武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。
では果たしてどのような護身が有効なのか?
本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。
元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術
実践、超護身術
第二十八回 詫びと酒02
文●葛西真彦
「格好悪いところを見せられない」の罠
前述したとおり、大抵の方は社会生活を送るなかで、詫びの素養と経験値は多かれ少なかれ持っています。問題はこのスキルを活用することを忘れることがあることです。その代表例が、恋人や家族が同伴しているときにトラブルが起きたケースです。
「恋人の前で自分が悪くもないのに謝るなんて、格好が悪い姿は見せられない!」と意地を張ったがために恋人までも巻き込んで、痛烈な被害を受けることもあるわけです。
また家族と一緒の場面で、子どもの前で詫びられないというケースもあるでしょう。また、ありがちなのが自分の妻や子どもがトラブルの原因となってしまった場合、自分が当事者の場合に比べて怒りの感情を抱きやすく、激高してしまい、詫びるどころではなくなってしまうわけです。
この辺りの感情のコントロールは非常に難しく、冷静に考えれば当たり前のことも、その場になると、この当たり前のことが分からなくなる「落とし穴」でしょう。
ではこの当たり前のことを忘れずに冷静に「詫びて」その場を収めるために何が必要でしょう?
それは「思考を変えること」です。もっと具体的にいえば、
「トラブルに対して損得勘定で計算する」
ということです。
仮に詫びずに、お互い一歩も引かなかった場合、それが口論で済んでも、誰か(駅員や警備員など)が通報して警察沙汰になれば、長時間に渡って拘束され、最終的には互いに注意処分程度で済んでも、その日の予定はもちろん気分も台無しです。おまけに同伴者からも「つまらないことでなにをやってるの!?」と、思われてしまう可能性もあるでしょう。
こうしたトラブルによる鬱的気分は、プライドにも関わってくるため意外に長く引きずるうえに、これをきっかけに、恋人との関係が悪くなったり、子どもや妻にも悪い見本を示し、威厳を失うリスクにつながる可能性もあるわけです。
口先だけで詫びて済ませ、さっとその場を引けば数十秒で終わったものが、これだけの損をすることになる。計算をしてみると結構バカらしいと思いませんか。
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