対談 横山和正×小野美由紀 沖縄空手を巡る対話 01

| 横山和正、小野美由紀

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本サイトで「沖縄空手の基本」を連載されている横山和正師範と、この連載を読んだのを切っ掛けに沖縄空手に入門した作家・小野美由紀さんの異色の対談を、数回に渡ってお届けします。

小野さんは一体、沖縄空手のどんなところに惹かれたのか、そんなところからお話は始まりました。

対談/横山和正(空手家)×小野美由紀(作家)

第一回  小野美由紀と沖縄空手

語り横山和正、小野美由紀
構成コ2【kotsu】編集部

 

小野さんが沖縄空手を初めたきっかけは?

小野真由紀さん(以下、小野) はじめに申し上げておきますと、私はまだ沖縄空手を初めて半年ほどで、それまでは空手どころか武道の「ぶ」の字も知らなかったんです。初めて道場に行った時に、先生に「帯は何色を買えばいいんですか?」と聞いたほどで。ですので、知識も技術もまだ何も身につけていないヒヨッコの、あくまでも個人の体験として今日はお話させていただきたいと思います。

最初に沖縄空手を知ったのは、ko2の記事なんです。Twitterで誰かがリツイートしてたのを見て。そこに横山先生が「沖縄空手は『頭で考える前にまず体で動くことを徹底的に覚えさせる』武道である」と書かれていたのを読んで、ビビッと来て。「今の私が必要としてるものだ!」と。それで検索したら家から二分のところに沖縄小林流宮城道場があって、次の日に見学に行きました。

横山和正先生(以下、横山) それは偶然ですね。縁があったんですよ。きっと。

研心会館館長・横山和正師範
研心会館館長・横山和正師範

 

小野 そうですね。縁があったんだと思います。それまでも色々な武術を体験したことはあったんですが、全体的に固い印象があって。「うちの流派はこんなにすごい」みたいな驕りが先立ってたり、武道・武術マニアじゃないと入れない雰囲気があったり、先生を頂点とした、男性の生徒のカーストがガチガチに出来上がってて、女は居づらかったりとか……(笑)

でもうちの道場では、とにかくなにも教えてくれない。とりあえず見て真似して、って。その”とりあえずやる”感じがとても気持ち良かったので、これは絶対に続けようと。動きもとても柔らかな印象があって、全体的に”柔らかさ”に魅力を感じました。

横山 稽古は楽しい?

小野 楽しいです。

横山 型はいま何を?

小野 恥ずかしい限りなんですが、ナイハンチ初段と二段くらいまで。

横山 良いですよね。女の人が「ナイハンチ初段」とかいう言葉の響きが(笑)

小野 なんでですか(笑)

横山 結構いいなーって。いつも男のつまんない声で「ナイハンチ初段!」って聞いてるから(笑)

 

アメリカの空手事情

小野 アメリカでも「沖縄空手」って知られているんですか?

横山 そうですね。アメリカとヨーロッパって事情が違うんですよ。アメリカは沖縄空手が多いんですけど、ヨーロッパは逆に剛柔流、松濤館流、糸東流、和道流といった全空連系の四大流派が盛ん。全空連の人たちがたくさんのインストラクターとして送ったんですよね。ですから沖縄の空手というのはまだほとんどないんです。でもなぜアメリカだけ沖縄空手があるかと行ったら、沖縄に基地があるから。基地に来た米軍の人たちが沖縄で空手を習って、母国に持ち帰るというケースが多いのです。

小野 アメリカでは空手と言えば、沖縄空手なんですか?

横山 いえ。沖縄空手と日本空手で分かれてますね。

小野 どっちかといえば沖縄空手のほうがメジャー?

