連載 タッチの力 対談/山口 創×有本匡男「触れよう、タッチの力」05ヒモトレとタッチの

| 山口 創、有本匡男

日本には「タッチ=触れる、触れられる」の機会が少ない。そんな思いから、日本のタッチ研究の第一人者である山口 創先生(桜美林大学教授)を筆頭に、teateセラピストの有本匡男氏(日本ホリスティック医学協会 常任理事)をはじめとする、タッチのスペシャリストたちが集おうとしています(「タッチの力」を広める協会の立ち上げも、現在進行中)。

そのスペシャリストたちについては、本連載中で今後、紹介していきますが、まずは去る6月28日に行われたコ2【kotsu】トークイベント「触れよう、タッチの力(山口先生×有本氏対談)」の模様を、五回にわたってお届けします。

対談最終回は、話題の「ヒモトレ」から話が始まります。

※本連載は、9月29日(金)に開催された第三回ソマティックフェスタ(レポート)との連動企画です。

 

コ2トークイベント01

対談/山口 創×有本匡男
「触れよう、タッチの力」

第5回 ヒモトレとタッチ

語り山口 創、有本匡男
写真コ2編集部

 

山口先生のヒモトレ体験

ヒモトレで身体の再教育を

有本匡男(以下、有本) ここで会場からいただいた質問に移りましょうか。
「ヒモトレについて、お二人のお考えを聞きたいです」というのがあったのですが、先生はヒモトレをご存知ですか?

山口 創(以下、山口)1回だけ体験でやらせてもらったことがあります。本当に不思議なくらい、身体の使い方が変わるのが面白かったですね。

有本 ちょうど、ご質問いただいたこともあって僕、自分のヒモトレ用のヒモをもってきています。
(ヒモを取り出し、身体に巻いてみせる)

こうやって身体に触れるか触れないか、巻いているのを忘れるくらいゆるく巻いておくと、動きがすごく楽になったり、呼吸が深くなったりするんです。

僕自身、触るか触わらないかぐらいのタッチというのを全身に施すteateセラピーをすることで、身体を変える。いってみれば身体の再教育ができないかと考えていたので、ヒモトレを最初に見たときは正直「先を越された!」と思いました(笑)。

山口 ヒモトレのメカニズムについては、私もまだきちんとは説明できないですが…でも皮膚のどこか一箇所に刺激があると、自然とそこに注意がいきますよね。

人は身体のどこかに注意が向くと、その使い方が変わることを、甲野陽紀(はるのり)さんの講座で学んだことがあります。そんな風に意識を集中すると、身体の動きやバランスが変わることは、自分の実感としてもあるんですよね。それと似たような現象かなと、推測はしています。

有本 ヒモで触れていると、オキシトシンがでる可能性ってありますか? すごい気になっているんです。

山口 出ない……、かなとは思います。

有本 そううまくはいかないですか。最初はタッチを扱う者として、ヒモトレが登場したことは死活問題だぞ、とまで思ったのですが(笑)、そうはいっても「タッチの力」を信じる者としては、手のよさというのもまたあるはずだと、考えています。

ヒモトレをすることで、身体の感覚をいわば底上げしてもらい、結果として“セラピーにできること”が、次のステージにいけるのではないかという思いがあるんです。

山口 ほう。どういうことですか。

有本 セラピストとして現場で感じているのは、セラピーでは単に身体の機能が向上するだけでなく、その方の内面までも変容していく過程におつきあいができることが、セラピーのよさではないかと。

だからこそ、セラピーによって内観を促し、その方が受け取る豊かな可能性を広げるためにも、まずヒモトレで身体の機能を向上させて、“身体の底上げ”をしてもらえるのではないかと思っているんです。

 

