新刊『生きる稽古 死ぬ稽古』はどうして生まれたのか?

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新刊『生きる稽古 死ぬ稽古』は
どうして生まれたのか?

文・写真コ2編集部

生きる稽古死ぬ稽古

 

求めたのは「物わかりの悪い人」!?

現在「ジブツタ」というオリジナルのエンディングノートを製作、日々講座などで忙しい伊東昌美さん。イラストレーターとしても活動中で、本書はもちろん、弊社(日貿出版社)が出している『システム感情片付け術』(小笠原和葉さん著)『舌診入門 舌を、見る、動かす、食べるで 健康になる! 』(平地治美さん著)でも可愛く分かりやすいイラストを描いて頂いています。

その伊東さんが本書の企画で藤田一照先生(以下、本書に倣って“一照さん”と呼ばせて頂きます)とお話しするにあたって一番意識したことは、「それってどういうことですか? もっと簡単に言ってください」と、いうことだったといいます。

実はこれ、編集サイドからからなりお願いしたことでした。

今だから言えるのですが、対談の第一回目を終えたとき、「これはまずい」と編集サイドは慌てていました。理由はあまりにも一照さんのお話が理路整然として分かりやすかったからです。

仏教ではそもそも膨大な想定問答集、キリスト教で言うところの「カテキズム(信仰問答)」が用意されている上、一照さんのお話の巧みさもあり、ともするとこちらの用意した質問は目の前であっと言う間に解かれてしまうのです。

その言葉はどれも説得力があり、その場では伊東さんも編集サイドも「なるほど!」と頷くばかり

ところがその一方で、「分かる」けど「分からない」とも感じていました。

それは「お話自体はとてもありがたく、どれも理屈として分かる」のですが、それを聞いても耳知識が増えただけで、「何も変わらない自分がいる」ことに気がついたのです。

仏教のありがたい教えを「うんうん」と頷いて聞いているだけであれば、既に世の中には唸るほどの本が存在します。ですが本企画のテーマは、普段はそれがないように振る舞っているけれども、生まれた以上、絶対に逃れられない“死”です。

その存在を改めて考えた時に、身を竦めて書き始めたエンディングノートを投げ出してしまう存在。どんな生き方をしても最後にすべてをチャラにしてしまうという、ある意味で理不尽な結末

そんな「死」について、今日的なあり方としての仏教3.0を提唱する一照さんにお話を伺うのです。

であれば講話集のようなお話では物足りません。もっと私たちのなかに入り込んでくるものでなければならない

ではどうすべきか?

その結果導き出された結論が「もっと往生際を悪く、伊東さんにはできる限り“物わかりの悪い人”になってもらおう」ということでした。

普通であれば引っかからずに、スッと流してしまうようなお話にも引っかかって頂き、

「それってどういうことですか?」

と食い付いてもらう。果たして伊東さんは編集サイドの意を汲んで、粘り強く一照さんのお話に食い付いてくれました。

その結果出てきた言葉は、「死」をテーマにしつつも、あまり他の仏教関連の本では見ないトピックスも多く含まれたと思います。もちろんベースが仏教である以上、結果としては同じ結論にいたるのは当然なのですが、お二人の間と行き交い、時に何度も同じところをバウンドした言葉には不思議な説得力、生命力が生まれたように思います。そのお陰でしょうか、編集作業で何度も読み返す際にも、その都度つど理解の仕方が変わり、特に本書88ページに登場する「分離した私と世界」の部分は今も編集者の中で揺れ動いています。

 

伊東昌美さん
エンディングノートプランナー&イラストレーター 伊東昌美さん

 

「今」を愉しむ人

一方の一照さんは、いまさらここでご紹介する必要もないほどに、現在最も注目されている禅僧のお一人です。その多忙ぶりは日々のフェースブックからも窺われ、コ2連載中から他社さんの原稿を含めて「いつ原稿をチェックしているのだろう?」と思うほどです。

もともと本企画は編集サイドが『アップデートする仏教』(山下良道さんとの共著 幻冬舎新書)を読んだのをきっかけで、「この方なら少し変わったお話でも聞いてくれるかもしれない」と思いお願いしたものでした。

初めてお目にかかった際にお話したのは、「エンディングノートを書こうと思って講座まで来たのに書き切れない人が沢山いるそうです。それは多分、“自分の死”とそれまで向かい合ったことがないからだと思います。ですからエンディングノートを書く前に、知っておくべきこと、考えるべきこと、すべきことをお話し頂けませんか」だったと思います。ちなみにこのときの企画タイトルは「エンディングノートを書く前に」でした。

