ヒモトレ介護術 第三回 「84歳の脊椎すべり症が歩けるように!」

| 浜島 貫

「ヒモ一本でカラダが変わる」と話題のヒモトレ。中でも関心が高まっているのが、介護分野でのヒモトレの可能性だ。

そこでこの連載では、主に在宅医療の現場でヒモトレを活用している浜島治療院院長の浜島貫先生に、実際の使い方や臨床的な意義を紹介してもらおう。

ヒモトレ介護術

第三回 「84歳の脊椎すべり症が歩けるように!」

お話浜島 貫
文・取材・構成北村昌陽
監修小関 勲

 

こんにちは。浜島貫です。

今回ご紹介するのは、これまでヒモトレ関連の書籍や雑誌の記事で、何回も登場してもらっている女性のCさん(84歳)です。歩くことも難しいほどのひどい腰痛で「脊椎すべり症」と診断されていましたが、驚異的な回復を示し、今ではすっかり元気に歩き回っています

最近のCさんは、書籍などに掲載されたときより、さらにお元気。新しいエピソードもいろいろとありますので、そのあたりも含めて、お話しましょう。

Cさんは、もともと自宅で洋裁教室を開き、お茶やお花も指導者の資格を持っているなど、とても活発な方です。夫と息子夫婦と同居。さらに孫夫婦と3歳になるひ孫の男の子が頻繁に遊びに来ています。

私がCさんの自宅を初めて訪問したのは、1年半ほど前になります。Cさんの主治医からの紹介でした。歩くのはもちろん、立っている事すら難しいほどのひどい腰痛が起き、痛みはひざや足首にまで広がり、また少し歩くだけで痛みとしびれが強くなりしばらくどこかへ腰掛けて休まなければ再び歩きだせない。そんな状態でした

実は、Cさんの自宅の目と鼻の先には整骨院があり、当初はそこで治療を受けていたそうです。ですが、そこまで歩いていくのも途中で腰掛けて休みながらでなくてはたどり着けなくなり、危険と判断されたため、訪問診療を行っている私に声がかかったのでした。

 

「立つのもやっと」の状況から、
数週間で驚異的に回復

訪問初日にお会いしたCさんは、壁に寄りかかってやっと体を支えているような状況でした。背骨が曲がって姿勢が反り返り、見るからに立っているのも大変そう。挨拶のお辞儀もできないほどです。

背中を診せてもらうと、ちょうど胃の裏あたりで、筋肉がまるで鰹節のようにボコッと盛り上がって固まっていました。20年ほど前に胃を全摘する手術を受けたとのことで、その影響があったのかもしれません。

いずれにせよ、体を支える体幹部のバランスが崩れているのは明らかでした

痛みへの対応として鍼治療などを行いましたが、併せて、日常的なケアとして、へそヒモとタスキをやってみることにしました。ヒモトレの働きは、体のバランスを整えることがメインですから、何かしらいい作用があるだろう、と、それぐらいの気持ちでした。

ヒモトレ
書籍『ヒモトレ入門』33ページより、「おへそ巻き」。

 

Cさんの場合、受け答えはとてもしっかりしており、手先も器用に動かせましたので、巻き方をお伝えすれば、日常的に自分で巻けるだろうと判断しました

これが、驚きの始まりだったのです

以降、訪問するたびに、Cさんの姿勢がよくなっていきました。と同時に、歩ける歩数も増えていったのです。

 

ヒモトレ
左から、ヒモトレスタート時、6週目、19週目。右へ進むほど、姿勢のバランスが整っている。右端は、1年半ほど経った最近の姿。

 

スタート時→6週目→19週目と進むにつれて、背すじがまっすぐになり、足元もしっかりしてきたのがわかると思います。

Cさん自身も、ヒモを身につければ痛みが和らいで歩きやすくなると実感したようで、連日、欠かさずに身につけてくれていました。

今回、治療開始から1年半ほど経った最新の姿も撮影させてもらいました。いまやすっかり元気になったCさんですが、実はこの間にもいくつかアクシデントがあり、それを乗り越えてきたのです。

 

