実践、超護身術 第二十九回 詫びと酒03

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第二十九回 詫びと酒03

葛西真彦

 

トラブルにならないお酒の飲み方

 私自身、酒は大好きなほうでしたが、長年患っている化学物質過敏症が最近また悪化し、酒を飲んだ後、発生するホルムアルテヒドに過敏に反応するようで、翌日にも影響が出るため、いまはあまり飲まない、というか、飲めなくなりました。

過敏症以外にも、歳のせいもあるのでしょうが毎日長時間稽古するのにお酒を飲むと、疲労が抜けなくなることや、体のキレが悪くなって重く感じ、集中力も欠き、自分を限界まで追い込めなくなることも理由の一つです。

お酒が飲めないのは結構さみしいものですが、武芸に励むこととの優先順位を考えて、割り切るようにしています。

ただ、これは私の環境だから割りきって止めることもできますが、お仕事によっては付き合いの酒を避けることが難しいことかもしれません。昔ほどではないでしょうがそういう場面が多い職種もありますし、実際、酒があってこそ、付き合いや相手との距離感を近づけて物事が円滑に進むこともあるでしょう。

「私は飲めません」となかなか言えない場面もあることを考えると、間接護身的には酒を飲んだときにトラブルが起きそうになっても、詫びというスキルを使えるかどうか、こちらが重要になってきます

私が実際に行った練習法の一つに、嫌な上司や先輩と飲む機会をあえて増やすことがあります。

もちろんストレスも溜まりますし、酒も不味いし、なにより酔った勢いで思わず反論したり否定したりしたくなる感情も出てきます。それを酔った状態でも抑制し“いまこいつを理論でねじふせたり怒らせたらどんなリスクが起きるだろう”という冷静な損得勘定をするわけです

そうしたお酒の場面でどれだけ感情を揺さぶられても、冷静にいられるか。そのなかで感情のコントロールはもちろんですが、お酒の飲み方、うまく飲んでいるように見せる技術を含めて学ぶことができるわけです。

ある程度できるようになってくると、いざという場面でもスッと自然に詫びを入れてトラブルを回避したり、そもそもそうした場面事態を回避できるようになります。

とはいえ、これはなかなかリスクが高くストレスもあるため、そこまでやらなくても、飲み方の工夫は覚えておくと良いでしょう。

具体的には慣れているお酒を、慣れているペースで飲むということです。珍しいお酒があるとか、普段飲み慣れていないお酒を飲むと、どれぐらいの時間でどれぐらい酔うか分からないため、そうなるとトラブルを回避する詫びというスキルを使おうという意識も鈍くなります。

当然自分がどれぐらいで酔うかも把握して、そのペースを維持することも大事です。嫌なことがあったり荒れていると、浴びるほど飲みたくなりますし、そういうときに限って何か想定しないトラブルが起きやすくなります。

また、酒量を減らすのも大事なことだと思いますし、そのためには体力を使う趣味を持つのも、いいなと最近はよく感じます。

筋トレをするようになって酒をやめたり、競技格闘技をやるようになって酒をやめたり、そういう方もおられます。

酒をやめることを勧めるわけではありませんが、どうしても酒を飲んでトラブルを回避する自信がないという方は、体力を使う趣味を持って、飲酒する回数を減らすのも、悪くないのではと感じます。

葛西先生連載29イメージ
photo/a tai.

 

酔った状態の自分に何ができるのかを知る

次に、詫びが通じない場合どうするかという話に触れたいと思います。

お酒を飲んだ人間をカモにしようとする人間も中にはいて、そういう人間に難癖をつけられたりしたら、なかなか回避は難しいものです。

詫びているのに向こうが引かないで、さらに難癖を付けるそういうケースも、もちろんあるわけです。

このコラムを読まれている方の中には、試されたことがある方もいるかもしれませんが、お酒を飲んだ状態で、自分は何がどれぐらいできるか、検証してもよいでしょう(もちろん安全を確保した上です)。

酔っぱらって殴り合いをすると、当然普段ほど体が動きませんし、取っ組みあってもうまく相手を制御できないし、投げるのも大変です。そしてすぐに息が切れ、普段なんでもなくできていることが、なかなかできなくなります。

私も何回か試したことがありますが、酔ったときに試合形式で体を動かすと吐くときもあるので、バケツなどを準備して、また人によっては、酒のせいで攻撃的になったりするので、かなり用心して行っています。

