漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策 第七回

| 平地治美

2020年初頭から現在(2020年12月)に到るまで、世界的災厄としてその名を聞かない日はないコロナウイルス(COVID-19)。

ようやく待望のワクチンが登場する一方で、そもそも論としてコロナが発症するかしないかに大きく関わる免疫力に注目が集まっています。

そこで本連載では、コ2で「やさしい漢方入門・腹診」を連載された平地治美先生に、漢方からできるコロナ・感染症対策をご紹介いただきます。

やさしい漢方入門 

漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策

第七回 「一進一退、小康状態の少陽病」

平地治美

 

Image: iStock

 

激しい戦いの陽明病が終わると、次の段階は少陽病です。

陽明病では邪気も正気も勢いが最も強く、激しい戦いが繰り広げられました。少陽病ではその勢いは弱くなり、お互いに様子を見ながら一進一退している、というような状態です。

発熱したかと思うと悪寒がやってくる という、「往来感熱(おうらいかんねつ)」と呼ばれる状態が続きます。

傷寒論における少陽病篇の条文は10箇条のみですが、これは少陽病が重要ではない、このような状態になることが少ない、ということではありません。すでに太陽病篇で少陽病のことが説明されてしまっており、重複を避けるために短くなっているのです。

実際は薬局にいらっしゃる患者さんには少陽病の病態はとても多いのです。

 

少陽病の体での部位

経脈では足少陽胆経手少陽三焦経を指し、体の側面を走っています。

四つん這いになったときに光が当たる頭の後ろから背面を 太陽膀胱経が走行し、陽明胃経は内側の腹部を走行しています。 少陽胆経は体の側面を走行し、位置的にもちょうどこの両者の間で連絡しています。そのため、少陽は「枢(くくる)」と言われています。枢とは〝ドアを開閉する回転軸となるところ〟という意味で、かんじんなところ、かなめという意味でも使われます。どちら側にも開くパタパタの ドアを通って邪が行ったり来たりするイメージです。

そのため、半表半裏と表現される位置に邪が停滞します

少陽三焦経(左)と少陽胆経(右)。

 

この「半表半裏」という表現は傷寒論にはありませんが、後世に作られ日本漢方では特によく使われています。先ほどのドアを行き来するように、表の症状である発熱や悪寒と裏の症状である胃腸症状が現れるからでしょう。

太陽病から陽明病では風邪やインフルエンザなどでも高熱などで症状がひどく外出出来ず、あるいは緊急の検査や処置が必要で病院を受診されることが多いのですが、拗れてきた段階のこの少陽病では、西洋医学の薬では対処できないことが多いのです。発症してから1週間以降といったところでしょうか。

高熱ではなく微熱が続き、あるいは寝汗をかくようになります。解熱剤などを服用してなんとか学校や会社に通っているケースが多くなり、薬局にいらっしゃるわけです。

 

現れる多彩な症状

少陽病では多彩な症状が現れます。

新型コロナウィルスの流行し始めの頃、疑わしい症状が有ってもPCR検査を受けられず、薬局へ相談にいらっしゃる方が多かった時期がありました。

その中で1番多かったのがこの少陽病期の患者さんでした。

少陽病の症状としては、

  • 微熱が続く
  • 発熱、悪寒が繰り返しやってくる
  • 口が苦い
  • 味がわかりにくい
  • 口が乾く
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 目眩 
  • イライラ
  • 尿が出にくい

傷寒論の少陽病全体を表す条文には、

「少陽の病たる、口苦く、咽乾き、目眩(めくる)めくなり」

とあります。

胃腸に邪が停滞して水分代謝が滞り、肝、胆の働きも阻害されるために胆液が上逆して口が苦く感じたり、内部にこもった熱のため口が乾くこともあります。イライラするのも肝や胆の働きが阻害されるからです。

水分代謝が悪い「水滞」の状態になり、それが体の上部を襲えば目眩になりますが、心に行けば動悸がします。あるいは尿が出にくいなどの症状になります。

舌には白く厚い苔がつくようになります。さらに熱が籠るとこの苔が黄色っぽくなります。

少陽病の特徴は「往来寒熱」です。

衛気はまだ体表で小競り合いを続けているので悪寒を生じ、体内には邪正相争で生じた内熱が籠もって表にに出られません。悪寒、発熱・熱感の繰り返しがみられるのです。

気の停滞による食欲不振・悪心・嘔吐・腹痛などの消化器症状、胆火による口苦・イライラ目眩・咽痛、津液の流れも滞り、小便不利・口渇が起こります。

さらに滞った水が上に向かって心を衝き上げると動悸が、肺を衝き上げると咳を生じるなど、このように少陽病では多彩な症候が現れます。

 

少陽病の治療法「和法」と「小柴胡湯」とは?

