「言っていることや方法は正しいのになぜしっくりこない」
普段生活するなかでそんなことを感じたことはありませんか?
それとは逆に、
「理由はないけれどこの人といると安心できる」
ということもあるのではないでしょうか?
その理由は、私たちの身体が無意識のうちに相手や自分がいる環境に対して常にアンテナを張り、そこが自分にとって安全で「身を委ねられるか」を判断しているからです。
この「身を委ねる」という行動は「イールド」と呼ばれ、私たちは生まれた瞬間から身に備わったこの能力を使って積極的に安心できる相手や場所を選んで生き抜いています。
この連載ではこの能力「イールド」を知るとともに、上手にそれを使って自分を安心させたり、他人をリラックスさせたりする方法を、イールドワークの第一人者である田畑浩良さんにご紹介いただきます。アシスタントはイールドの達人(?)である猫を代表してニャンコ先生です。
連載 安心感と自己調整能力の鍵は「間合い」
イールドワークで学ぶ空間身体学
第8回 実践編 「間」(Ma)を見つける 02:ポジションを決める
文●田畑浩良
取材協力●半澤絹子
からだをゆだねて自己調整力を引き出す「イールドワーク」の連載。
今までは理論を主に紹介してきましたが、今回から実践の細かいポイントを解説していきます。
ご家族やご友人と一緒に「間合いの妙」を試してみてください!
イールドワークの実践:ポジションを決める
手順1:施術者自身がコヒーレントな状態になる
まず両者がお互いを近すぎもせず、かといって遠すぎもしないちょうどいい位置を見つけてください。
基本的に、施術者がコヒーレントな状態であることが安心・安全の基盤になります。
「コヒーレントな状態」とは、身体が全体として共鳴・協調している一体化の状態です。ムダな思考が働かず、落ち着いてその場にいられるような、いわゆる「ゾーン」「フロー」と言われる状態に近いかもしれません(全く同じではありません)。
セッションでは、クライアントのみならず、施術者と相互にこの状態に入っていくわけですが、そのきっかけを与え先導するのは、施術者です。施術者の知覚や存在状態に受け手の身体が共鳴して、相互にそれぞれの場所に自分の身体を預けながら、まず最初に心身が落ち着くように方向付けします。この反応がうまく進むには、両者に適度な距離感を伴う、「しっくりくる」位置関係を見つけることが大切です。

手順2:視覚に頼らず体感覚でちょうどよい位置を決める
この時、原則的には、受け手(クライアント)には目を閉じていただきます。視覚に頼らない状態で施術者の気配を感じ取っていただくようにして、お互いに楽、または落ち着く、しっくりくる位置を見つけていきます。
クライアントの反応がすぐ進んでしまうような高い反応性を示す位置関係ではなく、お互いの存在をうっすらと感じ、受け手の反応をできるだけ刺激しない場所が最初の第1ポジションとして適しています。この位置がベースキャンプになります。
手順3:施術者は第1ポジションで自分の中心を感じていく
第1ポジションの場所に落ち着いていくと、いわゆる「自分の中心」を感じやすくなります。
両者が相互主観的にしっくりくる位置関係にいると、次第に身体のみならず、全体が一体となってコヒーレントな状態へと移行します。
手順1〜3で重要なのは、「落ち着いていて、違和感がない」ということです。
違和感のなさをどこで感じるかは人によって違うかもしれません。全身で感じるかもしれないし、肚で感じるかもしれず、明確ではありません。私の場合は肚が納得して落ちついていれば「安全」であると思っています。
相互主観的に、もっとしっくりくる位置を見つかる可能性があるにもかかわらず、ある位置に執着してしまわないようにします。
しっくりこない立ち位置から頭の中だけで施術者があれこれ工夫して、クライアントの身体に働きかけるやり方には限界があります。ある知覚状態をつくってからワークするのではなく、中心感覚や肚の感覚が得られるような位置関係を先に見つけるという順番がよいでしょう。
適切な間合いは、お互いに感じ合うもの
適切な間、ちょうどいい間合いは、あくまで相互主観的です。
この距離感をクライアントと施術者の間で、視覚に頼らない全身の皮膚で周囲の気配を感じ取って、共存できる、あるいは棲み分けできるような位置関係を一緒に見つけましょう。
クライアントが位置を変えても違いが感じられない場合は、施術者が間合いの感覚を頼りにクライアントの反応を観察しながら決めていきます。
両者にとって、しっくりくる位置を見つける作業は、それぞれが持っているパターンが自ずと反映されます。もしあなたが他者の言うことすべてを鵜呑みにしたり、自分の感覚を信じないという「傾向」があれば、自分がちょっと違和感を感じていたとしてもそれを無視して、一方に合わせる形で位置を決めてしまうかもしれません。
逆に、自分の考えや感覚を過信している場合には、相手がどう感じているかは重要ではなく、他者の感覚を参考にして、別の可能性を試す余地がありません。
まずは自分のFeeling(感じていること)をとりあえず無視せず汲み取ってみることを優先させます。その上で、いろいろな位置の可能性を探ってみてください。

