連載 ココロとカラダを繋げる ボディコンシャストレーニング06「体のなかにある方向性を感じる」

| 大久保圭祐

巷に溢れる様々なトレーニング理論。それぞれに新しい知見やグッズ、時には有名選手のお薦めもあり、どれも魅力的ですよね。だけど本当に大事なことはトレーニングを行うあなた自身。誰かが「正しい」と言われる方法や理論を「正しく」実践しようと思うあまり、自分のココロやカラダがどう感じているかを忘れていませんか?

この連載ではトレーナーでありロルファー™️である大久保圭祐さんが、ボディワーク・ロルフィングⓇの視点を取り入れた「カラダを意識したトレーニング法“ボディコンシャストレーニング”をご紹介します。意識を変えてカラダの声を聞くことで、いつものトレーニングが「あなた専用のトレーニング」に変わります

 

ココロとカラダを繋げる

ボディコンシャストレーニング

第6回 「体のなかにある方向性を感じる」

大久保圭祐

 

大久保さん連載6イメージ

今回はまず最初に腰のトラブルに実用的なワークの紹介から始めたいと思います。トラブルを手掛かりに体の内側に意識を向けて、普段意識を向けていなかった感覚や体からの声にじっくりと向き合おう!というわけです。

その上で、前回触れた「空間から受けている感覚」を実際に体を動かすことに結びつけるための「方向性」についてお話を進めていきます。

体の輪郭を感じて腰の緊張をゆるめる

今回ご紹介するのは多くの人が悩む腰の緊張を解くワークです。腰痛とまではいかなくても、朝、起きると腰に違和感がある方や、ふとした時に腰に緊張や疲労感を感じる方にお勧めです。

ここでご紹介するワークは、治療や筋力トレーニングではなく、体の感覚や使い方を育む「体への取り組み方」です。ですから結果も大事ですが、ワークの過程で得られる感覚やプロセス、結果として感じた新しい感覚を大切にしてください。こうしたワークを続けることで、自分にとって心地よい状態に自然に戻れる体に“育てる”ことができるわけです。

体勢は座ったままでも仰向けでも行えますが、今回は座った体勢で進めます。

目を瞑った方が体の内側に意識が向けやすいのですが、ワーク中は目を瞑らずに取り組みます。

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ワークの際は目を開けて、全体をボンヤリ見るようにして行います。

 

これは極力、普段の状態に近い状況で取り組むためです。普段私たちは目から得られる視覚情報を一番頼りにしていますので、目を瞑ることで他の感覚に集中することはとても有効です。食べ物の味を深く味わいたい時や、香りを嗅ぐ時、じっくり感触を確かめる時など自然に目を瞑るのはそういう理由からです。

ただ、実際の生活に活かすためには、普段の状態に近いことが大事です。これは私たちトレーナーにとっても大事なことで「ワークのためのワーク」になってしまうと、その場では効果が感じられるのに、実際の生活の中では意味がないということになってしまうからです。

ですから私の場合はできるだけ目を開けてワークを行ってもらうように心がけています

とはいえ、しっかり目を見開いている必要もありません。視界に入る全体をぼんやりと眺めるような目の使い方にします。こうした目の使い方は、普段の生活の中でも長時間モニターを見つめて疲れた時に行うと、緊張が解け、心が落ち着き呼吸が深くなります。

呼吸が深くなると自分の体に起きる繊細な変化にも気づけます。

 

自分を支えてくれているものに意識を向ける

次にお尻やモモ裏が接している椅子の座面、足裏と地面といった、いま自分をサポートしてくれているものと接しているところに、体の内側から意識を向けてみてください。それが感じられたら、履いているズボンと皮膚の接点など、より繊細に意識を向けていきます。

