達人対談2017「健やかに生きる」成瀬雅春 × 天外伺朗(前編)死と直面することで人は変容する

| 成瀬雅春 天外伺朗

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2017年4月23日に行われた、オーガニックライフTOKYOの“達人対談”は今年で3回目。今回はヨガ行者の成瀬雅春さんと、工学博士の天外伺朗さんとの初対談が実現しました。

進行は、本対談の企画者でもある、有本匡男さん(日本ホリスティック医学協会 常任理事)。今年は「健やかに生きる」をテーマに、死について語り合いました。達人にとって死とは愉しみ。死について朗らかに話が広がる展開に、会場は盛り上がりました。前編、後編の二回に分けてお届けします。

対談/成瀬雅春×天外伺朗

「達人対談2017 健やかに生きる」

前編  死と直面することで人は変容する

語り成瀬雅春、天外伺朗
取材協力オーガニックライフTOKYO事務局
構成・撮影大場敬子(ライター・エディター・漢方スタイリスト)

 

有本匡男(以下、司会) 昨年の対談で、成瀬先生から「一番楽しみなのは死の瞬間だ。死は人生で1度しかないから、楽しみで仕方ない」というお話がありました。それが、会場の中で盛り上がって。とても印象的だったので、今年は「死」という直球のテーマにしました。

 そもそも、“オーガニック”の起源は野菜などのイメージもありますが、「本質的」「根源的」な、という意味もあります。そういった視点で生き方ということを考えると、生と死は、実はかならずセットにある。そのあたりについて、お話をいただくなら、やはりある程度の経験が必要ではないかと。長年の経験と実績があって、道を極めた達人でないと、できないことだと思います。
 まずは、昨年の達人対談で「一番楽しみなのは死だ」とおっしゃっていた成瀬先生から、今どのように感じているか、教えてください

達人対談のようす
達人対談のようす

 

成瀬雅春(以下、成瀬) 最後のほうに話そうかなと思っていたことだけど(笑)。人間生まれたら、いろんな仕事をしたり、人生経験を積んだりしますけれど、行くところはみんな一緒。死ですよ。そこに向かっていない人は、たぶんいない。

 死って、ゴールですよね。とりあえずのゴール。その先の話は置いておいてね。人間みんな生まれたら、どこへ向かうの? っていったら、死です。死へ向かうことをしている。つまり、今日食事をするのも、仕事をするのも、どこかへ遊びに行くのも、死へ向かっているためにしているんです。

 なぜそう考えるか? というと、死の瞬間を最高の状態で迎えたいからです。つまり死までの間、どれくらい人生経験を積んで、愉しいことをして、つらいこと、イヤなことができるか。苦しいことも、面白いし愉しいことです。死ぬ直前に「これまでの人生が、走馬灯のように見える」って言うでしょう? 

 もし見るなら、その瞬間に面白い映像をブワーッと見たい。だから今この瞬間、朝起きてから寝るまでに、どれだけ愉しいこと、面白いことをするかですよ。この日々の積み重ねがあることによって、死の瞬間を最高に面白い状態にもっていける。つまらない人生なら、死の瞬間につまらない映像ばかり流れて、がっかりしてしまうよね。

 この話をすると、ワクワクしてしょうがないんだよね(笑)。いや、自殺願望はないですよ。でも死の瞬間を想像すると、ほんとうれしくて、ワクワクしていても立ってもいられなくなるんです。

司会 ありがとうございます。前回も、今のようにワクワクと愉しそうに話されていましたね。「死」はある種、ネガティブで避けようとすることも多いテーマですが、あえて触れることで、前回も会場の方々の興味が深まっていたと思います。

 そして今日の組み合わせ、成瀬先生と天外先生の対談は、初めてと聞いています。お二人は、20年前に天外先生が立ち上げた「マハーサマーディ研究会」の中で、一緒に活動されていたご縁がありますね。その研究会を作ったきっかけを教えてください。

天外伺朗さん
天外伺朗さん

 

天外伺朗(以下、天外) 『永遠のヨギー』(監督:パオラ・デ・フロリオ/リサ・リーマン、2014年)って映画を見たことある人はいますか? それか『あるヨギの自叙伝』(パラマハンサ・ヨガナンダ (著)、森北出版、1983年)を読んだ人はいますか?

 この著者であるパラマハンサ・ヨガナンダは、1952年にアメリカのロサンゼルスで、パーティーの席上で亡くなったんです。関係者は、それを「瞑想して至福のうちに亡くなる」つまり「マハーサマーディ」と呼んだ。
 僕は自著のなかで、「パラマハンサ・ヨガナンダはマハーサマーディの儀式にのっとって、3回まわって結跏趺坐(けっかふざ)を組んで亡くなった」と書いたんだけど、それはどうも違ったらしくて、パーティーの途中で倒れちゃったんだって?