ここでいうFeelingとは、主観的にどう感じているかであって、正しいとか間違っているとか誰かに裁定されるものではありません。
自分のFeelingよりも先に他者の機嫌や感情に注視しすぎることに慣れすぎていると、このシンプルなことができないように馴らされていたと気づくかもしれません。成長する過程や一般的な教育システムでは、各人のFeelingが重視されない環境だった可能性があります。
ですがここでは、自分の感じていることと、他者が感じていることを同等に尊重してみましょう。
そして、身体を通して得られる感覚をそのまま表に出すことが、身体と自分を一致させるための第一歩です。
ポイント1:生物的な位置関係を意識する
なお、ここで得られるちょうどよい位置関係は、過去の特定の人間関係を象徴するような位置関係とは異なります。生物学的で原初的な感覚から生まれる関係性と捉えてください。
ポイント2:自分が庭石になった気分で、石を置く場所を探してみる
ちょうどいい位置を見つけるコツは、安全か安全でないか?という見分け方ではなく、自分にとって心地いいかどうか?で判断してもよいでしょう。
例えば、自分をお寺の石庭の庭石になった気分で、どこに置かれるのがいい感じがするのかとか、華道の経験がある方は、自分という花をここに配置するとなんとなく填まる感じがするような、そんなセンスを使ってみてください。

ちょうどいい間合い日々変化し、組み合わせによっても変わる
イールドの実習をしてみるとわかるのですが、相互に安全・安心を感じられる位置関係は、施術者とクライアントの組み合わせによって変わります。また同じ人が相手でも、日によっても変動します。最初に見つけた位置にしばらくとどまるうちにプロセスが進み、別の立ち位置がよい状態へと移行していったりもします。
イールドのセッションを始めるとき、遠すぎもせず、かといって近すぎでもない位置をまず選びますが、それぞれ知覚システムが異なるので、ちょうどいい位置を見つける指標として、「いろいろな感じ方があっていい」ということを覚えておいてください。
例えば、間合いの違いを「重い、軽い」と表現する人もいれば、「薄い、濃い」と表現する人もいます。
また、イールドを体験された方の感想をお聞きすると、「身体の重さに心地よさと新鮮さを感じる場合」もあれば、「身体を軽く感じることが心地よい場合」もあるようです。
間合いやそれぞれの知覚システムの違いを知るために、講師や他者が使う表現の奥にあるものを感じ取るようにしてください。
(第8回 了)
連載を含む記事の更新情報は、メルマガとFacebook、Twitter(しもあつ@コ2編集部)でお知らせしています。
更新情報やイベント情報などのお知らせもありますので、
ぜひご登録または「いいね!」、フォローをお願いします。
–Profile–