左右のお尻や足のどちらかだけ意識できるとか、くっついている一部だけではなく接地面の全体にしっかりと意識を向けます。

少し落ち着いたら、左右にあるおしりの骨(坐骨)と座面に均等に接しているのを感じましょう。感じられたら今度は、その坐骨の上に骨盤、腰、お腹、胸、肩、首、頭、それぞれの重さを順々に預けていきます。イメージとしては達磨落としの様な感じです。鏡を見て背筋を真っ直ぐに伸ばすのではなく、体の内側から感じる情報を元に、重さを預けて姿勢を整えます

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下に圧を掛けると、同時に返ってくる上方向への力で体を整えます。

 

「重さを預けてしまったら、体が倒れてしまうんじゃないの?」と思う方もいるかも知れませんね。でも体をふにゃふにゃにすることと重さを預けていくことは違うんです。

実際に試して頂けると分かりますが、重さを預けると一緒に体が上下にググッと伸びるはずです。預けた重さで座面や座骨にしっかり圧が掛かることで生まれる反力によって姿勢を維持することが出来るんです。むしろ重さが掛かれば掛かるほど、上体が上に伸びるのを感じられるでしょう。

それがあなたの体の内側を感じて生まれるキレイな座位の姿勢です。

上手く出来ていればこれだけでも体が楽になったり、腰はもちろん全身から無駄な緊張が抜けて呼吸がスムーズになったりするでしょう。

いまの状態がこれから起きる変化を迎い入れる土台となります。まず体が変化がおきやすい状態に導き、フラットな状態にする。こういった考え方をロルフィング®︎では大切にしています。

 

体に触ってスペースを感じよう

ではいよいよターゲットの腰に触れたいと思います。

どちらの手でもOKです。自分の腰で気になるところに優しく触れてみてください。強さは着ている服の奥にある自分の体を感じられる程度で十分です。

手で触ると同時に、腰からも手に触られている感覚があるはずです。その手は温かいですか? それとも冷たいですか? 手の感覚が感じられたら、手と腰の間にある服に意識を向けてその素材を感じてみてください。

腰にだけ手をあてていると少し不安定かもしれないので、空いている手で体を挟むようにお腹に触れてみましょう。グッと安定感が増したはずです。

その手と手が触れているところが体の前後の輪郭です。

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輪郭が感じられるとその間にあるスペースが感じられるはずです。意外に広くありませんか? スペースが感じられたら、その空間に空気を送り込むイメージで深い呼吸を行いましょう。呼吸とともに手の間にスペースが前後に膨らむのを感じられるはずです。

後側に膨らみを感じない方は、腰を触っている手に呼吸を届かせるイメージを持っておこなってみましょう。この時、体を動かさず、イメージだけで行います。呼吸と一緒に起こる体の深いところからの自然な動きで後ろ側が膨らむのを感じることがとても大切です。

体を外側の視点で見た時のイメージで動かすのではなく、体の内側から自然と生まれる動きに意識を向けます。

ここで(呼吸のリズムに合わせて腰を動かそう!)と頑張ってしまうと、かえって呼吸と腰を動かす動作につながりが感じられず、バラバラになってしまったりしてしまいますので、ただただ自分の呼吸に伴って生まれる自然な動きを見守りましょう。

少し変わった表現をするなら「許してあげること」ことが大事なんです

もし(うまくできないな)と感じても、何かしようとしないで、いまの自分の状態を(ああ、こういう感じなのか)と許して見守る。そうすることで無駄な緊張や動きが手放せるのです。

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どうでしょう? こうしてじっくりと繊細に自分の腰へ意識を向けてみると「腰が硬くなっている」「腰に疲れが溜まる」と、まるで誰かがあなたの腰を緊張させたり疲れさせたりしているのではなく、あなた自身が知らず知らずのうちに腰を緊張させ疲れさせていたことに気がつくはずです

こうした無意識のうちに作っている緊張や疲れが溜まると、やがて大きなトラブルに繋がっていきます。大きなトラブルになる前に、こうしたワークを行うことで、大きなトラブルを予防することが出来ます

