漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策 第六回

| 平地治美

2020年初頭から現在(2020年12月)に到るまで、世界的災厄としてその名を聞かない日はないコロナウイルス(COVID-19)。

ようやく待望のワクチンが登場する一方で、そもそも論としてコロナが発症するかしないかに大きく関わる免疫力に注目が集まっています。

そこで本連載では、コ2で「やさしい漢方入門・腹診」を連載された平地治美先生に、漢方からできるコロナ・感染症対策をご紹介いただきます。

やさしい漢方入門 

漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策

第六回 「ここで食い止める!勝負どころの陽明病」

平地治美

 

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『傷寒論』の六病期について

今回からは『傷寒論』の六病気で2番目に登場する「陽明病」についてお話ししたいと思います。

病との戦いの始まりである、太陽病の段階を超えて、徐々に深刻さが増してくる段階です。

ところで、連載第三回で「傷寒は次の6つのステージ」と紹介したことを覚えてますでしょうか?

  • 太陽病
  • 陽明病
  • 少陽病
  • 太陰病
  • 少陰病
  • 厥陰病

『傷寒論』に書かれている順番通りだと「陽明病」は2番目に登場するのですが、実際の臨床ではその通りでないこともよくあります。

理由はそれぞれの人の体質が違うことや、治療法を間違えて病がこじれたり、外邪の勢いの強弱など、その原因はさまざまです。

また、体が弱って自然治癒力が低下している場合、特に 高齢者や虚弱な体質な方はいきなり少陰病あたりからスタートすることもありるのです。

そこで今回は、改めて漢方の病の進行に対する考え方を紹介するとともに、陽明病について説明していきたいと思います。

 

病気の進行が現れるのは時間?場所?

昔から議論されているのが三陽病の進行順序です。傷寒論通りの順番である、

太陽病→陽明病→少陽病

という説と、

太陽病→少陽病→陽明病

だという説があります。

実際の臨床ではどちらも存在するのでどちらも“アリ”なのです。

太陽病は陽明病に移行することも、少陽病に移行することも両方あります。

あるいは太陽病と陽明病、太陽病と少陽病、太陽病と少陽病と陽明病の三つを同時に発症することもあるのです。

このように複数同時に発症することを合病(ごうびょう)といいます。

そして、少しややこしいのですが、「太陽、陽明、少陽……」というのは、病の時間的経過を表す場合と、経脈が流れる体の部位を表す場合の両方に使われます。

それぞれ体の部位は、

  • 太陽病では体の表面
  • 少陽病では太陽と陽明のあいだ「半表半裏:はんぴょうはんり」体の側面、あるいは横 隔膜周辺など
  • 陽明病では裏(消化管)

と、太陽から陽明まで、体の表面から裏までの順番ですが、実際の病の進行は必ずしもそうではなく、

  • 体表の太陽から、陽明の消化管に進行し、こじれたものがその中間の少陽に留まる場合は太陽病→陽明病→少陽病になる。

ケースもあれば、

  • 体表の太陽から体の少し内側に入った少陽、さらに奥の陽明の消化管と進行すれば太陽病→少陽病→陽明病ということになる。

ケースもあり、実際の臨床は理論通りに進行することもあれば、変則型の場合も有るわけです。

この連載は『傷寒論』の解説書ではありませんので、セルフケアが有効な初期の段階を中心に解説し、専門医の治療が必要な段階については詳しく書くのは控えさせていただきます

 

病邪と正気がせめぎ合う「陽明病」

「陽明」とは経脈では、

  • 足陽明胃経脈
  • 手陽明大腸経脈

と、それらに連なる

  • 臓腑の胃と大腸

を指します。

陽明病はこれらに病邪が侵入した状態です。

『傷寒論』で陽明病の全体像は次のように表現されています。

「陽明之為病 胃家実是也 (陽明の病たる 胃家実是れなり)」

「胃家実:いかじつ」とは胃、小腸、大腸までの消化管全体が「実」の状態、つまりパンパンに詰まっている状態です。

陽明病では病邪と正気の勢力が伯仲し、六つの病期の中で最も激しい戦いが繰り開げられます。熱証が顕著で主に次のような症状が現れます。

  • 高熱
  • 多汗
  • 口渇
  • 多飲
  • 便秘
  • 腹部膨満
  • 譫語(うわ言)
  • 呼吸促迫
  • 痙攣

専門家による治療が必要な症状も出てきますね。

 

