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ダニール・リャブコ氏と言えば、システマ創始者のミカエル・リャブコ氏の長男であり、システマ・インストラクターとしてもその実力は折り紙付きの人物だ。その一方で、来日回数は多いが、ご本人のことをこれまであまり語られていない印象がある。そこで コ2では、改めてダニール氏が幼少時に父・ミカエルからどんな風にシステマを学んだのかから、これまでのキャリア、そして自身が考えるシステマについてお話を伺った。
コ2【kotsu】特別インタビュー
「Who is ダニール・リャブコ」(前編)
取材・構成●コ2【kotsu】編集部
通訳●大西亮一(システマ大阪)
協力●システマ東京
自分のとっては(システマは)ずっとゲーム
コ2編集部(以下、 コ2) お子さんの誕生、おめでとうございます。(編注:2016年秋に第一子が生まれた)
ダニール ありがとうございます。
コ2 お名前は?
ダニール ヴァシリーです。私の祖父と同じ名前です。私の名前は、父の祖父からつけられました。だからダニール、ミカエル、ヴァシリー、ダニールと同じ名前が繰り返されているのです。
コ2 今回のインタビューでは、ダニール・リャブコのライフヒストリーについてお伺いできればと思います。どのようにシステマを学び、どのような経歴を経たのかといったことです。
ダニール まずは動画をお見せしましょう。プライベートなものなので残念ながら公開できませんが、ベッドでミカエルがヴァシリーを押していますね。ヴァシリーは転がされたり、起き上がったりしています。これがもうシステマのトレーニングになっています。私もおそらく、こうやってトレーニングさせられていたのでしょう。だからいつからどのように始まったのかというのは覚えてないんです。
コ2 いまは何歳なのでしょう?
ダニール 1984年12月28日生まれ。32歳です。
コ2 お生まれは?
ダニール ヴラディミア・ヴァシリエフらと同じトヴェリです。モスクワから約150キロ離れた街です。
コ2 ご兄弟は?
ダニール アンナという妹が一人います。アンナはもう結婚して6歳の娘がいます。
コ2 ダニールは物心ついた頃にはシステマをやってたのですね。
ダニール ええ。
コ2 幼少期にやっていたトレーニングで、覚えているものはありますか?
ダニール いつもトレーニングに連れて行ってもらっていました。だから昔の映像を観ると、私が駆けずり回っているのが映っていますよ(笑)
コ2 その頃からプッシュアップなどもしてたのでしょうか?
ダニール ええ。基本的にジムで練習していましたが、場所がとれなかった時はうちでトレーニングすることもありました。たしか2歳か2歳にならないくらいの時、ミカエルが生徒を家に連れてきた時に、「見て、見て!」とみんなにプッシュアップをやってみせたのを覚えています。ミカエルも「やってごらん」というので何度もやって見せました。あとは座っているミカエルにサルのように登ったり降りたりとか(笑)
コ2 自分のやっているシステマが、単なるゲームとは異なることを自覚したのはいつごろでしょう?
ダニール 自分にとってはずっとゲームでした。武道とか、システマだという自覚はありませんでした。アクティブな子どもだったのでずっと駆け回っていましたし、ミカエルと会ったらすぐ”戦い”が始まります。ミカエルが私を押してきたり壁に挟んだりして遊んでたんです。車に乗っている時も後部座席から運転席の方に身を乗り出したまま寝ていると、ミカエルが肘打ちで後ろに吹っ飛ばしてくるんです。また前に乗り出してはふっ飛ばされてといったことを繰り返したりしてました。その頃のミカエルのストライクは今よりきつかったような気がします。
訓練、喧嘩、格闘技大会、暴動の学生時代
コ2 お父さんは仕事で家を空けることが多かったのでしょうか?
ダニール そうでもありません。一緒に朝食を食べて、車で学校まで子供を送ってから出勤するという日々で、いつも一緒にいたように思います。内務省での勤務は24時間勤務したら、そのあと3日間休みだったりしたからです。その仕事以外にも、サイドビジネスをもっていました。ただ有事の際は一ヶ月や二ヶ月ほど家を空けることもありましたが、それほど多いわけでもありません。一緒によく旅行に行きました。月に一回くらい休みをとってスキーに行ったり、キプロスにも何度か行きました。
コ2 学校はどうしたのでしょう?
