実践、超護身術 第二十五回 路上暴力の現実02

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第二十五回 路上暴力の現実02

葛西真彦

 

直接護身の限界

多くの直接護身では、直接的な暴力の場面、例えば複数を相手に絡まれたり、ひったくりに遭う、背後から襲われる、ナイフを持った強盗等々、危機的な状況を想定してその対処方法を練習します。

また、こうした方法では物足りないという方は、もう少し自由度を高くし、実際にある程度自由攻防での訓練を行っている方もいらっしゃいます。

前者に比べればランダム性もあり、また失敗を身をもって経験できる点で、後者の方がベターでしょう。ですが、こうした方法での護身へのアプローチには決定的な限界があります。それが前回も触れた「よーいドン」の問題つまり「スタート」です。

訓練である以上、どうしても始まりと終わりを設けなければならないのですが、現実にはそんな区別はありません。いまこの文章を読んでいる皆さんの時間そのままの延長線上に、シームレスで危険は存在し、気がついたときにはもう危険のまっただ中にいるのが現実です。この「スタート」がないことを訓練で再現することは極めて難しいでしょう。

ですが、実際に暴力に慣れてる人間には、事前に暴力をふるうことを察知させない方法を取るタイプもいます。

笑顔で近づいて、笑顔で話しかけて来て、安心して話がついた後、「じゃあね」と優しく肩を優しくポンポンと叩いて立ち去るかと思った瞬間、そのまま容赦なく殴り倒すわけです。

私も実際に職務質問の際に、相手が笑顔で間合いに入って来て言い訳をしていると思ったところ、いきなり制帽のつばを掴むとそのままズリ下げて、目が見えない状態にしてから殴りかかってきた犯人もいました。また笑顔のまま突然ネクタイを掴んで首を絞めてきた犯人もいました。

やはりこうしたケースをシミュレートすることは恐らく不可能でしょう。

葛西先生イメージ

 

 

対刃物で本当に大事なこと

また、これは直接護身の局面となりますが、刃物を持った人間への対処は非常に難しく、実際に刃物を持った人間と対峙してみると、自分の技術がいかに通じないかがよく分かります

刃物を持った相手をする際に、最も重要なのは、

  • 相手が本気で自分を殺そうとする人間なのか。
  • 威嚇で何とかこの場を有利に収めたくて刃物を出してるのか。
  • 面倒くさい駆け引きが嫌いで、脅しで出しているが相手の出方次第では躊躇なく攻撃を仕掛てくるのか。
  • 精神疾患や薬物の影響で一切話も通じず、何をするか分からないのか。

など、相手の心理を冷静に見極めることです。

同時に相手の所持している刃物や棒、バット等武器の種類によって殺傷力に大きな差があることも考慮に入れなければなりません。

さらに付け加えれば、広い路上を想定した練習が対刃物の護身術では多いと思いますが、実際の現場は様々です。当然ですが殺傷事件の現場は屋外に限らず、四畳半の部屋のこともあれば、狭い車の中などで起こることも多いのです。

例えば四畳半の屋内で、色々な家具などの障害物がある空間で、全力で刺す、切りかかろうとする相手に対しての対処は、後ろに下がったり回避することが難しくなるため、全く別物の難易度となります。

こうした場面では取っ組み合いになりがちですが、自分が非力でかつ技術がなければ、すぐに刃物の餌食になります。ここで必要になるのは、取っ組み合いで相手を崩すコントロール、相手を圧倒するだけのスタミナと力、そこから制圧する関節技や絞め技、そうしたアクションの間に組み合った状態でも効果のある打撃技などが必須となります。

さらに補足すると、実際に殺傷事件を起こすような粗暴な人間のいる部屋などは、

  • 床に足を滑らせる週刊誌や雑誌などがたくさん落ちている。
  • ハサミや固い灰皿、コップなどの踏んだら危険なものがある。
  • 食べ残して腐敗した弁当やスープのはいったインスタント食品、犬のフンが落ちている。

