瞬撃手が解く、沖縄空手「基本の解明」 第十二回 「掛け手」

| 横山和正

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数年前から急速に注目を集めた沖縄空手。現在では本土でも沖縄で空手を学んだ先生も数多く活躍されていることもあり、秘密の空手という捉え方から、徐々に地に足の着いたものへと変わりつつある。ここでは、多年に渡り米国で活躍し、“瞬撃手”の異名を持つ横山師範に、改めて沖縄空手の基本から学び方をご紹介頂く。

瞬撃手が解く、沖縄空手「基本の解明」

第十二回 「掛け手」

横山和正(沖縄小林流研心国際空手道館長)

 

型の応用を学ぶ掛け手(カキエ)

さて、これまで沖縄空手の訓練法の主格を占める基本動作、型についての解説から対人訓練へと筆を進めてきました。今回は一般的に知られているものとは、一風異なった対人練習「掛け手(=カキエ)」の解説を行いたいと思います。

空手の対人練習と言えば一般的に“組手”が挙げられますが、日本で言う組手の一般的な認識は、所謂“スパーリング”と同種の稽古法として理解されているでしょう。内容としては基本動作である突き・蹴り・受けを主体に実戦を想定して行う方法が一般的です。

さらに競技化が充実した近年では、ますます“組手”の方向性は試合に則して有効な攻防訓練を基準に構成・発展していることが多いでしょう。

しかし、本来古くから伝わる東洋の武術には、“競技”といった概念はなく、こうした訓練法も一定のルールを想定した試合や戦いに向けて特化して行われてきたものではありません。そのために様々な古典的武術の稽古法を見渡すと、一見実戦法から離れた非実用的に思える稽古内容をまま見ることもあるものです。

今回解説していく“掛け手=カキエ”も言うなれば一見外部からは何をしているのか意味不明な稽古法のひとつに挙げられるものでしょう。

 

掛け手=カキエとは

それではこの“掛け手=カキエ”とは一体どの様なものなのでしょうか?
簡単に動作だけを説明すれば、互いに向かい合った状態で互いの前手の手首を合わせ、その手首を密着させたまま、静止する・押す・引く、内外移動・回す、掛ける、等を行うものです。

こうした手首を合わせて状態で行う稽古風景は、間合いを保って突き・蹴りを行うことが一般的な日本の空手修行者からすると多少イメージ外でにあるでしょう。しかし、その一方で空手の源泉に深い影響を与えている中国武術においては、非常にポピュラーな稽古法の一つであり、その様子はブルース・リーの名作アクション映画“燃えよドラゴン”の中でも、試合シーンとして登場しており、そちらでご存じの方も多いでしょう。映画の中では、互いに前手を合わせた塔手と呼ばれる姿勢から、リーは予動作なく鮮やかなパンチを放つシーンが印象的で、それまでの映画のアクションとは異なった東洋武術独特の世界を描いていています。

 

横山先生画
横山先生画

 

この様な手首を合わせて開始する武術の訓練法は、従来から太極拳の推手や詠春拳で用いられる黐手(チーサオ)の他、数多く存在し、空手においても沖縄の那覇手(剛柔流)ではカキエと呼ばれ、広く行われているものです。

私がこの訓練法と直に接したのは、台湾で衛笑堂老師より八歩螳螂拳を学んだ際と、沖縄での小林流(首里手)修行を通じてでした。沖縄では仲里先生が正式に指導されていたわけではありませんが、機をみて演武をして頂いたり、先輩方から解説してもらうなか、、自分なりに中国武術と沖縄首里手の共通項を見出し大変興味深く感じたものです。

その後、アメリカへ渡った後も様々な武術と交流するなかカキエの研究を重ねてきました。

 

“掛け手(=カキエ)”と“組手”の違い

では、掛け手=カキエ(以降“掛け手”)とは、一体どの様な目的と効果があるのでしょうか?

これは先の項でも触れましたが、空手を格闘技のひとつとして考えてみれば、打撃系ならば突く・蹴るをとことん追求し向上させることを先決に考えるでしょう。また投げ技を含む組技を補強するのであれば、柔道やレスリングの稽古をした方が良いはずです。

こうした合理的な考えからすると、打つでもなく投げるわけでもなく“手首を合わせる”といった体勢が非常に非現実的なものに映るでしょう。

では、なぜそんな稽古を行うのでしょう? その答えは、

「空手が武術としての身体作りを行う訓練法であるから」と言えるでしょう。

それはこのWEBマガジンの連載冒頭で解説した様に、“空手は姿勢で学ぶ武道”であり。姿勢とは身体内部の充実を図るための器としてとらえます。

同じ運動とは言っても一般的なスポーツでは身体の外延の活動(筋肉の緩急で動作を行う運動で、筋力主体で生み出すスピードや力を私は外延の力と表現しています)がその大部分を占めるとするならば、武道の場合に用いる外延は内部で生み出す力の育成と活用法を習得すための道具であると言えます。

そうしたことから、通常行われいる行う護身術的な動きや試合向けの技法に直結した攻防訓練を、「一般的組手」と定義とするならば、全ての技をより有効に効果的に使えるための武道的身体を作り、力の方向性や感覚を体感していくものが“掛け手”であると言えるでしょう。

 

掛け手の効能

掛け手はお互いの手首を着けた状態から開始する稽古法ですが、熟練者は相手に触れるだけで既に相手の武道的な身体のレベルの予想ができてしまうことがあります。

では何故触れただけで分かるのでしょうか? ポイントは接触点に発生する力にあります。本来力とは方向性を持った移動によって増減するものです。そのため目の前に立つ相手の存在を意識すればする程、相手に負けまいと反射的に身体の力が働くものです。そんな時に相手がフッと力を抜いてしまうと、自分の身体はつっかい棒が外されたように、自分が力を向けた方向へ飛んでしまうものです。

