実践、超護身術 第一回 間接的護身とはなにか?

| 葛西真彦

実践、超護身術 葛西真彦

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

犯罪と司法の現実を知る、“元刑事”の武術家が教える、

実践、超護身術

第一回 間接的護身とはなにか?

葛西真彦

 

間接的護身に注目せよ

初めまして、私は元刑事で、既に引退し、台湾に住んでいる日本人です。刑事と言ってもあまりメジャーではない、知能犯係という詐欺事件や公務員犯罪を取り扱う部署に主にいました。人が足りないので、覚せい剤や暴力団関係の仕事も補助で並行してやっていました。

危険な現場が多かったため、武術で修業したことをそのまま現場で活かさねばならず、しかし訓練と現場のギャップがあまりにも多く、その現実に翻弄されて、差をどうやって埋めていくか、そのことに焦点を当てた修行と研究を多く続けてきました。

その経験がだいぶ生きており、今は台湾で、試合で体現できる武器術を指導しながら、推手世界一を目指している武術好きでもあります。

2017年3月に行われた、推手講習会で指導する葛西先生。

 

護身術についても、台湾でも出版したり、独自の理論を主張しています。恐らく他の護身術を指導する方とは考え方がかなり違うので、誤解を招く点があるかもしれませんが、お付き合いいただけるとうれしいです。

 

間接的護身とはなにか?

護身術というと、直接的な危害に対して何かをする、これがすでに一般に定義されたものではないでしょうか。

相手の攻撃に対して直接的に対峙して暴力を持って制する、これは私は“直接的護身術”と定義したいと思います。字のごとく直接的に相手に攻撃を与えて身を守るわけです。

それに対して表題の“間接的護身”とはではなんでしょうか。護身術とは直接的な護身に終始するものではないと、私は考えています。
草食動物が危険をとっさに察知して逃げるかのごとく、暴力だけにとどまらず悪意ある危害を加えようとする者に対して、行動に出る前に察知して回避する、または相手がそのような行動に出ないように習慣的な配慮をしておく、縁を深くしない、これを間接的護身と私は定義しているんですね。

ここまでに二つの護身定義が出てきたわけですが、直接的護身はリスクが高く、私個人としては、間接的護身のほうが優先順位は高いであろうと常々感じています

直接的護身をもって対処したら何が起きるか、それはとても難儀な問題ばかりです。社会的責任、事後結果として様々な問題が起きますね、間違いなく。なので、直接的護身を活用するならば、法律の解釈と社会的責任を理解しておく必要があります
相手が怒って殴りかかってきたから、正当防衛だと判断し、互いに殴りあって相手を制した。この場合は、お互いに民事刑事共に訴えるケースになりがちです。あっちが先に襲ってきたんだから、正当防衛だろうという主張も届きません。留置場にぶち込まれた挙句、罰金プラス民事請求なんて最悪の結果になる可能性もあります。

もうひとつ例を挙げると、数人がかりで恐喝してきたので、それに対して身を守るために全員ぶん殴って対処した。しかしそこに客観的証拠が全くなければ、あなたが一方的に突然暴力を振るったと相手側が訴えた場合、覆すこともできないわけです。あなたは傷害被疑者としての責任を果たさなくてはならないという、極端な結果になりうる可能性もあるわけですね。

 

私自身の経験から例を出すと、大きなマンションで空き巣を敢行するも、通報を受けたため逃げるチャンスを逃して、マンションのどこかに潜んでおり、敷地内を数名の警察官が固めたという現場がありました。

あんまり警察官の数も多くなかったので、こっちはこないんじゃないのっていうような裏の場所を、私が一人で担当というか、待機することになったのですが、運悪くそこに、窃盗団が逃げようと押し寄せてきました

臨場した他の警察官たちは、表の出入り口やマンションの中に入って検索していたため、応援の警察官もすぐには駆けつけられない単独の状況で、全力で抵抗する中国人の窃盗集団と対峙しました

相手は日本の警察官は殺しても中国に戻るから問題ないとうそぶく中国人犯罪グループなので、抵抗が極めて激しく、加減する余裕もなく杖で滅多打ちにして、逮捕したことがあります

