やさしい漢方入門・腹診 第九回「お腹のセルフケア」

| 平地治美

漢方の診察で必ず行われる「腹診」。指先で軽くお腹に触れるだけで、慣れた先生になるとこの腹診だけで大凡の患者さんの状況や見立てができるといいます。「でもそんなこと難しいでしょう」と思うところですが、本連載の著者・平地治美先生は、「基本を学べば普通の人でも十分できます!」と仰います。そこでこの連載ではできるだけやさしく、誰でも分かる「腹診入門」をご紹介します。

お腹で分かるあなたのカラダ

やさしい漢方入門・腹診

第九回 「お腹のセルフケア」

平地治美

 

セルフケアの基本は“温めること”

これまでの回では、腹診で気になる症状をみつけて自覚し、その養生をすることをお伝えしてきました。
今回は予防編。日常的にできるセルフケアをまとめていきます。
お腹のセルフケアの基本は「温めること」です。暑がりで汗かきの方でも、お腹を触ってみると冷たいことがよくあります。
連載の第3回でも紹介しましたが、お腹を触ると冷たい人は、以下のような傾向があります

  • みぞおちからおへその上あたりまでが冷たい場合は、胃が冷えています。胃下垂の人は、もっと下の方まで冷えていることもあります。
  • 漢方では気を作り出す場所は“胃”であると考えています。そこが冷えていると十分な気が作れないので、気虚(※1)の状態になってしまいます。
  • ゆっくりなでてみて、やけにくすぐったい場所、嫌な感じがする場所があれば、そこは弱い場所であることが多いものです。

※1気虚:人が生きていく上で必要なエネルギーである「気」が不足した状態のこと。ヤル気が出ない、いつもダルい、疲れやすい、冷える、すぐ風邪をひく…などはすべて気虚の症状です。

そうした冷えたお腹を温める具体的な方法として、「こんにゃく湿布」「湿熱袋」「お灸(足ツボ)」「オイルマッサージ」といった、家で簡単にできる方法を紹介していきます。

 

温めと排出に「こんにゃく湿布」

温めることと、体内の老廃物を出すこと、その両方ができる方法です。

自然療法の第一人者として知られる東城百合子先生が発案された方法で、著書の『家庭でできる自然療法 誰でもできる食事と手当法』(あなたと健康社、平成22年に第920版を重ねたロングセラー!)にも、その方法が詳しく紹介されています。

私自身も往診の際に、お腹を温める必要があった患者さんに、この方法をおこなったことがあります。温かさが持続するうえに、“こんにゃく”という手に入りやすいものでできるので、とても喜んでいただいたことがあります。

使用したこんにゃくは、食べてはいけません。体内の老廃物を吸収しているからです。東城先生によると、ガンの患者さんのお手当てに使ったこんにゃくが、翌日には溶けて縮んでしまったり、腐敗臭がすることもあるそうです。

湿布として使うだけでしたら、使用したこんにゃくを水につければ、縮んで硬くなってしまうまで再利用できます。

【こんにゃく湿布の作り方】

(1)こんにゃく2丁を、約10分間茹でる。1丁ずつタオルで包む。
こんにゃくは火傷をしないように気を付けて扱い、タオル1〜2枚を使って気持ち良い温かさになるように巻きます。

熱く感じるときは、こんにゃく湿布をいちど外し、しばらくしてから乗せます。反対に熱さをあまり感じないときは、三つ折りにしたタオルを、二つ折り→一つ折りと、巻く回数を減らしていきます。

(2)腹部にのせ、20分ほどそのまま置いておく。同時に、左脇腹を冷たい濡れタオルで冷やす。
のせる場所は、こんにゃくが1丁の場合はおヘソの上に、2丁用意できる場合は肝臓とおへその下あたり(臍下丹田あたり)にのせます。

このやり方は、「肝温脾冷(かんおんひれい、※2)」の考え方とも合致します。

(※2)肝温脾冷について:漢方の観点からみると、肝には血が豊富にあって温かく、脾は熱を持たない状態を理想としています。この状態を中医学の用語で「肝温脾冷」といいます。こんにゃく湿布で肝臓の上に温めたこんにゃくを置き、脾臓の部分は冷やすというやり方は、とても理に適った方法といえます。

(3)腹部が温まったらうつ伏せになり、背中の腎臓のあたりの2箇所を温める。さらに足の裏を温めてもよい。

(4)最後に、温めた部分を冷たいタオルで1分間くらい冷やし、落ち着かせる。

 

寝るときにも使える!「湿熱袋」

綿の袋に米ぬか、米、塩などを詰めたものを電子レンジで温めて使います。繰り返し使えるため、とても便利な方法です。「湿熱袋」「玄米カイロ」などとして市販されていますが、自分で作ることもできます。

20〜30分温かさが続きますので徐々に冷めていきます。そのまま眠ってしまっても低温ヤケドの心配がないので、寝るときにお腹にのせるのもおすすめです。冷えが原因の不眠の方は、これでぐっすり眠れます。

