連載 本気でトラウマを解消したいあなたへ 第一回 トラウマの鍵を握るのは、身体です。

| 藤原ちえこ

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「トラウマ」という言葉からは、何を連想されるでしょうか。震災や戦争といった“大きな出来事”の当事者が受けた“心の傷”、またはそれにともなう症状(フラッシュバック、うつなど)を思い起こす方が多いのではないでしょうか。

ですがトラウマセラピストの藤原ちえこさんは、

「トラウマ反応は、心ではなく、まずは身体で起こるもの。そして出来事の大小にも、それを直接体験したかどうかにも、必ずしも関係がないのです」

とおっしゃいます。ここでは、

  • 本当のところ、トラウマとは一体何なのか
  • トラウマからはどうすれば回復可能なのか

を、お伝えしていきます。トラウマからの回復をのぞむ、“あなた”のための連載です。

トラウマイメージ

ココロの傷は、カラダで治す

本気でトラウマを解消したいあなたへ

第一回 トラウマの鍵を握るのは、身体です。

文・写真藤原ちえこ(写真提供は☆のみ)

 

初めまして。トラウマセラピストの藤原ちえこです。

普段は札幌の小さなカウンセリングルームで、うつや不安、パニックなどの多様な症状に苦しむ方や、
人間関係や子育てに悩む方、よりよく生きていきたい方など、さまざまなクライアントさんを相手に日々セラピーを行っています。

この連載では、言葉だけは誰もが知っている「トラウマ」について、

  • 本当のところ、トラウマとは一体何なのか?
  • トラウマからはどうすれば回復可能なのか

について、できれば「日本一、分かりやすく(笑)」、みなさんにお伝えしていこうと思っています。

 

トラウマって、つまるところ、一体何なの?

「トラウマ」と聞いて、みなさんは何を連想しますか?

戦争、レイプ、地震、虐待……といった、トラウマを引き起こしそうな出来事のことを連想する方がいるかもしれませんし、

フラッシュバック、パニック、悪夢……といった、トラウマを受けた人が苦しむさまざまな症状のことを連想する方もいるかもしれません。

このようにトラウマは、それを引き起こす原因から語られることもあるし、

トラウマを受けた後に起きる症状から語られることもあります。

要するに、かなり説明が曖昧というか、幅広いのです。

というよりも、トラウマは非常に複雑なものと考えられているので、なかなか短い言葉で定義づけることは難しいのかもしれません。

この連載ではまず、トラウマをごくシンプルに定義するところから始めたいと思います。

私は、トラウマとは、

(急性の)ストレスに対する人間の身体の自然な反応が、解消されずに心身にとどまっている状態

だと考えています。

つまり、どんな出来事でも、

その人の身体がそれをストレスだと感じれば、

そして、そのストレスに対する身体の反応が解消されていなければ、

それがトラウマになりうるということです。

よく「心の傷」という言われ方をしますが、実際にはトラウマ反応は、まずは身体で起こるものです。

心の傷は、身体のストレス反応により二次的に生じるもの(身体で受けたショックに頭が意味を与えようとして生まれたもの)だと、私は考えています。

 

トラウマ=出来事ではない

トラウマというとふつう、最初に挙げたような、非常にショッキングで明らかに命を脅かすような出来事“だけ”を連想してしまいがちですが、実は、トラウマを引き起こすかもしれない出来事は、無数にあります。

実をいうと、トラウマは、

その出来事を直接体験したかどうかにも、

出来事の大小にも、

必ずしも関係がないのです。

具体的な例を一つ、挙げてみたいと思います。

東日本大震災にまつわる話です。

私は、ロックバンドのスピッツが大好きです。

覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、

スピッツのボーカル、草野マサムネさんは震災をきっかけに急性ストレス障害を発症し、全国ツアーを一部キャンセルされました。

彼は直接被災したわけではないそうですが、震災後、テレビで繰り返し報道される津波や原発の映像を見ているうちに過度のストレスを感じ、3週間の療養を余儀なくされたということです。

その一方で、震災時に津波に襲われてぎりぎりのところで救助されたにもかかわらず、その後特に症状に悩まされることもなく通常の生活に戻っていった人も、たくさんいます。

このように、同じ出来事を体験してもそれがトラウマにならない人がいる一方で、出来事の映像を見ただけでトラウマ症状を発症してしまう人もいます。

(ちなみに東日本大震災時には、遠く離れたヨーロッパでも、震災の映像を見て急性ストレス障害を発症した人がいたそうです)

震災は、誰もが納得する大災害ですが、他の人が見たら「えーっ、まだそんなことを引きずってるの?」と思ってしまうような、はるか昔に起きた一見ごく些細な出来事をきっかけに、様々な症状に悩まされているという人も珍しくありません。

上述したように、トラウマ=出来事ではないからです。

なので、ある出来事に対して非常にショックを受けている人に対して、

第三者が、「こんなことでショックを受けるなんて、あなたどうかしてるよ」とは決して言えないということです。

 

