連載 本気でトラウマを解消したいあなたへ 第三回 回復のために最も大切なことその1: 助けを求める

| 藤原ちえこ

「トラウマ」という言葉からは、何を連想されるでしょうか。震災や戦争といった“大きな出来事”の当事者が受けた“心の傷”、またはそれにともなう症状(フラッシュバック、うつなど)を思い起こす方が多いのではないでしょうか。

ですがトラウマセラピストの藤原ちえこさんは、

「トラウマ反応は、心ではなく、まずは身体で起こるもの。そして出来事の大小にも、それを直接体験したかどうかにも、必ずしも関係がないのです」

とおっしゃいます。ここでは、

  • 本当のところ、トラウマとは一体何なのか
  • トラウマからはどうすれば回復可能なのか

を、お伝えしていきます。トラウマからの回復をのぞむ、“あなた”のための連載です。

トラウマイメージ

ココロの傷は、カラダで治す

本気でトラウマを解消したいあなたへ

第三回 回復のために最も大切なことその1:助けを求める

文・写真提供藤原ちえこ(写真提供は☆のみ)

こんにちは。トラウマセラピストの藤原ちえこです。

前回、症状の深刻さに関わらずトラウマからの回復は必ず可能だという話をしました。今回からはいよいよ、そのための具体的な方法についてお伝えしていきたいと思います。

 

なによりまず、孤立しないこと

まずは、私が、トラウマから回復するために必要不可欠だと考えていることから始めます。
それは、「一人ではやらないこと」です。

なぜなら、「孤立」こそが、トラウマの最大の特徴の一つだからです。

1994年のロサンゼルス大地震で、比較的うまく危機に対処したのは、アジア系やヒスパニック系の移民たちだったといいます。

彼らは震災の後、皆で公園などに集まって炊き出しをして、歌ったり踊ったりしながらお互いを支え合ったそうです。

一方で、もっともトラウマの影響を受けたのは、中流家庭以上の人々(必然的に多くが白人)だったそうです。

彼らは、倒壊しない丈夫な家に住んでいたので、地震の後もそれぞれの家にとどまり、

孤立した状態で、絶え間なく地震のニュースを見続けていたといいます。

人間は、社会的な生き物です。

大きな災害時には特に、私たちはお互いの助けを必要としているのです。

そういう社会的なつながりがない状態(孤立した状態)で大きなストレスにさらされると、トラウマを受ける可能性は飛躍的に大きくなります

そして孤立は、地震のようなショックトラウマだけではなく、発達トラウマ(虐待、ネグレクトなど、成長過程で受けたトラウマ)の場合には必然的に起こることです。

家族の中でトラウマが起きるとき、そこに多くの場合「秘密の共有」があります。

トラウマイメージ
毎日親から殴られているが、それを誰にも言えない。

父親が蒸発してしまったが、母親からは「学校では、お父さんは遠くで仕事していると言いなさい」と命じられる。

父親から「お母さんに内緒だよ」と言われながら性的虐待を受け続け、自分でもそれを母親が知ったらどんなにショックを受けたり、怒られたりするかを恐れて打ち明けられない。

このような環境の中、「自分は他の人とは違っているから、誰にも理解してもらえないだろう」と感じ、家の外では固く口を閉ざし、一人で歯を食いしばって耐え忍び、そのまま成長した人は少なくありません。

もっと悪いケースは、

ものすごく勇気を振り絞って、周りの大人に助けを求めても、その大人が全く助けてくれなかった。

あるいは、誰かに打ち明けたことで、事態がさらに悪くなった……。

こんな経験をしてしまえば、

「もう絶対に助けなど求めまい」と決心してしまっても当たり前です。

 

あなたを助けてくれる人は、必ず存在します

あなたがそんな体験の持ち主だったとしたら、

あなたの気持ちは痛いほど分かります。

でも、その上で、あえて強調します。

どうぞ、あきらめずに助けを求め続けてください

助けを求めるのは、本当に勇気がいることです。

特に、過去に助けを求めて裏切られた経験のある人にとってはなおさらです。

よく勘違いされることなのですが、

助けを求めるのは、弱さではなく、強さの表れなのです。

本当に強い人というのは、自分の弱さを隠さないでいられる人のことだと、私は考えています。

だって、自分の弱さをさらけ出すほど勇気がいることは、この世にそうそうないことですよね。それほど勇気の要ることだからこそ、多くの人が、助けを求められずに孤軍奮闘し、最終的にはそれがうまくいかずに自らの命を絶ってしまったりするのです。