ダニール 色々な学校に行きました。私立や公立の学校を点々と移っていたのです。その中に2週間みっちり勉強して、1週間まるまる休むという私立学校があったのです。そこでは普通は1日に4クラスのところを1日に9クラスやるんです。こうした特殊な学校にいたこともあれば、普通の公立校や月曜日から金曜日まで寄宿舎で過ごす学校にいたこともあります。
12歳か13歳頃にイギリスに留学するという話もありました。留学費用も1年分ほど先払いししたのですが、政治的な状況の悪化で取りやめになったのです。その時、ミカエルに「お前は金融界ではなく、軍に行くように」と告げられました。翌日からは体力をつけるために走りこみです(笑)。私が行こうとしたのは国立の特殊な軍学校なので、誰もが入れるわけではありません。筆記試験と体力テストで厳しく審査されます。だから身体を鍛えなくてはいけなかったのです。
コ2 あなた自身は、その進路を望んだのですか?
ダニール そうですね。おもしろそうでしたし、勉強がそれほど好きではありませんでしたし。実際、あまりに軍学校では学校がおもしろくていつまでも帰らず、「何時だと思ってるんだ!」と親が怒って迎えに来るほどでした。そこでは色々な訓練をしましたよ。森や山を走ったり、壁を登ったり、ターゲットを捕まえたり、運転技術を磨いたり、もちろん射撃もやりましたし、パラシュートの降下訓練もやりました。飛行機から飛び降りるので、一度目は何がなんだか分からないうちに終わりましたが、2度目には楽しんでました。
コ2 一般的な軍学校でもそういったトレーニングは行われるのですか?
ダニール いや。私が行っていたのは特殊な軍学校でしたから。普通のクラスと特殊クラスがあり、皆が特殊部隊に進みたがりますが、選ばれた者しか入れません。そこでは軍のエリートの育成を目的としていましたが、卒業した人がみな軍に進むというわけでもありませんでした。
コ2 そこでは何年過ごされたのですか?
ダニール 2年です。
コ2 その後は軍隊へ?
ダニール いえ警察大学校に5年間通い、そのあと別の大学で2年間法律を学びました。2つ目の大学にはすでに5年間の大学生活を終えていたので2年で済んだのです。その後、警察に就職して2〜3年ほど刑事として働きました。特殊部隊に入ったのはその次です。特殊部隊では5年ほど従事していました。
コ2 そこでは何をしていたのですか?
ダニール 刑務所の囚人の管理や、暴動の鎮圧です。チェチェンに行った部隊に配属されました。
コ2 どこの部隊でしょう?
ダニール 内務省のСОБР(ソーブル、SOBR。 緊急対応特殊課 参照wiki)です。ミカエルもいたところです。私はその中で「факел(ファキール、「松明」の意味)」というチームに所属していました。ミカエルがいたのは「рысь(ルィス、「大山猫」の意味)」です。SOBRにはこういうチームがたくさんあり、陸上競技や時には殴り合い、武道の試合など様々な形で競い合っていました。私が所属したチームは一つだけですが、ミカエルは2〜3チームに所属していたようです。
コ2 そういった中で、自分の身につけたシステマが特別なものであると認識することはありましたか?
ダニール いまだにそういう感覚はありません。
コ2 子供の頃、誰かとケンカしたりしなかったのですか?
ダニール 同級生は誰も自分とケンカしたがりませんでしたから。そういうことを思うこともありませんでした。なんで同級生が自分にケンカ売ってこないのか、よく分かりません。たまにやるとしても上級生だけ(笑)。
軍学校時代には上級生も下級生もいましたが、整列中に仲間が突然金的を殴ってきたことがあります。それで周りにいるのを2〜3人ほど殴ったら、他の人が寄ってたかって押さえ込んで来たので一人で10人以上を相手にケンカすることになりました。
もちろん最終的には一方的にやられてしまいましたが、それ以降、誰もケンカを売ってくることはありませんでした。例え誰かが私に売ろうとしても、上級生がかばってくれるのです。おそらく”いい噂”が立ったのでしょう(笑)。人によってはちょっと殴っただけで怯むところを、私は圧倒的な劣勢でも戦ったからではないでしょうか。
大学時代でも警察時代でもシステマのトレーニングは続けていました。普通は体育のクラスで武道を習わなくていけません。大学を出たての若い先生が柔道やサンボを教えていたのですが、私はその先生をやっつけてしまったので「単位をやるから、もうクラスに来なくていい」と言われました。格闘技大会の大学代表チームに入るよう頼まれたこともあります。「何のためにやるのか」と断っていたのですが、ヒマで行ったこともあります。その時に勝って以来、何度も選抜チームに誘われて試合に出ました。
大学で上官になった頃には、暴動が起こって書類を見せないと大学構内に入れなくなったことがあります。その時には自警団として銃を持って24時間警備にあたったりもしました。それに謝礼が出たので、大学で学びながらお金をもらっていたのです。同じようなことは内務省で働いている時もやっていました。内務省での主な仕事は「監視」と「警護」です。
コ2 国際的な事件などにも、ダニールは関わっていたのでしょうか。
ダニール そういうこともありましたが、話せるのは10年以上経った頃ですね。
(前編 了)
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