連載 本気でトラウマを解消したいあなたへ 第九回 発達トラウマと、恥の感覚

| 藤原ちえこ

「トラウマ」という言葉からは、何を連想されるでしょうか。震災や戦争といった“大きな出来事”の当事者が受けた“心の傷”、またはそれにともなう症状(フラッシュバック、うつなど)を思い起こす方が多いのではないでしょうか。

ですがトラウマセラピストの藤原ちえこさんは、

「トラウマ反応は、心ではなく、まずは身体で起こるもの。そして出来事の大小にも、それを直接体験したかどうかにも、必ずしも関係がないのです」

とおっしゃいます。ここでは、

  • 本当のところ、トラウマとは一体何なのか
  • トラウマからはどうすれば回復可能なのか

を、お伝えしていきます。トラウマからの回復をのぞむ、“あなた”のための連載です。

トラウマイメージ

ココロの傷は、カラダで治す

本気でトラウマを解消したいあなたへ

第九回 発達トラウマと、恥の感覚

文・写真藤原ちえこ(写真提供は☆のみ)

こんにちは。トラウマセラピストの藤原ちえこです。

連載第5回目に、逃げるという自然な衝動を抑えつけてしまう、人間に特有の「恥」の感覚についての話をしました。

その時に説明した「恥」は、成育過程で社会的に身につけた感覚ですが、

今回は、トラウマの結果自分の内側に生じる、より深刻な、そしてトラウマ症状とも密接に結びついた恥の感覚についてお話したいと思います。

 

自分の存在自体を恥じる

恥の感覚は、発達トラウマ(胎児期〜子ども時代にかけての生育過程で受けたトラウマ)を扱う際に避けては通れないものです。

生育過程でトラウマを受けた人は、ほぼ全員がどこかに恥の感覚を抱えています。

そしてその恥ずかしさは、次の一言に集約されます。

「わたしは、みんなとは違っている」
(もちろん、悪い意味で)

……私はみんなとは違って、どこかおかしい。

どこか汚れている。

だから、私の抱えている苦しみは、誰にも言えない。

言ったところで理解してもらえないし、

ますます自分が変な人だと思われてしまうだけだ。

つまり、自分の特定の振る舞いが恥というよりも、

自分の存在そのものが恥という感覚です。

こういう、実存的な恥の感覚を抱えながら生きていくのは、もちろん本当に大変なことです。

だから消えてしまいたくなるし、

死んでしまいたくなるし、

自分を傷つけたくなるし、

自ら進んで、有害な関係に身を置きたくなってしまう。

だって私なんて、この世に存在するに値しない、ちっぽけな汚れた存在だから。

そして、こうした存在そのものに関わる恥の感覚の本質は、

思考ではなく、身体感覚です。

発達トラウマがある人は、この感覚が文字通り骨身に染み込んでいます。

(トラウマの程度によって、その感覚に四六時中苛まれているか、時折その感覚が顔を出すかというという違いはありますが)

だから、周囲がいくら「あなたはおかしくないよ」「全然汚れてないよ」「ちっとも変じゃないよ」と言っても、そういう言葉は全然彼らの中に浸透していきません。

彼らの感覚が染み込んでいる身体のなかには、言語によるメッセージは届かないからです。

トラウマイメージ

 

特に、性的虐待を受けた人たちの恥の感覚は、とてつもなく深く大きいです。

幼少期に性的虐待の被害に遭った私のクライアントさんの中には、

「自分が触ると、植物が枯れる」と真剣に信じていた人がいました。

加害者に自分の右手をつかまれて以来、自分の右手は汚いと信じ、

何十年もの間、誰かにものを渡すときやドアを開けるときは、絶対に左手しか使わない人もいました。

男女のグループでいる時は、他の女性が性被害に遭わないよう、自ら進んで男性に媚を売るのが癖になっている人もいました。
(自分はすでに汚れているから、汚れ役を引き受けるのが自分の仕事だと思っていた)

もちろんこれの思い込みは全て、事実とは程遠いものです。

本当に汚れているのは、彼らを虐待した加害者であり、彼ら自身でありません(当然です)。

でも、こうした思い込みは、身体に刻み込まれた恥の感覚により生じたものなので、彼らにとってはものすごいリアリティを伴った「真実」として感じられてしまうのです。

 

連載を含む記事の更新情報は、メルマガFacebookでお知らせしています。
更新情報やイベント情報などのお知らせもありますので、
ぜひご登録または「いいね!」をお願いします。

–Profile–

藤原ちえこ先生
Photo by Takashi Noguchi

藤原 ちえこ(Chieko Fujiwara

大阪大学人間科学部卒業。新聞記者を経て渡英、Emerson Collegeにてシュタイナー教育を学ぶ。その後サンフランシスコに移り、カリフォルニア統合学研究所(California Institute of Integral Studies, CIIS)にてカウンセリング心理学修士号取得。サンフランシスコの日系カウンセリングセンターや小学校、近郊のホームレス支援の非営利団体などで心理セラピストとして勤務。サンフランシスコ、ハコミ研究所(Hakomi Institute of San Francisco)にて2年間のハコミセラピーのトレーニングを修了するとともに、トラウマへの身体的アプローチであるソマティック・エクスペリエンス(Somatic Experiencing, SE)の3年間のトレーニングを修了。禅、瞑想、ヨガ、気功、ムーブメント、ボディワークなど、ベイエリアで当時アクセス可能だった数多くの癒しやスピリチュアリティのメソッドを探求したのちに、身体と心のつながりという最も基本的な真理にたどり着く。
05年2月に帰国、札幌にカウンセリングルームを開く。私立女子校のスクールカウンセラーとしても活動中。
訳書に『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房)、共著に『「ソマティック心理学への招待—身体と心のリベラルアーツを求めて』(コスモス・ライブラリー)、『トラウマセラピー・ケースブック』(星和書店)。特別養子縁組で迎えた4歳の娘の子育てを楽しむ毎日。


website:プレマカウンセリングルーム(http://premamft.com)
blog:明るい鏡~本当のわたし、そしてあなたを映し出す