実践、超護身術 第二十三回 身の丈を知る02

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第二十三回 身の丈を知る02

葛西真彦

 

護身と体力

前回は一般的な護身術についてやや厳しい書き方になってしましましたが、極めて実際的な護身術を学ばれている方がいらっしゃることも十分承知しています。特に、コ2の読者にはシリアスな方も多いのではないでしょうか。

それでもこうしたことを書くのは、分かっていても護身(武術・格闘技の修行含む)が過信になるケースが多いことが多いためです。特に相手を無傷で制するということは想像以上に難しく、また法律を理解した上での対処が必要でもあるわけです。ですから、護身を本気で考えるのであれば、そうしたことを念頭に置いて訓練をすることが大切だと思っています。

では私自身は何をやって体力錬成に備えているのかと言えば、ウエイトトレーニングであれば自分の体重の2倍程度はデッドリフトやスクワットができること、ベンチプレスは最低でも100キロ以上は上げられることです。いずれもウエイトをする人間であれば別に大したことないレベルなので、これでも最低限というラインに過ぎません。

ただし、単に重いものが持てればいいというわけではありません。私の場合は、ウエイトトレーニングでオールアウトした後に、ファンクショナルトレーニングを行っていますが、クリーン&プッシュプレスやハイクリーン、スタンディングプッシュプレス等のタバタ、ディップスや懸垂のタバタ、立ちコロと24キロのケトルベルスイングのセットタバタ、22キロのブルガリアンバッグでスピン数百回、バトルロープを30分サーキットでやったり等々、ファンクショナルトレーニングだけで2時間以上を行い、ジムのトレーニングだけで3時間程度を費やしています。その上で早朝または夜は道場で稽古を行い、自宅での仕事の合間にも武器の練習をしたり武術の錬功をし、土日は朝から夕方までずっと稽古をしています。

ここまで時間を割ける人は職業武術家でも多くないと思いますので、一般の方にはさらに難しいでしょう。ですが、もしこれといった技術を持たず、相手を打撃を使わず組み伏せるのであれば、かなりの体力がないと相手を力づくで制御することはができません

技術で何とかするというのであれば、実際にこうした現場で使うつもりであれば、最低でも数年間はみっちり稽古をして、何らかの試合に出ても、それなりに入賞できるぐらいのレベルは要求されます。

「試合と実際とは違う」という声も聞こえてきそうで、確かにその通りです。ですが、分かりやすい目安という意味で、試合というルールや防具等の制限下でも、それなりに結果が出せるくらいの技術と身体スキルがないと、実際に制限のない状態で余裕を持って相手を制御することなどさらに難しいと考えた方が良いでしょう。

ある程度の体力をつけた上で、技術をつけ、ランダム性の中で対処する経験を積まないと、「相手を無傷で組み伏せる」という条件をクリアーするのが極めて難しいという話です。

こういったことを念頭に置かず、数回護身セミナーに通ったことで自信を持って勘違いしてしまうと、実際にトラブルに遭った際に、収拾のつかない方向に向かってしまうこともあるわけです。

葛西先生連載イメージ

 

悔しさから生まれた転機

くり返しになりますが、まず自分の身の丈を知ることが大事です。その為の第一歩は何か事件があったときに簡単に「俺だったらこうできる、こうする」と思わず、もっと深掘りして、

  • 「実際こういう場面に遭遇したらやったらどうなるのか」
  • 「自分はどの程度できるのか」
  • 「その場合の事後処理はどういったことが考えられるのか」
  • 「よりリスクの少ない方法はないのか」

などをじっくりと考えてシミュレーションすることが重要であるわけです。

シミュレーションする内容と、実際の自分に差異が少なければ、ある程度対処が可能になるわけなので、身の丈を知るということは本当に大事です。ある意味でこのシミュレーションが間接護身の要とも言えるでしょう。

こう書いている私ですが、最初から自分の身の丈を知っていたわけではありません。現場で様々な経験をするなかで多く学び、それを元にやっているわけです。実際に、本気で私がこのことについて考えるようになったのは、ある現場で素手で絞め殺されそうになったときからです。