太陽病ではわずかに発汗させることで汗と共に邪を追い出す「汗法」、陽明病では下剤をかけて 消化管から便とともに熱邪を出す「下法」を 使うことができました。しかし、 少陽病ではこのどちらも使うことができません。思い切った方法は使えないのです

そこで少陽病では「和法」という治療法を用います。邪をなだめて大人しくなってもらって、退散していただくのです。

少陽病理解するには、少陽病を理解するためには、代表処方である小柴胡湯(ショウサイコトウ)の病態について理解することが必須です。

小柴胡湯の効能・効果

体力中等度で、ときに脇腹(腹)からみぞおちあたりにかけて苦しく、食欲不振や口の苦味があり、舌に白苔がつくものの次の諸症:

食欲不振、はきけ、胃炎、胃痛、胃腸虚弱、疲労感、かぜの後期の諸症状などが現れます。

少陽病の症状は多岐に渡るため、

「柴胡の証あり、ただ一証をみればすなわち是、必ずしも悉く具えず」

つまり、いくつかの症状がみられれば小柴胡湯の証とみなしてよいということです。

小柴胡湯の主薬は柴胡で炎症を抑えながら緩やかに邪を排除します。
黄芩は苦寒の性質で、胆にこもった火を清します。
半夏は消化管の水を捌き、生姜とともに胃の働きを回復させます。
人参により消耗した気と津液を補い残った邪を追い出すのを助け、
大棗・甘草・生姜は中焦を補い邪が裏へ侵入するのを防止します。

全体で邪を緩やかに排除することを主とする一方で、正気を補うことにも配慮して胃気を和しています

小柴胡湯は陽明病でも使う場面がありますが、その治り方は次のように書かれています。

「上焦は通ずるを得、津液は下るを得、胃気よりて和し、身に濈然と汗出で解す」

この汗・吐・下によらず邪を除く治療法を「和法」と言うのです。

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壊病について

「本(もと)太陽病、解せず、転じて少陽に入る者は、脇下鞕満し、乾嘔して、食すること能はず。往来寒熱す。尚未だ吐下せず、脈沈緊なる者は、小柴胡湯を与ふ。若し已に吐下し、発汗し、温針すれば、譫語して、柴胡湯の証罷む。此れを壊病と為す。何れを犯せるの逆なるかを知り、法を以て之を治す。」

少陽病の治療法を誤って拗れると厄介なことになります。

誤った治療法により病気が拗れた状態を漢方では「壊病(えびょう)」と言います

糸が絡まってこんがらがった状態で、本来の状態からかけ離れ、治療がしにくい状態です。どのような間違いを犯したのかを原因を突き止めて治療するようにとあります。

少陽病では発汗や下剤による治療を行ってはならないのですが、それをやってしまい拗れた状態になることはよくあります。以下によく見られる間違いを紹介すると、

  • 厚着
  • 誤った処方(葛根湯や麻黄湯など)による発汗
  • 「温針」は鍼灸では灸や灸頭針が該当しますが、温泉や温熱治療、低周波なども含め、温める治療全般は要注意
  • 岩盤浴
  • 長時間の入浴、半身浴
  • サウナ
  • 運動による発汗(特にホットヨガなど)

などです。基本的に体を温めるのは厳禁で、内熱が燃え上がり悪化することもあるので要注意です。一般に「寒気がする」と「体を温める」とされていますが、すでに拗れている状況ではかえって悪化させるので注意が必要です。

ここで実際に筆者が対応した少陽病の症例を紹介しておきましょう。※患者さまのプライベートに配慮して一部事実関係は変えています。

20代男性
37°代の微熱が2年近く続きとても疲れ、休日は何も出来ない。思い当たる原因は何も無く、社員旅行で温泉から帰ってきて数日後に発症した。

病院は大学病院を含め3件で検査したが異常なしと診断された。解熱剤とビタミン剤を処方されたが効果なし。治療法が無いため整体や鍼灸にも3ヶ月ずつ通ったが、ますます悪化した気がする。

重大な病気なのではないかといつも心配でイライラすることもある。

病院で処方された漢方薬(十全大補湯)も試したが効果がなく、むしろ吐き気がひどくなった。専門の漢方薬局で煎じ薬を処方してもらったらどうかと家族に勧められて来局した。

(所見)

  • 疲れ切った様子で、目の下のクマが目立ち、顔は浮腫んだ感じがする。
  • 舌は白い苔がベッタリとついている。
  • いつもムカムカして胃の調子が悪いが無理して食事を詰め込んでいる。

ビギナーズラック? 小柴胡湯で症状改善!

この患者さんは私が漢方を始めて数ヶ月の時にいらっしゃいました。まだほとんど患者さんの相談に乗る経験が無かった頃で、せいぜい入浴剤やお茶にする民間薬を販売するくらいが私の仕事でした。

当然、このような難しい症状の方は経験豊富な先輩方にお任せするのですが、なぜかその時は私しかいなかったため、逃げ出したい気分で対応させていただきました。

“往来寒熱、目眩、吐き気というのは最近習った小柴胡湯の症状に当てはまるな”と思い、2週間分調剤してお渡ししました。通常は1ヶ月分販売するのが決まりでしたが、次回はベテランの先輩が対応しますのですみませんという感じでした。

