実践、超護身術 第二十一回 嘘と呼吸06

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第二十一回 嘘と呼吸06

葛西真彦

 

詐欺師の特徴

少し脱線しますが、前回からの続きで少し詐欺師についてお話をしておきましょう。

詐欺師は1割の真実と9割の嘘を以て人を騙しますが、嘘をつき慣れている人も同様に、1割の真実と9割の嘘に近い言動をして嘘で身を守ろうとしています。

日常生活にもその習慣が身についているので、些細なことに、嘘や偽りが多くあります

例を挙げると、

  • 年齢
  • 名前
  • 住所
  • 職業
  • 肩書
  • 経歴等

を偽っていたりと、色々ですが、そういった点を見つけて指摘したときに、どういう態度を取るかで、その人の感情のコントロールレベルも見えてきます

核心に触れる部分を突くと、大抵ふてくされたり逆切れ、さらに追加の言い訳を話し出しますが、大抵こういう状況で行うものは、メッキが剥がしやすいものばかりなので、冷静に観察するといいでしょう。

日常生活を送る中で誰でも隠したいことはあり、嘘が全て悪いわけではありません。ただ人間関係を続ける上で、相手の些細な嘘に気がついたら、軽くそこを突いて、その反応で距離を取るべきかどうかを判断することが間接護身に有効な目安、判断材料と言えるでしょう。

こういったタイプを相手にすることは、普通に生きていればあまり多くはないと言いたいのですが、私が台湾で仕事をしたときに、名前や経歴を偽っている人間の下についた経験があり、その際は外国ということもあり、どこにどういう人間がいて、相手がどういう意図を持っているか、予想が難しい状態でした。

私が関わった人は、「台湾で前科者だったことを表ざたにしたくない」ということで、色々嘘をついていたことが後で分かりました。このケースでは自分に対してなにか害意があるわけではなくよかったのですが、なかには誰かあなたに害を与える目的で嘘をついているケースもあり、そうした人間と出来るだけ距離を置くためにも、日常を生活する上で人との付き合い方や、近づいてきた人間の意図を早く見抜く洞察力を持っておくことは、非常に重要であると言えるでしょう。

私自身、こういった危険を推測できる兆候や何らかの嘘で身を固めている人とは、なるべくプライベートでは関わらないようにする習慣がついています。また仕事でどうしても関わらなくてはいけない相手であれば、最低限のみに徹しています。

この手のタイプは、自分の損得勘定だけで接して相手を利用しようと思って近づいてきたり、すぐに裏切ったり、不快なトラブルに巻き込んできたりすることが多いからです。

刑事時代も色々な人間と付き合ったり、取り調べ等で関わることで、いい人間も悪い人間も沢山見てきましたが、台湾に来るとまた一味違った人間と接するので、これも勉強になりました。

実際、台湾に流れてくる日本人には、かなりの曲者が多いです。日本にいられなくなって来た人や、海外手当で給料が跳ねあがって羽振りが良くなった駐在員が、自分が偉くなったと勘違いして態度が横柄になり、暇つぶし代わりに立場の弱い人や台湾人を見下すような人も結構いて、こういう人間と接すると神経を使うというか、疲れて具合が悪くなります。

また私のような素性のよく分からない武術家は、台湾の日本人村のような特殊なカースト制度が存在する場所では、露骨に見下してくる人間もおり、そうした人との関わり方、距離の取り方などを日々実践で学ぶことができました。

こうした露骨に人を見下したり、選民的に振る舞う人は、日本ではコンビニの店員さんや飲食店店員さんに対しても横柄に接することが多く、観察すれば誰でもすぐに分かるようになります。

葛西先生連載イメージ写真

 

お酒の席で危険の兆候を感じる

また、お酒は非常に恐ろしいもので、飲んでしまうと相手の思惑や普段であれば気がつく些細な危険の兆候を見逃し、直接的な暴力に発展したときにも、普段の反応ができなくなります

また、相手の反応に鈍くなる反面、つい普段は使わない言葉や、勢いで相手の急所を攻めてしまうこともあり得ます。もちろんそうならないように自制が必要なのですが、自信がない方はよくこのお酒が引き起こすミスを一緒におかしますので、改めて多少なりとも自覚のある方は、お酒を飲む相手や場所を選んだ方がよいでしょう。

「君子危うきに近寄らず」という言葉がありますが、まさにその通りだと思います。これを守れば、大抵のトラブルは回避できるのです。

 

怒りの感情を呼吸で解消する

一方で、こちらが避けたくても、トラブルの方からやってくるケースもあるでしょう。思わず怒りに身を任せたくなることもあると思います。

しかし感情で行動すると、大抵の場合は失敗して後悔することになります。別に暴力沙汰にならなくても、反論の仕方が悪かったせいで、相手に上げ足を取られて恫喝されたり、交渉すらまともにできなくなったり、人間関係が決別したりと色々なことがあるものです。

よく誤解されるのですが、私は気の弱いおとなしい人間だと勝手に思われることが多いようです。しかし、刑事の仕事で一般の方ではまず見ないような様々な現場や、修羅場を潜ったこともあり、見た目のイメージと性格は全く違います。

一見弱腰のような態度を取っているように見えても、中身はそうではなく、感情的になるのを押さえて、その時点で決断したり行動せず、一端保留したり引きつつ相手の意図や深刻度を測りつつ、どうしてもまた交渉が必要なら、少し時間を置いて対応するようにしています。これはネット上でも有効な反応で、間接護身の一つです。

それでも思わず怒りで我を忘れそうになったときはあります。

そこでここでは私がそうした際に必ず行う儀式がありますので、ここで紹介しておきましょう。

ごく簡単で、

一度自分の腹を軽く叩いてから深呼吸する

のです。怒りで呼吸が乱れ、体温も上がり、臨戦態勢のような状態を軽く叩くことで腹を意識した深呼吸をすることで、一旦落ち着かせるのです。

そのままのテンションで、さらに挑発されたり、相手が激怒して迫ってくると、それに反応してこちらも制御不能になる恐れがあるからです。そうした状態に陥らないのが間接護身の本旨ですが、どうしても避けられないケースで自分が爆発しない方法、緊急停止させる方法をしっかり持っておくこともまた大事なのです。私自身、自分の危険な部分をこれまでの経験上分かっているので、こうした自分を落ち着かせる手順を持っているわけです。

こうした方法で自分を落ち着かせることが出来れば、取り敢えずその場を離脱したり、挑発に不用意にのらなかったりと、一線を超えずに済むわけです。

自分が暴力沙汰を起こさずに済むことになるので、間接護身として有効だと私は感じています

今回お話してきたことで、呼吸が相手を読むためにも、また自分を制御するためにも非常に大事なものだということは伝わったでしょうか。

この他にも交渉という駆け引きの場でも呼吸を活用する方法もありますので、こちらもまたニーズがあれば、深掘りして例を出しながらやっていければと考えています。

今回もお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

(第二十一回 了)

 

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–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練であり、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

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