成瀬 たしかそうだったね。

天外 それでも、マハーサマーディといえるのだそうです。なぜかというと、死体が腐らなかったから。『あるヨギの自叙伝』には、亡くなる前の写真と、死体置き場の所長の証言がのっているんですが、50日経っても硬直せず、腐らなかったそうです。それはマハーサマーディで、至福のうちに亡くなることで、「β-エンドルフィン」という快楽物質、もしくは脳内麻薬が、体のすみずみにまで回ったからだからといわれています。

 だから僕は、それをみんなで探求しようと。ちなみにヒンズー教では、今でもアシュラム(寺院)の責任者はそうやって亡くなっています。15年くらい前、知り合いの僧侶がマハーサマーディで亡くなったので、研究会のメンバーを30人くらい連れていったんですよ。そうしたらカウアイ島のヒンズー教寺院の僧侶が、我々が「マハーサマーディ研究会」という名前なので、すごく優遇してくれましたね。

 そもそも、なぜこんな変な会を作ったかというと、自分の親父が亡くなったことがきっかけだったんです。彼は、最後に入院するときにすごい覚悟を決めて、相当体がつらかったと思うんだけど、葬式で使う写真を用意して、入院したら見舞客にお礼を言って、とても見事だった。

 けれど病院では、具合が悪くなると集中治療室に入れられて、管だらけ。気管を切開して、人工呼吸器を入れられて、モルヒネを入れてさ。結局、誰も見ていないときに死んじゃった。あまりにも見事に、死ぬ前に準備をしていたから、残念だったんだよね。

 ちょうどその頃、龍源寺の僧侶の松原泰道さんと、本の中で対談をしたんですよ。そのときに「親父がこんなふうに死んじゃって。人間の死に方としては、おかしいんじゃないか」という話をしたら、仏教のほうでは「坐亡(ざぼう)」というのがあると言っていました。坐禅をしながら亡くなるんだそうです。

 松原さんの話を聞いていて、ふとそういえばパラマハンサ・ヨガナンダも、そうやって亡くなっているよなと思いだした。ならば、みんなで勉強しようじゃないか、というので研究会を作ったんですよ。

 ヒンズー教では、マハーサマーディは「一子相伝」。その寺院を継ぐぐらいの人にしか伝えないみたい。それで、みんなで探ろうじゃないかということで、そのときに成瀬さんにも、指導陣として入ってもらいました。

成瀬 うんうん、そうでした。21年前だね。

天外 それから私はずっと「死と直面する」ということをやってきたんです。でも最近はちょっと、変わってきています

 なぜかというと、これまで自著『ここまで来た「あの世」の科学〜魂、輪廻転生、宇宙のしくみを解明する』(祥伝社黄金文庫、2005年)などでベストセラーを連発して、宗教が説いてきたことと、サイエンスが説いていたことがすごく接近している、という本をたくさん書いてきたんです。よく売れたけど、この本を喜んだのは新興宗教の人たち。みんな僕の本を引用するんだけど、文脈を無視して引用されたら、どうしようもない。

 だからそういう本を書くのをやめました。サイエンスが進んで、量子力学の成果が出てきて、宗教とサイエンスは接近しているけれど、溶け合うことはない。そこで、得た知見をもっと現実世界にフィードバックしようと思ったんです。たとえば、医療改革と教育改革と経営改革。今とくに時間を使っているのは、経営改革です。名経営者は、なぜ生まれると思いますか? 「重篤な病気になって、克服すると名経営者になる」といわれることがありますよね。「あなたはガンで余命あと3カ月だ」と言われると、そこで初めて死と直面できるんですね。

 ここにおられる方々も、行者や先住民は別だけど、一般の人は死と直面できません。何千人と看取ってきたお医者さんでも、全然死とは直面できていません。ほとんどの人は、死と直面しないまま死んでいく。

 自分の母親が92歳のころに、死と直面させるワークを行なったことがあるんです。瞑想してと言っても無理だから、対話の中でやろうとしました。でも僕は瞑想のプロなのに、なかなかできなかったんですよ。母親は結局、101歳まで生きましたが、97、98歳ごろからおだやかになって、亡くなりましたね。それも素晴らしかったです。

 私たちはみんな、死から目を背けて生きています。でも、死と直面ができると人生はものすごく変わる。普通の経営者が、名経営者になるくらい変わるんです。それを「実存的変容」と呼んでいます。トランスフォーメーション、さなぎがチョウになるようなものです。意識の変容なので、姿形は変わらないけれど、精神的にさなぎがチョウになる。

 一般的には、ここで「(さなぎが)死ぬ」と思っちゃうんですよ。そこでブレーキをかけてしまう。死と直面できていないからです。無意識レベルに抑圧してモンスター化している死の恐怖に支配されている。みなさんは、そのモンスターを抱えて生きている状況です。97、98%の人は、その状況で生きているんじゃないかな

 変容したいとは思っているけれど、そこで力いっぱいブレーキをかけている。めいっぱいアクセルを踏んで、めいっぱいブレーキを踏んで生きています。

死と直面できると、巨大なモンスターが等身大まで小さくなり、乗り越えやすくなります。

 だから20年間、経営や教育改革などをやってきました。ちなみに医療改革では、医療者がひそかに患者の意識の変容をサポートするという働きかけです。世の中には素晴らしい医療者がいっぱいいますね。そんなことをやったって、保険の点数はつかないし、患者にも言えない、宣伝にもならない。何の評価にもならないから、徳のある医者しか来ないですけどね。医学関係の学会での講演も、最近は多いです。

