漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策 第八回

| 平地治美

2020年初頭から世界的災厄としてその名を聞かない日はないコロナウイルス(COVID-19)。

ワクチンを含む様々な対応が登場する一方で、そもそも論としてコロナが発症するかしないかに大きく関わる免疫力に注目が集まっています。

そこで本連載では、コ2で「やさしい漢方入門・腹診」を連載された平地治美先生に、漢方からできるコロナ・感染症対策をご紹介いただきます。

やさしい漢方入門 

漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策

第八回 「厳しい局面の始まり“陰病”」

平地治美

 

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これまでは太陽、陽明、少陽、「陽」という字がつく病のステージはまとめて三陽病でした。

このステージは病邪の勢いよりも自然治癒力が強く、激しい戦いをすることもできる時期でした。

ですが、これから解説する「陰」という字がつく太陰病、少陰病、厥陰病の三つの陰病のステージでは形勢が逆転し、病邪が優勢になってきます。

自然治癒力が低下する陰病では戦う力が弱くなり、症状も沈んだ感じで冷えを伴うようになってきます。

太陰病は陽病で病邪との闘争反応に負けて体外に追い出すことができず、侵入してしまった風寒の邪が裏(消化管)にある状態をいいます。

新型コロナウィルスでいえば、症状が落ち着いたものの、「倦怠感や後遺症の味覚障害などが残っている時期」に相当することが多いようです。

あるいは抵抗力が弱い高齢者や基礎疾患が有る人の場合、いきなり陰病からスタートする場合もあります。

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太陰病とはなにか?

「太陰病」は陰病の始めのステージです。病態は主に脾(消化器系)の機能低下と冷えで、『傷寒論』では太陰病の全体像について次のように書かれています。

太陰之為病、腹満而吐、食不下、自利益甚、時腹自痛、若下之、必胸下結鞕

【訓読】
太陰の病為る、腹満して吐し、食下らず、自利益(ますます)甚しく、時に腹自(おの)づから痛む。若し之を下せば必ず胸下結鞕(けっこう)す。

【訳】
太陰病はお腹が張って吐き、食べたものが消化せず、下痢し、時に腹痛する。もし下剤をかければ胸がつかえた結鞕(けっこう)という状態になる。

病変の中心が裏(消化管)にあるのは陽明病と同じなのですが、熱が裏にこもっていた陽明病と大きく違うのは「冷えてくる」という点です。主な症状としてはお腹が張り、

  • 消化不良や食欲不振
  • 下痢、便秘
  • 腹痛

が起こります。冷えているので、陽明病のような口渇はありません。

この時に下す、つまり下剤をかければ、邪が行き所を失い悪化して胸が痞(つか)えたような感覚を伴う、結鞕(けっこう)という状態になります。ですので、絶対に下剤をかけてはいけません

従って治法も同じお腹の症状でも、陽明病の攻下(急いで下剤をかける)に対し太陰病は温める治療、と全く異なります。

基本処方は、桂枝加芍薬湯、小建中湯、人参湯などです。

同じ太陰病期でも、その病態は細かく分かれますので、どの方剤を使うかは慎重に吟味が必要です。

弱っている身体に補気、補陰等を行い身体の戦う力を回復させます。

命からがら逃げてきた、落武者の手当てをして次の戦いに備えるようなイメージです。

 

桂枝加芍薬湯について

桂枝加芍薬湯を構成する生薬は、芍薬(シャクヤク)、桂皮(ケイヒ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)です。太陽病で最初に登場する処方「桂枝湯(ケイシトウ)」の中の、芍薬(シャクヤク)の配合量を倍に増した漢方薬と言えるでしょう。

芍薬には、「陰を増す」つまり身体に必要な体液を補い潤わせる効能があります。その他にも、筋肉の痙攣を緩和させて消化管の筋肉の働きがスムーズし、腹満や腹痛をはじめとした胃腸の症状が改善されます。

桂枝加芍薬湯の効能は、

  • 腹痛
  • しぶり腹

などです。自律神経を伴う病気には過敏性腸症候群などストレスが要因であるものが挙げられますが、桂枝加芍薬湯の効能はこういったストレス性の改善を期待することができます。

過敏性腸症候群は、慢性的な下痢や便秘を繰り返す疾患のことで、自律神経の乱れによる症状なだけに大腸や小腸から原因を特定することはできません。

これは、ストレスで自律神経が乱れて腸が痙攣して、腸の働きが鈍くなっているためです。

また、近年では病院でも漢方を処方される患者さんが増えていて、「芍薬甘草湯」を処方されている患者さんに多く出会います。主に「夜寝ている時に足がつる」という症状に対して処方されることが多いようです。

漢方的に考えると、「足がつる」という症状は「うるおいの不足で栄養が行き渡っていないから」となります。芍薬と甘草の2種類から構成されるこの処方は、足のつりにもよく効くのです。

また、芍薬甘草湯には気の廻りを調整する桂皮、栄養を与え元気を増す大棗、温めて胃の働きを助ける生姜が加わっています。そのため内臓を含む全身の筋肉や血管の働きがスムーズになり、結果的に体が温まります。

