コ2【kotsu】レポート 仏教的人生学科一照研究室オープニングプレイベント

| 寒川夕紀

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2016年3月19日、「仏教的人生学科 一照研究室」のオープニングプレイベントが行われた。ゲスト講師に藤本靖さん(身体論者、ロルファー)、上田壮一さん(Think the Earth理事/プロデューサー)、稲葉俊郎さん(東京大学医学部付属病院循環器内科医、未来医療研究会主宰)の三人を迎えての対談は、どんな話題が飛び出すかまったく予想がつかない、ハラハラドキドキの約4時間半。会場の皆が一体となって楽しんだ、“熱い”イベントとなった。

コ2【kotsu】レポート

仏教的人生学科一照研究室オープニングプレイベント

寒川夕紀(ライター)
取材協力藤田一照事務局・合同会社メイジュ

 

左から)塾長の藤田一照さん、ゲスト講師の藤本靖さん、上田壮一さん、稲葉俊郎さん。

 

皆さんは「仏教」というと、どんなイメージをもたれるでしょうか?

今回参加した「仏教的人生学科 一照研究室(以下、仏教塾)」のオープニングプレイベントは、本サイト連載「生きる練習、死ぬ練習」でもおなじみの藤田一照さん(曹洞宗国際センター所長)が、塾長をされています。

仏教という実践哲学を通して、柔軟でつよく、しなやかな“身体”“心”“魂”を錬成するため、仏教書(英語)の講読・身心のエクササイズ・瞑想や坐禅の実修などが行なわれるこの仏教塾。昨年の第1ステージに引き続いて、今年は4月16日から第2ステージが開講しています(前期・後期の全8回予定で、前期はすでに満席)。
※公式サイト:http://fujitaissho.info/kenkyushitsu

 

藤本靖さん〜呼吸で眼からウロコ!? のワーク

一照さん×ゲストとの連続対談のトップバッターは、藤本靖さん。お二人はすでに何度も、コラボ講座をともにされている、いわば“気心が知れた”間柄。なかでもここ数年は、曹洞宗の禅僧の方々向けに「調身」「調息」「調心」をテーマにした連続ワークショップもされています。

簡単な自己紹介のあと、「ではまず、ワークから始めてみましょう」と藤本さん。受講生一人ひとりが静かに目を閉じ、自分の呼吸に注意を向けるワークを。次に二人一組になって相手の肋骨に手を添え、互いの呼吸を観察したり・されたりする感覚を味わうペアワークを行いました。

私はよく人から呼吸の浅さを指摘されるほどなので、始める前は「このワーク、苦手(ちょっとイヤだな)」と思ったのですが……藤本さんの誘導で呼吸をすると、ふだんよりずっと楽に息ができました。
さらにペアになった人に呼吸を観てもらうと集中力が増し、呼吸が深く丁寧になっていきました。これには、優しく添えてもらった手の温かさも、私を助けてくれたのかもしれません。観る=監視されるのではなく、見守られて安心する感覚を味わいました。

一照さんと藤本さんでペアワークのデモを。
触れた相手の呼吸をゆったり観察すると、自然と呼吸が深まる。

 

一照さんは「アタマで正しい呼吸はこうだと考えてそれを「する」呼吸と、身体が正しい呼吸を見つけるのに任せて「起きてくる」呼吸とでは、全くテイストが違う」と言います。
アタマで命令して「する」呼吸とは、“積み木をナナメに積み上げる”ようなもの。最初の一個が正しく置かれていないのに、あとからいくら精緻に積み上げても、身体本来の呼吸からは遠ざかってしまいます。それまでの習慣を延長するだけだから。
「でも僕らは、今までの習慣的パターンを“壊すのはしのびない”と、現実をリセットする勇気を忘れてしまう。これは仏教的態度とは言えない」。

藤本さんもまた「ボディワークは、正しい姿勢や呼吸を教えることが目的ではないんです」言います。
「静かな場所でいくら立派に“呼吸法”ができても、日常の呼吸が、動揺するとむちゃくちゃになってしまうのだったら、もったいない。
古今東西の身体技法や坐禅から学べるエッセンスを、皆さんが日常へ帰ったときにこそ、活かせるように紹介すること。それが僕らボディワーカーの仕事だと思っています」とのこと。

“両目で見るストレス”を実感できる、片目メガネの体験も。
「メガネを外すと、使っていた方の眼が楽になるのが不思議だね!」と好奇心いっぱいの一照さん。

 

上田壮一さん〜マインドではない、
ハートで“感じる”地球

続いて登場した上田壮一さんは、この対談の場が一照さんと初顔合わせ。それなのに、上田さんが取り出した一冊の写真集『地球/母なる惑星』(ケヴィン・W・ケリー、小学館)に「その写真のポスター、僕ももってますよ!」とすかさず一照さん。初対面から息がぴったりです。