ありったけの勇気を振り絞って助けを求めても、望んだような助けが得られないことも、もちろんあるかもしれません。

その場合は、あきらめずに、別の人に助けを求めてください。

自分に必要な助けが得られるまで、何人に助けを求めてもいいのです。

あなたを助けてくれる人は、この世に必ず存在します

そして、助けを求める相手は、もちろん身近な人たちでもいいですが、

できれば、援助を専門にしている場所や人の方がいいです。

トラウマに苦しむ人の助けは中途半端にできることではないし、それなりの技術も要することだからです。

ゆえに、援助に特化した場所や人に助けを求めた方が、あなたが欲しい助けが得られる可能性はずっと高くなります。

トラウマイメージ
以下に、そうした場所や専門家のヒントをいくつか挙げておきます。

どうぞ参考にしてみてください。

 

助けを得たいとおもったら:1.自助グループ

自助グループは、様々な悩みや共通の問題を抱えている人たちが自発的に集まり、専門家を交えずにあくまでも当事者たちでサポートし合うことを目的として作られたグループです。

最初は1930年代に、アルコール依存の人たちが自分たちで支え合うことを目的に米国で始まりました。その後アルコールの問題にとどまらず、薬物依存、買い物依存、虐待を受けて大人になった人、摂食障害、対人恐怖、ギャンブル依存、共依存など、あらゆる種類の自助グループが生まれて現在に至ります。

グループは通常、“アノニマス(匿名)”で、言いっ放し・聞きっぱなしが原則です。自分の身分を明かす必要もなければ、自分の発言を誰からも遮られず、批評もされず、そこで話された内容についてグループ外で口外されることもありません。

こうしたルールのもと、グループの安全性が確保され、参加者が自由に自分の言いたいことをシェアできるようになっています。もちろん、話したくなければただ座って他の人の話を聞いているだけでも構いません。

自助グループの長所は、専門家が入らない当事者の集まりであるということです。

いわゆる「偉い先生」に上から自分たちの問題を論評されたり診断されたりするのではなく、あくまでも当事者同士が、自分たちで問題解決や自己変容に取り組む場所です。

それは、自分は無力な存在だと感じてしまいがちなトラウマ被害者にとってはとても力になる(エンパワーされる)体験です。

もうひとつの長所は、同じ体験をした者同士の分かち合いの場であることです。

やはり、同じ体験をした人同士でしか分かり合えないことというのはあります。自助グループは、参加者がもっとも楽に他の参加者に共感できる場所なのです。

共通の体験を持つ人の話を聴いて、「同じことを感じたのは自分だけではないんだ」と気づくこと、そして彼らに自分の話を聴いてもらうことは、それだけで大きな癒しになります。

もしあなたが、専門家や学校の先生など、自分よりも「偉い人」に助けを求めてがっかりした経験の持ち主であれば、まずはぜひこうした自助グループに行ってみましょう。

こちらのページに、全国の自助グループのリストがあります。

このリストに未掲載のグループもあるので、見つからない場合は自分の居住する自治体や近くの教会などにも問い合わせてみてください。

・心理カウンセリングのIFF(アイエフエフ)>コミュニティー>自助グループ
http://www.iff.co.jp/community/selfhelp.html

 

助けを得たいとおもったら:2.身体の専門家

連載第1回で述べたように、トラウマは心の傷というよりもむしろ身体反応なので、身体を癒すボディワークの専門家の施術を受けるのもおすすめです。

もちろん、トラウマを本当の意味で解消するには心理的な癒しが不可欠なので、最終的には心理の専門家の助けも借りる必要がありますが、心理療法に対する抵抗が大きい場合は、まずは身体の専門家からの助けを求めてみましょう。

ロルフィング、クラニオセイクラル、フェルデンクライス、野口整体などさまざまなボディワークがあります。強制的に身体をほぐすのではない穏やかなタイプのマッサージもいいでしょう。