横山 アメリカの場合、ピンからキリまで全部ひっくるめて「カラテ」になってしまうんですよね。空手とテコンドーの違いも分からないくらいですから。だから名称はなんであれ、やる人個人の問題になってくるんです。中には世界規模でもトップになれる様なレベルの高いものもありますが、レベルの低いのも多いですね。強い弱いは別として、とにかく質の好し悪しの差が半端なく激しいです。

小野 私はそういう空手の事情について全くといってもいいほど何も知らないんです。横山先生の書かれていた通り「教わるよりも動く」ですから。いまだに「これはこういうものだ」という知識が一切ないんです。

横山 ないほうがいいですよ。

小野 はい。

横山 下手に持ってると、自分のイメージに縛られちゃうじゃないですか。もしそれが実物と違っていた場合、全然ちんぷんかんぷんになっちゃう。だから意外にニュートラルな感じで始めるのがいいと思うのですよね。

小野 他の道場でもそういう風に教えるんですか?

横山 教えてないと思いますね。結局、やっぱり空手というものの体質もあって、どうしても武道武術的なものに偏ってしまう。そうすると「うちは他に比べてああだ、こうだ」と意識的に改革して、他の流派と分裂しはじめる。その結果、自分たちのスタイルがいかに優位かという自己PRが盛んになって、本質にいかなくなってしまう。

小野 なんでそういう風にしちゃうんですかね。

横山 うーん。難しい問題だと思うんですけど、人間の本能なんじゃないですか? 自分のやってるものはすごい、信じたいという気持ちもあるんだろうし。エゴの部分もあるでしょ。そこの部分が空手でも武道の世界でも多いかな、と。自分はそういうところは嫌いですね。

小野 私、武術や格闘技やっている男性全般に対して思うんですけれども、「自分たちの流派が一番だ」ってプライドを持たれる方、多いですよね。それが却って初心者を入りづらくしているというか……なんていうか、セクシーじゃない(笑)。

作家・小野美由紀さん
作家・小野美由紀さん

 

洗練の境地

横山 もう本質的なこと話しちゃいますよ(笑) 今回、小野さんとこういう形で対談させていただくことになって、何を話そうかなと思ったんですが「空手には、正しいものも間違っているものもない」というのをテーマの一つにしようと。

小野 そうなんですね。

横山 あくまでも自分の考えですけどね。あるのは洗練されているか、洗練されてないか、の違い。自分は自分のやっていることに対して「これはすごい」という実感を得ているから自信があるんですけど、生徒がそれを得るかどうかは別問題になっちゃうんですよね。結局、突き蹴りというのは誰でもできるわけで。

小野 はい。

横山 だから誰でも空手の本質的なことはできるわけですよ。だけど何が違うかといえば、どのレベルまで洗練されているかということなんです。だから空手の場合は、いかに誰もが当たり前にできることを、高度なレベルで、別次元でできるか、という勝負だと思うんですよね。だから今、一般的におこなわれているような空手は、ちょっと興味がなくて。型みたいな基本的なことをやる前に、すぐにミットを蹴ったりサンドバックを叩いたりするじゃないですか。エクササイズとしては良いんでしょうけれども、それによって空手の本質に近づいたり、実際に学ぶべきこと、得られる効能が得られるかというと、違うのです。格闘技やボクシングなどはそれはそれで違うのですが、やっぱり空手とは違いますから。

小野 空手をやることで得られる効能って、どういうものとお考えですか?

横山 大きく言ってしまえば、生きるエネルギーじゃないですか。自分はそうですよね。もうすぐ60歳になりますが、若い時は勝負や実戦に勝つことを考えていましたし、限りなく追求した時期もありました。ずっとそうやって来て、いま自分の中にある強さというのは、日々いかに自信をもって生きていくか、ということ。それが自分の中での絶対的な強さなんですよね。

型の訓練をしたりする中で、身体の中からぶわっと込み上げてくる実感というか、力とかスピード感。そういうのが自然に溢れてくる。それによって年齢のことも考えないですし、何があっても特に緊張しない。いわゆるゾーンの中にポッと入り込めちゃう。そうすると「もしかしたら」といった疑いがなくなって、「絶対」という感覚しかなくなるんですよね。

小野 へーっ。それは、すごいですね。

横山 すごいと思いますよ。自分で無理にそう思い込むんじゃなくて、自然に沸き起こってくるものを自分の中で覚えて。沖縄で訓練してた時期に、ある日突然、力とスピード感というものを感じたんですよ。それを組手でポーンとやったら、でかい外人なんかが飛んでっちゃうんですよ。

小野 へーっ!