遠方への旅行を楽しむまでに回復

ヒモトレを始めてからのCさんは、行動範囲がどんどん広がり、気がつくと普通に外出をするようになっていました。と、そのうち、自宅のある所沢から家族の運転する車に乗って銀座へ買い物に行ったとか、家族旅行へいったとか、友達と長距離バスで大阪に行くのだとか、そんな話をうれしそうに聞かせてくれるようになりました。

ご本人はあっけらかんとしていますが、ちょっと前までは、家からほんの数十メートル先の整骨院まで行くのも「危ない」と言われていたのに、大阪旅行ですよ。こちらとしては、本当に、開いた口がふさがらない、という感じです。

でも体の状態を見ると、足どりはしっかりしてきたし、階段の上り下りだって普通にできている。ご本人が動きたいと思って動いているのだから、止める理由はありません。

実は今年の初め、元気になったがゆえのアクシデントといいますが、家で転倒して救急車で運ばれたことがありました。もっとも、病院の検査では圧迫骨折があるものの今日骨折したのか、以前からなのか分からないと言われ、本人の強い希望もあり入院に至らず、すぐに帰ってきました。ほかにも、旅行先で転んだことも何回かあったそうです。

こんな話をすると、「やっぱり危ないから出歩いちゃダメ」なんて考える人がいるかもしれませんが、私はそうは思いません。もともと活発だったCさんにとって、「外に出かけたい」という気持ちは、生きる意欲とも重なるような、とても大切なものなのです

実際、腰が痛くて出歩けなかったころ、Cさんは心の面でも不調に陥り、抗うつ薬を飲むようになっていました。それが歩けるようになって、緩解し主治医と相談して減薬した。そんな経緯もあるのです。

身体機能の裏付けはもちろん必須ですが、そこが保たれている限り、いたずらに行動を制約する必要はないと思っています。

腰の痛みと背中の妙な凝りは、今ではすっかり消えました。足首の痛みだけはまだ少し残っていますが、それ以外はもう、いたって元気。ご本人はよく

「もうだれも病気だと思ってくれないのよ~」

なんて笑っていますが、私の目から見ても、Cさんはもう病気とは言い難いですね(笑)。

私の経験上、この年齢で、あそこまで運動機能が低下した場合、こんなに回復するのはなかなかありえないことです。その意味で、Cさんのケースは、私にとっても目から鱗が落ちるような驚きの経験といえます。

 

まずは「へそヒモ」と「タスキ」の理由

ところで、こういったケースで実際にヒモトレを使ってみようと思った場合、「体のどこに巻けばいいのか?」と迷われる方もいるでしょう。

私は、どんな状態のケースでも、まずは一番基本の「へそヒモ」と「タスキ」を試してみるのがいいと思っています

ヒモトレは、ヒモが肌に触れる刺激がきっかけで、体の働きのバランスを整えると考えられています。体全体のバランスが崩れた結果として、たとえば「ひざの痛み」のような症状が現れるわけですが、ひざが痛むからといって、ひざに原因があるとは限りません。

むしろ、全身のアンバランスのしわ寄せが、たまたまひざに現れている、という場合も多いのです

体全体のバランスを整える上で中心的に働くのは、胴体(体幹)です。胴回りのさまざまな筋肉や関節がバランスよく働けば、体の状態は確実によくなります。だから、まずは「へそヒモ」と「タスキ」で、胴体にヒモを巻いてみるのです。

そして、巻いたときにどんな変化が起きるかを、よく観察することが大事です。本人の意識がしっかりしている場合は、体感的に違いがあるかを聞きましょう。

これで症状が改善したり、体感的に「心地いい」と感じるようなら、はちまきや胸、足などにも順次、巻いてみる。その中から、適したものを見つけていくのがいいでしょう

私たちはどうしても、ひざが痛むならひざの治療、腰が痛むなら腰の治療という発想を抱きがちなのです。でもヒモトレでは、そういう考え方はいったん頭から外したほうがいいと思います。これは局所の治療法ではないのです。

ただし、局部の問題が原因で痛みが出るケースも、もちろんあります。典型的なのは、骨折のような整形外科的な障害でしょう。これも高齢者にはよく起きるものです。

この種の障害の場合、ヒモトレでは症状がほとんど改善しません。この性質を利用して、ヒモトレを鑑別診断の一助として使っている整形外科のドクターもいらっしゃいます

痛みや機能障害を訴える患者さんにまずヒモトレをやってもらい、改善すればヒモトレを勧めるし、改善しなければ器質的な疾患を念頭に置いてみていくのです。

このやり方は、頭に入れておくと大変役に立ちます。その意味でも、まずはヒモトレをやってみるのがお薦めなのです。

 

