漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策 第四回

| 平地治美

2020年初頭から現在(2020年12月)に到るまで、世界的災厄としてその名を聞かない日はないコロナウイルス(COVID-19)。

ようやく待望のワクチンが登場する一方で、そもそも論としてコロナが発症するかしないかに大きく関わる免疫力に注目が集まっています。

そこで本連載では、コ2で「やさしい漢方入門・腹診」を連載された平地治美先生に、漢方からできるコロナ・感染症対策をご紹介いただきます。

やさしい漢方入門 

漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策

第四回 「熱を以って熱を制す葛根湯」

平地治美

 

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前回は傷寒論の最初に登場する桂枝湯(けいしとう)について解説しました。

実はこの桂枝湯、私の薬局や鍼灸院にいらっしゃる患者さんにお渡しする機会は少ないのです。何故かというと、風邪を引いて薬を買いにいらっしゃる患者さんは、桂枝湯の段階をとっくに通り過ぎ、拗れた段階でお店に来ることがほとんどだからです。

では、桂枝湯は具体的にどのような状態で服用する処方なのか、もう一度振り返ってみます。

前回まで、邪が体表にやってきて体が必死に防衛する「邪正斗争」について解説しました。桂枝湯が適応する、闘いが始まったばかりのこの段階の具体的な自覚症状といえば、

  • だるい
  • 眠い
  • やる気が出ない、おっくうに感じる
  • 少し寒気がする
  • 胃の調子が悪い

などですが、これらの症状が感染症の初期段階のものとは気付かないことが多いのです

明らかな風邪やインフルエンザの症状が出て病院や薬局に行く頃には、とっくにこの段階は過ぎてしまっています。

ですので、風邪を引いてから薬を買いに行くのでは遅いのです。

「そういえば、いつも風邪を引く前は、ここに書いてある症状がいくつかあるかな……」

と思い当たったら、常備薬として常に服用できるようにしておくのが理想的です。そして「少し汗ばむ程度に服用する」ということが重要です。

多く服用すれば良いということではなく、「汗ばんで症状が落ち着いてきたら残りは服用してはいけない」と桂枝湯の条文に書いてあります。

前回の連載で、なかなか汗が出ない場合は服用間隔を短くして2〜3倍量を服用すると書きましたが、基本的にはまずは添付文書通りに服用してみてください。同じ処方でも製薬会社によって成分の含有量が違ったり、使用している生薬の質や製造方法は様々です。

私は大学で漢方薬の煎じ薬実習を担当させていただいておりますが、桂枝湯の煎じ薬、エキス剤をお湯に溶いたものをそれぞれ学生さんに試飲していただくと「味や香が全然違いますね、同じ処方とは思えない!」と皆さん仰います。

この段階を傷寒以前の症状として「感冒」と呼び、気の巡りを良くするものを使うこともあります。傷寒論の処方ではありませんが「香蘇散(こうそさん)」などの処方は、子供や妊婦、虚弱者にも使いやすい処方です。

また必ずしも漢方処方ではなく、スパイスや食養生で対応できることも多々あります

例えば冷えを感じたら温かい飲み物にシナモン、生姜、首や肩が強張るようであれば葛湯、やる気が出ず気分がスッキリしないのであれば陳皮(みかんの皮)など、といった具合です。

 

現代の漢方薬服用で気をつけること

傷寒論が書かれた時代は、桂枝湯といえば前回紹介した条文に記載された「煎じ薬」しかありませんでした。しかし現在では、

  • エキス剤
  • 錠剤
  • ドリンク剤

など様々な製剤があります。コーヒーに例えると、

  • 煎じ薬……豆を挽いて淹れるレギュラーコーヒー
  • エキス剤……インスタントコーヒー
  • ドリンク剤……缶コーヒー

といった具合です。

ここで桂枝湯の条文にある服用の仕方を思い出していただきたいのですが、温かい状態で服用すると書かれていましたね。

ですので、エキス剤を服用する場合でも、可能な場合は熱湯に溶かして温かい状態で服用するべきなのです。

インスタントコーヒーの粉を口に入れて水で飲みくだしたりしないですよね?

