漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策 第三回

| 平地治美

2020年初頭から現在(2020年12月)に到るまで、世界的災厄としてその名を聞かない日はないコロナウイルス(COVID-19)。

ようやく待望のワクチンが登場する一方で、そもそも論としてコロナが発症するかしないかに大きく関わる免疫力に注目が集まっています。

そこで本連載では、コ2で「やさしい漢方入門・腹診」を連載された平地治美先生に、漢方からできるコロナ・感染症対策をご紹介いただきます。

やさしい漢方入門 

漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策

第三回 「感染症との戦いの始まり=太陽病」

平地治美

 

Image: iStock

患者さんがいらした時、漢方も西洋医学も、患者さんを診断して治療方針を決定するのは同じです。

漢方では、治療方針を立てることを“弁証論治”といいます。「証を弁じて治を論じる」つまり、どのような状態であるかを診断してそれに対する治療方法を決定するということです。

その際に行う漢方的な診断は、四診(ししん)という方法により行います。四診とは望診、聞診、問診、切診の四つの診断のことで、見る、聞く、匂いを嗅ぐ、会話する、触る、といった五感を使って行います。

「四診」

  • 望診(ぼうしん) …… 顔色や舌の状態を見て診断する。
  • 聞診(ぶんしん) …… 声やカラダから発する音を聞く・臭いを嗅ぐ
  • 問診(もんしん) …… 問いかけて答えてもらう。
  • 切診(せっしん) …… 患者さんに触ってする診断。お腹を触ったり脈の状態を診る

四診の結果から、その症状が慢性病なのか、急性病なのかを判断します。

慢性病に比べて急性病は進行が早く、臨機応変な対応が必要不可欠です。

慢性病→→臓腑経絡弁証 気血水弁証

急性病→→傷寒→→六経弁証
     温病→→三焦弁証 衛気営血弁証

急性病の中でも外科的な処置や抗菌薬など西洋医学の治療が必要な場合は速やかに病院に行っていただきます
ですので、漢方などの伝統医学が対応する急性病といえば、風邪やインフルエンザなどを含む感染症ということになります

そして感染症を含む急性病の場合、傷寒なのか温病なのかを判断します

この傷寒の初めから最後まで具体的な症状と処方が、時系列で記載されているのが、前回紹介した『傷寒論』です。

『傷寒論』は一族の多くをを感染病で失った張仲景が著した漢方の古典であり、漢方で感染症対策をする場合に必須の医学書と言えます。

もちろん温病も大切な概念ですが、温病についての医学書は『傷寒論』が書かれた後漢の時代より大分遅れて書かれました。構成も『傷寒論』を真似て書かれていることも考えると、まずは『傷寒論』を理解する必要があると言えます。また、傷寒論の陽明病の処方で温病にもある程度対応することも可能です。

現代における漢方

四診は五感を使って行いますが、他の診断方法や機械を使ってはいけないというわけではありません。敵の正体を知るためには、あらゆる判断材料を利用するべきです。

慢性病の場合は西洋医学的な病名や診断結果は大いに参考にすることができます。急性病の場合でも風邪なのかインフルエンザなのか新型コロナウィルスなのかを知ることができれば作戦を立てるのに有効です。

漢方の長所はしっかりと伝えつつ、利用できる新しいものも取り入れていくことが重要なのではないでしょうか。

そこでこの連載では『傷寒論』をベースにした感染症対策を紹介したいと思います

もちろん膨大な条文のすべてを読むことはできませんので、今の私たちの日常に活かせそうなものに絞っていきます。

前回、傷寒論は以下の6つのステージに分けられていると書きました。

  • 太陽病(たいようびょう)太陽の病たる,脈浮,頭項強痛して悪寒す
  • 陽明病(ようめいびょう)陽明の病たる,胃家実これなり。
  • 少陽病(しょうようびょう)少陽の病たる,口苦く,咽乾き,目眩なり。
  • 太陰病(たいいんびょう)太陰之病たる,腹満して吐し,食下らず,自利益甚し,時腹自ら痛む。若し之を下せば,必ず胸下結鞕す。
  • 少陰病(しょういんびょう)少陰之病たる,脈微細,但寐んと欲すなり。
  • 厥陰病(けっちんびょう)厥陰之病たる,消渇,気上りて心を撞き,心中疼熱,飢えて色を欲さず,食すれば則ち蛕を吐す。これを下せば利止まず。

この中でも最初に登場する太陽病がもっともボリュームがあり、これだけで上編、中編、下編に分かれています。

実は太陽病編には、太陽病だけでなく、治療方法を誤った場合の対処や、他のステージに変化した場合など、太陽病以外の病態についての説明も記載されているのがその理由です。逆に続く陽明病から厥陰病の5つのステージは、太陽病との重複を避けているためその分短くなっています。

決して「太陽病だけが重要だから条文が多い」というわけではありません。

全体の構成としては、どの編でも、冒頭にその病期の全体像を表す条文があります。

まずはそれぞれの篇の冒頭の条文がどのような状態を表し、治療や養生はどうすれば良いのかを中心に解説していきましょう。

太陽病とは?