ヒモトレ体験!:エクササイズ

コ2編集部(以下、コ2) せっかくなのでここで、ヒモトレの簡単なエクササイズをやってみますか? 山口先生、せっかくですのでお願いいたします。

一番簡単なエクササイズでいきましょう。まずは両手を上げていただいて、後ろにぐっと反ってみてください。無理のかからない範囲で十分です。

(山口先生、輪っか状にしたヒモを両手首にかける)
山口先生のヒモトレ体験中
コ2 ヒモトレのポイントは、簡単ですがあります。ヒモは、ぐっと張りすぎても、逆にゆるすぎて、上げると落ちてしまうようでもダメ。動かしてもずり落ちないくらいの、ギリギリのテンションのところで、先ほどと同じように両手を上げて後ろにそってみてください。

山口 あ、さっきよりもぐっと後ろにいきますね……、やらせではないですよ(笑)。

コ2 こうなる理由はよくわかっていないのですが、ヒモトレを開発された小関勲先生がよく言われるのは、手を動かそうとすると、手なら手だけ、身体のある部位だけで動かそうとしてしまうと。でもヒモが落ちないように案配しながら動くことで全身を使うから、滑らかにすーっと身体が動くのではないかということでした。以上、体験でした。

山口 なるほど。先ほどうかがった話だと、ヒモの形状が大事ということでしたね。平たいヒモではダメ、丸ヒモではないといけないというのに、興味をもちました。

たぶん平たいヒモだと、ヒモの触覚刺激に慣れてしまって、感じなくなる可能性はあるかもしれません。丸いヒモですと、いつも違う接触面が当たりますから、身体に常に違う刺激が入って注意がそこに向き、内観が高まって身体の動きも変わるのかと。

有本 さらにヒモトレのヒモは、“ゆるさ”がポイントなんですよね。おなかに巻く時も、こぶしが入るくらいゆったり巻いて、つけていることを忘れるぐらいでいい。きつく巻くと、むしろ効果がなくなるといいます。

山口 ゆるく巻くと、表面で動きますからね。やはり肌に触れる刺激が、違った形でずっとあることが、ポイントかもしれないですね。

有本 僕がヒモトレから影響を受けたこととして、もう一つだけ言わせてください。
ヒモトレを始めた小関先生は、広めるのに資格をいっさいつくっておられないんです。ヒモを巻くだけだからどなたでもどうぞ、でも効果のあがるやり方はありますと、方法論はオープンに、技術は誰でもできることを、着実に積み上げていかれるやり方に、とても共感しています。

僕にとっては、それが「タッチ」なんです。人に触れることは、誰にでもできますし、専門的な技術はいらないかもしれません。でもだからこそ、誰でも「身体の基礎教養」としてできるくらい当たり前のことになって、どんどん「触れる」文化が広まってくれるといいと考えています。今回、山口先生と対談をさせていただいただことで、そんな思いをあらたにしています。

 

質問1:子供が望むままに触っても大丈夫?

コ2 ではここで、会場の方から今日のご感想や質問がありましたら、お願いします。

質問者1 私には2歳の息子がいるのですが、遊び回って転ぶと「痛い痛い」といって、私のところにやってきます。そしてだいぶ後の、もう治って痛くないであろう頃になっても、「痛い痛い。いい子いい子して」といってくるんです。

触ってほしいんだろうな、と思うので、言う通りにはしていますが…「もう痛くないんだよ」と教え諭す方がいいのか、迷うこともあります。痛いことを、触ることで思い出させてしまうのかなと。

山口 お子さんは2歳でしたっけ?

質問者1 はい。ちょうど2歳になったばかりです。

山口 でしたらまだ、「もうそんなに痛くないはず」というような、理性的な判断は難しいでしょうね。触れてほしいとお子さんが言ってきた時は、たくさん触れてあげることでいいと思いますよ。

質問者1 一度触ると、今度は「ここが痛い、あっちも痛い」と始まるので、「ああそうね」といいながら、あちこち触っています(笑)。

山口 「痛い」といえば、触れてもらえるという、条件付けがお子さんの中にあるのかもしれませんね。でしたら、必ずしも痛がっているところに触れるだけでなく、ほかのところにも触れてあげたり、抱きしめてあげたりしてはどうでしょうか。
スキンシップを満足いくまでしてあげることで「ここが痛いから触わって」とは、いわなくなるのではないでしょうかね。

質問者1 なるほど。やってみます。

 

質問2:タッチの気持ちよさに依存する可能性は?

