昨年の七夕に発刊された『自分の書を創る 身文字入門』(小熊廣美著)の一周年を記念して開催した第一回身文字コンクールの結果を発表とともに、『身文字入門』の著者&選者・小熊廣美の寸評を掲載します。

その身文字は、お手本通りに真似て、いわゆる上手な書をめざすのではない。
一人ひとりが、みんなそれぞれ呼吸も姿も違う中で、それほど上手く書けなくても、書のよさを見つけ、筆文字の弾力の中に自分のよさを見つけ、他人の書も評価できるように、書を身近にしていこうと、筆文字のかかわりを提唱するものである。
上手くなったらそれはそれでいい。そのあとは深めるばかり。果てがないのも芸術の宿命である。
いい書を観ていこう。いい書と接しいい生き方をし、心を豊かに暮らしていこう。
第一回身文字コンクール 結果発表
全国津々浦々、墨編集部「X」にも取り上げていただいた結果、なんと14点の応募! すごいコンクールになってきました。弱小コンクールは、悪いコンクールかといえばそうでなし。
誠実に、筆文字の魅力を考えながら、進んでいく所存ですので、「身文字コンクール」の発展を見守っていただきたいと思います。
さて、課題は「青」「碧」「海」と自由課題。書きたい言葉を書く。それでいいのですが、とっかかりとして課題を設けています。
出品作品は、筆に慣れていないなか、筆に挑戦してくれている作もあり、このコンクールではとてもうれしいところです。習っている方は、当たり前ですが上手く書こうとする意識が強いですが、常識を疑うことも、書を学ぶなかで、頭の片隅においておきたいです。
落款は作品との一体感がないものが多かったですが、そこは目をつぶって審査となりました。
身文字大賞 該当作なし
……権威づけするつもりはないですが、これだ! があったら、と次回に。
特選(以下、順不同)
朱里さん…明るく穏やか。筆遣いも上手い。よくある書道界の筆を酷使しやり過ぎる筆遣いは真似することもないが、もっと心の解放を感じる筆遣いを期待。
はるなさん…この「碧」をみた時、映画「キングダム」の“壁”を思い出した。満島真之介さんが演じていますが、なかなかの役どころ。「碧」でなく、“壁”だったのですが、そう、この書が劇画タイトルのような感じ。勢いが随所にあり、若さあり。
祥子さん…堂々。さんずいの最後、ハネず、圧あり、ここは含蓄あり。私のなかでは大賞候補だった。大海原も感じたが、昭和の大家山崎大抱の作品「海」の大きさと頭の中でつい比べてしまった。
憲夫さん…自由課題は「瀧直下三千丈」。夏の茶席などに使われる禅語は、もともと李白の詩をもとにできたようですが、流れるような行草作は、メリハリも見事。
ルイ子さん…デザイン性に富んだ作。「青」の字源が、生と丹からなるところを大胆に暢びやかに表現し、線条も潤いをもっていい表情を持ち、独特の作品となった。
金賞(順不同)
海月さん…筆文字を楽しんでいるように思える。碧の「白」の一画目の点、「石」の二画目の左払い、と筆の機能の魅力をあらためて感じさせてくれた作。身文字的発展をのぞみます。
葉子さん 篆書… 一度書いてみたい字体に挑戦してみました、と。安定感のある立派な篆書の「青」です。青は「生」と「丹」からなりますが、「生」の上部の左右対称の角のような部分は、肉付きよく魅力的。下部「丹」の部分は、少し踏ん張って神社の鳥居のようにみえて、いいじゃないですか。
みどりさん…写真審査を考えてか、霧に視野のひらけない海原の様子がみえてくる。そこまで考えての作ならば、なかなかのテクニシャン。一般的な言い方をすると、薄墨過ぎだが、こんな表現も筆文字ならではでないか。
夜明さん…課題「青」、「海」からの発展として「潮」とはなかなか。“うしお”と読みたくなる「潮」だが、さんずいの三画目のハネはいい表情。潮の「月」の墨付きがよければまた違った表情を持ったか。
幸江さん…すっきり、いい動き。小粋である。下部の最終画へ向かう線条がいい。
秀作(順不同)
葉子さん 楷書…南紀は串本の空と海の純青を表現、とある。書は、それが観る者に分かるかは別問題であるが、その感動が作品になったことは貴い。きりりと引き締まった線条が,真っ青な「青」の感動として表れたともよめる。
須磨子さん…筆の世界に慣れないと見えてこないものがある。この「海」は、横画が外に流れて余韻を作ろうとする。圧と開放を大胆にもっと仕掛けてもよかったか。
風招さん…これはある意味すごい。半紙に余白多くして、あっさりと。こんな感じで筆が持てたらいいんじゃないでしょうか。拡大すると、またいい筆の表情あり。
律子さん…こう書かれると「青」と「律」の落款「律」の存在感が高い。これを意識的に書いたとしたら自己主張強し、かもしれない。慣れないで書いたとしたら、もっとメリハリをつけ、大胆に行け!である。
以上。
出品者には、今回まで全員に賞品授与。次回から大賞、特選に賞品授与する。
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–Profile–

●小熊廣美(Hiromi Oguma)雅号●日々軌
1958年埼玉生まれ。高校時代に昭和の名筆手島右卿の臨書作品を観て右卿の書線に憧れ、日本書道専門学校本科入学。研究科にて手島右卿の指導を受ける。
その後北京師範学院留学、中国各地の碑石を巡る。その後、国内ほかパリ、上海、韓国、ハンガリーなどで作品を発表してきた。
書の在りかたを、芸術などと偏狭に定義せず総合的な文化の集積回路として捉え、伝統的免状類から広告用筆文字まで広いジャンルの揮毫を請け負う。そして、子どもから大人までの各種ワークショップやイベント、定期教室において、また、書や美術関連の原稿執筆を通じ、書の啓蒙に務めながら、書の美を模索している規格外遊墨民を自認している。
〈墨アカデミア主宰、一般財団法人柳澤君江文化財団運営委員、池袋コミュニティカレッジ・NHK学園くにたちオープンスクール講師など〉