また、逃げることを想定して、酒を飲んだ状態で、100メートル走など、どれぐらい走れるか試してみると、これがまたうまくいきません。

心臓が破裂しそうになり、体は熱気がすごく、普段とは違う体でやっているのかと思うぐらい、負担が大きくなります。

心臓が弱い人だったら心臓が本当に止まるかもしれませんので、これは真似をしないでください

そこまでしなくても、いわゆる「適量飲んだな」と自分で感じる程度の際に、飲酒による身体の変化、感覚の変化を把握し、お酒を飲んだとき、自分が逃げれらる身体能力はどの程度まで下がるのか、身を守れる能力はどの程度まで下がるのか、感情の抑制やコントロールはどこまでできるのかについて意識することは大事です。

お酒を飲んだときに、著しく自分の身体能力が下がるということを知った上で、もしトラブルに巻き込まれ逃げるしかないとき、周囲の状況を見て、自分のコンディションを計算すると、逃げられるタイミングが見えてきます。

相手も酔っているなら、こちらが普段訓練をしている上で、かつ酒を飲んだときの身体レベルも知っていれば、こちらのほうが圧倒的に逃げるのは有利です。酔った状態で相手を追いかけるのも、またかなり負担がかかるため、逃げ切れる確率も高まるので、冷静に逃げ道と現場の状況を把握することに努めながら、チャンスを狙うのです。

葛西先生連載29イメージ

 

事前に逃げられる場所、助けを求められる場所をチェックしておく

酒場でばかりトラブルが起きると思いがちですが、もちろん酒場だけではありません。

帰り道、人気のない細道で、突然犯罪グループに巻き込まれる場合もあれば、繁華街で酔った人に因縁をつけられたり、いつどこで何が起きるか分からないわけです。

なので普段素面のときは、こういうときはどうやって逃げるべきかなとか、心得として事前に想定しておく練習も非常に大事です。

また、これはよくあることなのですが、酒場でトラブルになり一度はお互い引いたものの、互いにその酒場から出ないで酒を飲み続け、したたかに酔ったところで、店の外で再度やり合う、こういうケースも実はあります。

場合によっては、一度引いた後帰らないということで、相手側が仲間を呼んで、さらに大きなトラブルに発展するケースもあります。

ですので詫びるにしろなんにしろ、一度トラブルの起きた場所には居続けない、これも絶対的な原則となります。

どうしてもまだ飲みたければ、その繁華街を離れて、違う地区に行って仕切り直すなどの用心をすることも大事です。同じ繁華街にいれば、店を変えて飲んだとしても、変えるときに遭遇して再度トラブルということもありえるからです。

以前のコラムで私は逆尾行対策について想定の仕方や方法について触れましたが、私はそれと同様にどうやって逃げていけばいいのかということも、よく自分の住む町や自分がよく行く街を歩きながら考えています。

また、知らない町でも長い時間いることが分かっていたら、同様に街の中にある地の利というものを探しつつ、トラブルが起きたらどうやって逃げるかということも想定して徘徊しています。

ポイントは、

  • 追跡を巻くためのとっさに隠れることのできる場所
  • 助けを求められる場所防犯カメラが設置されている場所
  • 人が多くて通報してもらえそうな場所等

把握しておくべき地の利は結構あるものです。

最悪を想定し、悪く言えば病的な被害妄想と思われるぐらい、“自分がこういうトラブルに巻き込まれたら、どう対処すべきか”“どうやって逃げるか”“どうやって駆け引きするか”“どうやって詫びて回避するか”などの練習もよくしておくことで、詫びというスキルと逃げるというスキルの成功率が高まるということを心得ておくといいのではないかと思います。

これらがシミュレーション通りできるようになったとき、トラブルで最悪の結果を招く確率は、大きく下がることにつながるのではないでしょうか。

(第二十九回 了)

連載を含む記事の更新情報は、メルマガFacebookでお知らせしています。
更新情報やイベント情報などのお知らせもありますので、
ぜひご登録または「いいね!」をお願いします。

–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練であり、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

【連絡先】
メールアドレス taiwankoubukai@gmail.com
ユーチューブ  https://www.youtube.com/channel/UCKNRrH1rxrDUPtjZ76rNgbA
フェイスブック https://www.facebook.com/taiwannobujutuka