「ヒモを忘れる」ことの意味。
ヒモ依存にならないために

さて、最近のCさんですが、ときどきヒモを巻くのを忘れているようです。私の顔を見ると、少しバツが悪そうに「あら、さっきお風呂に入ったときに外したのよね」などとおっしゃるのですが、おそらくそれまでは、けろりと忘れていたのだろうと思います。

これは、必ずしも悪いことではないでしょう。むしろ、ヒモなしでも問題なく生活できるほどに体が整ってきたのだと、私は好意的に捉えています

ヒモトレは、体のバランスを整えるための効果的なツールですが、使う人が「ヒモ、すごい」という方向の意識を強く持ちすぎると、ヒモに依存するような心理に陥りかねません

すごいのはヒモではなく、体に備わったバランス調整能力であり、ヒモはその力を引き出しているだけなのです

“ヒモ依存”を避けるための大事なポイントが、体の感覚に目を向けること。いわゆる「体の声をきく」ことですね。

具体的には、ヒモを巻くことによって生じる変化、たとえば痛みが軽くなるとか、動作がラクになるといった変化に意識を向け、実感することが、とても大切です。それが、ありのままの自分を受け止め、主体性を保つことにつながります。

そして、ラクになったときの感じを体が覚えてくれば、体は、ヒモなしのときも、その「いい状態」を保つようになっていきます。これは頭で考えてできることではありません。体が「ラクな感じ」を体感することで、自然にそうなっていくのです。

Cさんがヒモを忘れるようになったのは、ある意味、体の感覚をきちんと感じ取っている証拠といえます。ヒモを巻いたときと巻かないときの体感上の差が、以前ほど明確ではなくなってきたことを、体がちゃんとキャッチしているのでしょう

ちなみにCさんは、最近、杖も、よく忘れるのだそうです。「杖なしの外出は不安だけど、持って出ると安心して、どこかに忘れてきてしまう」のだとか。どこかヒモトレのヒモに通じるところがあって、面白いですね。

(第三回 了)

注意:この連載では実際に浜島先生が現場でヒモトレがどのように使われているかをご紹介しています。ただ、実際の使用にあたっては、必ずご本人を含めた関係各位の同意の上、慎重に行ってください。また高齢者や障がいをお持ちの方が行う際には、必ず付き添い者の同伴が必要です。席を外すときは、必ずヒモを外すように注意してください。

 

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–Profile–

浜島先生

浜島貫(Totu Hamashima
1976年生まれ。浜島治療院院長。浜島整骨院副院長。鍼灸マッサージ師。柔道整復師。 公益社団法人埼玉県鍼灸マッサージ師会理事。井穴刺絡頭部刺絡学会理事。現在、在宅医療にも力を入れており、個人宅などを訪ねて鍼灸治療やマッサージ、リハビリなどを行っている。そうした取り組みの中で、ヒモトレを活用。腰痛予防対策や介護施設の職員、デイケアなどに通う高齢者に向けたヒモトレ講習会も実施。

ご連絡先:hamashima.in@gmail.com

 

小関 勲 (Isao Koseki
ヒモトレ発案者/バランストレーナー 1973年、山形県生まれ。1999年から始めた“ボディバランスボード”の制作・販売を切っかけに多くのオリンピック選手、プロスポーツ選手に接する中で、緊張と弛緩を含む身体全体のバランスの重要さに気づき指導を開始。その身体全体を見つめた独自の指導は、多くのトップアスリートたちから厚い信頼を得て、現在は日本全国で指導、講演、講習会活動を行っている。
著書『[小関式]心とカラダのバランス・メソッド』(Gakken刊) 小関アスリートバランス研究所(Kab Labo.)代表 Marumitsu BodyBalanceBoardデザイナー
平成12〜15年度オリンピック強化委員(スタッフコーチ) 平成22〜25年度オリンピック強化委員(マネジメントスタッフ)日本体育協会認定コーチ、東海大学医学部客員研究員・共同研究者、日本韓氏意拳学会中級教練

MARUMITSU(まるみつ)
Kab Labo.