同様にエキス剤も、飲むときはお湯に溶かすのが良いでしょう。

特に桂枝湯のように「〇〇湯」という名前がついた処方の場合は、「本来は煎じ薬である」ということを表しているので、同様に考えてください。

どうしても水しかない場合は、せめて口の中で温めてから飲み下してください。

それから、普段から何かしら薬を服用している場合は必ず医師や薬剤師など専門家に飲み合わせを相談した方が良いでしょう。他のいろいろな薬と漢方薬を併用するということは傷寒論の時代には想定外のことですので、今の時代に合わせた対応が必要になります。

西洋薬の中には漢方薬と飲み合わせに注意しなくてはならないものも有り、麻黄剤はその代表とも言えます。ご自身の常備薬をチェックして、かかりつけ薬剤師などに併用禁忌や注意の生薬を確認しておくべきでしょう。漢方薬だから安全というわけではないのです

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改めて葛根湯とは?

さきほど桂枝湯の出番は意外と少ない、と書きましたが、太陽病で最も多く使われている葛根湯について解説させていただきます。

葛根湯は多くの製薬会社により製品化されて流通している最もポピュラーな漢方薬ではないでしょうか。

風邪薬としての認識が強いかもしれませんが、傷寒論の条文を理解すると実はいろいろな症状に応用できることがわかります。

傷寒論の最初に出てくる処方は桂枝湯で、その後はしばらく桂枝湯の中の生薬を加減したり、必要な生薬を加えたりという処方が続きます。

そして太陽病上篇が終わり、中篇の最初に葛根湯が登場します。

では、実際の条文を見ていきましょう。

太陽病 項背強几几 無汗悪風 葛根湯主之
太陽病(たいようびょう) 項(こう)背(はい)強ばること几几(しゅしゅ) 汗なく悪風(おふう)するは葛根湯(かっこんとう)之を主る。

葛根湯方

葛根四両 麻黄三両去節 桂枝二両去皮 生姜三両切 甘草二両炙 芍薬二両 大棗十二枚擘
右七味 以水一斗 先煮麻黄葛根減二升 去白沫 内諸薬 煮取三升 去滓 温服一升 覆取微似汗 余如桂枝法 将息及禁忌

葛根四両 麻黄三両節を去る 桂枝二両皮を去る 生姜三両切る 甘草二両炙る 芍薬二両 大棗十二枚擘く
右七味 水一斗を以て先ず麻黄葛根を煮て二升を減じ 白沫を去り諸薬を内れ煮て三升を取り 滓を去り一升を温服す。覆って微似汗を取る。余は桂枝の法の如く将息及び禁忌す。

太陽病 項(こう)背(はい)強ばること几几(しゅしゅ) 汗なく悪風(おふう)するは葛根湯之を主る
太陽病で項(うなじ)から背中にかけてこわばり、汗は出ておらず風を悪(にく)む(風が当たるのを嫌がる)のは葛根湯を服用する。

桂枝湯との大きな違いは、必ず無汗、つまり汗が無い場合でないと適さないというところです

この時、体は毛穴を閉じて体温のセットポイントを上昇させて発熱することにより、進入してきた邪と闘います。

多くのウィルスは熱に弱いため、体は必死に体温を上げて侵入してきたウィルスと戦おうとしているのです

 

熱を熱で制す!

葛根湯の処方構成は桂枝湯に麻黄と葛根をプラスしたものです。

葛根湯=桂枝湯+麻黄+葛根

桂枝湯では対応しきれない邪に対し、強力な武器としての麻黄が加わっています

麻黄の働きは熱を上げて発汗を促し、体表から侵入しかけた邪を追い出します。

麻黄の有無は大きなポイントで、麻黄の配合された処方を「麻黄剤」と呼び注意しながら使用します。作用が強い麻黄には耐えられない、虚弱な方や使用できない疾患(ある種の緑内障など)があるからです。

虚弱者や妊婦さんにも使える桂枝湯とはそこが一番大きな違いです。

「熱が出ているのに、さらに熱を上げるの?」

と不思議に感じるかもしれません。

漢方の考え方では、体が発熱しようと頑張っているのを後押して自然な流れで治る方向に導くというものです。

むやみに解熱剤を服用して熱を下げることは危険です。体にとっては、戦おうとしている時に武器を没収されるようなものだからです。

先に紹介した条文にある「項(こう)背(はい)強ばること几几(しゅしゅ)」とは、体温を上げるために毛穴を閉じた結果、項から肩、場合によっては背中から腰までが緊張して強張っている状態です。そこで麻黄の働きで発汗を促して邪の排出を助けてあげるわけです。そして葛根は筋肉の緊張を緩めます。