ワークの中で何か気づきがあった時は、つい「もっと感じたい!」と自分から意識的に体を動かしてしまいがちですが、そこで大事なのが慌てずに「見守ること」なんです。気づきによって生まれる変化のプロセスを静かに見守って味わうように心掛けます。そのプロセスで得られる新しい感覚や経験を得ることが実は一番大切なんです。

それではワークを終わらせましょう。

腰に意識が向いている状態から、少しずつまた座面や地面との接点に意識を向けていきます。意識も体の内側に向けていた状態から、少しずつ体の外側にも意識を向けてあげます。指先などを動かして、それを見るのも良いですね。これも大事なプロセスですので慌てず味わうようにゆっくり行ってください

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ゆっくり元の姿勢に戻り、手を閉じたり開いたりする動作をしっかり味わってワークを終了させます。

 

こういったワークは、取り組めば取り組むほど気づきや得られる感覚が増えていきます。初めのうちは自分の緊張に気づいたり、体が緩まることが多いですね。繰り返すうちにワークの中だけではなく普段の生活で行う何気ない動き、例えばコップを取るような動作のなかでも自分で自分の体を緊張させていることに気がつけるようになります。そうなると今度は逆に、緊張をさせないように体を使えるようになります。

このプロセスを応用して、自分にとって快適な寝姿を探求することが出来ます。仰向けに寝た時に(ベッドに腰が着いた方が良いんだ)と思って無理に腰をベッドに着けようとすると、返って腰に違和感が生まれたり、一見関係のない肩や首に緊張が生まれたりします。

正しい寝姿に当てはめようとするのではなく、体から無駄な緊張を取り除き、真に脱力した状態を心と体に認識させてあげます。

上で取り組んだ、体の輪郭を感じ、その輪郭の体の内側のスペースに呼吸を届かせるように深い呼吸をします。すると体から緊張が取り除かれ、体の重さを地面に委ねることが出来ます。寝ても疲れが取れない、寝て起きると体に過度な硬さを感じるなど、当てはまる方にはぜひ取り組んでもらいたいです。
(他にもさまざまな体の内側への意識付けがあり、体のトラブルを解消するワークがあるのですが先に進みたいと思います。また別の機会で、その他の問題解決のワークを紹介出来ればと思います。)

 

体のなかに方向性がある!?

さて改めて今回のテーマ「方向性」です。

今回のワークのどこに方向性があったか皆さんはお分かりになるでしょうか?
実は、

  • 足で地面を感じて、座骨に上体の重さを乗せることで背筋が自然に上に伸びる

という「上下の方向性」と、

  • お腹と背中に手をあてて、前後に膨らむことで、体の内側に生まれる

「前後の方向性」です。

どちらも体の内側から自然に起こった「方向性」です。

ロルフィング®︎ではこの自分の内側から生まれる「方向性」を「動き出す前に自分の位置を把握するプロセス」と習います。

この方向性は人類の進化ととも共に発展してきたと言われています

お話はグッと溯って、私たちが誕生前夜まで巻き戻ります。

生命が誕生するということは「自分」と「自分でないもの」つまり周囲の環境との区別の始まりです。

一番最初の細胞レベルの段階では、膜の「内側」と「外側」ですね。ところがもう少し進んで、外からエネルギーを自分のなかに取り込み、それをカスを排泄する消化管を持つようになると、「口側」と「肛門側」という方向性が生まれます。

さらに進んで脊索(背骨の元のようなものです)が生まれると、体をくねらせて動く様になり「右」と「左」が現れ、脊索の前後に消化管と神経管が登場すると「腹側」と「背側」という方向性が生まれます。さらに頭や尾っぽ、胸ヒレと腹ヒレ……と進化が進むごとに体のなかに自然発生的な方向性が生まれてくるわけです。(参考図書:『アウェアネス介助論』(澤口裕二著 Signe))

この方向性は、まるで双子のように、二つの方向性が関係性を持って生まれてくるのですね。

ちなみにこの壮大な上にかなりマニアックなお話は、ロルファー™️の先輩である宮井健太郎さんと一緒に『ロルフィング®︎Days」』で行った『進化からひも解く歩行に役立つ脊柱の動き』というイベントで紹介したものでした。宮井さん、ありがとうございます!

