ソマティックワーク入門 第21回 身体均整法 矢作智崇さん(実践編02)

| 半澤絹子

健康とウェルビーイングの一歩先を求めて−−。
今、こころとからだの健やかさの質を高める、
マインドフルネス瞑想やボディワークなどが人気を呼んでいます。
からだの感覚に注目し、
心身が心地よい状態へとフォーカスすることで、
深い気づきや静けさを得たり、
自己肯定力や自己決定力といった心身の豊かさを育んだりしていく。
これらは、
こころとからだのつながりを目指す

「ソマティックワーク」という新しいフレームワークです。

その手法は、タッチやダンス/ムーブメントなど多岐にわたり、
1人で行うワークから、ペアやグループで行うワークもあり、
自分に向くものはそれぞれ異なります。
この連載では、
これからの時代を生きる私たちにとって、知っておくべき「からだのリベラルアーツ(一般教養)」として、各ワークの賢人たちの半生とともに
「ソマティックワーク」が持つ新しい身体知を紹介し、
それらが個々の人生や健康の質をどう変化させたのかを探っていきます。

リベラルアーツ(一般教養)として学ぶ

ソマティックワーク入門

−新しい身体知の世界をめぐる−

第21回 身体の内側のから体型を中庸にする 身体均整法・矢作智崇さん(実践編02)

取材・文半澤絹子
取材協力日本ソマティック心理学協会

前回に引き続き、今回も身体均整法の実践編として、矢作智崇さんの施術の様子を紹介します。
均整師によって、そしてクライアントによって異なる身体均整法のさまざまなアプローチ法。
今回は、前回の多様な手技を使った施術とは異なり、ダイレクトかつシンプルなアプローチで施術のプロセスが進みました。

気力がなく疲労気味の女性への施術

①立位での観察

矢作 見てわかるとおり、身体の左半身が右半身に比べて上がっています。肩も肘もお尻も左側が上がっていますね。この場合は、消化器型・陰・フォーム4の体型と言えます。

また、右に身体を倒しても安定しているけれど、左側に倒すと身体が不安定になる。
フォーム4の体型は、ストレスがあると食欲がなくなってしまうタイプです。食欲の状態はいかがですか?

施術モデル(以下、モデル)食べることは好きなのですが量は入らなくて。ちょこちょこ食べることが多いです。

矢作 (肝臓のあたりを拳で軽く叩く)肝臓にきているかもしれないですね。痛いですか?

モデル 痛いです。他の箇所を叩かれても全然痛くないですが、ここ(肝臓)は痛い。

[立位での全身の観察結果]

  • 身体の左右差が出ている。左半身が上がっている
  • 左半身が上がっているので、現状の態性(後天的な体型)は、消化器型・陰・フォーム4である。
  • 肝臓に不調を抱えている可能性がある。

●フォーム3、4 左右型(消化器型・陽) 中胸部にエネルギー集中

体型の傾向 気質・性格の傾向
フォーム4 ・右肩、右肩甲骨、右腸骨が下がり頭を左へ傾けている。

・右側の中胸背部が隆起。

・美食を好む。

・喜怒哀楽が出やすい印象。仕事に熱中し名人気質。

・ストレスがあると食べられなくなる。

 

②仰臥位での観察〜肝臓と関係する胸椎などの状態を確認

矢作 身体均整法には「異常傾斜圧」という理論があります。ある場所に不調が起こると、関連する別の場所にも痛みが出ることがあります。それが異常傾斜圧です。

肝臓に不調がある場合には、胸骨の境目あたりに異常傾斜圧が現れる。 胸骨を押して、痛みがあるかどうかを確認する。

矢作 痛いですか?

モデル むちゃくちゃ痛いです。

矢作 ここはどうですか?