太陽病は「陽の始まり」という意味です

邪正斗争は邪気と正気の戦いですが、太陽病はその闘いの始まりにあたります。

これまで自然治癒力、免疫力などを大まかに“正気”と言ってきましたが、その働きによって“気”は細かく分類されています

体の表面をまもる“気”を「衛気:えき」といいます。

漢字の「衛」という字は「守る」という意味がありますが、この場合は体の表面で邪気から体を守ります。外敵からお城を守る衛兵のようなイメージですね。

太陽病の段階では、外からやってきた邪を体内に入れないように“衛気”により守ることが中心となります

治療や養生は、この“衛気”を強めることが主になります。

太陽病全体を表す条文として、冒頭に次のように書かれています。

「太陽の病たる,脈浮,頭項強痛して悪寒す」
(脈が浮き、頭痛や項(うなじ)の強張りがあり、悪寒する)

「脈が浮く」というのは、軽く触れて拍動を感じるような状態です。漢方ではこれを「体表から侵入しようとしている風寒の邪と闘うために、衛気が体表に集まってきている」と考えます。

また「脈が浮いている」ということは、病は体表にあることを表しています。

風邪などで寒気がした時に、体温を上げるために毛穴をギュッと閉じて鳥肌が立つような状態になると、首や肩が強張るようになりますね。

この「ゾクゾク」とする悪寒は、体温を上げてウィルスなどの風寒の邪を殺そうとする際に体温のセットポイントが上がるため、その落差を「寒気」と感じているわけです

この状態を例えると、悪質なセールスマンへの対処方法に似ています。

見るからにインチキ臭そうなセールスマンを家の中に招き入れてしまっては大変です。欲しくもない商品のセールストークが延々と続き、帰ってもらうのも一苦労。ここは玄関先で速やかに追い返すのが一番です。

招かざる客にはできるだけ早く帰ってもらうに限ります。 (Image: iStock)

これと同じく邪が体表から体内に侵入するのをなんとか阻止しなくてはなりません。

ではどのように阻止するのでしょうか?

それは“発汗”です。太陽病では、汗とともに邪を体表から追い出します

ただし“適度な”発汗というのがポイントです。脇の下や首筋など触って、しっとりしているくらいが丁度良く、流れるほど汗をかいているのは良くないのです。

では、太陽病の最初に出てくる処方である桂枝湯の条文をみてみましょう。

 

太陽の中風(ちゅうふう) 脈陽(よう)浮(ふ)にして陰(いん)弱(じゃく) 嗇々(しょくしょく)として悪寒(おかん)し 淅々(せきせき)として悪風(おふう)し 翕々(きゅうきゅう)として発熱(ほつねつ)し 鼻鳴(びめい) 乾嘔(かんおう)の者(もの) 桂枝湯(けいしとう)之(これ)を主(つかさど)る。

 

太陽病の冒頭で述べられたように脈が浮いて衛気が体表に集まってくると、内部の守りは手薄になります。陽の脈が浮き、陰が弱くなるとはそのような状態を表す脈の状態です。脈は浅い部分で拍動を感じますが深く沈めると弱くなってしまいます。

普段、元気な時に一分間の脈拍数、浮いているか沈んでいるか等の脈の状態をみておくと良いですね。

そして、悪寒や悪風、つまり寒さや風を悪(にく)む、鼻がグズグズし吐き気がする、といった症状がある場合に、桂枝湯を服用すべきであるとしています

桂枝湯の服用方法

まず『傷寒論』の桂枝湯についての文章を紹介しましょう。

(桂枝三両 芍薬三両 甘草二両 生薑三両 大棗二枚右五味、 ふ咀(ふそ)し、水七升を以て、微火にて、煮て三升を取り、滓を去り、寒温を適(かな)え、一升を服す。服し已(おわ)って、須臾(しゅゆ)に、熱稀粥(ねつきしゅく)一升余りを歠(すす)り、以て薬力を助(たす)け、温覆(おんぷく)すること一時許りならしむれば、遍身に漐漐(ちゅうちゅう)として、わずかに汗有るに似たる者は益佳なり。水の流漓したる如くならしむべからず。病必ず除かれず。

若し一服して汗出で、病差(い)ゆれば、後服を停め、必ずしも剤を尽さず。若し汗せざれば、更に服すること、前法に依(よ)る。又汗せざれば、後服は少しく其間を促し、半日許りにして、三服を尽さしむ。若し病重き者は、一日一夜に服し、周時之を観る。一剤を服し尽し、病証猶お在る者は、更に作り服す。若し汗出でざる者は、乃ち服すること二三剤に至る。