この件は後でやりすぎだということで、弁護士が出てきて国際問題だの人権問題だのと紛議となりかけましたが、あくまでも公務の執行の一環に正当性があると判断されて、大きな問題にはなりませんでした。
この場合は逮捕行為時に相手が複数、私が一人かつ、相手の抵抗がすさまじいという前提があったからです。
もし相手が一人、私が一人だった場合に、滅多打ちにしたら、大きな問題になる可能性もありますし、訴えられるリスクもあるわけです

 

この例だけにとどまらず、付け加えて言えば、相手が刃物を持っていた場合などは、あまり相手に手心を加える余裕などありません。
胸に鉄板を入れていれば、刃物で鉄板の部位を突かれると刺さりはしませんが、当然それなりにダメージはあり、肋骨や肋軟骨程度なら折られる可能性もあるわけです。しかも、鉄板以外の部分、首や腕などは無防備なので、動脈などを切られたら死んでしまいます。
ですので、刃物を持っている人間が相手の場合は、必死で戦います。手心を加えたり、刃物の殺傷能力なども分析したり、考慮している余裕はありません。

相手が刃物を持っているときの恐怖心というのは、説明しても表現できないほど強烈です。初めて対峙したときは正直漏らしそうになったぐらいです。

この恐怖が体を襲うと、まるで体に鉛をつけたかのように重く動けなくなります。呼吸も荒くなり、まるでプールの中にいるような、そんな感じです。この状態で戦うのですから、情けない話ですが、こちらも泣くのをこらえてで、本当に必死なのです。

拳銃を出して威嚇したり撃っちゃえばいいじゃない」という声もありますが、私が現職当時は、拳銃使用でいい評価をされることは少なく、下手したら刑事から交番に降格や僻地に左遷など、警察官として生きる上でとてつもないリスクがあったこともあり、私はどんなに危険な現場でも、拳銃を出したことがありませんでした。

その代わり対刃物という条件では、刃物を持った相手の腕や膝関節などを全力で杖で打ったり、さすまたや警棒・杖で思いっきり顔面や胸を突きました。そのため、「骨折した」とか「怪我した」と弁護士に訴える者が出て、私自身も担当刑事から取り調べを受けるようなケースは当然何度もありました。

現場で体を張る刑事ですら、そういうことがあるわけなので、一般人であればさらに厳しい法律的責任と取り扱いを受けるのは間違いないでしょう。
つまり、「身を護るため」であったとしても、いわゆる身柄拘束、逮捕された上で正当性を証明するために裁判まで間は留置場にて冷や飯を食う羽目になる直接的護身にはそんな可能性もあるということを忘れてはいけません

 

間接的護身の必要性

これらは極端な例ですが、直接的護身を敢行した結果、様々な事後問題があるということを忘れてはいけないということですこし少ししつこくここでは書いてみました。
つまり護身を考える際にはこの間接的護身と直接的護身の二つを常に意識して視野に入れておかないといけないです。直接的護身だけに偏った考えを発信すると、トラブルを生むことにもなりかねません。

例を挙げると、先日青森県警が発表した注意喚起、これはまさに間接的護身を視野に入れなかったがために、被害者の視点から見ると、被害者が一方的な過失があると誤解するような声もあり、被害者や支援する団体から苦言を呈された事例がありました。

実際に内容を見てみましょう。(参考サイト

  • ながら歩きはしない
  • 暗い夜道の一人歩きはしない
  • 開けっ放しにしない
  • 来訪者に注意をする
  • 自分の身は自分で守る

このような文面ですが、これはあくまでも見ず知らずの第三者の犯行を前提にした注意喚起ではないかと感じます。
所轄警察の管轄区域で、通り魔的に連続強姦事件が多く発生していての注意喚起を前提とするならば、それはそれでいい点があるかもしれませんが、実際に強姦がどういう人が起こしているかということを考えて発信する必要や配慮があるのではないかと感じます。

またこれだけで作った場合、一方的だと感じて、被害に遭った人の感情を逆なですることにつながるであろうと思いますが、それが故に今回の苦言を呈する紛議につながったのでしょう。