武道における内面の力とは、こうした外側の状況に流されない力を指したもので、稽古とはそうした力を養うためのものです。

それは体幹部はもちろんのこと、四肢全体に“芯”が入ったような感覚とも言え、これを“骨で動く”と表現することも出来るでしょう。

掛け手の稽古は、こうした力や動きを外延から入って内奥に浸透させていくのに非常に適したものであると言えるでしょう。

横山和正先生

 

従って掛け手の稽古の際には、突き蹴りが直接に打ち込まれなくても、相手との接触点から絶えず圧力を感じ続け、更に動きが加われば、自分の重心・ポジションの正しい位置を絶えず作り続けなければなりません。

こうした稽古は一定の間合いで戦うこととは真逆の難しさと苦しさがあるものです。しかし繰り返していくうちに、長い時間圧力に耐えながらも余計な力を省いた身体の状況を作り上げていくことが出来ます。それらに更に「手首を捕る」「押し合う」「当身を混ぜる」「崩し合う」等のバリエーションを加えることによって、様々な効果を得ることが出来るものです。

 

掛け手の実践訓練法

それではここでこうした掛け手の訓練法の幾つかを紹介してみましょう。

基本突きと外受け

⒈双方、右手を前に合わせて構え
⒉一方がユックリと直突き、一方は外受けで受ける。

 

正中線の差し

⒈開手で構え
⒉正中線に手刀を押し込む。

 

手首を捕る

⒈双方構え
⒉手首を捕る

 

以上、今回は空手における有効な掛け手の紹介を行ってみました。

武道がルールの無いオープンな戦いの場であることを前提として訓練されるものであるならば、遠い間合い、近い間合いといった限られた範疇での技術だけでは不十分であることは、多くの修行者が理解できると思います。実際、攻防の中で間合いは絶えず遠隔から至近距離へと変化をすることがほとんどでしょう。

何年も突き蹴りを学んでいても、一旦相手と接近した際に、自分の重心のとり方や相手の動きを感じ取れずに、あっさり振り回されてしまっては困ります。

タイ国のムエタイでは”首相撲”と呼ばれる、腕で相手の頭をかかえ込みコントロールする接近戦の技術が極めて巧みであり、それが彼らの強さの秘密であることはよく知られるところです。

また近年の武道界では、より身体に負担の掛からず、力をあまり用いない洗練された動きを”身体操作”と呼び、ある種のブームを築いていますが、いくら沢山の身体操作や技術を覚えても、止まった状態ではあまり意味がありません。ブルース・リーの「板は打ち返さない」ではありませんが、互いに動いている中で、必要な瞬間に十分な威力や結果を生み出せなくては、単なる小手先の技で終わってしまうことを肝に銘じなければならないでしょう。

今回ご紹介した掛け手は、攻防の技術であるとともに、自己の身体内のエネルギーの感覚と流れを対人運動の中で体感していく稽古法であり、武道的身体の養成と充実に必要な、地力の養成に非常に有効な訓練法であると言えるでしょう。

(第12回 了)

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–Profile–

横山和正(Kazumasa Yokoyama
本名・英信。昭和33年、神奈川県出身。幼少の頃から柔道・剣道・空手道に親しみつつ水泳・体操 等のスポーツで活躍する。高校時代にはレスリング部に所属し、柔道・空手道・ボクシングなどの活動・稽古を積む。

高校卒業の年、早くから進学が決まった事を利用し、台湾へ空手道の源泉ともいえる中国拳法の修行に出かけ、八歩蟷螂拳の名手・衛笑堂老師、他の指導を受ける。その後、糸東流系の全国大会団体戦で3位、以降も台湾への数回渡る中で、型と実用性の接点を感じ取り、東京にて当時はめずらし沖縄小林流の師範を探しあて沖縄首里空手の修行を開始する。帯昇段を期に沖縄へ渡り、かねてから希望していた先生の一人、仲里周五郎師に師事し専門指導を受ける。

沖縄滞在期間に米国人空手家の目に留まり、米国人の招待、及び仲里師の薦めもあり1981年にサンフランシスコへと渡る。見知らぬ異国の地で悪戦苦闘しながらも1984年にはテキサス州を中心としたカラテ大会で活躍し”閃光の鷹””見えない手”と異名を取り同州のマーシャルアーツ協会のMVPを受賞する。
1988年にテキサス州を拠点として研心国際空手道(沖縄小林流)を発足する。以後、米国AAUの空手道ガルフ地区の会長、全米オフィースの技術部に役員に籍を置く。
これまでにも雑誌・DVD・セミナー・ラジオ・TV 等で独自の人生体験と古典空手同理論他を紹介して今日に至り。その年齢を感じさせない身体のキレは瞬撃手と呼ばれている。近年、沖縄の空手道=首里手が広く日本国内に紹介され様々な技法や身体操作が紹介される一方で、今一度沖縄空手の源泉的実体を掘り下げ、より現実的にその優秀性を解明して行く事を説く。

全ては基本の中から生まれ応用に行き着くものでなくてはならない。
本来の空手のあり方は基本→型→応用全てが深い繋がりのあるものなのだ。
そうした見解から沖縄空手に伝えられる基本を説いて行こうと試みる。

書籍『瞬撃手・横山和正の空手の原理原則』

ビデオ「沖縄小林流空手道 夫婦手を使う」・「沖縄小林流空手 ナイファンチをつかう」

web site: 「研心会館 沖縄小林流空手道」
blog:「瞬撃手 横山和正のオフィシャルブログ」