小建中湯について

桂枝加芍薬湯に膠飴(コウイ)を加えた処方が小建中湯です。

煎じ薬の場合は、桂枝加芍薬湯を煎じ、最後に膠飴をドボンと入れて溶かします。

桂枝湯→芍薬を倍増=桂枝加芍薬湯
桂枝加芍薬湯+膠飴=小建中湯

と考えればいいでしょう。膠飴はデンプンやイネ科のイネの種子などを糖化して飴状にしたもので、その成分は麦芽糖です。

乳児の便秘の薬てとして市販されている「マルツエキス」は、膠飴と同じ成分です。穏やかな発酵作用により腸内環境を整えて便通をつけるので、子供だけでなく大人でも効く人がいます。

「学校や会社に行く前にお腹が痛くなる」という場合は、緊張によりお腹の筋肉が痙攣をおこしていることが多いようです。そのようなときに小建中湯を飲むと、緊張が和らいで精神が安定し、結果的に食欲が回復して元気になっていきます。

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陰病とセルフケア

陽病の時期は「わずかな発汗により病邪を体外へ追い出す」という方法が採られました。体も熱が旺盛なことが多く、発汗させ過ぎをしないように注意喚起がなされていました。

そのため鍼灸、とりわけお灸に関しては、やり過ぎないような注意を促す条文がほとんどです。理由は発汗させすぎて脱水状態になると病が悪化するからです。

しかし、陰病になると「急いでお灸などで温めなさい」というような表現が増えてきます。理由は冷えることによりさらに自然治癒力が弱まるのを防ぐためです。

ですので、体を内外から温めるセルフケアが重要になってきます。そのためには、

  • 温かいものを食べる
  • 飲む体を温める性質の食材を取り入れる
  • 足湯をする
  • お腹を温める
  • お灸をする

などの養生が必須になります。

温めるといっても、熱すぎるお湯での入浴や長風呂は体力を消耗しますので逆効果です。汗をかくことは、より体力を低下させますので気をつけなくてはなりません。特に冬場に入浴中の事故が増えますので、体が温まったら終えるくらいが丁度良いのです。

最近サウナが流行していますが、高温サウナで大量に発汗することは危険であり、実際に患者さんの中にも倒れた方がいらっしゃいました。

おすすめは膝下まで浸かるくらいの足湯です。

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足の内側は脾経、肝経、腎経が通っており、そこを温めれば体全体に温かい血が行き渡ります。 お勧めは大きめのバケツに少し熱めのお湯を張って20分程度温めます。

腰痛などで足湯の用意をすることができない場合は、遠赤外線を使用する足温器などを使用するのも良いでしょう。

お湯を入れたり捨てたりする手間が無いので腰痛などがある場合でもいつでも使うことができます。足を温めるようになって風邪を引きにくくなったり、腰痛や膝の痛みが緩和されることもあります。

冷えが強くなってくる陰病では、水分のとり過ぎや甘いもの、果物の食べ過ぎも要注意です。胃腸の力が落ちて水分が滞りやすくなっているので、むくみがひどくなりその水が保冷剤のようにさらに体を冷やす、という悪循環が生まれてしまいます。

もともと冷えが強い人に限って、果物や甘いものが好きなことが多いものです。

そのような人は体内に余分な水が滞った状態で、体中に保冷剤が貼り付いているようなものですので、水はけを良くして温める必要があります。

水が多い反面、筋肉量は少ないことが多く、体を動かしてタンパク質を優先してとるようにしていただくと、徐々に筋肉がついて温まりやすいカラダになっていくことが多いようです。

(第八回 了)

※著者の平地先生がyoutubeで「平地治美・漢方チャンネル」を開設!生活に活かせる漢方情報を公開しています。ぜひご覧ください!

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–Profile–

平池治美先生

平地治美(Harumi Hiraji

1970年生まれ。明治薬科大学卒業後、漢方薬局での勤務を経て東洋鍼灸専門学校へ入学し鍼灸を学ぶ。漢方薬を寺師睦宗氏、岡山誠一氏、大友一夫氏、鍼灸を石原克己氏に師事。約20年漢方臨床に携わる。和光治療院・漢方薬局代表。千葉大学医学部医学院非常勤講師、日本伝統鍼灸学会学術理事。漢方三考塾、朝日カルチャーセンター新宿、津田沼カルチャーセンターなどで講師として漢方講座を担当。2015年1月『やさしい漢方の本 舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで健康になる! 』『やさしい漢方の本 腹診入門』『漢方薬剤師が教える 薬のキホン』(日貿出版社)出版。 

著書

『漢方薬剤師が教える 薬のキホン』(日貿出版社)
『やさしい漢方の本 腹診入門(日貿出版社)
『やさしい漢方の本 舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで 健康になる(日貿出版社)』
、『げきポカ』(ダイヤモンド社)

書籍『やさしい漢方の本 さわれば分かる腹診入門』
『やさしい漢方の本 腹診入門』『漢方薬剤師が教える 薬のキホン』(日貿出版社)

個人ブログ「平地治美の漢方ブログ
Web Site:和光漢方薬局
youtubeチャンネル「平地治美・漢方チャンネル」