 

桂枝湯を服用する目的は、汗ばむ程度の必要最小限の発汗をさせることにより体表にやってきた邪を撃退することです。桂枝等の条文にはそのための服薬指導、養生、食事法も記載されています。ただ薬を飲むだけでは効果が発揮されないことがわかります。

服薬指導としては、

  • ちょうど良く汗が出たら残りは服用しない
  • 汗が出なければ(服用の間隔を短くする、2〜3倍の量を服用する)

とあり、やはり発汗を目安に臨機応変に服用量を調整するべきであるとしています。

体を温かい布団などで覆い(温覆:おんぷく)発汗を助けるようにもします。

ただし、やり過ぎはいけません

流れるような発汗は、体力を消耗して病が除かれなず、脱水により危険な状態になることもあるからです。

 

太陽病の食養生

太陽病では体表の邪を追い出すために衛気が全力で戦えるようにしなくてはなりません。そのためには、

食べたものを消化するのにかかるエネルギーを最小限にし、なおかつ桂枝湯の働きを助ける温めるものを食べることにより、桂枝湯の薬効を最大限に発揮させるようにします。

では具体的に何を食べれば良いのでしょうか? 『傷寒論』には、

熱稀粥(ねつきしゅく)一升余りを歠(すす)り、以て薬力を助(たす)け

と書かれています。推奨されるのは熱稀粥、つまり重湯のような熱くて薄いお粥のようなものということになります。

禁止すべきものはこの反対の性質を持つもので、冷やす性質のもの胃腸に負担のかかる消化し辛いものが列記されています。また、温め過ぎて発汗し過ぎることを防ぐために辛いものも禁止しています。

太陽病で避けるべきもの

  • 生冷(せいれい)  生もの、冷たいもの
  • 粘滑(ねんかつ)  ネバネバしたもの
  • 肉麪(にくめん)  肉、小麦粉製品
  • 五辛(ごしん)   ネギ アサツキ ラッキョウ ニラ ニンニク
  • 酒酪(しゅらく)  酒、チーズのようなもの
  • 臭悪(しゅうあく) 臭いの強いもの

 

桂枝湯を構成する生薬

桂枝湯は5種類の生薬で構成されています。

それぞれの生薬の働きを簡単に言うと次のようになります。

  • 桂枝(ケイシ)または桂皮(ケイヒ)気の働きを調節して発汗を促し体を温める作用がある。食用のシナモンやニッキも同じクスノキ科の仲間である。
  • 芍薬(シャクヤク)体に必要な水分である津液を補う。
  • 甘草(カンゾウ)津液を保護し体内に必要な水を保持する。様々な食品にも使われている。
  • 生姜(ショウキョウ)体を温め、胃腸の機能を高める。
  • 大棗(タイソウ)ナツメの実。生姜とともに体に栄養を与える。

桂枝湯は、芍薬以外の生薬は食用としても使われる馴染み深いものばかりで構成されています。桂皮は発汗を促しますが、それ以外の生薬には大切な津液を補う作用もあり、全体としてはマイルドでやさしい処方と言えます。

漢方薬の処方は、一見相反する作用を持つ生薬が配合されることがよくあるのですが、やり過ぎややりっぱなしを防ぐためと考えることもできます。発汗させ過ぎたり、発汗させっぱなしでは結果的に体に良くないことを経験的に学んだ結果、このような処方が生まれたのではないでしょうか。

この後、傷寒論には桂枝湯を応用した処方が数多く出てきます。そのため桂枝湯は「衆方の祖」と称されています。

太陽病のステージはいわゆる「風邪のひき始め」の状態です。この段階で収めてしまうのが一番理想的で、それは新型コロナウイルス を含むすべてに言えることです。

(第三回 了)


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–Profile–

平池治美先生

平地治美(Harumi Hiraji

1970年生まれ。明治薬科大学卒業後、漢方薬局での勤務を経て東洋鍼灸専門学校へ入学し鍼灸を学ぶ。漢方薬を寺師睦宗氏、岡山誠一氏、大友一夫氏、鍼灸を石原克己氏に師事。約20年漢方臨床に携わる。和光治療院・漢方薬局代表。千葉大学医学部医学院非常勤講師、日本伝統鍼灸学会学術理事。漢方三考塾、朝日カルチャーセンター新宿、津田沼カルチャーセンターなどで講師として漢方講座を担当。2015年1月『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで健康になる! 』(日貿出版社)出版。 

著書

『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで 健康になる(日貿出版社)』
、『げきポカ』(ダイヤモンド社)

個人ブログ「平地治美の漢方ブログ
Web Site:和光漢方薬局