トラウマは、時間が解決しない

そして、たとえそのショッキングな出来事が、何十年も前に起きたことだったとしても、他の人が、「まだそんなことで悩んでるの?もう昔のことだし、忘れなよ」と言うことも絶対にできません。

なぜなら、トラウマは、時間が解決しないからです。

そのストレスに対する身体反応が解消されずにトラウマとしてその人の心身にとどまっている限り、

フラッシュバック、不眠、不安、パニックなど、さまざまな形でその人を苦しめ続けるものだからです。

トラウマイメージ
それに、自分がトラウマのきっかけになったと思っている出来事よりも前に、実は別のもっとストレスフルな出来事に遭遇していたという可能性も大いにあります。

「出来事を覚えていない」というのも、トラウマの立派な症状の一つだからです。

トラウマと記憶の関係については、そのうち連載の中で詳しくお話ししたいと思います。

 

あなたは一人ではありません

トラウマ症状に苦しむ人が、自分のことを周囲の人に理解してもらうのは、難しい場合が多いです。

もしかしたらこの文章の読者のなかにも、誰かに相談しても、上のようなことを言われたり、

「気のせいだよ」「気にしなくていいよ」などと言われたりして、がっかりしてしまった方もいるのではないでしょうか。

周囲の理解がないために、トラウマを受けた人はどんどん孤立してしまうことがあります。

「私の感じていることは、誰にも分からないんだ」と絶望している人も多いかもしれません。

この連載は、そんなあなたに届くことを願って書いています。

あなたは、決して一人ではありません

あなたが感じていることは、決して異常なことでも何でもないのです。

私があなたに直接お会いすることはないかもしれませんが、

私の気持ちは、いつもあなたと一緒です。

そして、あなたへのサポートは、必ずこの世界に存在します

この連載を通じて、あなたをそうしたサポートにつなげていくきっかけを作るのも、これを書いている私の目的のひとつでもあります。


この連載では、トラウマから回復するためのヒントを、毎回少しずつみなさんにお伝えしていこうと思っています。

よろしければどうぞ、おつきあいくださいね。

 

〜ちえこの札幌だより 001〜

写真(☆)提供:著者

今年の札幌は、例年よりも本格的な冬の到来が早いです。

11月半ばには早々にドカ雪に見舞われ、気温もあっという間に連日マイナスになりました。

冬の札幌で何が大変かというと、通勤です。

バス、マイカーなど通勤に自動車を使う人は、夏より30分は多く通勤時間を計算する必要があります。

道路が大渋滞するせいもあるのですが、特にマイカー通勤の人が苦労するのが、車の雪下ろしです。

夜中に大雪が降った翌朝は、車が大抵こんな状態になってます。

雪を払わないとドアも開けられない……ということもしばしばです。

本州育ちの私には、それもまた楽し!

(第1回 了)

 

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–Profile–

撮影:丸山 嘉嗣

藤原 千枝子(ふじわら ちえこ

MA、カリフォルニア州公認サイコセラピスト(MFT)、臨床心理士。

大阪大学人間科学部を卒業後、朝日新聞に入社。記者時代、転勤うつの発症と、青少年の凶悪犯罪の取材経験から生き方を考え直し退職。英国でシュタイナー教育を学んだ後、サンフランシスコのカリフォルニア統合学研究所(CIIS)でカウンセリング心理学修士号取得。現地の日系カウンセリングセンターやホームレス支援のNPOなどで心理セラピストとして勤務。05年2月に帰国し、札幌にカウンセリングルームを開く。

米国でのホームレス支援時代、彼らの抱えるトラウマのあまりの深刻さに、会話だけによるセラピーの限界を感じ、身体心理療法の探求を深める。ハコミセラピー、ソマティック・エクスペリエンス(SE)など、さまざまな心とからだの癒しの研鑽を積む。カリフォルニアで学んだ世界最先端の心理学と、神経生理学的な観点からのトラウマ療法を融合したオリジナルなメソッドを生み出す。

これまでに、国内外の1000人を超えるクライアントに、計9000件以上のセッションを対面とオンラインで行なう。「長年の抗うつ剤服用が3ヶ月でやめられ、職場復帰を果たす」「重い化学物質過敏症の症状が消失」「ずっと抱えてきた希死念慮がなくなる」など、クライアントからの喜びの声多数。

長年セラピストや医者めぐりをしても症状が消えなかった人々が癒されていく瞬間に日々立ち会うことが一番の生きがいである。野望は世の中から性暴力をなくすこと。趣味はカフェめぐりと、数年前に始めたギター。

カリフォルニア州公認サイコセラピスト(Marriage and Family Therapist, MFC41473)

臨床心理士(登録番号15771)
ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー(SEP)
Art of Feminine Presence (AFP) 認定ティーチャー

著書 『本気でトラウマを解消したいあなたへ』(日貿出版社)

訳書 『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房)
共著 『ソマティック心理学への招待—身体と心のリベラルアーツを求めて』(コスモス・ライブラリー)、『トラウマセラピー・ケース ブック』(星和書店)

website:プレマカウンセリングルーム
blog:明るい鏡~本当のわたし、そしてあなたを映し出す
メルマガ:藤原ちえこの気まぐれ通信