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「バランス」に着目し、独自の指導を行っているバランストレーナー・小関勲氏と、古伝の日本の武術を探求しつつ独自の技法を展開している武術研究者・甲野善紀氏。お二人の元には、多くのオリンピック選手やプロスポーツ選手、武道関係者に音楽家までもが、時に“駆け込み寺”として教えを請いに訪ねて来られます。
そんなお二人にこの連載では、一般的に考えられている身体に関する”常識”を覆す身体運用法や、そうした技の学び方について、お二人に語っていただきました。
十数年に渡って親交を深めてきた二人の身体研究者が考える、身体のコツの見つけ方とは?
最終回の今回は、体を通してしか見えてこない世界について。人間にできて、人工知能にできないこととは? 武術研究者とバランストレーナーの考える、生き抜くための術。
カラダのコツの見つけ方
第十一回 (最終回) カラダを通せば
語り●甲野善紀、小関勲
構成●平尾 文(フリーランスライター)
「ただやる」ことの難しさ
甲野 武術の研究を生業にして37年間、様々な技や術理に気付くとともに、生きるということそのものへの気付きもたくさんありましたが、人間は本当に「ただやる」ことが難しいのだとつくづく思います。
先ほどお話した「人間鞠」という、しゃがんだ状態から、ただ腰を落としてポンと立つ技は、出来る人が数人しかいません。なぜかというと、先に「立つ」という結果を求めて、「立とう」と努力してしまうからですね。つまり、「立ち上がる」というイメージがどうしても強くて、「今の今、ただやる」ことが出来ないのです。
そうではなくて、「結果として立ち上がるから、<立とう>と努力をしてはダメですよ」と言っても、どうしても今までの経験にならって、努力してしまうのですよ。それほどまでに、「ただやる」ことは難しいことです。つまり、人間はいかに目的を持つこと、努力することに縛られているかということですよね。
小関 何事にも「なになにのために、こうしよう」と、計画を立てて取り組むことが美徳のように言われている今は、「ただやる」ことは、ますます難しいでしょうね。
私達はつい結果を求めながらやりますが、結果のためにやるのではなく、やることに自体に意味がある。それはただやってみることでしか見いだせません。これはもう改めて体験して知るしかないと思います。
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–Profile–
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●甲野善紀(Yoshinori Kouno)
1949年東京生まれ。78年松聲館道場を設立。日本の武術を実地で研究し、それが、スポーツ、楽器演奏、介護に応用されて成果を挙げ注目され、各地で講座などを行っている。
著書に『表の体育 裏の体育』(PHP文庫)、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫)、『武道から武術へ』(学研パブリッシング)、『古武術に学ぶ身体操法』(岩波現代文庫)、『今までにない職業をつくる』(ミシマ社)、共著に『古武術の発見』(知恵の森文庫)、『武術&身体術』(山と渓谷社)、『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(ディスカバー・トゥエンティーワン)など多数。
Web site: 松聲館
Twitter 甲野善紀