この時の「汗無く」とは触ると肌がザラザラ、ガサガサしているような状態を、発汗というのは、項(うなじ)や脇下がしっとりとしている程度のことをいいます。また、服用の仕方や量は桂枝湯と同様にし、流れるような汗をかかせてはいけません。

「余は桂枝の法の如く将息及び禁忌す」は、養生法は桂枝湯に準ずるという意味ですので、前回の桂枝湯の条文の後半の部分を参照してください。

 

葛根湯と「異病同治(いびょうどうち)」

「風邪に葛根湯」というイメージがありますが、こうして見ると風邪という病名に拘らなくてもよいことが理解できますね。

一般用医薬品の添付文書に記載されている葛根湯の効能は、

体力中等度以上のものの次の諸症: 感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、 肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み

となっていますが、裏技的な使い方として以下のような症状に使うこともあります。

ただ繰り返しますが漢方は病名で投与するのではありません。このような使い方をする場合は専門家への相談が必要です。

  • 五十肩、
  • 乳腺炎をはじめとする炎症性疾患の初期
  • 横なで(舌で唇を舐め回す癖)
  • ADHD
  • 蕁麻疹やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患
  • 受験勉強

受験勉強は病名ではありませんが、麻黄の作用により眠気が吹き飛び勉強が捗るという使い方もあるのです。これは葛根湯を服用できる体力がないとできませんが……。

このように、様々な異なる疾患に対して同じ葛根湯という処方が使われることを「異病同治」といいます

ヤブ医者を題材にした落語に「葛根湯医者」というのがあります。この医者は誰にでも葛根湯を処方するのです。しまいには付き添いで来た人にまで処方するのです。でも、ひょっとするとこれはさまざまな症状に対し葛根湯という一つの処方で対応する「異病同治」の思想に基づき診察のできる名医だったのではないか? と考えることもできます。

以下にお話の一部を紹介しておきましょう。

葛根湯医者というのがいまして、こいつは無闇に、葛根湯ばかり飲ませたがる。

「お前さんはどこが悪いんだ?」
「先生、どうも、頭が痛くてしょうがねぇんですがねぇ」
「ん、頭痛だなぁ、そりゃ。葛根湯やるから、飲んでごらんよ」
「お前さんは?」
「腹がしくしく痛えんです」
「腹痛だなぁ、そりゃ。葛根湯やるから、お飲み。そっちのほうの方は?」
「どうも、足が痛くって、しょうがないんですがねぇ」
「足痛(そくつう)てえんだよ、そりゃ。葛根湯やるから、お飲み。その後ろの人は?」
「先生、あっしは、目が悪くってねぇ」
「ん、そりゃ、いけないなぁ。目は眼(まなこ)といってな、一番、肝心なところだぞ。葛根湯やるから、お飲み。その隣の方は?」
「いや、兄貴が目が悪いから、一緒に付いて来たんで」
「そりゃ、ご苦労だなぁ。退屈だろう。葛根湯やるけど、飲むか?」

風邪と「同病異治(どうびょういち)』

「異病同治」の反対に、「同病異治(どうびょういち)』という考え方があります

同じ病気でも、異なる治し方をする、という意味です。

風邪であっても汗が出ていたり熱感が強く喉が腫れ上がっているような場合に葛根湯を服用すれば悪化することもあります。

かつて漢方の師である寺師睦宗先生の臨床を見学していた時に、先生は風邪の患者さんに柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)という処方をなさいました(ちなみに柴胡桂枝湯は、傷寒論のもっと後の段階で登場する処方です)。

その時に患者さんが、

「先生、この間は葛根湯を処方していただきましたが、同じ風邪でどうして今日は違う処方なのですか?」

と質問なさいました。すると先生は、

「あなたは新幹線に乗って東京から大阪まで行くとする。横浜、名古屋でお土産を買うとしたら横浜ではシウマイ弁当、名古屋では外郎(ういろう)を買うだろう?その逆は無いだろう? 風邪もそれと一緒だ、その時どの段階を通りすぎているかで処方が変わるんだよ」

「なるほど、すごくわかりやすい! ありがとうございました」

と納得して帰られました。これは初学の私にもとてもわかりやすい説明で、今でもマネして使わせていただいております。

 

新型コロナウィルスと漢方

このような考え方を理解していただければ、新型コロナウィルスという病名だけで同じ漢方薬を処方するのは大変危険であるということがわかります。それは横浜で外郎を買ったり名古屋でシウマイ弁当を買うような場違いなことです。

