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「バランス」に着目し、独自の指導を行っているバランストレーナー・小関勲氏と、古伝の日本の武術を探求しつつ独自の技法を展開している武術研究者・甲野善紀氏。お二人の元には、多くのオリンピック選手やプロスポーツ選手、武道関係者に音楽家までもが、時に“駆け込み寺”として教えを請いに訪ねて来られます。
そんなお二人にこの連載では、一般的に考えられている身体に関する”常識”を覆す身体運用法や、そうした技の学び方について、お二人に語っていただきました。
十数年に渡って親交を深めてきた二人の身体研究者が考える、身体のコツの見つけ方とは?
第五回は、子どもの絵本の読み方とサッカーの岡崎慎司選手のエピソードから、本質的な稽古とは何かという話になりました。甲野先生の言う「努力することは、いやらしい」という発言は、いったい、どういう意味なのでしょうか?
カラダのコツの見つけ方
第五回 「努力することはナンセンス?」
語り●甲野善紀、小関勲
構成●平尾 文(フリーランスライター)
それぞれの「見るゾーン」
コ2編集部(以下コ2) 学校の先生がお二人に、「教え子がこういうことができないんです」と相談に来たとき、お二人が「こうやったらどうですか」とアドバイスをしても、学校の先生にはうまく実践できないということもあると思います。なぜそうしたことが起こるのでしょうか
小関 偉そうに言えないですが、多分、見るゾーンが違うんだと思います。
コ2 見るゾーンですか?
小関 はい。見るゾーンとは、物事の起点から結果までの時間の幅の、どこを見るかということですね。例えば、光岡英稔先生と最初お会いした時のことです。何かの稽古会で、ある人の動きを光岡先生と見ていたとき、動きのどこを見ているかという話になりました。光岡先生が言うには、
「私たちはよく結果を見ている」
そうです。
技を受けて、人が飛んでいったとか、崩されたとか、そういう結果を。
光岡先生は「見るのはそこじゃない、行う前のここが大事だ」と仰っていました。つまり、「動作の起こり・現象の前が大事だ」ということですね。その言葉を聞いて、僕は「なるほど」と思いました。人が飛んで行った、崩されたという結果は、凄く分かりやすいポイントですが、大事なのは、それがどうやって作り出されているのか。
しかし、この見るゾーンというのは、自分の中での感覚が育っていないと分からないかもしれません。形や表面だけをなぞって何とかしようと思っても、動きの質というものは変わらないと思います。
コ2 確かに、自分は物事のどこを見ているのかという観点は、学ぶ上で重要なポイントですね。
小関 子どもって、同じことを何回も繰り返したりしますよね。例えば、同じ絵本を何回も見たりするじゃないですか。これは、先ほども話に出た(連載第四回「ものを見る能力」)、見取り稽古だと思うんです。
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–Profile–
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●甲野善紀(Yoshinori Kouno)
1949年東京生まれ。78年松聲館道場を設立。日本の武術を実地で研究し、それが、スポーツ、楽器演奏、介護に応用されて成果を挙げ注目され、各地で講座などを行っている。
著書に『表の体育 裏の体育』(PHP文庫)、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫)、『武道から武術へ』(学研パブリッシング)、『古武術に学ぶ身体操法』(岩波現代文庫)、『今までにない職業をつくる』(ミシマ社)、共著に『古武術の発見』(知恵の森文庫)、『武術&身体術』(山と渓谷社)、『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(ディスカバー・トゥエンティーワン)など多数。
Web site: 松聲館
Twitter 甲野善紀