陽明病に至る過程

陽明病はそこに至るまでの経緯により、大きく三つに分けられています。

  1. 太陽陽明 (太陽病から陽明病に移行)
    太陽病の治療において発汗のさせすぎをしてはいけないと戒めておりましたが、 汗や下痢、あるいは利尿剤などによる脱水で体内に必要な津液を損傷し胃腸の中がカラカラに乾燥した結果として陽明病に変化したパターン。
  2. 正陽陽明(直接、陽明病になる)
    病邪が陽明経に侵入し消化管に及んだもの、または宿食(食べ過ぎにより生じた未消化物)に熱がこもり便秘する事により発症するパターン。
    「陽明ノ病タル、胃家実是レナリ」という言葉にある通り、主な症状は(潮熱、譫言、腹脹満、便秘、舌苔焦黄、脉沈実有力)です。
    これは熱邪が消化管である胃と大腸に結実して、実熱、食積、燥屎(そうし)を生じたためです。燥屎とは熱により 消化管の中が乾燥し、便が硬く石のようになったものをいいます。大至急 便通をつけて熱を下げる必要があります。
  3. 少陽陽明(少陽病から陽明病に移行)
    陽明病の次の段階の少陽病から変化したパターンです。

どの経緯を辿るにせよ、「陽明の気が塞がれて行き場がなくなり熱がこもる」という結果になります。

この三つ以外にも陽明病の経過は、誤まった治療や養生や変証により病状は様々に変化するので、臨機応変な対応が必要で処方も多様です。

また熱が盛んになると胃腸の熱邪が上にある心神に及び、意識障害、精神的な異常をきたし、意識が朦朧として譫言(うわごと)を言ったり異常行動を取ったりすることがあります。

かつて抗インフルエンザ薬の副作用として、異常行動により窓から飛び降りたり、道路に飛び出たりするという症状による事故が報じられたことがありましたが、これらは陽明病の症状とも重なります。

新型コロナウィルスの症状でも、熱中症に非常によく似た症状が出ることもあるようです。こういった症状にも、陽明病や温病の処方が適応するのではないかと思われます。

陽明病は邪正斗争が最も盛んなため、高熱や強い熱感である、“悪熱(おねつ)”を生じます

特に夕方は陽明の経気が盛んになる時間帯なのですが、潮の満ち引きのように、夕方(日晡)になると発熱、熱感が強くなる“日晡潮熱(にっぽちょうねつ)”を発症することもあります。

このとき、陽明は四肢(手足)を主るので、四肢に汗が出ることが多くなります。

その結果、体内に必要な水分である津液を消耗し、口渇、尿の色が濃く少ない、などの症状が見られます。また、胃腸が熱で乾いてが糟粕と結びついて燥屎を作り便秘をすることもあります。

実熱の積滞内閉により陽気が阻滞され、四肢に達することができないときは四肢の末端が冷えるので「熱厥」と呼びますが、必ず発熱の後に冷えが見られるのが特徴です。

熱邪による津液の損傷により筋脈に栄養が行き渡らなくなると、筋肉のひきつり、酷ければ引きつけや痙攣などの症状があらわれることもあります。

言うまでもなく、この段階では 専門家による治療が必要でしょう。

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陽明病の養生

陽明病の熱は、治ったと思った後も、しつこく体に潜伏することもあります。

温病条弁の著者である葉天士は、そのことを、

「竃(かまど)の煙が消えても、灰に火がある」

と例え、高熱が下がっても、体内に残る余熱を完全に消すまで油断はできないことを強調しています。

黄帝内経素問・熱論篇にも、

「熱病が治ったように思えても無理に食べさせたり、肉を食べればまたぶり返す」

とあり、完治するまで養生を徹底すべきでしょう。

陽明病の場合、胃にこもった熱により食欲が落ちない、あるいは食欲が亢進することも多いので食べ過ぎには注意が必要です。

熱がこもりやすい方に限って、美味しいもの好きのグルメな方が多く、

  • 揚げ物
  • こってりしたもの
  • 味付けの濃いもの
  • にんにくや唐辛子などの熱性の強いスパイス
  • お酒

などが好む傾向があるようです。

あるいは、良かれと思って摂取していたサプリメントにも陽明病を悪化させるものも有ります。

先日いらした新型コロナ後遺症の患者さんは、熱が篭りやすい体質であるにもかかわらず「ニンニクのサプリメントがコロナ後遺症に良い」と聞き毎日服用してらしたので、止めていただきました。