見ず知らずの被害者をターゲットにする連続暴行犯も現実におり、それはマスメディアも騒ぐので印象が強いと思いますが、事件の記事に載らなかったり、警察に届け出なかったりする事件は、友人、知人、職場の同僚、元恋人などの顔見知りの犯行、こちらのほうが数としては圧倒的に多いと思われます
顔見知りの犯行が多いとすると、このような警察発表の注意喚起は、対処する上で意味をなすかどうか議論の余地があるのかもしれません。

相手の腹の内を察し、直接的な対峙に至らないようにする、これが最も間接的護身に必要な技術です。特に犯罪の衝動への耐性が弱い人を事前に知ることが大事です。

これを深堀りしてくと心理学、人相学、読心術、さまざまなものが必要となりますが、誰にでもわかりやすく使えるものを事例として解説しながら、間接的護身の達人になっていただきたいと私は考えています。

初回の今回は、その一例として、犯罪への衝動を抑えづらい人間を見破る、わかりやすいポイントのひとつについてご紹介したいと思います。すごく簡単なことしか紹介しません、なんだこれだけかよと思われるかもしれませんが、すごく確信を突いたポイントなので、ぜひ覚えておいていただきたいと願っています。

 

簡単な危険人物の見分け方

まず単純な例ですが、警察官のことを「おまわり」「ポリ公」などと悪く呼ぶ人たちです。こういう人たちは過去に警察に捕まったことがある、または強がり、虚勢を張りたい、反社会的な思想や習慣がある人が多い傾向にあります。
こういう方は、犯罪衝動の耐性があまり強くありません。感情的になって間違いを起こす可能性もあります。ついカッとなって、やってしまったという奴です。

このポイントだけでは人を見られないよという声も出ると思うので、別な洞察する方法もご紹介しますが、これもすごく簡単です。サービス業の方に対する態度を見るだけです。

買い物や食事しに行って、お店のスタッフに対して態度が悪い、偉そうにする、これも要注意です。感情から衝動的な行動を押さえられないタイプに多いです。
また、こういった衝動がすごくあるのに、普段はうまく隠すステルス系の方もおられますので、もう少しポイントを見てみましょう。少し深堀りして見るのなら、居酒屋などリラックスしてお酒の飲める席での言動を見るのがお勧めです。

酒を飲んだときに、どういう言動をするのか見てみましょう。酒は本音を隠せなくするスパイスです。酒に酔って店員さん、周囲の人に対して高圧的な態度を取るようなら、要警戒かなと用心してみていいでしょう。

酒に酔ったときの言動だけではなく、ペチャ食い、連れに配慮しない、だらしないしぐさをする、自慢やつまらない話しかしないなど、様々な点で見ることができますが、あまりここで多くのべるときりがないので、今日はここまでといたします。
結論として、付き合う人間の腹の内を吟味することが大事です。特に反社会性が強い方、衝動的、感情的になって押さえられず行動に出る方、こういう方に魅力を感じる人もいるかもしれません。

しかしそういう方と結婚した後、耐え切れずに離婚したり、悲しい顛末を迎えた方もいるかと思います。最初から腹の内や傾向がわかっていて自分がどういう被害をこうむるのか事前にわかっていれば、結婚もしなかったでしょう。
さらにはそういう人と付き合いを深くしたがゆえに、無駄なトラブルに巻き込まれて苦労した、そんな人もいるでしょうし、雇った従業員が実はとんでもない奴で、会社が転覆しかけたなどなど。最悪の場合は殺されることだってあるわけです。

要注意だなという人間を縁が浅いうちに見定めておくことで、さまざまな被害や不要なトラブルを回避する、これが間接的護身の真髄です

今回は簡単な例に終始しましたが、徐々に占い師や刑事、詐欺師が使うトリックやテクニックを織り交ぜ、法律を正しく武器にしたり、いじめへ対処する実践術など、身の回りに潜む身近な問題への対処法や考え方まで、お話したいと思います。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

(第一回 了)

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–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練資格認定を取るための研修を受けながら、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

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