私が個人的にお勧めし、また住んでいる場所を問わず受けられる可能性が高いのは、鍼灸です(鍼灸院は全国どこにでもあるので)。経絡治療を専門にする鍼灸院が近くにあったら、ぜひ一度試してみてください。

身体の施術を受ける時に覚えておいて欲しいのは、あなたがトラウマを受けた経験があるとしたら、あなたの身体は必要があって今の状態になっているということです。ゆえに身体の硬さがボディワークという外からの働きかけによってゆるんだ時に、それまで身体を硬直させて感じないようにしてきた、さまざまな感覚や感情があふれ出てきて余計に辛くなってしまうことがあります。

そうした心身の仕組みに理解があり、心のケアにも気を配ってくれる治療者に巡り会えれば理想的ですが、受けている訓練が違うので、普通は身体の専門家にはそこまで期待することはできません。なので、もし身体のワークを受けている時に、いろいろな感情があふれてきたり、つらくて蓋をしていた記憶がよみがえったりした場合は、心の専門家の助けも必ず求めるようにしましょう。

 

助けを得たいとおもったら:3.心の専門家

心理学は幅広いので、一口に心理セラピストといっても、さまざまな技法の専門家がいます。

トラウマを癒すための心理ケアを必要としている方は、身体心理学を専門とする心理士を探してみることをお勧めします。繰り返しますが、トラウマは身体反応なので、過去の傷について何百時間語っても、語るだけではトラウマ反応は消失しないからです。

トラウマ反応にはもちろん心理的な側面も多くあるので、トラウマ的な出来事がきっかけで自分の中に植え付けられた誤った思い込み(「自分を助けてくれる人は誰もいない」「自分は愛される価値がない」など)に働きかけるには、やはり経験を積んだ心理セラピストからの助けが必要になります。

身体の専門家と心の専門家、賢く使い分けて、両方から助けを求められれば理想的です。

 

助けを求める際のヒント

最後に、こうした自助グループや専門家からの助けを求める際のヒントを記しておきます。

【助けは多い方がいい】

助けてもらう場所や人は、多すぎることはありません。もしあなたが助けを求める対象がたった一つの場所やたった一人の人だけだったとしたら、その場所/人とのつながりが途絶えてしまうと助けがゼロになってしまうからです。助けてくれる人/場所が少なければ少ないほど、その人/場所への依存度は高くなり、依存度が高ければ高いほど人は不自由になります。

トラウマは、選択肢がない状態のことを指します。トラウマを癒し、自由で軽やかな自分になるには、選択肢がたくさんあることは必要不可欠です。助けは多い方がいいのです。

【自分の感覚を大切にする】

自助グループに行くにしろ、専門家の助けを求めるにしろ、みなさんに必ず覚えておいて欲しいことがあります。

それは、自分の感覚を大切にすることです。

たとえば、思い切って行ってみた自助グループが、どうも嫌な雰囲気で自分には合わなかった……、あるいは、人から良い評判を聞いて会いに行ってみたセラピストが、どうも自分は好きになれなかった……。

そういう体験をしたら、それは、あなたの感覚が正しいのです。

なぜなら、誰にでも合う万能の場所や人は存在しないからです。

そして、もしも医者やセラピストに言われたこと(たとえば「あなたの問題はこうです」と決めつけられるなど)で、自分が納得できないことがあれば、

その時も、自分の感覚を信じてください。

自分にとっての真実は、自分の外には決して存在しません

たとえ世界中の人が、「これは白だ」と言っても、

あなたにはそれが黒く見えたとしたら、それがあなたにとっての真実なのです。

最初、十分な助けを得られると感じていた場所や人が、

通い続けるうちに、しっくりこない感じになることも、いくらでもあります。

それは、あなたが成長したり癒されてきたりすると、自然に起こることです。

なので、途中から自分の感覚に合わなくなってきても「今まではすごく助けてもらったから」と、その場所や人に固執する必要はありません。

それまでの助けに感謝して、別の助けを探しましょう。

繰り返しますが、あなたを助けてくれる人は、一人だけではなく、この世に何人も存在し、助けは多いほど良いのですから。

【助けを求めるのは、技術です】

外国語の習得と同じように、助けを求めるのも技術なのです。それはどういうことかというと、練習すれば身につくということです。

最初はぎこちなく感じたり、助けを求める相手を間違えたりして、気持ちがくじけてしまうかもしれません。でもあきらめずに練習を続けてください。

助けを求めて、それが得られた……という成功体験を積み重ねていくことで、あなたの世界は少しずつ変わっていきます

トラウマイメージ
幼いころ、自転車に初めて乗れた時のことを覚えていますか?