横山 それで、「すごいな」と。それもじわじわ来たのではなくて、ある日突然ぽーんと自分の中に入って来たもので。

小野 そうなんですか?

横山 そうなんですよ。だから自分としては空手を教えていくうえで、できれば生徒にも同じようなものを実感してもらいたいという気持ちがあって。それがないとむしろ空手の本質的な部分というか、一番の喜びというか、そういうものが味わえないんじゃないかと思いますよ。

小野 ゾーン、ですか。

横山 そうですね。

小野 それは組手をされている時に感じたんですか?

横山 いや、型ですね。ある日突然、突き蹴りをだすとビュンビュン音がするんですよ。身体の中からバーンと爆発する感じがあって。型を練習しながら「これで打ったらすごいだろうな」という感触があったんですよ。で、外国人の方を相手に「ちょっとやって見なさい」と師範に言われたのでやってみたら、手加減しててもバーンとすっ飛ぶんですよ。その時に「これはスゴいなあ。なんなんだろう?」と。それより前に、中国武術を研究していた時に言われた「力」というのは、こういう力なのかな、と。相手の動きもゆっくりと見えたりとか。何がそうするんだか分からないんです。

(第一回 了)

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–Profile–

横山和正(Kazumasa Yokoyama
本名・英信。昭和33年、神奈川県出身。幼少の頃から柔道・剣道・空手道に親しみつつ水泳・体操 等のスポーツで活躍する。高校時代にはレスリング部に所属し、柔道・空手道・ボクシングなどの活動・稽古を積む。

高校卒業の年、早くから進学が決まった事を利用し、台湾へ空手道の源泉ともいえる中国拳法の修行に出かけ、八歩蟷螂拳の名手・衛笑堂老師、他の指導を受ける。その後、糸東流系の全国大会団体戦で3位、以降も台湾への数回渡る中で、型と実用性の接点を感じ取り、東京にて当時はめずらし沖縄小林流の師範を探しあて沖縄首里空手の修行を開始する。帯昇段を期に沖縄へ渡り、かねてから希望していた先生の一人、仲里周五郎師に師事し専門指導を受ける。

沖縄滞在期間に米国人空手家の目に留まり、米国人の招待、及び仲里師の薦めもあり1981年にサンフランシスコへと渡る。見知らぬ異国の地で悪戦苦闘しながらも1984年にはテキサス州を中心としたカラテ大会で活躍し”閃光の鷹””見えない手”と異名を取り同州のマーシャルアーツ協会のMVPを受賞する。
1988年にテキサス州を拠点として研心国際空手道(沖縄小林流)を発足する。以後、米国AAUの空手道ガルフ地区の会長、全米オフィースの技術部に役員に籍を置く。
これまでにも雑誌・DVD・セミナー・ラジオ・TV 等で独自の人生体験と古典空手同理論他を紹介して今日に至り。その年齢を感じさせない身体のキレは瞬撃手と呼ばれている。近年、沖縄の空手道=首里手が広く日本国内に紹介され様々な技法や身体操作が紹介される一方で、今一度沖縄空手の源泉的実体を掘り下げ、より現実的にその優秀性を解明して行く事を説く。

全ては基本の中から生まれ応用に行き着くものでなくてはならない。
本来の空手のあり方は基本→型→応用全てが深い繋がりのあるものなのだ。
そうした見解から沖縄空手に伝えられる基本を説いて行こうと試みる。

書籍『瞬撃手・横山和正の空手の原理原則』

ビデオ「沖縄小林流空手道 夫婦手を使う」・「沖縄小林流空手 ナイファンチをつかう」

web site 「研心会館 沖縄小林流空手道
blog「瞬撃手 横山和正のオフィシャルブログ

 

小野 美由紀(Miyuki Ono
文筆家。1985年生まれ。慶応義塾大学フランス文学専攻卒。恋愛や対人関係、家族についてのブログやコラムが人気。デビュー作エッセイ集「傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎)を発売。著作に、自身のスペイン巡礼の旅を記した『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』(光文社新書)、原子力エネルギーの歴史について描いた絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版)がある。

Twitter:@MiUKi_None
ブログ:http://onomiyuki.com/