上田さん紹介の本で盛り上がる。この本の中の写真「アースライズ(※)」を、
一照さんは部屋に飾っていたことがあるとか
(※)宇宙からみた「地球の出」http://www.nasa.gov/multimedia/imagegallery/image_feature_102.html

小学生の頃、天体望遠鏡で土星を観たのをきっかけに宇宙に“ハマり”、流星群を観るため徹夜もしたという、元祖・天体少年の上田さん。その時のワクワク感が、現在の「Think the Earth」の活動につながっているといいます。

「この写真集のように、メディアやコミュニケーションを通じて、地球のすばらしさを伝えたいんです」と上田さん。それには一照さんも「宇宙の中にいる自分や、地球という星に自分が生きているという感覚。それはアタマで考えたことじゃない、ハラの底からの感覚ですよね」と応じます。

アタマで考えることは「マインド(mind)」。「“私”が・なにかを・意識し」、分析する思考です。すべてのことは私から始まるので、エゴや欲望にもつながりやすい。それに対してハラの底から感じることは「ハート(heart)」。ハートがふるえるほどのワクワク感を、他人と分かち合うこと(ちょうど『地球/母なる惑星』をめぐる対話のように)。

それは、すべてのモノ・コトがつながっていることを識る営みでもあり、仏教ではこのつながりを“縁起”と言うそうです。
「縁起から見れば、僕らはまさに地球という子宮につながる胎児のような存在。上田さんが“地球”というキーワードでされている活動は、とても仏教的ですね」と一照さん。

そして上田さんが、会場で紹介された「Think the Earth」の作品たちは、書籍やフリーペーパー、腕時計や携帯のアプリから映像までさまざま。そこには「宇宙から地球を初めて見た宇宙飛行士が、地球を愛おしくなっちゃうのって、こんな感じ?」という、コトバを超えたワクワク感がありました。ハートが動き出す、疑似宇宙体験でした!

「Think the Earth」から生まれた作品。「EARTHLING(地球人)」とは、
SF作家のロバート・A・ハインラインの小説『レッド・プラネット』で使われたのが最初なのだとか。

 

稲葉俊郎さん〜病は体からのメッセージ。
心と身体の声を聞く

対談のトリとなる、稲葉俊郎さんが登場するやいなや、「マンガ好きですよね?」「お医者さんでもありながら、民俗学や能にも造詣が深く、若い頃の僕を見るようだ(笑)」と一照さん。
稲葉さんは人間そのものに強い興味があり、その探求は人体の構造から進化論まで広がっていったそう。その真骨頂ともいえるワークが早速始まります。

「人間を含む脊椎動物は、約4億年前に初めて海から陸へ移動しました。魚類は両生類へと体を変更せざるをえなかったのです。まず魚類時代に戻りましょう。ここは海の中だと思って、うつぶせになって魚になってください。自己催眠的に『私は魚である』と」。
会場からは笑い声がもれながら、皆、魚になってモソモソ。魚が初めて陸に上がるチャレンジ、両生類を経て史上初の二足歩行への挑戦! など、その生き物になりきった歴史的瞬間を追体験。魚が陸に上がる時は、おなかが床にすれて痛い! 初めての二足歩行は姿勢がキツイ……。

生き物は痛みやリスクを引き受けながら、現状に甘んずることなく進化してきたようで。今・ここにある身体も、生命の進化の流れのなかで生まれたことを(痛みとともに)実感したワークでした。

4億年前の魚になった気持ちで、会場(畳の床)を楽しそうに泳ぐ一同

 

進化の経過を指導中!?

 

また稲葉さんによると、病気になる部位とその臓器の機能や役割には、深い関係があるそうです。

たとえば心臓に起きる不具合は「心の声が聞けていない」、つまり「その人が本当にやりたいことをやっていない」。腎臓の病は「自分にとって必要なものと、そうでないものの分離がうまくできていない」。
病気は、身体全体を元の調和的な状態に戻すために表に出てきた現象なのだといいます。

「僕たちがふだん何気なくご飯を食べたり、水を飲んだりできているのは、意識せず内臓のシステムが働いているからですよね。だからこそ、僕たちが常にやり続けなければいけないのは、そうしたことを自動的にやっている自分の身体と心の声を聞いて、ちゃんと仲良くしていくということです」。

病は、身体からの命がけのメッセージなんですね! 稲葉さんいわく「どの部位に病が現れるかは、相当な“からだ会議”によって決められている」そう。一照さんのおっしゃるようにマインド優位だと、アタマの声ばかり聞こえてきて、身体や心の声が聞こえなくなってしまう(私自身、何度も痛い目にあってます……)。
身体の声を真剣に聞くために、もっと学びたい!と刺激を受けた対談でした。