質問者2 オキシトシンのスプレーを噴霧しすぎると、自分でつくる力がなくなる、というお話がありましたが。
タッチをすることでオキシトシンがどんどんでて、その気持ちよさに依存してタッチを“しすぎる”可能性ってありますか?

有本 僕自身のteateセラピーの経験からお答えしますね。

同じ方に何度も、teateセラピーを施術する機会はよくありますが、ある時点で満足される感じになるので、これまでお伝えしてきたようなタッチであれば、ある程度満足したら、落ち着いていかれるのではないかと思っています。それは先ほどのご質問であった、2歳のお子さんの話でも同じですよね。“タッチしすぎる”ということは、基本的にはないと思います。

ただしこれがもう少し、能動的だったり刺激が強かったりする施術だと、強い反応を引き起こすこともありますから、また違う話になるのかなとは思っています。

山口 ひと口で触れるといっても、指圧のように強めの触れ方をすると、オキシトシンよりも、β−エンドルフィンの方がでます。それは快楽物質とよばれるものですから、依存度でいえば、影響はあるかもしれません。ですがオキシトシンがでるくらいの優しい触れ方には、依存性はほとんどないと思いますね。

コ2 依存性という言葉を、どう捉えるかかもしれませんね。自分で触れて、気持ちよさを自分で感じることが、ここでお伝えしてきたタッチですから、あまりこわがらずに、触れることを「習慣にする」と考えてよいのかもしれないですね。

では最後に、お二人に今日の感想をお話いただきましょう。

会場のようす
有本 僕からお話ししますね。オキシトシンやC線維など、山口先生の学術的な見地から「触れる、タッチとは何か?」をうかがうことで、「やっぱりそうだったのか」と納得できたように思います。
自分の体感と、研究からわかってきた理論をすりあわせることで、“身体のシステムへの信頼感”がより、もてるようになったといいますか。

今日のように、現場で実践している者と、先生のように研究の立場からタッチを考えている二人が、一緒に何かを話せる機会は本当に素晴らしく、ありがたいです。
先生、そして会場のみなさん、どうもありがとうございました。

山口 私もまた、有本さんとお話させていただいて、誰よりもタッチを深く考え、誰にでもわかりやすく、本当にシンプルなカタチで伝えていることに魅力を感じました。

家庭でも、そして病院を初めとする医療現場や介護の現場でも、こういう「タッチ」をいろいろなところで広がる機会を増やしていきたいと考えています。

そして私たちがこれからやろうとしている活動を、応援していただけましたら有難いです。今日はありがとうございました。

(第5回 了)

 

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–Profile–

山口 創(Hajime Yamaguchi
桜美林大学教授/臨床発達心理士。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は、健康心理学、身体心理学。聖徳大学人文学部講師を経て、現職。肌のふれ合い(スキンシップ)が心に与える影響を研究し、日本のタッチ研究の第一人者として知られる。
著書に『幸せになる脳はだっこで育つ。強いやさしい賢い子にするスキンシップの魔法』『子供の「脳」は肌にある』『皮膚感覚の不思議』など多数。
Web site 山口研究室のホームページ

有本匡男(Masao Arimoto
teateセラピスト。幼少期に、仏教の考えに触れ、「幸せとは」について考え始める。2002年よりセラピストとして活動を開始、同時にヨガ、哲学を学び始める。2007年より「teate(てあて)セラピー」を始める。現在は講演、ワークショップを通じて、「teateセラピー」やホリスティックヘルスケアの普及につとめている。
Web site​ ホリスティックヘルスケア研究所