 

自分の中の方向性を取り戻す

先ほどのワークで感じた上下と前後の方向性は、私たちが生き物として根源的に持ち合わせているわけです。

ところがほとんどの場合、私たちはこの方向性を見失ったまま動いています

言い換えればスタート地点を見失ったままゲームを始めているような状態なわけです。とはいえそこは進化した我々人間は、経験から上手に帳尻を合わせて活動しています。例えば歩くという動作にしても、一歩一歩動きを確認しなくても行えますし、コップを取ることもほとんど無意識に行えますね。

ある意味で無感覚で行うこと、もう少し言えば鈍感でいることに慣れてしまったと言えるでしょう。ほとんど惰性で毎日の生活を過ごせるのですからこれは素晴らしいことです。

その反面、無意識のうちに本来の方向性とのズレによる負担は体のどこかに掛かっています

ロルフィング®︎が重力を大事にするのも、この方向性を一度取り戻すことを大事にしているからです。運動の前に一度、一番フラットな自分自身の存在に直結した「自分の方向性」を確認する。今回のワークは腰痛をトピックしつつも、実はそういう遠大なテーマがあったわけです。

ロルフィング®︎では、クライアントがそもそもどういう方向性を持っているのかをとても大切にします。理由はその方向性が体の姿勢はもちろん心理、動作、考え方、言動にまでに影響してくるからです。(参考図書:『感じる力でからだが変わる 新しい姿勢のルール』(メアリー・ボンド著、椎名亜希子翻訳 春秋社)

パーソナルトレーナーとして運動指導をしながらロルフィング®︎のトレーニングを受けていた時、「自分の方向性を知覚することはすでにムーブメント(動き)である」と教えてもらい衝撃を受けました

でもこの自分の方向性を再確認するだけでは前には進めません。動くために大事なのは周囲の環境との関係です。そう、ここで前回のお話「地面と環境との関係性」が大事になるわけです。

「私たちの体は無意識のうちに地面を始め周りの環境からの影響を受けている」というのが前回のお話でした。

そこへ、自分の体の内側に存在する根源的な方向性を合わせることで、体と環境の調和の取れた動きが生まれるわけです

次回の7回目ではいよいよカラダを動かすことに触れます。エクササイズや筋力トレーニングが、いかに体にとってポジティブな効果をもたらし、ボディワークの要素を組み込むことでどのような影響があるのかをお伝えしたいと思います。

 

大久保さんからのお知らせ!
日本ロルフィング®︎協会では毎年5月にロルフィング®︎の創始者アイダ・ロルフの生誕月にちなんで「ロルフィング®︎Days」を開催しています。

この催しでは全国各地にいるロルファー™️が、それぞれにロルフィング®︎に因んだイベントを開催します。

詳しくはこちらをご覧ください。

イベントページURL
過去のイベントはフェイスブックページからご覧になれます。

 

(第6回 了)

 

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–Profile–

大久保さん

大久保圭祐(Keisuke Okubo)
パーソナルトレーナー、ロルファー™️。大学在学中にキックボクシング部の主将として活躍、プロライセンスも取得する。卒業後はいったん食品系専門商社に勤務するが身体への関心を捨てきれず、パーソナルトレーナーの道を選ぶ。過去の運動や減量経験などを活かしたボディメイクの指導者をするなかで、ボディワークの“Rolfing®”に興味を持ち、渡米してRolf Institute®を卒業する。現在は、各種メディアや店舗にてエクササイズの監修、セミナー講師、コラムの執筆など幅広く活躍中。
著者『筋膜ボディセラピー(三栄書房)』

Web site 大久保圭祐公式サイト