元気になる、精力増強などを謳うものには熱性が強いものが多く、要注意です。

また、常に未消化物である「宿食」があるということは、 消化管内に火種を抱えているようなものです。

熱邪がやってきたときに同気し、あっという間に火が燃え広がるように症状が進行することもありえます。

お釈迦様が、

「一切の疾病は宿食を本とす」

と仰ったといわれるほどで、消化できないほど食べ過ぎるのは病気、特に陽明病の悪化の大きな原因となるのです。

量はそれほど食べてないとしても、お腹が空いていないのに「時間だから」と食べるのも宿食を作る原因となります。

コロナ禍の自粛生活で、食べ過ぎ飲み過ぎが続き、さらに運動不足が重なると宿食が作られます。感染した場合に発症して重症化しやすくなる可能性もあります。

その他、

  • 熱過ぎる温度の風呂
  • 汗をかきすぎるほどの激しい運動
  • 水分の摂取が少な過ぎる
  • 汗をかくほどの厚着
  • 寝不足
  • 過労

なども要注意です。

それでは次に陽明病の代表処方の紹介しましょう。

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陽明病の処方

白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)

白虎加人参湯は「白虎湯」に人参を加えた処方です。

「白虎」とは西方の守護神の名です。

この処方の主薬は鉱物の「石膏」で、白虎の名は、真っ白な石膏に由来します。ギブスや石膏像に使われる石膏と同じものですが、生薬としては体にこもった熱を冷ます働きがあります。

寒薬ナンバーワンの石膏は、潤す働きも有りますので、氷のようなイメージをしていただければよいでしょう。

石膏と同じく優れた清熱作用をもつ寒性の知母とともに体にこもった熱を清し、人参によって体内の必要な水分である津液の回復をはかります。

陽明病で熱邪と正気が激しく抗争し、高熱・口渇が現れている時に用いられる代表処方です。

また、『白虎加人参湯』は熱中症などを含む「中暑」の治療の代表処方でもあり、熱感やほてり、発汗、口の渇き、頭痛といった熱中症特有の症状に対してもよく使用されます。

ペットボトルなどに溶かして少しずつ飲用すると熱中症の予防にもなります。ゴルフや登山にこのような使い方をして元気に好成績を残せたと喜んでいる方も多いです。

慢性病でも熱による口渇をきたす疾患は多くあり、白虎加人参湯が有効なことがあります。

シェーグレン症候群、糖尿病性の口渇、 更年期症状のほてりや発汗、ほてりが原因の不眠に用いることもあります。また、皮膚病にもよく使われ、熱感や赤味、乾燥が強いアトピー性皮膚炎にも用いることもあります。熱によるイライラや心因性の症状にも使われます。

いずれにせよ、白虎加人参湯は発汗しているもの・熱(熱感)のあるものに有効です。

舌は赤く、乾燥しているのが使用目標です。

同じ清熱剤でも『黄連解毒湯』は乾かして熱を 取る薬であるのに対し『白虎加人参湯』は潤わせながら熱を醒まします。

今回はもう一つ、陽明病の代表処方である大承気湯を紹介します。

大承気湯(だいじょうきとう)

熱邪が盛んになり胃腸の宿食と結びつくと、硬く乾燥した便である“燥屎(そうし)”を形成します。燥屎は熱い石のように腸管を塞ぎます。こなったら大至急この燥屎を体の外に出さないと、意識不明、痙攣、発狂など重篤な症状に発展します。

この燥屎を下すための処方が大承気湯です。

大承気湯の構成生薬は、

大黄 芒硝 厚朴 枳実

の四味(四種類)です。

大黄は腸を動かして便を排出する、大承気湯の主薬です。
芒硝は、カチカチの燥屎に水を引き込み柔らかくする作用があります。

この大黄と芒硝のペアは、最強です。

さらに厚朴、枳実が気を巡らせることにより芒硝と大黄を手伝って、排泄を促します。

ところで、太陽病ではわずかに発汗させる“汗法(かんぽう)”により治療をしますが、発汗させ過ぎはダメでしたね。

同様に、陽明病で下剤を使う“下法(げほう)”を用いる場合、やり過ぎるとダメなのです。

理由は下剤をかけ過ぎて失敗したらやり直しが効かず、病気が拗れるからです。

そのため陽明病では燥屎を下す場合、やり過ぎないように細かく注意喚起をしています。

大承気湯を含めた承気湯の仲間には小承気湯、調胃承気湯などがありますが、燥屎を下す大承気湯はその中でもっとも作用の強いものです。

使用の際には、まずこの強い下剤を使う目的である燥屎の有無を確認します。

その方法は、最初に小承気湯を少しだけ服用させて、転失気(おならが出ること)があるかどうか確認します。あれば先だけが硬く後が柔らかい便ではないことがわかり、燥屎であるということが確認できます。そして思い切って大承気湯を投与して燥屎を下します。