1週間後にお電話をいただきました。“もしかして苦情かも?”と思ってドキドキしながらお話を聞くと、なんと「1週間足らずで全ての症状がなくなってしまった」とおっしゃるのです。昨日は数年ぶりにトンカツが食べたくなり、美味しく召し上がったとのことでした。

まさにビギナーズラックでしたが、小柴胡湯について理解を深められた経験でした。このように患者さんから学ぶのが一番の勉強になり、患者さんは一番の先生とも言えます。

それ以来小柴胡湯が好きになった私は、自分自身が風邪を引き、不養生から太陽病で阻止出来ずにいつの間にか少陽病期に突入してしまった際に小柴胡湯を服用してみました。

胃がムカムカして舌には白い苔、微熱が有りだるい、という教科書どおりの小柴胡湯の証です。服用して2時間経った頃、汗がジワリと滲み出ると共に、胃の不快感がスッと下に降りるような感覚がありました。あ、これで治ったなと思いました。なんと鮮やかに効くのだろうと感動しました。

さらに実験を重ね(自分の体なのでやりたい放題です)、やってはいけない治療である発汗や下剤を用いたら本当に傷寒論のようになるのだろうか?

と疑問に思い、小柴胡湯を服用すべき時に下剤(大黄)を服用してみました。すると下痢が止まらなくなり、トイレからやっとの思いでベッドに戻り数時間力が入らず起き上がれなくなりました。

 

忘れられない「小柴胡湯事件」

大好きな小柴胡湯が、1996年に新聞の一面を大きく飾りました。

なんと小柴胡湯の副作用により10人が死亡したというのです。この報道を受けて「私が服用しているものは大丈夫か?」という問い合わせで薬局の電話は鳴りっぱなしになりました。

それまで小柴胡湯は慢性肝炎・肝機能障害に広く用いられていました。有効性を証明する論文が発表された後、肝炎に効く西洋薬がこれといってなかったため、漢方の安全なイメージも有り小柴胡湯の使用者は100万人にも及びました。これだけ使用者が増えれば副作用もでるはずですが、安全と思われていた漢方薬によって死者がでたので問題となったのです。

小柴胡湯はそもそも傷寒という感染症の少陽病という限られた時期の薬ですから、ひとりの患者さんが長期にわたって服用しつづける類の薬ではありません

ところが日本の漢方の特徴の一つに、柴胡剤の濫用があります。特に大正・昭和になって慢性の炎症性疾患に対して長期に使われることが多くなりました。漢方エキス製剤が保険薬として認められてからは、その傾向はさらに顕著になったようです。

小柴胡湯によって死者を出した副作用は「間質性肺炎」です。小柴胡湯を服用して間質性肺炎を発症する頻度は10万人に4人の割合でインターフェロンが間質性肺炎を起こすのが10万人に182人ですから、比べて決して多くはありません。

この事件以降、添付文書には赤字で警告、禁忌が記載されるようになりました。

画像は株式会社ツムラで発売されている「ツムラ小柴胡湯エキス顆粒(医療用)」の添付説明文章です。ここではWEBに公開されているものを紹介しています。

 

小柴胡湯の禁忌

  • インターフェロン製剤を投与中の患者
  • 肝硬変、肝がんの患者
  • 慢性肝炎での肝機能障害で血小板数が10万/mm3以下の患者(慢性肝炎で「血小板数が10万/mm3以下の患者」というのは肝硬変が疑われるから)

小柴胡湯が肝炎に有効とされたのは、少陽の位置が横隔膜に接する肝臓を含み、「上腹部のつまり感」という傷寒論の記載から小柴胡湯は慢性肝炎に効くとされたのです。ただそもそも論でいえば、病名で処方が決まるというのは傷寒論では有り得ないことなのですが……。肝炎でも小柴胡湯が適応する段階もあるかもしれませんが、インターフェロンを投与中であったり肝癌などの段階ではとても少陽病の段階であるとは考えにくいです。

漢方だからといって適さない状態で投与すれば危険なのです。正しく患者さんの状態を診て調剤して状況に応じて調節する。いつでもこの原則を忘れてはいけないのです。

(第七回 了)

※著者の平地先生がyoutubeで「平地治美・漢方チャンネル」を開設!生活に活かせる漢方情報を公開しています。ぜひご覧ください!

平地治美・漢方チャンネルhttps://www.youtube.com/channel/UCI3ga2puNrnvx4SGFzWMrFg

 


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–Profile–

平池治美先生

平地治美(Harumi Hiraji

1970年生まれ。明治薬科大学卒業後、漢方薬局での勤務を経て東洋鍼灸専門学校へ入学し鍼灸を学ぶ。漢方薬を寺師睦宗氏、岡山誠一氏、大友一夫氏、鍼灸を石原克己氏に師事。約20年漢方臨床に携わる。和光治療院・漢方薬局代表。千葉大学医学部医学院非常勤講師、日本伝統鍼灸学会学術理事。漢方三考塾、朝日カルチャーセンター新宿、津田沼カルチャーセンターなどで講師として漢方講座を担当。2015年1月『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで健康になる! 』(日貿出版社)出版。 

著書

『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで 健康になる(日貿出版社)』
、『げきポカ』(ダイヤモンド社)

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