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前回のインタビューでは、直前に迫った第11回全世界空手道選手権大会について、現在試合場に立つ選手達が子供の頃から直接打撃性の世界で戦ってきた人間であり、だからこそ「勝つことは必須、されど心も大事である」と語った塚本徳臣師範。
大会の結果は既報の通り、躍進する海外勢を相手に優勝・島本雄二、準優勝・入来建武と王座を死守したのをはじめ、ベスト8の半数を日本勢で占めることができた。
では何が、“優勝候補”と言われたヴァレリー・デミトロフを5回戦で姿を消させ、25歳の島本雄二を優勝に導いたのか? 今回は改めて塚本師範に第11回世界大会を総括して頂いた。
コ2【kotsu】寄稿レポート
第11回世界大会直前! 塚本徳臣師範インタビュー02
~日本勢の勝因、進化する空手~
取材・文・写真●林田哲臣
受けの組手から体捌きの組手の時代へ
第11回全世界大会が終了して感じたことを一言で言えば”受けの組手から体捌きの組手の時代となりより武道に近づいた“ということでしょうか。
これまでは相手の技を受けて自分の技を返す”受け返し”の組手が主流でした。しかし受けて返すということは相手のフェイントに引っかかるということです。
相手の技を受けるということは、受けた後の二の手三の手……、といった展開を相手に想像させ、組み立てさせることでもあります。しかし、体捌きで躱してしまうと相手はまた一から攻めを組み立て直さなければなりません。そのやり直しをさせることによって相手は「当たらないな、どうしたらいいかな」と考え始めます。
そういう思考にハマった瞬間に足が止まります。その足が止まった時にこちらの攻撃が当たります。
日本代表選手たちは優勝した島本雄二選手をはじめ体捌きの組手が全体的にうまくできていましたが、海外選手優勝候補筆頭のヴァレリー選手を破った前田勝汰選手が特によくできていました。
優勝候補ヴァレリー・ディミトロフの敗因
優勝候補のヴァレリー・ディミトロフ選手が5回戦で前田勝汰選手に敗れました。
大きな敗因の一つは無差別の経験不足が考えられます。全ヨーロッパ大会は体重別で開催されます。彼は11連覇していますが、自分の階級の試合しかやっていませんでした。一方日本人選手が目指す全日本大会は無差別で開催されます。
自分より大きい選手、小さい選手あらゆるタイプと戦い抜くことができなければ勝ち上がれません。例えば入来建武、落合光星選手のような重量級とも戦わなければならないし前田優輝、勝汰兄弟のような軽量、中量の選手とも戦えなければなりません。
この体重が関係ない、無差別の戦いこそ武道です。無差別級で勝つためには軽量級のスピードと手数にも対応でき、重量級とも打ち合えるパワーと体を作らなければなりません。
ヴァレリー選手は日本の中量級選手の上手さや速さを理解していたものの、気づいて対策を立てるのが遅かったのではと思います。
今大会においても重量級選手との戦いに対してはやはり強いと感じました。また軽いクラスにも対応するようにパワーを残しつつ体を絞って動けるようにしていましたが、打たれ弱さを感じさせました。打たれ弱いと背中が丸くなります。そうなると頭が前に出てきます。頭が前に出るとスタミナがなくなり足が動かせなくなります。この現象がヴァレリー選手にも現れていました。結果的に無差別に対応できていなかったことが敗因だと思います。
自分もそうでしたが、同階級の重量級選手との試合は戦いやすく、谷川光先輩のような動く軽量級選手が苦手でした。
今大会での日本代表選手たちのようなユース出身の選手たちは当時の選手以上に足が止まりません。打ち合ってくれれば倒しにいけますが、打ち合ってくれれば倒せばいいんですが、打ち合えず、的を絞れない上に時間が過ぎれば体重判定で負けてしまいます。そういう選手に勝つためにはハードワークではなくてハイペース、ハイリズムの戦いに馴れる必要があります。
ヴァレリー選手はそれに対応する以前に前田勝汰選手と戦ったわけですから、難しい試合だったと思います。
優勝した島本雄二の勝因
まず島本雄二選手は大会に臨むにあたって謙虚で素直な心を保ち続け、なおかつ自分が引退してからの4年間リーダーとして日本の選手たちを引っ張ってきました。
世界大会では他の選手の試合が始まると自分の試合が後に残っているにもかかわらず応援に駆けつけたり、兄貴分としてやっているところが良かった。そういう覚悟が心の面の強さとして試合にも表れていました。
技術面では前回よりもパワーアップを図りつつ、スピードも落ちずスタミナもついていました。前蹴りは左右両方がしっかり蹴れるようになっていたうえに三日月蹴りも蹴れるようになっていました。また、日本の中量級選手とも何度も戦ってハイペース、ハイリズムの戦いも身につけていたため、どのようなタイプの選手に対しても安定して戦えたことが勝因だと思います。
海外勢の独自進化
昔は大会よりも観光がメインという選手もいましたが、今回は全ての選手からベスト32に残って二日目に進出しようという気迫を感じました。
第5回カラテワールドカップ(2013年)頃はルーカス・クビリウス選手だけが肘の打ち下ろしから逆突きのコンビネーションを使っていましたが、今大会ではリトアニア勢全員がこの技を使えるようになっていました。
また、ヨーロッパ勢全体を見渡すとヒザの蹴り方が下から突き上げる新しい蹴り方になっていました。また内股をヒザで蹴る選手が増えていました。この蹴り方はKWU世界大会(KWU主催10月3・4日に開催 )でも見受けられ、ブルガリアの選手が特にうまく使っていました。ヨーロッパではこの蹴りかたが主流になってくるのかもしれません。また一つ空手が進化していると感じました。
進化し続ける空手
すでに世界大会の試合内容を検証して新たな稽古を始めています。
これを自分もやりつつ、生徒にも指導していますが、従来の稽古になかった厳しい稽古法となっています。
そして早くもその効果が現れ始めています。
以前と比べて格段に捉えの感覚が身につきやすくなり、その結果突き蹴りにも変化が現れています。世界大会という検証の場を経てまた空手が進化し始めています。海外勢も今回の結果を受け、新たな組手を考案してくることでしょう。
次の4年後の世界大会までにどれだけ空手が進化するか楽しみです。
(第二回 了)
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