連載 タッチの力11 岩吉新・後編「神経系の役割を知る」

| 岩吉新

 

【スライド4:痛みと侵害受容の違い】

スライド4:痛みと侵害受容の違い

ここで「痛み」と「侵害受容信号」について説明します。

歩いている時にどこかにぶつけて「痛い!」となったとします。

ふつう、ぶつけた刺激=痛みそのものと考えるかもしれませんが…実際には、神経の働きは以下のように分かれています。

どこかにぶつける

「ぶつかった」という刺激を、ぶつかった箇所の神経が、脳へ“侵害受容信号”
として伝える

脳が受け取る

脳が“痛み信号”として出力して「痛い!」と感じる

  • 侵害受容信号:末梢神経→脳へ「警戒してください、なにか問題があるかもしれませんよ」という警戒発令。
  • 痛み信号:脳からの出力→「痛い!!」と感じる

なぜこんなにこまかく説明するかと言えば……、

侵害受容という入力に対して、痛みとは脳で生み出している感覚、出力です。

だから同じような刺激に対して、これまでの記憶と予期とか、不安とか恐怖とかが影響して、人それぞれ痛みの感じ方が違ったりする

注射が何でもない人も入れば、針が刺さった時点で気絶しそうに真っ青になる方もいますよね。

またはすでに損傷が治っている組織、事故などで腕がなくなったりしているのに痛みを感じたりすることもある(幻肢痛といいます)。

慢性的な疼痛(とうつう)も、障害や炎症を起こした部分そのものが“痛がっている”わけではなく、脳がその部分からの侵害受容信号を受け取って、痛みという反応を脳が出力しているんです。

侵害受容信号(入力)と痛み(出力)は、分けて考えた方がいい」、痛みは個人的な感覚だということを、神経のメカニズムからもわかっていただけたらと思います。

さらに詳しい説明を、僕のサイト「neuro relax 神経コラム」でも紹介しています(「ゲートコントロール理論」〜「新しいニューロマトリックス理論とは?」とある部分の記事を参照ください)。

【スライド5:運動錯覚】

スライド5:運動錯覚

 

こんな風に「痛み」ってとても複雑なんですよね。そして最近、個人的にかなり重要なトピックなのではと思っていることに「運動錯覚」があります。

「腱を振動させることによって、手が伸びたり縮んだりするという“錯覚”が起きる」ことが、最近の研究からわかってきています。

あくまでも「振動」ですから、実際は手などは動かしていないわけです。でも手が動いたと感じたり、痛みが減ったり、さらには不安が減ったりとか。感情といった情動にも影響を及ぼせることがわかってきています。さらには、脳の運動野の活性化もおきるそうです。

論文にはもちろん、振動の周波数を記載してありますが、僕自身も体験したことはないので、どのくらいの強さ、細かさかはわかりません。でも機械で人工的に与える振動(90Hzくらい)ですから、かなり細かいと思います。

皮膚の伸展によっても、運動錯覚は起きるといいます(操体法はまさにこれです!)。

あまり強くやられると抵抗したくなるんですけど、やさしく皮膚を伸ばされたり、揺らされたりして、物理的にその部位の皮膚や神経のテンションがゆるんだり、血流がよくなるだけではない。

同時に運動錯覚も起きることで、痛みが減ったりとか、ほわんとした感じとか、リラックスした感じがでてくるのではと考えています。

これはかなり楽観的かもしれませんが……脊髄損傷などで動けなくなった方に対して、からだを自力で動かすのでも、他力で動かされるのでもなく、「揺らす」などして運動錯覚を起こし、運動野を活性化させられる可能性もあるのではと思っています。

僕は、神経系から人のからだをみますから、施術をするとはある意味、脳の錯覚を利用して不快を減少させたり、気持ちよさを味わってもらうことではないかと。そういう意味では、脳が一番大事ではないかと思っています。

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–Profile–

岩吉新
岩吉 新(Shin Iwayoshi
フィットネス業界のマネージャー職や、趣味で行なっていた合気道などの武道を通して、人の身体を健康にする仕事を行いたいと思い、様々な手技療法を受ける。気持ちよさで身体のバランスが整うという操体法に出会い、創始者の内弟子の先生から、身体や皮膚の感覚と技術を基礎から応用まで学ぶ。東京田園調布に「neuro relax」を開業。その後、カナダの女性理学療法士が開発したデルモニューロモジューレティングを知り、開発者とコンタクトを取り最新の神経科学を学ぶ。その後、2017年に「デルモニューロモジュレーティング日本語版」の制作&翻訳を担当し出版。また2018年には「操体法を神経科学から読み解く」を執筆し出版する。

著者『デルモニューロモジュレーティング日本語版

操体法を神経科学から読み解く

Web site 岩吉新公式サイト「ニューロリラックス」