実践、超護身術 第十六回 嘘と呼吸01

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第十六回 嘘と呼吸01

葛西真彦

 

呼吸で相手の嘘を見破る

これまでこの連載では普段から人を見る、観察・洞察することが大事であることを書いてきました。

ただ、「具体的に何を観察すればいいのか難しくて分からない」という声を多く頂きましたので、今回からは人を見る上で一番分かりやすい呼吸と、呼吸を見ることに付随して使うテクニック、圧力や嘘の見破り方など、身近な例を出しながら触れていきたいと思います。

よく見る一般人向けの心理学や人を誘導するFBIテクニックのを紹介した本では、人の反応について、その理由やそれを使った誘導法が書かれていますが、実際にそうした技術を日常生活の中で活用するのは難しいことかもしれません。

こうした本では相手に質問して、目がどう動いたとか、仕草などから心理状態を読むテクニックを中心に書かれています。

私も以前はこの手の本を読んで試しまたし、幾つかについてはその有効性は認められたものの、やはり個人差などもあり、プロの嘘つきと相対する警察の現場ではもちろん、万能な教本として使えるものではありませんでした。

その為、様々な技術を総合的に試して、もっとも実践に即した形を経験則からまとめるという作業が必要であり、自分自身で様々に試してそのノウハウを蓄積してきました。

確かに人の内面を読んだり、察知する技術には、幾つかの重要なポイントがありますが、やはりランダム性が高く、なかなかうまくいくものではありません。

ただし、そうした数あるポイントの中でも呼吸だけを特化して見ていくと、他に比べて反応は分かりやすく、ある程度の共通項があることに気がつきました。

また呼吸であれば、間合いを取った、離れた状態からでも観察することが可能であり、相手が刃物や武器を持っていた際の殺意の有無や危険度なども、ある程度呼吸と連動する身体反応から予測が付けることができます。

実際の現場ではここから説得に応じる相手なのかどうかを、瞬時に判断するというテクニックにも発展するのですが、こちらについてはまた改めて出したいと思います。

葛西先生イメージ写真

 

嘘がバレる!? 身体的反応

ではまず呼吸を観察する上で簡単な例、嘘に対しての呼吸ということから見ていきましょう。

一般に女性はパートナーの浮気に気がつくなど、嘘を見破るのが得意な方が多いと言われていますが、これも実は女性特有の相手の呼吸の変化などを見破る洞察力があるのです。

何らかの嘘をついていて、その嘘について追及されると、どんなに嘘をつくことに慣れた人間でも多少の動揺が走ります。

この動揺は、嘘の経験が多い人ほど少なく、嘘をついた経験が少ない人ほど表面に出ます。
その点、子どもは実に分かりやすく、嘘を一生懸命ついていても、「本当のことを言ってみろ」と言うだけで、

  • 呼吸に乱れが出る
  • 息をのんだり呼吸のリズムが乱れる。
  • 下を向いたり、横を向いたり落ち着きがなくなる。
  • 目線を合わせられなくなる。
  • 言葉につまる。
  • 顔や耳の色が変わる。

などの身体的反応が、すぐに表面化します。

当然百戦錬磨の相手になると変わってきますが、それでも呼吸の変化というのは必ずあるものです。

こうした呼吸とそれに付随する、脈や血圧の変化などを併せて、科学的に測測定することで嘘をついているのかどうかを判定する道具に、ポリグラフ検査というものがあります。警察小説やドラマなどで時折登場するのでご存じの方も多いでしょう。

ただしポリグラフとは一般的には嘘発見器と認知されていますが、本質は、記憶検査機というのが正式な解釈だそうです。

実際の現場でも使われているのですが、私自身が担当する事件では、ポリグラフに頼ったことがありません。

理由は条件が厳しいということです。判例から少し引き出すと、

ポリグラフ検査の証拠能力は認められているが、個別の事件で証拠能力が認められる には、一定の要件や基準が必要である。昭和 41(1966)年 6 月 30 日の東京高等裁判所 における判例からみると、

  1. 使用機器の性能、操作技術等からみて、検査結果に信頼性が認められること
  2. 検査者が検査に必要な技術と経験とを有する適格者であること
  3. 回答書は自らが実施した検査の経緯・結果を忠実に記載して作成したものであること
  4. 被検査者が当該検査を受けることを同意したこと
  5. 被検査者の心身の状態が正常であったこと

という要件が求められている。
(引用「ポリグラフ検査に対する正しい理解の促進に向けて 財津 亘」PDF より)

問題は4と5の部分です。弁護士が海千山千の強者だと、この辺りを突いて、「心身の状態が正常であったか立証した保全措置がない」「今現在うつ病にかかっているのを警察は何もしなかった」など、同意に合意性がなく証拠能力がないとされるリスクもあるわけです。

