひびきと対話」のようす
三昧琴によるサウンドセラピー「ひびきと対話」のようす

 

この響きに浸っている時にはこれまた、今まで経験したことのない感覚がありました。私は以前、ある施術を受けた時に「stillness(スティルネス)」という状態になったことがあります。スティルネスには静けさ、平静、沈黙といった意味がありますが、私が感じたのもまた、心地いいとか気持ちいいではなく、何にもない状態でした。

それは、

「いま、耳がビロローンと伸びているようだなぁ」とか、

「脳の中を清流が流れているみたい」とか、

「足の付け根で固まってたものが緩んでいく感じ」といった、

身体のどこかの部位にフォーカスして、その心地よさを味わうのではなく、意識(と呼べるかどうかもわからないようなもの)が、「なんにもない」ことをただ知覚しているという、そんな感じだったのです。

このサウンドセッションを受けている私は、まるで二重の膜に包まれているかのようでした。まず最初の、手で触れられるタッチで安心の膜に包まれ、ゆったりとした感覚を味わいます。そののち、まるで水底にたどり着いたようなたゆたいの中、三昧琴の音がシャワーのように降り注ぎます。これが二層目の音の膜です。

快・不快がなく、自分すらいない

三昧琴の三昧には、“心を無にして何かに打ち込む”という意味があるそうですが、まさに<なにもない>ところに到達します。

 人間が根源的に求めている、絶対的な安心感の膜に包まれるような時間でした。

 

“音で触れる”こと、“手で触れる”ことは同じ

千種先生の有り様を語るのに実は、「タッチ」という単語は欠かせません。

音=聴覚なのに、タッチ=触覚を語るのはなぜ? と思われるかもしれませんが、そもそも千種先生は、エサレン(R)ボディワークのプラクティショナーとして活躍されてきた方。そこで積まれた経験が、現在の三昧琴を使ったサウンドセッション「ひびきと対話」につながっている、とおっしゃいます。

「エサレン(R)ボディワークのタッチはとても優しく、あなたの身体はすべてつながっていますよ、ということを思い出してもらうためのもの。だから手順にこだわるよりも“タッチの質”が大切だと、常々教えられてきました」

福島千種先生(右)に、お話をうかがう

 

たとえクライアントの方が、どんなに問題を抱えて、どんなに最悪の状態だったとしても、歪んだナニカを治すためにサウンドセッションがあるのではない、と千種先生。

人は常に全体性(holistic)をもつ賢い身体の持ち主であり、そのことを<触れること>で伝えていくのは、エサレン(R)ボディワークによる施術でも、三昧琴の演奏によるサウンドセッションでも、何も変わらないといいます。

エサレン(R)ボディワークでいう“タッチの質”と、三昧琴の音の“響かせ方”は、実はとても似ています。たとえ肉体に触れていなくても、音を鳴らすことで空気が振動しますから、その振動がクライアントの方に届くことで間接的ではありますが、“肉体に触れている”といえるんです。

 三昧琴という楽器を鳴らす瞬間も、人に触れる瞬間と同じだと思うと、ぞんざいにはできません」

 

“見守り”のセッション

これまで、どんな方が受けにいらしたのか質問してみたところ……「人生の切り替えのタイミングにある人とか、最近心身共に疲れていて……という方とか。あとはともかく三昧琴の音が大好きだから、この音に囲まれていたい、という人もいますね」という答えがかえってきました。

音というのは時に、押し付けがましかったり耳障りだったり、「うるさい」と感じると自分のテリトリーを脅かされたように感じてしまうことがあります。ですがズカズカと介入してこない音は、あくまでも涼やかです。自然体でただそこにある。

千種先生のサウンドセッションもまた、その人がその人でいられるように、自律させる手伝いをするためのもの。人にそっと寄り添う、“見守り”のセッションではないか。そんなことを思いました。

セッション中の様子
セッション中の様子。千種先生が静かにクライアントを見守りながら三昧琴を奏でる

 

千種先生はこのように、<触れる>ことに、深い思いを込めています

その思いは、私自身が体験して感じた「絶対的な安心感」の中にも、如実に現れていました。今回のセッションを受けて何日か過ぎ、一番残ったのは「私は私であって、このままで是であり、完璧なんだ」という思いでした。

「私って完全無欠、すごいでしょ?」と鼻息荒く自慢したいわけでもなく、

「このまま現状維持でいいじゃない」というゆるやかなあきらめでもなく。

これが私。肯定も否定もいらない、“ただの私”がいる!」という感じ。

それが心の底に宿った(いえ、今まで忘れていただけで、もともともっていた)ことを、あらためて感じたのでした。

こうした、手で音で触れられ、見守られることからくる、最上級の安心感。これが、千種先生のサウンドセッション「ひびきと対話」なのでした。

もっと大きな画面で見る。

 

(第十回 了)

連載を含む記事の更新情報は、メルマガでお知らせしています。
ご登録はこちらまでどうぞ。

–Profile–

伊東昌美さん

伊東昌美(Masami Itou
愛知県出身。イラストレーターとして、雑誌や書籍の挿画を描いています。『1日1分であらゆる疲れがとれる耳ひっぱり』(藤本靖・著 飛鳥新社)、『舌を、見る、動かす、食べるで健康になる!』(平地治美・著 日貿出版社)、『システム感情片付け術』(小笠原和葉・著 日貿出版社)と、最近は健康本のイラストを描かせてもらっています。長年続けている太極拳は準師範(日本健康太極拳協会)、健康についてのイラストを描くことは、ライフワークとなりつつあります。自身の作品は『ペソペソ』『おそうじ』『ヒメ』という絵本3冊。いずれもPHP出版。

Facebook https://www.facebook.com/masami.itoh.9
Web Site: 「ジブツタ もっと自分を好きになる」

【ジブツタはこちらのサイトから購入できます!】 http://pesomasami.saleshop.jp/