司会 本質的なところを考えて、すごく奥のところから変えるのであれば、結局は「死を考えて、健やかにどう生きるのか」というところに行き着きますよね。

天外 でも直面できないよ、みなさん。僕は経営塾で死と直面するワークをやっていて、すごく変容が起きますが、たいへんな瞑想ワークです。成瀬さんがやっていることに近いようなこともやっています。これはすごい修行が必要。こういうことをやらない限り、できません

成瀬 あまり脅しをかけなくても(笑)。

成瀬雅春さん
成瀬雅春さん

 

天外 でも「はい、直面できましたー!」っていう人が、時々いるでしょ。

成瀬 今、「死の恐怖の話」を天外さんが言っていたけれどもね、死は怖くないんですよ。死ねないから怖い。死にそうだから怖い。死そのものは怖くないです。

 たとえば、大学を卒業できないと怖いけれど、卒業したことは恐くないでしょ? 死自体は、怖くない、まったく。マラソンで言うところのゴールですよ。マラソンでは、ゴールに行くまでが苦しい、つらい。でも、ゴールしたら、そこから先は苦しくもつらくもないですよね。最高の充実感があるでしょ? 死の恐怖って言うけれど、死ねない/死にそうだから恐怖なんです。

 死んだこともないのに、恐怖って(笑)! 体験できてないから怖いんだ。してしまえば、怖くない。むしろ、愉しい(笑)。

 あとね、マハーサマーディだけど、僕が目指しているのは、自分の意志で、何日の何時何分に「自然死」することです。人間は、いろんなことをコントロールできます。何時にご飯を食べて、何時にどこへ行って、とコントロールできるけれど、一番コントロールが難しいのは「死」です。だから、それを目指すのがヨガ行者。僕はこれを目指していますね。ちなみに、自殺はダメですよ。これは他殺よりもっと悪い。

 肉体も精神もコントロールして、自然死へ向かおうとするのがマハーサマーディです。心臓の鼓動がほとんど感じられないくらいコントロールするとか、昔よくやっていましたよ。心電図が反応できないくらいね。心臓自体も、コントロールできます。他にも、いろいろな自分なりのコントロールを行ないます。そうすることで、自分の死の瞬間を自分で定めて、本当に自然死ができるようになったら、それは最高の死だと思う。

天外 ちなみにね、死と直面できている人は、絶対に自殺はしません。余談だけど、マハーサマーディ研究会を始めたころ、会員さんが800名くらい集まってやっていたの。すると、会員さんが「天外さんは、いつ死ぬんですか?」とか言うわけ。僕が死ぬのを待っている(笑)。「みなさんをお送りしてから……」って、当時は言っていたけれど、今はもう75歳ですから。そうも言えなくなってきた(笑)。

司会 ありがとうございます。お話はまだまだ続きます

(前編 了)

 

–Profile–

達人対談のようす

 

成瀬雅春(Masaharu Naruse写真左
ヨーガ行者、ヨーガ指導者。12歳の頃に「即身成仏」願望が生じ、今日までハタ・ヨーガを中心に独自の修行を続けている。1976年からヨーガ指導を始め、1977年2月の初渡印以来、インド、チベット、モンゴル、ブータンなどを数十回訪れている。2011年6月、ガンジス河源流ゴームク(3892m)での12年のヒマラヤ修行を終える。現在、日本とインドを中心にヨーガ指導、講演等の活動をおこなっている。著書多数。
Web site 成瀬ヨーガグループ

天外 伺朗Tenge Shiro写真中央
工学博士(東北大学)/名誉博士(エジンバラ大学)。1964年東京工業大学電子工学科卒業後、42年間ソニーに勤務。CD、ワークステーションNEWS、犬型ロボットAIBOなどの開発を主導。上席常務を経てソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所・所長などを歴任。
現在はホロトロピック・ネットワーク代表、フロー・インスティテュート代表、天外塾塾長、ホワイト企業大賞企画委員会委員長。医療改革、教育改革、経営改革などに取り組む。著書多数。
Web site ホロトロピックネットワーク

有本匡男(Masao Arimoto写真右
teateセラピスト、(NPO法人)日本ホリスティック医学協会常任理事。幼少期に、仏教の考えに触れ、「幸せとは」について考え始める。2002年よりセラピストとして活動を開始、同時にヨガ、哲学を学び始める。2007年より「teate(てあて)セラピー」を始める。現在は講演、ワークショップを通じて、「teateセラピー」やホリスティックヘルスケアの普及につとめている。
Web site ホリスティックヘルスケア研究所

 

大場 敬子(Keiko Ohba
ライター・エディター、漢方スタイリスト。北海道出身。自動車雑誌と美容専門誌にて7年の雑誌編集者を経験した後、化粧品メーカーのコピーライターに転身。出産を機に独立し、現在は化粧品ブランドの広告や心地いい漢方・薬膳ライフを広めるライターとして活動中。1児の母。

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