【湿熱袋の作り方】

(1)好みの大きさの布を用意する。玄米を入れられる広さの口を残して袋状に縫い合わせる。
自分で作るなら、ぬかを入れる袋の色や柄にもこだわると使うのが楽しくなります。赤やピンクなど、暖かみのある色を使うとさらに効果的です。ただし電子レンジで加熱するので、綿や麻などの天然素材がよいでしょう。燃える危険性のある化学繊維や金糸など金属糸が含まれる布も使えませんので、注意が必要です。

(2)中に玄米と塩を入れて、こぼれないように口を縫い合わせれば完成。
玄米:米ぬか:塩の分量を、2:2:1の割合で混ぜ合わせるのが基本です。

(3)電子レンジで2〜3分温めてお腹にのせる。
こんにゃく湿布や湿熱袋の熱は、湿気を含んだ「湿熱」で、体の深部まで浸透して潤しながら温めることができます。それに対して、カイロや電気毛布などは体を乾燥させてしまう「乾熱」ですので乾燥しやすい体質の方には良くありません。
特に電気毛布で寝ている方は、体に必要な水や血を消耗し、乾燥による皮膚のトラブルや冷えによる症状が進むことがよくあります。

【応用編】

  • ドライハーブを入れる
    ぬかの匂いが苦手な方は、ぬかの代わりにラベンダーやカモミールなどのドライハーブを入れて作る方法もあります。
    和製ハーブであるヨモギやビワの葉を乾燥させて細かく切って入れるのもよいでしょう。特にヨモギはお灸に使用するモグサの材料で、体を温める作用があるのでおすすめです。
  • 豆を入れる
    もっと簡単なのは、大豆、小豆、黒豆などの豆を袋に入れて温める方法です。古くなってしまった豆でも構いません。
    小さなものならば一つかみ程度、小さな布製の袋などに入れて、電子レンジで1〜2分温めて使います。

 

冷えが強い人に!「お灸」

下痢したりお腹を壊しやすい、冷えが強い、という場合はお灸をするとよいでしょう。ドラッグストアなどで、さまざまな種類のお灸が売られているので、ご自分に使いやすいものを選んでみてください。

ほかのセルフケアと併用する場合は30分以上あけ、さらに火傷をしないようにも気をつけます。入浴の直前直後も避けた方がよいでしょう。

  • お腹のツボ
    中脘(ちゅうかん):みぞおちとヘソの中間で、ヘソの上、四寸あたり
    天枢(てんすう):ヘソの真横から指3本分のあたり。左右にある
    関元(かんげん):ヘソの下から指4本分(3寸)のあたり

平地先生

 

  • 足にあるお腹のツボ
    足三里(あしさんり):膝の外側、お皿の下から指4本分下がったあたり
    三陰交(さんいんこう):内くるぶしから指4本分くらい上のあたり

平地先生

 

  • 背中にあるお腹のツボ
    「胃の六灸」とよばれ、すべて胸椎の横(肩甲骨の下端を結んだライン 上)、指幅2本分外側にある。
    隔兪(かくゆ):第7胸椎の横
    肝兪(かんゆ):第9胸椎の横
    脾兪(ひゆ):第11胸椎の横

 

お腹の痛みを伴うなら「オイルマッサージ」

皮膚の乾燥や、月経痛・腹痛などお腹の痛みを伴う場合、オイルマッサージが有効です。お腹だけであれば、ティースプーン一杯くらいのオイルで十分です。時計回りにマッサージしましょう。
余裕があれば、さらにオイルを追加して足全体もマッサージすると、より冷えが解消しやすくなります。

【マッサージオイルの作り方】

「太白ごま油(※3)」を火にかけ、100℃以上に熱します。
冷めたらビンに戻してできあがり。

※3太白ごま油:ごまを炒らず、低温圧搾法で搾ったごま油で、無味無臭が特徴です。食用の太白ごま油を、このように熱してから使うのは、アーユルヴェーダでは伝統的なやり方として行われています。コスメ用、マッサージ用のオイルでも悪くはありませんが、添加物が入っていたりすることが多いので、その場合はオーガニックのものなどを選ぶとよいでしょう


ただしセルフケアは、無理は禁物。気持ちよかったら続ける、合わないならやめるのが基本です。
これから気温が下がり、冷えやすくなってきますので、これらのセルフケアでお腹をやさしく守ってあげてくださいね。

(第九回 了)

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–Profile–

平池治美先生

平池治美(Harumi Hiraji
1970年生まれ。明治薬科大学卒業後、漢方薬局での勤務を経て東洋鍼灸専門学校へ入学し鍼灸を学ぶ。漢方薬を寺師睦宗氏、岡山誠一氏、大友一夫氏、鍼灸を石原克己氏に師事。約20年漢方臨床に携わる。和光治療院・漢方薬局代表。千葉大学医学部医学院非常勤講師、京都大学伝統医療文化研究班員、日本伝統鍼灸学会学術副部長。漢方三考塾、朝日カルチャーセンター新宿、津田沼カルチャーセンターなどで講師として漢方講座を担当。2014年11月冷えの養生書『げきポカ』(ダイヤモンド社)監修・著。

著書

『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで 健康になる(日貿出版社)』
、『げきポカ』(ダイヤモンド社)

個人ブログ「平地治美の漢方ブログ
Web Site:和光漢方薬局