燥屎があっても、“自利清水”といって青色で腐ったような臭いの水が出ることがあります。

これは熱により追いやられて行き場を失った水が燥屎の間を流れてきたものです。これを“熱結旁流(ねっけつぼうりゅう)”」といいます。

腹部を押すと硬い塊である燥屎に触れ、強い痛みがあります。このような場合も燥屎がありますから、早急に大承気湯を使います。

※実際の漢方の購入・服用にあたっては、必ず薬局、薬店などでご相談の上で行ってください。

 

症例:陽明病の実際

最後に実際にあった陽明病の症例を紹介しておきます。

陽明病の症例  高校生女子

37.5度から38度の熱が2週間以上続き、学校に行くことができない。

内科を受診して 解熱剤をもらったが、気分が悪くなってしまい服用できなかった。また、服用した日も夕方になると 熱が上がってくる。
このままでは出席日数が足りず、受験にも差し障るので何とか早く治したいと来局。

小学生の時からたまに治療に来ていた子だったのですが、久しぶりにいらして「 ずいぶん太ったな」という印象がありました。

「コロナのせいで、運動不足気味?」

と聞いてみたところ、家の中にこもってお菓子やジュースを飲んでごろごろしていることが多かったようです。 気がついたら10キロ以上太っていたそうですが、当の本人はあまり気にしてないようでした。

状況から食べ過ぎにより宿食ができたところに、熱邪が侵入したのではないかと思い聞いてみると、便通は3、 4日に一回、ひどい時は1週間位出ないこともあるそうです。お腹を触ってみると、おへそを中心に硬く膨らみ、 おへその斜め下は痛くて触ることもできないほどです。

「これはまさに陽明病の燥屎が原因である」

と判断して、大承気湯を服用していただくことになりました。

※学校は休んでいるので頻繁にトイレに行っても大丈夫であるということでした。

その日の夜から服用し、次の日の朝から昼過ぎにかけて3回ほど便通があり、 その度にびっくりするほどの量の便が出たそうです。

体重が1日で2キロ減り、 その日の夕方は熱が出ませんでした。

翌朝は36.7度 だったので登校し、校門での検温にもパスし、3週間ぶりに登校することができたそうです。

それ以降、ダイエットを頑張って(お菓子をやめて、食事はきちんと食べる)3ヶ月かけて体重をさらに5キロ減らし、随分元気になりました。

 

ここが勝負!天下分け目の陽明病

この陽明病の段階で闘いに勝てば、形勢は不利に傾かず、これ以降の治しにくい状態である「陰病」には移行しません。ただし新型コロナウィルスの場合、戦いに勝っても、消耗が激しく焼け野原のような状態となり、後遺症が残るケースもあります。

闘いによる消耗を最小限に抑えるために大事なのが、「宿食」を溜めない養生であり、熱が籠もらないような環境整備が必須です。

特にこれからの暑くなる時期の養生は重要です。

梅雨に入り湿気が体表を覆うような状態になると、熱が発散されにくくなり、陽明病の下地ができてしまうからです。

温度や湿度を管理し、エアコンや除湿機を上手に使うことも必要です。

たとえウィルスに感染しても発症しないような体作りが、漢方の新型コロナ対策と言えます。

 

(第六回 了)


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–Profile–

平池治美先生

平地治美(Harumi Hiraji

1970年生まれ。明治薬科大学卒業後、漢方薬局での勤務を経て東洋鍼灸専門学校へ入学し鍼灸を学ぶ。漢方薬を寺師睦宗氏、岡山誠一氏、大友一夫氏、鍼灸を石原克己氏に師事。約20年漢方臨床に携わる。和光治療院・漢方薬局代表。千葉大学医学部医学院非常勤講師、日本伝統鍼灸学会学術理事。漢方三考塾、朝日カルチャーセンター新宿、津田沼カルチャーセンターなどで講師として漢方講座を担当。2015年1月『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで健康になる! 』(日貿出版社)出版。 

著書

『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで 健康になる(日貿出版社)』
、『げきポカ』(ダイヤモンド社)

個人ブログ「平地治美の漢方ブログ
Web Site:和光漢方薬局