ヒモトレ介護術 第二回 「“たすきがけ”でめまいが消えた!」

| 浜島 貫

この記事は無料です。

「ヒモ一本でカラダが変わる」と話題のヒモトレ。中でも関心が高まっているのが、介護分野でのヒモトレの可能性だ。

そこでこの連載では、主に在宅医療の現場でヒモトレを活用している浜島治療院院長の浜島貫先生に、実際の使い方や臨床的な意義を紹介してもらおう。

ヒモトレ介護術

第二回 「“たすきがけ”でめまいが消えた!」

お話浜島 貫
文・取材・構成北村昌陽
監修小関 勲

 

みなさん、こんにちは。浜島貫です。

私は現在、自分が診療するほぼすべての患者さんに、ヒモトレを使ってもらっています。作用には個人差があり、大幅な機能回復が現れることもあれば、さほど大きな変化を認めないこともあります。

それでも全員に試してもらうのは、ヒモトレには副作用などのリスクがほとんどなく、コストや手間もごくわずかだから。最悪でも「何も起きなかった」であり、実際には、大半のケースで何かしらいいことが起きますから、試さない手はないでしょう。

今回は、当初、そんな軽い気持ちから始めて、大きな成果につながったケースをご紹介しましょう。88歳の女性Bさんです。

 

夏の脱水がきっかけで、認知症が進行した

Bさんはご主人(89歳)と二人ぐらし。5年ぐらい前から認知症が現れましたが、当初は要介護度1ないし2程度。入浴などにサポートが必要だったぐらいで、あとはおおむね普通に生活できていました。

ところが、一昨年の夏に脱水を起こして入院。それをきっかけに、症状が一気に進んでしまいます。歩けなくなり、ご飯もあまり食べられない。認知症も進み、会話もままならなくなったそうです。

さらに、ひざや足首に強い痛みが現れました。病院でいろいろな検査をしましたが、結局、原因は不明。手で触れるだけでも痛がるので、マッサージやリハビリなども難しい状態だったようです。

そういった状況があまり改善しないまま、退院。要介護度判定は5に引き上げられました。ご主人にしてみれば、奥さんが病気(脱水症)の治療で入院したら、寝たきりになって帰ってきたわけで、さぞショックだったでしょう

 

体を起こすと起きた「めまい」が、ヒモトレで消えた!

私がBさんのお宅へ初めて訪問したのは、その年の年末ころ。ちょうど、私自身がヒモトレに取り組み始めた時期です。

まず、ベットの上で座位を試みたのですが、体を起こすだけで息が切れ、強いめまいが起きるため、座っていられない。また、傾眠傾向があり、しっかり声をかけていないと、目を開けているのも難しい状況でした。

さて、どうしたものか。

とりあえず、何かの足しになればいい、ぐらいの軽い気持ちで、ヒモを巻いてみることにしました。当時はまだヒモトレを始めたばかりで、ヒモトレ用のヒモを持ち歩いていなかったので、ご主人の浴衣の帯を借りて、腰周りとたすきに巻いてみました

すると、上体を起こしてもめまいが起きないのです。大して期待をしていなかったので、正直、これには驚きました。

これなら、ヒモを巻けば、それまで全く手付かずだった機能訓練などのリハビリができます。そこで、まず座るところから始めて、立つ訓練、さらに歩く訓練へと進めました。装着するヒモは、最初は腰とたすきだけでしたが、様子を見ながらはち巻き、ひざ、足首などと追加していきました。

 

ヒモトレ入門
書籍『ヒモトレ入門』より、たすきがけ。

 

その結果、わずか数週間のうちに、ベッドのある部屋から出て、リビングまでの数メートルの歩行訓練が出来るようになったのです。ひざの痛みもいつの間にか消え、足の関節を動かすリハビリも、問題なくできるようになりました。

 

認知機能も改善、受け答えができるように

と同時に、表情や言葉の受け答えにも変化が現れてきました。例えば写真を撮ろうとするときに、カメラを見てピースサインのポーズなどを取ってくれるようになりました。

ヒモトレ
左がBさんと初めて会った頃。右がヒモトレを始めてから数週間が経ったBさん。顔の表情が明るくなりました。

 

先日も、リハビリを終えて帰るときに、「じゃあ、また来ますね」と挨拶をしたら、「いつまでも世話になってちゃいけないよね」なんて、妙に達者な返事が返ってきて、こちらが驚いたほどです。体が回復してくると、精神活動にも良い影響が現れる。やはり、体と心は一体なのだと実感させられました

最近は、食事もご自分で召し上がれるようになったそうです。以前はヘルパーさんが食べさせていたのですが、いまはご主人がベッドサイドに準備しておくと、調子のいい時は、スプーンを使って自分で平らげてしまうのだとか。

人間、食が戻ってくれば元気も出るものです。この先、Bさんがどこまで回復されるのか、楽しみです。

 

ヒモトレを使うと、機能回復などの変化が早くなる

Bさんがヒモを身につけるのは、私がBさん宅にいる15~20分の間だけです。ずっと巻きっぱなしの方が効果が高いのかもしれませんが、高齢のご主人と二人暮らしで、四六時中目が届くわけではない現状では、やはり巻きっぱなしは難しい。不測の事態が起きないとも限りませんから、私がいるときだけ巻くようにしています

訪問するのは週に1回ですから、わずか1週間に15~20分の装着で、これほどの変化が起きたことになります。

と、こんな話をすると、いかにも「奇跡的な効果!」などと大げさに持ち上げたくなるかもしれませんね(笑)。

私はもちろん、「すべてがヒモのおかげ」などと言うつもりはありません。在宅で行われている診察や看護、介護、そしてリハビリやマッサージ、機能訓練といった通常のメニューが、機能回復や縮退予防の中核を担っているのは、当然でしょう。