最初は不可能に思えたことでも、いったんコツを覚えれば何の苦もなく乗れてしまいましたよね。まさに「身につく」というやつです。

それと同様に、助けを求めることも、いったん身につけてしまえばそれほど難しくはなくなりますよ。

少しずつでいいのです。

練習あるのみ!

私はあなたを心から応援しています。

覚えておいてください。

わたしたちは皆つながっているので、

あなたが癒されることによって、この世が、誰にとっても、今よりも少し居心地の良い場所になります。
あなたが癒されることを、世界全体が望んでいるんです。

もちろん、私もね!

 

〜ちえこの札幌だより 003〜

写真(☆)提供:著者
写真(☆)提供:著者

昨年暮れ、長年の夢だった金継ぎ教室に参加しました。

旭川在住の漆芸作家の女性を講師に、全3回のコースでした。

わたしが直したのはこちらの3点。どこで入手したかも覚えていない箸置き2個と、そのむかし知人から結婚祝いに頂いたドイツ製の小皿です。

すべて、ぱっくり割れてしまっていたのですが、こんなに素敵によみがえりました。

(特にカメの箸置き、金色の首輪をしているみたいで、すごく可愛くなったと思いませんか?)

トラウマの癒しも、金継ぎに似てるなあと思います。

私たちが傷を負うのは、全然取り返しのつかないことではなくて、

傷を修復した時、癒されたその傷は、その人の優れた個性の一部になる。

そして、傷を負う前よりもさらに素敵になるのです。

割れる前は特に好きでもなかった箸置きたち、今ではわたしの大のお気に入りになりました。

使うたびに顔がほころんでしまいます。

そして、直ったお皿を見たときの娘のうれしそうな顔。

りんごを食べる時に使っていたので、娘は「りんごのお皿」と呼んでいました。

またこのお皿でりんご食べられるね。

(第3回 了)

 

連載を含む記事の更新情報は、メルマガFacebookでお知らせしています。
更新情報やイベント情報などのお知らせもありますので、
ぜひご登録または「いいね!」をお願いします。

–Profile–


Photo by Takashi Noguchi

藤原 ちえこ(Chieko Fujiwara

大阪大学人間科学部卒業。新聞記者を経て渡英、Emerson Collegeにてシュタイナー教育を学ぶ。その後サンフランシスコに移り、カリフォルニア統合学研究所(California Institute of Integral Studies, CIIS)にてカウンセリング心理学修士号取得。サンフランシスコの日系カウンセリングセンターや小学校、近郊のホームレス支援の非営利団体などで心理セラピストとして勤務。サンフランシスコ、ハコミ研究所(Hakomi Institute of San Francisco)にて2年間のハコミセラピーのトレーニングを修了するとともに、トラウマへの身体的アプローチであるソマティック・エクスペリエンス(Somatic Experiencing, SE)の3年間のトレーニングを修了。禅、瞑想、ヨガ、気功、ムーブメント、ボディワークなど、ベイエリアで当時アクセス可能だった数多くの癒しやスピリチュアリティのメソッドを探求したのちに、身体と心のつながりという最も基本的な真理にたどり着く。
05年2月に帰国、札幌にカウンセリングルームを開く。私立女子校のスクールカウンセラーとしても活動中。
訳書に『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房)、共著に『「ソマティック心理学への招待—身体と心のリベラルアーツを求めて』(コスモス・ライブラリー)、『トラウマセラピー・ケースブック』(星和書店)。特別養子縁組で迎えた3歳の娘の子育てを楽しむ毎日。


website:プレマカウンセリングルーム(http://premamft.com)
blog:明るい鏡~本当のわたし、そしてあなたを映し出す