カラダのコツの見つけ方 対談/甲野善紀&小関勲 第四回「ものを見る能力」

| 甲野善紀 小関勲

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「バランス」に着目し、独自の指導を行っているバランストレーナー・小関勲氏と、古伝の日本の武術を探求しつつ独自の技法を展開している武術研究者・甲野善紀氏。お二人の元には、多くのオリンピック選手やプロスポーツ選手、武道関係者に音楽家までもが、時に“駆け込み寺”として教えを請いに訪ねて来られます。
そんなお二人にこの連載では、一般的に考えられている身体に関する”常識”を覆す身体運用法や、そうした技の学び方について、お二人に語っていただきました。
十数年に渡って親交を深めてきた二人の身体研究者が考える、身体のコツの見つけ方とは?

第四回は、ものを見る能力について。甲野先生のちょっと変わったスキー習得方法や小関先生のスケートの習得方法から見えてくる、「自然に身に付く」こととは?

カラダのコツの見つけ方

第四回  「ものを見る能力」

語り甲野善紀、小関勲
構成平尾 文(フリーランスライター)

 

「転び」のすすめ

甲野 私は50歳を過ぎてから、養老孟司先生のご推薦で、日本の代表的な科学者や知識人が集って自由な討論を展開するというアライフォーラムに参加した折、初めてスキーを経験したのですが、まず、最初に直面した問題が上手く止まることができないということでした。
「これはもう、しょうがない」と思い、止まる方法としてフト思いついたのが、転ぶことでした。このことについて、養老先生が、「甲野さんのスキーの身につけ方は、すごくユニークだ」とあちこちで話をされたみたいです。

とにかく「これは転んで止まろう」と思い、滑っては転び、滑っては転びを繰り返していたのですが、その転び方というのが、一緒にいたプロのインストラクターが「今度ばかりは、ケガをしたんじゃないか」とハラハラするくらい、すごく派手な転び方だったのです。何しろ、スピードが出ていればいるほど、止まるためには思い切り転ばないと止まりませんから。転んでいくうちに、だんだん滑って止まる感覚が分かってきて、何時間かで、ある程度は滑れるようになってきました。

プロのインストラクターから「こういうスキーの学び方もあるんですね」と感心されたくらい、一般的なスキー教室の常識からすれば、見たことも聞いたこともない方法だったようです。とにかく、滑って止まれなくなった時は自分から転んでしまうと、だんだんと余裕が出てきて、結構止まることもできるようになってきたのです。

 

小関 「スピードが出ていれば、思い切り転ぶ」という、止まるために転び方を調整するという身体操作は、とても参考になります。私たちはつい転び方も具体化してしまう傾向がありますから、一般的に「転ぶこと=ケガ」というネガティブなイメージを抱いてしまうのかもしれませんね。しかし、

状況に応じて転ぶことは、むしろバランスを保つための大切な選択肢なのです。

また息子の話になってしまうのですが、小学校に上がる前に「スケートをやってみたい!」という話になって、山形のスケート場に連れて行ったんですね。甲野先生はスケートをされたことがありますか?

甲野 スケートはやったことがないですね。

小関 スケートは氷の上ですから、とにかく全く足で踏ん張ることができません。先生の提唱する「捻じらない、うねらない、踏ん張らない」という原理ですが、それと真逆の身体の動かし方に慣れ親しんでいる私たちにとって、滑るのも止まるのも、すごく難しいことなのです。

多くの人は、最初は氷上で歩くことはおろか、立つことすらもやっとという感じですから、どうしても恐怖感が先に立ってしまいます。ですから、最初は初心者用のイスゾリ(補助具)に息子を座らせて、僕が押して滑ってあげていたんですね。そうすると、息子は私がやっていることにだんだん興味が湧いてきて、今度は自ら押して遊び始めるわけですよ。“滑る感じ”を掴み始めているのか、しばらくすると補助具を手放し始めます。ただ、まだ滑ることができないから、わざと転ぶんです。わざと転ぶんですけど、そこには楽しさや面白さを見出していることが分かります。多分そうしているうちに転ぶことに対する恐怖感がなくなって行くのだと思います。それから、いつの間にか転ばなくなって、とても怖がりで慎重な息子でも、正味1時間くらいで滑れるようになっていたと思います。

スケートリンクには、家族連れで同い年くらいの子どもたちがいっぱいいて、他の親御さんから「どのくらい練習されたんですか」と聞いてくるのですが、「今日が初めてなんです」と答えると凄くビックリしていました。他の親御さんが子どもたちに教えているのを見ると、「転ばないように、転ばないように」と教えているんですね。子どもの両手をギュッと持って、引っ張るようにして一緒に滑っているのですが、親と子のバランスは取れているかもしれませんが、子ども本人のバランスを見ると崩れてしまっている訳です。それで親に「頑張れ、頑張れ」と言われちゃうから、子どもはますます踏ん張っちゃって、却って滑れなくなっているのです。

コ2 転ばないように教えるのではなく、転ぶことへの恐怖をなくしてあげることが大切だということですね。

小関 ええ。先生のスキーのお話と実は通じると思うのですが、「滑ること」と「転ぶこと」は一見、違うことのように思えますが、どちらも身体の「バランス」を維持するための行為だと捉えてみると、滑ってバランスが崩れていることも、転ぶことでバランスが保たれることも同じことなんです。

そういう微妙なバランスの取り方や、具体的なコツというのは、やはり、ありとあらゆる言葉を使って、具体的に教える以前に、本人が体験すべき(又はさせてあげる)ことかもしれません。

コ2 あくまでコツを掴むのは本人の課題なのですね。

 

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–Profile–


ヒモトレ革命

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甲野善紀先生と小関 勲先生

甲野善紀(Yoshinori Kouno
1949年東京生まれ。78年松聲館道場を設立。日本の武術を実地で研究し、それが、スポーツ、楽器演奏、介護に応用されて成果を挙げ注目され、各地で講座などを行っている。
著書に『表の体育 裏の体育』(PHP文庫)、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫)、『武道から武術へ』(学研パブリッシング)、『古武術に学ぶ身体操法』(岩波現代文庫)、『今までにない職業をつくる』(ミシマ社)、共著に『古武術の発見』(知恵の森文庫)、『武術&身体術』(山と渓谷社)、『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(ディスカバー・トゥエンティーワン)など多数。
Web site:  松聲館
Twitter 甲野善紀

 

小関勲(Isao Koseki
バランストレーナー、1973年、山形県生まれ。1999年から始めた「ボディバランスボード」の制作・販売を切っかけに多くのオリンピック選手、プロスポーツ選手に接する中で、緊張と弛緩を含む身体全体のバランスの重要さに気づき指導を開始。その身体全体を見つめた独自の指導は、多くのトップアスリートたちから厚い信頼を得て、現在は日本全国で指導、講演、講習会活動を行っている。著書『ヒモトレ』(日貿出版社刊)、『[小関式]心とカラダのバランス・メソッド』(Gakken刊) 小関アスリートバランス研究所(Kab Labo.)代表 Marumitsu BodyBalanceBoardデザイナー 平成12〜15年度オリンピック強化委員(スタッフコーチ) 平成22〜25年度オリンピック強化委員(マネジメントスタッフ)日本体育協会認定コーチ、東海大学医学部客員研究員・共同研究者、日本韓氏意拳学会中級教練
Web site:MARUMITSU  Kab Labo.
Twitter 小関勲