交番勤務時代に、「数人の肉体労働者が乱闘している」という通報がありました。現場に行くと実際にガタイのいい連中が殴り合っているので止めに入ったのですが、そのうちの一人が完全に怒り狂ってしまい収拾がつかず、止めに入った私の首を絞めると、壁に叩きつけ、そのままズルズルと壁に押しつけられた上に持ち上げられ、何もできないまま宙づりにされたのです。

情けない話ですがその時は何も反撃することができず、あともう少しで死ぬと本気で覚悟しました。なんとか仲間が助けてくれたので、殺されずにすみ今があるわけですが、その当時も武術はかなり長く学んでおり、警察でも訓練も受けていて自信があったにも関わらず、ど素人の力だけが強い人間の“ただの暴力”に屈したのです。

情けなくて悔しくて、心の底からそれまで自分のやって来たことの意味を考え落ち込みましたが、これをきっかけに改めて自分の身の丈を知り、意識を変える大きな転機となりました

そうしたこともあり、私は先に書いたような肉体的な鍛錬を武芸と並行して行っているわけです。恐らく過剰に思われる方もいらっしゃると思いますが、私からすれば、「これでもまだ足りない」「まだまだ全然備えられてない」と思っているところが本音です。

とはいえ既に自分の身を護るというよりも、いざという時に、100キロ超の人間を背負って、津波が来る前に猛ダッシュで高台に逃げられること、また背負いながら長時間歩いて、救護してくれる場所まで徒歩で搬送できること、いわゆる震災時に周囲の人を助けつつ自分も助かる、そういうことを最終目標にしていることもあり、まだまだ稽古を続けています。

やや話が横道逸れましたが、身の丈を知るというのは護身の場面だけではなく、生活全般においても重要なことでしょう。

勉強や仕事でも「自分は出来る」と思っていても周囲はそう思ってない、むしろ自分ができていないということすら気付いていない人は、どこか誤魔化しの利かない場面で恥をかいていたり、いつか何か回避できないリスクに巻き込まれる原因を作っているかもしれません。

身体能力や直接護身に限らず、身の丈を知り身の丈に合ったことをし、身の丈を理解して高めていく、こういう備えを繰り返すことが、間接護身では最も重要であろうと私は考え、日々取り組んでいます。

大事なことは身の丈を知った上で自分を卑下したり、落ち込んでしまわないことです。足りていない部分を知り、それが補えることであれば補う。どうしても補えられないことであれば、それが必要になる場面を避けて、自分が得意なことが活かせるように工夫をする。自分のスケールを正しく知ることで、ポジティブに生きる方法が見つけることができるのです。

 

ステッカーで護身?
交通トラブルを避けるための間接護身的アイデア

最後に冒頭に上げた交通トラブルについて避ける為の私見を書いておきましょう。

交通トラブルにおいて、どういう人が一番恐れられるか、皆さんはご存知でしょうか? 極道、そちらの筋の方でしょうか。いかにも“それ”と分かる車であればちょっかいを出す輩も少なくなりますが、それはより深刻なトラブルの元にもなるのでやめておいた方が無難でしょう。ネットなどでは、刺青のようなシールやアンダーウェアを着て腕を車外に出して威嚇するような話もありますが、これもまた好戦的な輩の目を惹くリスクもあります。

葛西先生連載イメージ

 

私のお勧めは、いわゆる

「ドラレコ」=「トライビングレコーダー」を車に設置し、それを「前後につけて撮影しています」ということを示すステッカーを車に張ること

です。

以前の連載でも書きましたが、誰でも撮影されていると分かっていて、そのカメラの前で犯罪を犯すことは躊躇します。そういったことを考えると、取られことステッカーが最も簡単で現実的な備えだと言えるでしょう。

今回は交通トラブルをテーマに「身の丈を知る」という間接護身で最も大事なアイデアを紹介しました。

お読み頂きありがとうございました。

(第二十三回 了)

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–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練であり、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

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