モデル 痛くないです。

別の箇所を押しても痛みは感じない。胸骨にピンポイントで痛みが現れる。 続いて、肋骨の下の横隔膜にも触れて観察。みぞおちの下も固まっていて、横隔膜の動きが弱い状態である。

矢作 ここ(みぞおち)は硬いですね。

モデル あ!そうですね。

続いて仰臥位での身体の形も観察する。自然にしていると、右方向に「くの字」になっていて右重心になっている。
実際に動かしてみると、左方向には身体が行きづらくなっている。

次に、左右の皮膚の動きを確認する。

矢作 皮膚には個人個人で方向性、流れの違いがあります。それがどうなっているかを触れて確認します。

※これは身体均整法のテクニックではない。

足を3ブロックに分けて、触れて観察。 ・腿〜膝の上。 ・膝の上〜くるぶし上。 ・くるぶしの下〜足の先。 の3ブロックにわけて皮膚の流れを確認する。 ※これは均整法のテクニックではないとのこと。
上半身にも皮膚の流れがあるが、今回の施術では足の左右の皮膚の動きの違いを確認。右足の皮膚の流れ、左足の皮膚の流れ、どちらの流れが気持ちがいいかを見る。

矢作 この他に、触れてわかったのは、右足首の関節がゆるいということ。右側に荷重をかけるクセがあり、フォーム4の傾向がここにも現れていますね。
また、フォーム2(頭脳型・陰)の傾向もあります。

[立位での全身の観察結果]

  • 肝臓の異常傾斜圧が胸骨に現れている。
  • 仰臥位になると、右側に身体全体が傾く。
  • 横隔膜の動きが悪く、呼吸が浅い。

肝臓の調節

③仰臥位での調整〜肝臓がラクになる身体の形をつくる

まず仰臥位のまま、「肝臓の痛みを取るための身体の形」をつくる。 くつろぎ傾斜圧と言われる技法。 肝臓を治すのではなくて、肝臓の痛みをとるための身体の形をつくることで、結果的に肝臓を楽にさせる。

矢作 身体をこの形にして、家でくつろぐと良いです。この格好のまま、しばらく時間を置きます(1〜2分ほど)。

④伏臥位での調整〜脊髄反射法で肝臓の緊張をとる

次に、伏臥位になる。
脊髄神経反射法を使って身体を調整する。脊髄神経反射法は、身体均整法で使う技法のうち、「スポンデロセラピー」の技術の一つに当たる。
脊椎から出ている神経に直接的に圧を入れて、神経を興奮、抑制する手法である。

胸椎の11番を興奮させて、腰椎の2番を抑制する。 最初に胸椎の11番に鼓舞刺激を入れて、肝臓の緊張をとっていく。
腰椎2番に抑制刺激を入れる。
腰椎2番の左側が興奮しているので、圧迫して緊張を解く。

モデル 身体がだんだんラクになって、気持ちよくなってきました。

矢作 そうですよね。1〜2分ちょっとやると、けっこう変わってきます。(施術モデルの)呼吸が安定してきましたね。抑制を入れて、呼吸が落ち着いてくるのを待ちます。

⑤伏臥位での観察・調整〜胸椎の痛みの程度を見る、肝臓に直接アプローチ

仰臥位に戻り、胸骨の痛みの程度を確認した後、身体の調整を続ける。 先ほど痛みを感じていた胸骨に触れる。痛みは10分の1以下にまでおさまっていた。

矢作 肝臓に直接刺激を入れる方法もあります。中にある肝臓をイメージして触れていきます。

矢作 この刺激で「運動」が変わります。先ほどは、身体が「くの字」になって右側に行こうとしていましたが、左方向にも動きやすくなっています。

⑥立位での観察・調整〜胃経のツボを刺激、頭蓋調整

立位になると、左肩上がりだった身体が中庸になっている。また、右にも左にも踏ん張れるようになった。

矢作 肝臓のツボを押す方法もあります。足の胃経に圧をかけていきます。

モデル 痛い!(笑)

矢作 足のこの部分の痛みをとることで、身体がより安定して倒れづらくなります。
体型を変えると足にかかる負担も変わり、重心が変わってくるんです。
(施術モデルは)今日は交感神経優位の状態だったけれど、施術をしたら副交感神経優位になりましたね。
今は眠いでしょう?

モデル はい。眠いです。あくびしてました。

矢作 ひどくなると、迷走神経反射が起こって気分が悪くなったりするので(頭を)調整しましょう。

頭蓋を調整。

矢作 施術で身体が急に変わった。過緊張状態がゆるまりすぎたので、中庸に戻します。

モデル ああ……、覚醒してきた。お腹があったかくなりました。しっかり立てています!

最後に、肝臓の痛みがあるかを軽く叩いて確認して施術終了。

モデル もう痛くありません。びっくりしました!この後、セルフケアとして何かできる方法はありますか?