「からだ会議」「人体民主主義」……稲葉さんの言葉遣いは実感がともなっていて、思わず納得。

 

仏教とは、カスタムメイド

大盛況のうちに、三人のゲストを迎えたイベントは終了しました。
一照さんは「最終的には、仏教というのはカスタムオーダーであり、個人の体型に合わせて編み直していかなければ。既製服をがまんして窮屈に着続けるよりは、いったん全部ほどいて自分の体に合わせ、着こなしていくもの」とおっしゃいます。

この一照さんの言葉に、仏教塾の企画者でもあり司会進行役も務めた桜井秀典さんも「宇宙から人の細胞まで、超マクロと超ミクロな行き来を宇宙に行かなくてもできるような、そういうワークを一照さんに考えてほしいし、そんな塾になればいいですね」と応えます。

4月から始まる仏教塾本編について語る、一照さんと桜井さん。

これまで私は、仏教を学ぶことは「決まり事も多そうだし……修行とか苦行? ムリムリ」と思っていました。でも、思い切って参加してみて感じたのは「仏教を学ぶことは、とにかく楽しい! 」ということ。

今回のイベントで体験できたのは、人をがんじがらめにし、苦しくさせているマインドを手放す、ワークや気づきの連続でした。
「そうしなさい」「こうしましょう」といういっさいの強制も推奨もされず、やってみると、ただ身体が変わっていることに自然と気づく。それは、着る人の体型や、これから出かけていく場所や会いに行く人によって、“装いをしなやかに変化させる”のと似ていました。

仏教塾は、進化していくメソッドを体感し、シェアをする場でした。そこで得たのは、仏教のもつ知的で柔軟で、とても愛のある営み。
私にとって“仏教を学ぶこと”は、これまで一番大切で大好きだったこと、“一枚の洋服を選び抜く”ような、真剣で熱い体験だったのです。

今ここにある日常が、まったくちがった世界として目の前に立ち現れることで、とてもワクワクできる。4月から始まった仏教塾本編でも、それが引き続き行われることを期待しています!

(了)

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–Profile–

寒川夕紀(Yuki Samukawa
マインド99%ライター。苦手なこと:感情を感じること。身体が冷える、よく凝る、ゆるめられないことなどから、身体と心の関係性、ボディワークに興味をもつ。

稲葉 俊郎(Toshiro Inaba
1979年 熊本生まれ。1997年 熊本高校卒業。2004年 東京大学医学部医学科卒業。2014年 東京大学医学系研究科内科学大学院博士課程卒業(医学博士)。現在、東京大学医学部付属病院 循環器内科 助教。循環器内科医としてはカテーテル治療、心不全、先天性心疾患が専門。往診による在宅医療、夏期の山岳医療にも従事。あらゆる代替医療・伝統医療・民間医療も満遍なく学び、未来の医療を広く開かれたものとして考える未来医療研究会を主催している。
Web site 未来医療研究会

上田壮一(Soichi Ueda
一般社団法人Think the Earth理事/プロデューサー 1965年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。広告代理店勤務を経て、2000年に株式会社スペースポート、2001年にThink the Earth設立。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動するきっかけづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-1、携帯アプリ「live earth」、書籍『百年の愚行』『1秒の世界』『グリーンパワーブック 再生可能エネルギー入門』、プラネタリウム映像「いきものがたり」など。多摩美術大学客員教授/非常勤講師。。
Web site Think the Earth

藤本 靖(Yasushi Fujimoto
米国Rolf Institute認定ロルファー、ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー。独自の身体論を展開、各地で講演やワークショップなどを行う。著書に『身体のホームポジション』(BABジャパン)、『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(さくら舎)、『1日1分であらゆる疲れがとれる「耳ひっぱり」』(飛鳥新社)、『感じる力をとり戻しココロとカラダをシュッとさせる方法』(マガジンハウス)など。
Web site オールブルー(藤本靖公式サイト)

藤田一照さん

藤田一照(Issho Fujita
1954 年、愛媛県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程中退。曹洞宗紫竹林安泰寺で得度し、1987 年からアメリカ・マサチューセッツ州のヴァレー禅堂住持を務め、そのかたわら近隣の大学や瞑想センターで禅の指導を行う。著書に『現代坐禅講義』(佼成出版社)、『アップデートする仏教』(山下良道との 共著、幻冬舎)、訳書にティク・ナット・ハン『禅への鍵』(春秋社)、鈴木俊隆『禅マインド ビギナーズ・マインド2』(サンガ)など多数。写真に登場する猫は愛猫・テラ。

公式サイト: http://fujitaissho.info/

オンラインコミュニティ大空山磨塼寺:https://masenji.com/