など、肉体的心理的に避けたいものがあったりと、部屋が荒れている環境であることも少なくありません

ただこうしたものは自分にとって不利にも働きますが、逆に自分が利用できることも忘れてはいけません

実際の現場では頭の回転の早さがものをいいます。逆に自分が避けたいものを足でうまく引っ掛けて相手目掛けて蹴り投げたらどうでしょう。意識はそちらに一瞬向きます。さすがにハサミをうまく相手に向かって蹴り投げるのは難しいでしょうが、腐った弁当を突然ぶつけられたら相手もひるみます。その瞬間がこちらにとって一瞬機先を制するチャンスとなるわけです。

一度しゃがんで物を手に取るという動作がひとつ増えるため、リスクも増えますが、灰皿やコップを相手の顔面目掛けて投げつけるのもいいでしょう。犬のフンでもOKです。それ自体がダメージを与えられなくても、相手の機制を制するには十分効果があり、フンを投げる方がナイフで切られるリスクに比べればずっと危険は少ないはずです

葛西先生イメージ

 

 

絶対に相手を侮らない

また、実際の現場では心理的な駆け引きが大事になることを忘れてはいけません

相手が泣いて懇願し刃物を捨てたので安心して近づいたら、突然隠し持っていた刃物で攻撃を仕掛けてきたり、噛みついてきたり等、不意打ちだまし打ちは当たり前のようにあります。大人しく話し合いに応じているようで、実は仲間を呼ぶための時間稼ぎで、突然自分の背後に相手の応援が来るなど、相手が目の前にいる人数だけであるとは限らないこともあります

特に不意打ちには注意が必要です。現役の警官時代「室内で兄弟喧嘩をしている」という通報で、私と一緒に現場に行った警察官がドアを開けた途端、突然腕を掴まれ室内に引きずり込まれて刺されそうになったことがあります。このときは、瞬時に同僚を外に出しつつ、ドアで相手の腕を挟んで防ぎました。

とっさに仕掛けられても、油断したりうろたえたりせず、また自分が直接被害に遭ってないからと傍観するのではなく、すぐに現場の形状を利用して対応する、こうしたことが必須になります。

また、相手が女性や少年、年寄りだからといって侮るのも禁物です。相手が誰であっても、それが殺意を持っている人間だったら、決して舐めてかかってはいません。

これも現役時代のお話ですが、「中学生が家庭内暴力で、刃物を持って暴れている」という通報で駆けつけ、私の説得も一切応じず持っていたナイフで攻撃してきたときには“制圧以外の方法なし”と判断し、躊躇なく警棒を使って叩き伏せ、制圧したこともあります。

「子ども相手に、大人げない」と言う方もいるかもしれませんが、刃物を持った相手が殺意を持って自分に害を加えてくると判断したときは、相手が中学生だろうが躊躇してはいけないのです。

これまでにも書いてきたように、相手が持っている刃物が一つだとは限りませんし、スプレーなどを隠し持っていれば、こちらが油断した隙に顔面にスプレーを吹きかけられたあげく、滅多刺しにされる可能性もあります。

相手が刃物を持っているときだけではなく常に相手の出方を判断し、“制圧すべきか否か”“最悪の場合はどうなるか”を想定しながら、速やかに見極めるスキルが重要になります

また当然、状況が許すのであれば、助けや警察の通報が来てくれるように、大きめの声でいまトラブルが起きていることを周囲に発信しつつ、かつ相手が興奮しない程度の音量で会話をするなど、助けを呼ぶ声にもその場に応じた細やかなテクニックも必要になります

“自分は強い、絶対この場を収められる”という根拠のない慢心。これは武術や護身術を学べば学ぶほど、陥りやすい考え方です。

しかしこれこそが危険なのです。むしろそれならそうした経験を積まないで、びくびくと警戒心を強く持っているほうが安全かもしれません。

人を舐めてかからない。侮らない。慢心しない。もしかすると武術を学ぶ人にとって一番難しいのはこれなのかもしれません

その一方で“自分は何をしても生き延びる”という気構えも重要です。だからといってただアグレッシブになるのではなく、冷静に言葉や態度などの駆け引きを行いつつ、油断せず、感情的にならず、相手の今現在の戦力、感情、殺意等の情報を分析する。何か機先を制してくる行為を瞬時に察知する能力などが、実際の護身には必要となるわけです。

(第二十五回 了)

 

葛西真彦先生、初の講座開催のお知らせ!

来る3月22日(木)、待望の葛西真彦先生による講座「間接護身とはなにか ?」を開催します。

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–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練であり、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

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