矢作 眠れていないようなので、まず寝ましょう(笑)。胸椎の痛みをチェックして、痛みがあったら、足を組むといいですよ。

まとめ〜肝臓と身体の左右差が解消! 踏ん張って立てる!

最後に矢作先生に施術のポイントを解説いただいた。

矢作 僕が一番大事にしているのは、クライアントさんの主訴を解消すること

 施術をするときにはまず、主訴というフィルターを通して身体を見て、そこから身体の違和感を見つけていきます。

 身体の違和感というのは、体型の特徴。重心の偏りや動きの特徴など。
 そうして主訴と体型の特徴という二つを重ね合わせて符号するところが調整のポイントになります。主訴と身体の違和感を結び付けられたら、調整のための設計ができるわけです。

 今回の施術モデルさんは、①「気力がない」というのが主訴でした。
 体型を見ると、左半身が右半身に比べて上がっている。フォーム4・消化器型・陰という態性(後天的な体型)の傾向がみられました。

 また、ヒアリングをすると、②「食欲がない」というフォーム4の特徴が実際に出ていたので、フォーム4と関係が深い肝臓を観察しました。

 すると、肝臓に痛みが出ているし、肝臓近辺を触れると肋骨の左右で圧と高さが違っている。胸骨の異常傾斜圧も現れていました。

 なので今回は、③「肝臓に直接アプローチして、脊椎も整える」という考え方で設計調整を行いました。内側(内臓と脊柱の神経)を変えて、結果的に体型を変える方法です。

 身体を整えるとき、

A.不調の「元」となる部位(不調になった臓器や関連する背骨)に直接働きかける方法

と、

B.「枝葉」となる部位から間接的に働きかける方法

があります。ただ、枝葉をポイント的に調整してもどんどん変化していって、変化を追いかけるときりがないケースがあるので、今回は前者(A)の方法をとりました。

もちろんどんな設計をするかは均整師の考えにもよりますし、クライアントの身体の状態にもよります。ケースバイケースです。

そうして体型を変えていくと、主訴だけでなく、他の不調も改善されるという。

今回は交感神経の過緊張がやわらいで、重心バランスが整った。当然ながら身体は全体が関係しあってるからである。

矢作 腰痛、肩が痛い、頭が痛い、眠れないというピンポイントの主訴で来る方も、施術を受けて身体が中庸になることで、全体的に体調が整っていきます。

 

(第21回 実践編②終了)


身体均整法のおすすめ書籍

『重力で読み解く身体均整法入門』(村松陽一(著)身体均整師出版部)
身体均整法を、また人体の運動系を理解できる本。さまざまな臨床例が掲載されている。

『不調が消えて、身体が整うセルフケア大全』(小柳弐魄 (著)大和書房)
身体均整師会の目的である「自ら行う体操の普及」を目指した本。これらの体操がなぜ、どのように作用するのかも理解できる。

『田川センセイの均整日記・季節編』(田川直樹 (著)身体均整師出版部)
著者がクライアントや後進の身体均整師に向けてブログで書き溜めた「身体への調整法とその根拠」について述べられている。

『身体均整法入門(DVD)』(矢作 智崇 (監修)BABジャパン)
動画で実際の調整法を見ることができる。さまざまな体型も見られ実践的な内容。

※いずれも身体均整法の基本を学ぶ入門書としては最適です。ぜひどうぞ!

 

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–Profile–

矢作智崇 (Tomotaka Yahagi

身体均整師・ボディデザイナー。やはぎ均整院院長。身体均整師会前会長。身体均整法学園講師。施術歴23年。自身の体調不良から身体均整法と出会い、施術の道へ。ケガの後遺症や痛みの解消、妊活など幅広い悩みに対応。「身体の歪みはその人の本質」をモットーに、クライアントの身体的な個性、気質を尊重した施術を行う。創始者の亀井進氏が遺した技法の研究をライフワークとする。監修DVDに『身体均整法入門』(BABジャパン)。

身体均整法学園 https://www.kinsei.or.jp/

半澤絹子(Hanzawa Kinuko
フリーライター、編集者。各種ボディワークやセラピーを取材・体験し、「からだといのちの可能性」、「自然と人間とのつながり」に関心を持つ。「ソマティック・リソース・ラボ(https://www.somaticworld.org/)」運営メンバーの1人として、ソマティックに関する取材や普及活動も行う。