その結果については本を読んで頂ければ嬉しいのですが、対談中改めて感じたのは、一照さんのレスポンスの良さです。伊東さんから出される疑問について即座に対応し、言葉が紡ぎ出されるのです。もちろん正確な知識による情報が必要な際は、記憶の戸棚を探りに沈思されることもあるのですが、ほとんどの場合、スッと言葉が出る、「間に合う」のです。

印象としては頭で考えてお話をしているのではなく、「今」、伊東さんや私たち編集スタッフ、庭のどこかにいる猫のテラ、徐々に日暮れを迎える茅山荘の空気、夏の終わりの虫の声などを含めた、「今その瞬間」に一照さんの中で起きた化学反応が、蓄積された智慧のフィルターを潜り抜け言葉となって現れる感じでした。

禅では過去も未来もなく「今」だけであると言われるそうです。

一照さんは当然その世界の方ですので、こうした態度は当たり前なのかも知れません。ただそれは「禅僧だから」という立場だからではなく、そもそもそうした「今性」の中に没入することを愉しんでいらっしゃる様子で、お話を伺っているこちらも行き先の分からない「今」という名のジェットコースターに乗っているような、スリリングでワクワクする時間でした。余談ですが一照さんがスラックイン(綱渡り)を好まれているのも、間髪が入らない「今性(いませい)」をそこで味わえるからではないかと思っています。

そうなると編集サイドでやるべきことは、如何にしてこの「今性」を本の中にそのまま入れ込むかです。幸いにしてこちらは企画の初期の段階からコ2のスタッフとして参加して頂いていた阿久津若菜さんのお陰で、かなりの再現率で収められたかと思います。

禅僧・藤田一照先生
禅僧・藤田一照先生

 

カバーの「生死」について

最後にカバーの「生死」が一体になった漢字について触れておきましょう。

実はこれ、一照さんと伊東さん、編集者が新宿の喫茶店で初めてお会いした時(2014年5月20日)に、

「生という一本道の果てに死が待っているのではないんですよ。私の先生の先生(内山興正師)はこんな風に表していますね」

と一照さんから教えて頂いたものでした。

その際に編集者も一目で意味が分かるデザインに強く惹かれ「どこかで使えるといいですね」と伊東さんにお話したのを覚えています。それが巡り巡って今回デザイナーの渡部忠さんの手を経てカバーとして登場したわけです。

ちなみにその時の様子を伊東さんは当時こんなイラストにして送ってくれました。

伊東さんが最初に描いてくれたイラスト。

 

中心には「生死」の文字があり、今見直すと、ここが今回の企画の出発点であることがよく分かります。

そう考えるとこの「生死」を表す文字は、文字通り本企画の始まりから終わりまで、いえ、あの打ち合わせからずっと連続する「今」にあり続けたように思えます。そしてこれから先もこの文字は、私たちの「今」にあり続けるのでしょう。

最後にこの本が手に取って頂いた方の「今」に加われれば幸いです。

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『生きる稽古 死ぬ稽古』書店さん用POP 猫さんは実は陰のオーガナイザー・テラちゃん。

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–Profile–

藤田一照Issho Fujita)写真右
1954年、愛媛県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程中退。曹洞宗紫竹林安泰寺で得度し、1987年からアメリカ・マサチューセッツ州のヴァレー禅堂住持を務め、そのかたわら近隣の大学や瞑想センターで禅の指導を行う。現在、曹洞宗国際センター所長。著書に『現代座禅講義』(佼成出版社)、『アップデートする仏教』(山下良道との共著、幻冬舎)、訳書にティク・ナット・ハン『禅への鍵』(春秋社)、鈴木俊隆『禅マインド ビギナーズ・マインド2』(サンガ)など多数。

Web site​ 藤田一照公式サイト

オンライン禅コミュニティ磨塼寺

 

伊東昌美Masami Itou)写真左
愛知県出身。イラストレーターとして、雑誌や書籍の挿画を描いています。『1日1分であらゆる疲れがとれる耳ひっぱり』(藤本靖・著 飛鳥新社)、『舌を、見る、動かす、食べるで健康になる!』(平地治美・著 日貿出版社)、『システム感情片付け術』(小笠原和葉・著 日貿出版社)と、最近は健康本のイラストを描かせてもらっています。長年続けている太極拳は準師範(日本健康太極拳協会)、健康についてのイラストを描くことは、ライフワークとなりつつあります。自身の作品は『ペソペソ』『おそうじ』『ヒメ』という絵本3冊。いずれもPHP出版。

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Web Site: 「ジブツタ もっと自分を好きになる」

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