ですので、新型コロナウィルスのどの段階にも効く漢方薬というのは、有りません。今、どの段階を経過中なのかを理解して、その時その時に適した処方を服用しなければ逆に悪化することもあり危険なことなのです

 

麻黄について

麻黄は今回紹介した葛根湯をはじめとする多くの漢方製剤に配合されています。麻黄が配合される処方は「麻黄剤」と呼ばれます。

近年はインフルエンザの治療において 麻黄剤の代表である“麻黄湯”の効能・効果が認められ、汎用されています。ちなみにこの麻黄等も傷寒論太陽病篇の処方です。

麻黄の主な効能は、

  • 発汗
  • 鎮痛
  • 鎮咳、去痰
  • 利尿作用

などですが、これらは数種のエフェドリン類によるものと考えられています。エフェドリン類には交感神経を刺激する作用があります。西洋薬としてのエフェドリン類は、優れた喘息治療薬として使われます。

明治時代に長井長義が麻黄の主成分エフェドリンの抽出に成功し、その効能が科学的にも明らかになりました。
近年ではその副作用を利用して他の目的に麻黄が使用されるようになりました。一つは覚醒作用や気分の高揚といったドラッグ的な使い方、もう一つはダイエットです。

 

覚醒剤、ドーピング、ダイエットと麻黄

エフェドリンの構造式は覚醒剤のアンフェタミンに似ていて、覚醒剤の製造原料として使われます。

そのため麻黄剤の一つである「葛根湯」を服用すると、副作用で眠れなくなる方がたまにいらっしゃいます。その副作用を利用して受験勉強に使用したり、寝不足でスッキリしない時に服用すると肩こりも取れて頭が冴えわたるような感じがする、ということもあります。私自身も、朝気分がスッキリしない時にエンジンをかけるような意味合いで葛根湯を服用することがあります。即効性があり重宝しております(ただし体力がない虚証の人には逆効果になります)。

また、咳止め内服液を大量に飲むと気分が高揚するので、そういった目的で不正に使用する人が増え、エフェドリン含有製剤の購入本数の上限が決められるようになりました。

麻黄には交感神経を興奮させることにより運動能力を向上させる働きがあるため、現在ではドーピング対策において漢方薬は全面的に使用不可です。

ですのでスポーツ選手が漢方を服用する際には特に注意が必要です。実際に血液中のエフェドリンの濃度が高かったためにオリンピックの金メダルを剥奪された例や、服用しすぎて死亡事故に至った例もあります。知らずに服用してしまい選手生命を絶たれたりしては悔やんでも悔やみきれないでしょう。

麻黄配合の漢方処方だけでなく、サプリメントにも注意が必要です

エフェドリンにより交感神経が優位になると代謝が更新して体重が減少することがあります。この作用を利用して開発された、麻黄が主原料のダイエット用のサプリメントがあります。「自然の力でキレイに痩せる」「天然由来のハーブで安心」などという謳い文句で販売され、大ヒット商品となりました。しかしその副作用によりアメリカでは100人以上の死者が出たそうです。販売中止になった後も、名前を変えた同様の商品が流通し、個人輸入で購入ができてしまいます。

ダイエットの漢方処方として有名になった処方に防風通聖散があります。少量ですが、防風通聖散にも麻黄が配合されています。ダイエットの漢方薬として数社から商品化されていますが、「漢方薬だから安心」と、体力のない女性が漫然と服用するのは危険です

麻黄はここぞという時に使うべき切り札です。漫然と長期に渡って服用する生薬ではありません。

(第四回 了)


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–Profile–

平池治美先生

平地治美(Harumi Hiraji

1970年生まれ。明治薬科大学卒業後、漢方薬局での勤務を経て東洋鍼灸専門学校へ入学し鍼灸を学ぶ。漢方薬を寺師睦宗氏、岡山誠一氏、大友一夫氏、鍼灸を石原克己氏に師事。約20年漢方臨床に携わる。和光治療院・漢方薬局代表。千葉大学医学部医学院非常勤講師、日本伝統鍼灸学会学術理事。漢方三考塾、朝日カルチャーセンター新宿、津田沼カルチャーセンターなどで講師として漢方講座を担当。2015年1月『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで健康になる! 』(日貿出版社)出版。 

著書

『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を見る、動かす、食べるで 健康になる(日貿出版社)』
、『げきポカ』(ダイヤモンド社)

個人ブログ「平地治美の漢方ブログ
Web Site:和光漢方薬局