また、ポリグラフ反応の検査結果を「不適切に被疑者の供述を取るのに活用した」と難癖を付けてくる弁護士もいます。

殺人事件等の重大事件であれば、法廷での戦いも念頭に置いてポリグラフ検査はやるべきでしょうが、物心ともに足りていない現場としては、詐欺事件でいちいち法廷で争うようなリスクは避けたいというのが現実的なところです。

それ以外には私は個人的にポリグラフを活用しないのは、ポリグラフを扱う技官の都合に合わせなければならないためです。

今すぐに取り調べをしなければならないときに、「2~3日待ってくれ」と言われることも多く、タイミングを逸してしまう上、それを理由に捜査を遅滞させてしまう、あまりやる気のない刑事も少なからずおり、そうした人間と同じように見られるのが嫌だったからです。

そうしたこともあり、取り調べの中で、様々に相手の嘘を見破る方法を研究し、辿り着いたのが呼吸だったわけです。慣れてくると相手の呼吸で嘘をついているかどうかが分かり、裏付け捜査や、取り調べの方針をアレンジすることができるようになりました。

次回はそのお話しから始めたいと思います。

(第十六回 了)

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–Profile–

葛西眞彦(Masahiko Kasai)(写真右)

かさい・まさひこ。1977年10月26日生まれ、青森県出身。間接護身アドバイザー。

日本在住時は意拳、フルコン空手、杖、剣道、逮捕術、合気道等を修行していた武術歴約30数年の元刑事。現職時代に大病を患い、発作で仕事もままならなくなったことから、漢方治療を受けるため早期リタイヤし台湾へ移住。

1年間の漢方治療を経て発作も収まり、体がある程度動くようになったため、台湾での本格的な中国武術修行を開始。

台湾では、中華民国八極拳教練資格を日本人として初取得、また同様に推手教練資格も日本人として初取得。

台湾で実施される競技推手世界大会を運営する団体に所属し、詠春拳と太極拳、八極拳を修業し、シニアの身の上でありながら、競技推手青年部での中量・重量級チャレンジを続け、優勝・入賞経験を積み重ね、その経験と技術を後進に伝えている。

日本の選手を団体流派の制限を一切問わず、最短の時間と努力で台湾大会に入賞・優勝するために必須の技術と哲学を公開指導。

競技推手大会開催地である台湾に居住し、常に参加選手、参加団体との交流があるからこそできる分析、解析を強みに、熱意のある方に情報を還元。

指導者としてのスキル研鑽にも力を入れ、関わった日本人全員が世界で優勝することを目標にして、指導と修業を並行した研鑽を続けている。

現在は競技推手のみならず、自由推手と養生推手および詠春のチーサオを融合させた、総合的な崩しと打撃へ対応できる技術を研鑽し、独自の境地を見出すための努力を続けている。

最終的には日本に帰国して、素手の崩しと武器の崩し、ランダム性の中で戦えるものを、刑事時代の経験等からも総合的な形でまとめた独自の技術として提唱すべく準備中。

執筆活動も精力的に行なっており、台湾では心理学と人相に関する本を1冊、護身術に関する本を1冊出版。

日本ではwebマガジン「コ2」にて、直接的な攻撃や抵抗の段階に入ることなく、事前に危機を察知、回避することを主体とした「間接護身」という独自の概念を紹介・解説するコラムを書籍化し、応用編を現在執筆中

主な入賞経歴
2016年10月、 台湾世界大会「第六屆世界盃太極與推手錦標賽」第七級(76〜83kg)にて三位入賞(台湾推手大会の入賞としては日本人初)。

2016年12月、 台湾全国大会「第十二屆志堅盃全國太極拳錦標賽」社男第五級(80〜90kg)にて優勝(台湾推手大会の優勝としては日本人初)。

2017年5月、台湾全国大会「第10屆道生盃武術錦標賽-定步推手比賽」第七級(82kg以下)にて優勝。

2017年10月、台湾最大の全国大会である「第7届總統盃全國太極拳錦標赛」青年男子第八級(83〜91kg)にて優勝。

2017年12月、台湾全国大会「第十三屆志堅盃全國太極拳錦標賽-定步推手比賽」第七級(91kg以下)にて2位。

2018年10月、台湾世界大会「第七屆世界盃太極與推手錦標賽」青年男子第七級(76〜83kg)にて2位。

2019年12月、台湾全国大会「第十五屆志堅盃全國太極拳錦標賽」小よく大を制すを体現するため、中量級の体重で最重量級に参加し、110キロ、115キロ、140キロの重量級選手を倒し優勝。

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