ただ、ヒモをつけた状態でこういうメニューを行うと、ヒモなしでやるより、変化が圧倒的に早いし、変化の幅も大きい。これが、私の実感です

高齢者のリハビリは通常、「残された機能をできるだけ活かす」という発想で行います。その前提として、どの機能が残っていて、どの機能は失われているかを評価するわけです。

ところがヒモを巻いてみると、もう失われたと思っていた機能が、動き始めることがある。前提が、変わってしまうのです。それがまるで“奇跡”のように見えるわけですが、実際は、その機能は失われたのではなく、なんらかの事情で力を発揮できない状態になっていたのでしょう。

Bさんの場合は、「めまい」「痛み」などの障害によって、体を起こすことや、会話が妨げられていた。でも、ヒモを巻くことでその障害が取れると、抑えられていた機能が働き始める。ヒモトレは、使い切れていなかった体の機能を引き出してくれるのです。そして、その状態でリハビリをするから、変化が早く現れるのだと思います。

 

自分の名前をしっかりと書けるまでに

最近のBさん訪問時のメニューはこんな感じです。まず、全身の状態を確認しながら、ヒモを装着します。少し会話をしながら、ベッドの上で座ってもらい、さらに立ち上がって、リビングまで歩きます。

装着するヒモは、まとめてベッドサイドに置いてあります。中央の紫色の帯状のヒモは、タスキ用として知人が縫ってくれた腰ひも。通常、ヒモトレには丸ヒモが推奨されていますが、実際に使ってみると、タスキならこのヒモでも問題なく働いてくれるようなので、これを使っています。

ヒモトレ
Bさんが使っているヒモは、100円ショップで売られているアクリル性のものや腰ひもなど、どれも身近にあるものばかりです。

 

日によっては、さらに機能回復メニューをやることもあります。Bさん本人に「もっとやる?」と聞いて、どうするかを選んでもらうのです。

先日は、ちょうどお宅にあった日本の歴史の本を開き、載っている顔写真を見て、名前を当てるゲームを、ご主人と3人でやりました。いざやってみると、Bさんの正答率が一番高く、ご主人と顔を見合わせて笑ってしまいました。

知らない人の写真でも、横の名前を読んで、答えるのです。自分でページをめくることもできていたので、「じゃあBさん、自分の名前を書いてみましょう」とペンを渡したら、なんときちんと読める字で名前を書いてくれました。これほどの力が残っていたのです

もちろん、状態は日によって変わります。いつも調子がいいわけではないし、会話が噛み合わなくなるときもある。そもそも、今の状態からリハビリを続けていっても、身体機能や認知機能が元のレベルまで戻るとは、正直、なかなか考えにくいでしょう。

それでも、これだけの力がまだあることが見られたのは、ヒモトレのおかげです。そして、そういう力を信頼して関係を築くことができるのは、やはり共に暮らす家族だからこそ、でしょう。

ご主人は最近、Bさんに、足首やひざを動かすリハビリ体操をやってあげるのが、毎朝の日課だといいます。いつもリハビリのようすを見ているうちに、やり方を覚えてしまったとのこと。以前は、足に触れるだけで痛がってできませんでしたが、痛みが消えた今は、できるようになったそうです。

痛みが取れて、普通に会話できるのが、うれしいね。病気から脱却できたような気分になれた

ご主人は、今の気持ちをこんなふうにおっしゃっています。こんな家族の関係を支えるのも、ヒモトレの大事な役割なのです。

著者とのツーショット。“たすき”と“はちまき”“腰ひも”を試してもらっています。

(第二回 了)

注意:この連載では実際に浜島先生が現場でヒモトレがどのように使われているかをご紹介しています。ただ、実際の使用にあたっては、必ずご本人を含めた関係各位の同意の上、慎重に行ってください。また高齢者や障がいをお持ちの方が行う際には、必ず付き添い者の同伴が必要です。席を外すときは、必ずヒモを外すように注意してください。

 

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–Profile–

浜島先生

浜島貫(Totu Hamashima
1976年生まれ。浜島治療院院長。浜島整骨院副院長。鍼灸マッサージ師。柔道整復師。 公益社団法人埼玉県鍼灸マッサージ師会理事。井穴刺絡頭部刺絡学会理事。現在、在宅医療にも力を入れており、個人宅などを訪ねて鍼灸治療やマッサージ、リハビリなどを行っている。そうした取り組みの中で、ヒモトレを活用。腰痛予防対策や介護施設の職員、デイケアなどに通う高齢者に向けたヒモトレ講習会も実施。

ご連絡先:hamashima.in@gmail.com

 

小関 勲 (Isao Koseki
ヒモトレ発案者/バランストレーナー 1973年、山形県生まれ。1999年から始めた“ボディバランスボード”の制作・販売を切っかけに多くのオリンピック選手、プロスポーツ選手に接する中で、緊張と弛緩を含む身体全体のバランスの重要さに気づき指導を開始。その身体全体を見つめた独自の指導は、多くのトップアスリートたちから厚い信頼を得て、現在は日本全国で指導、講演、講習会活動を行っている。
著書『[小関式]心とカラダのバランス・メソッド』(Gakken刊) 小関アスリートバランス研究所(Kab Labo.)代表 Marumitsu BodyBalanceBoardデザイナー
平成12〜15年度オリンピック強化委員(スタッフコーチ) 平成22〜25年度オリンピック強化委員(マネジメントスタッフ)日本体育協会認定コーチ、東海大学医学部客員研究員・共同研究者、日本韓氏意拳学会中級教練

MARUMITSU(まるみつ)
Kab Labo.