鈴木秀樹の『エクレアと人間風車』 第十回  エクレア持って来てください!(最終回)

| 鈴木秀樹

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本年1月19日に日貿出版社より『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を上梓した現役プロレスラーの鈴木秀樹さん。鈴木さんは“人間風車”の異名を持つ、名レスラー・ビルロビンソン氏より、キャッチ アズ キャッチ キャン(以下、CACC)と呼ばれる、プロレスの源流ともいえるレスリングを学び、現在フリーのレスラーとして、様々な団体で活躍しています。
そこでコ2【kotsu】では、『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』の出版記念集中連載として、鈴木さんにビル・ロビンソン氏とCACCについてお話しを伺いました。
最終回の今回は大会とCACC教室、そしてタイトルにも成っている“エクレア”について鈴木さんに伺いました。

『エクレアと人間風車』

第十回  エクレア持って来てください!(最終回)

語り鈴木秀樹
構成コ2【kotsu】編集部

 

大会、セミナーからエクレアまで
大事なことは「面白いこと」

 

コ2 やっぱりレスリング経験者が有利なんでしょうか。

鈴木 まあ有利でしょうね。でもバンバン投げてくるってことはないと思います。レッグダイブで倒すのが一番手っ取り早いんで。その意味では柔道もそうですよね。押さえ込みがあるから。ハーフガードしてても、クローズドガードしてても3秒背中がついてたら負け。上から押さえ込んじゃえば勝ちです。ただ勝ち負けを決めるだけでなく、「おもしろい」という要素を残したいですよね。究極のルールなんて永遠にできないでしょうし。みんなに平等なルールもできないですからね。だから道着着た選手と着てない選手のワンマッチとかあっても良いんじゃないかと。

コ2 昔のバーリトゥードならともかく、道着を着てると不利だって分かっちゃってるから、今さらやる人いないんじゃないですか。

鈴木 そこは考え方ですよ。帯を解いて縛り上げても良い

コ2 捕縛術じゃないですか(笑)

鈴木 ダメですかね(笑) 帯で輪っかを作ってカウボーイの投げ縄みたいにスポって相手にはめるのもあり。半分冗談ですけど、そういう幅を狭めたくないんですよね。異種格闘技戦的なおもしろさというか。昔のリングスでも実験リーグとかやってたじゃないですか。ふざけてるわけじゃなくて、おもしろ半分でやりたいんですよね。バーリトゥードジャパンとかもおもしろかったですもんね。ルールも含めて選手も運営側も試行錯誤してて。そういう実験的なおもしろさというのがある。

もちろん真面目にやるのも大事ですけれども、みんなおもしろくてやってるわけじゃないですか。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンが。そこを「真剣に」と変にストイックになると、疲れてしまいます。だから大会をやるにしてもそういうおもしろい雰囲気を出したいですね。笑えるアタックをした人や、笑える負け方をした人とか、そういう人には金一封出したいですね。優勝したらメダルもらえるけど、負けてもおもしろければ金一封(笑) そういう風に一番面白い負け方をした人と、一番つまらない勝ち方をした人に賞とかペナルティとかを出す。だから優勝しても全くつまらない人が出て来るかも知れない。優勝しても次の大会に出られないとか。つまらないから。あるいは塩を1キロプレゼントする。そのためにおもしろいかどうかだけジャッジする審判を置いたりして(笑)

ただ、ルールに関しては今度対談する中井祐樹さんに聞いてみたいですね朝日カルチャー講座「僕らはなぜプロレスラーを夢見たのか」現在申し込み受付中)。誰もブラジリアン柔術を知らない時期からやってるわけじゃないですか。それがどうやって周知されて、ルールが整備されていったのか。多分、まだ完成したわけではないと思うんですよね。ルールも色々変わるでしょうし。いつまでも完成するものでもないと思うので、まずは僕が見てみたいルールで始めると(笑) 見つからなければ反則もOK。ロビンソンが「こういう時にこうしたらいいぞ」って教えてくれる技はだいたい反則でしたから。

先生、これ反則なんですけど」って聞き返すと「審判が見てるから反則なんだ」って言いますからね。「見てなかったら反則でもなんでもないだろ」って。だったらなんでもありじゃないかと。サッカーでも見てないところでみんな反則やってるじゃないですか。別に推奨するわけではないですけれども、そういう要素も残しておきたいですよね。いずれにせよつまらなかったら負けなんですけど(笑) で、優勝者にはやはりベルトですよね。

コ2 そこはプロレスらしく。

鈴木 そう。次の大会(2017年3月5日※)ではベルトを賭けて戦うわけです。だからトーナメントに出たら毎試合タイトルマッチになります(笑) ベルトを獲った人がすぐ負けていったら、どんどん入れ替わって第何代王者なのか分からないくらいになる(笑)

※この大会のメインイベントで挑戦者の鈴木選手と王者・関本大介選手は30分フルタイムの引き分けの熱戦を展開した。試合終了後、鈴木選手は「(3月)30日にもう一度やりましょう!」とリング上で呼びかけ、関本選手もこれを快諾、30日に行われたリマッチで鈴木選手はダブルアームスープレックスで見事勝利、BJW認定世界ストロングヘビー級王者を戴冠した。

鈴木秀樹選手
3月30日、タイトルマッチに挑む鈴木選手。

 

コ2 4月から定期セミナーが始まっていますが、それも試合を前提としたものになるのでしょうか?

鈴木 いや、そこは独立させて考えたいんです。試合に勝つためだけのセミナーにしたくない。かといって完全に分離させるわけじゃないのですけれども、僕が教える技術を全て覚えないと試合に勝てないわけではないですから。試合に限定してしまうことで、発想や技術の幅が狭まってしまうこともあるでしょうし。ただ楽しみたいだけの人を排除してしまうことにもなりかねないじゃないですか。やっぱり多くの人に楽しんでもらうものだと思うんですよね。これもやりながら見えてくることが多い気がします。

僕も先輩の井上も、特に「いつまでに試合に勝てるように」という期限付きの練習をしたわけではないんです。だからこそ覚えられた技術もありますし。もちろん個人のニーズとしては試合のための練習も絶対に必要なんですけれども、クラスの方針までそうしてしまうと僕が受講生の可能性を奪ってしまうことになる。そうやって練習を続けていった先に、おそらく大会や試合につながってくるし、生きてくるはずなんです

スネークピットジャパンには僕や井上よりセンスのある人はいっぱい来てましたよ。でも結局、仕事にまですることができたのは、練習を続けてた僕と井上なんです。だから期限をつけるのではなく、ただ練習をし続けることで得られるものって大事なんじゃないかと。僕自身、もともとプロになる気も試合をやる気もさらさらなくて、ただ楽しくてやってたタイプなんで。

鈴木秀樹選手

先日第一回目が行われたキャッチアズキャッチキャン教室の風景。

 

コ2 ロビンソンはジム生同士にスパーリングをやらせて、適宜アドバイスをしていくという指導だったと聞いています。ロビンソンが練習していたライレージムもそうですよね。鈴木さんの定期セミナーもそういう形なんでしょうか?

鈴木 ロビンソンはそれが良いと言ってましたけどね。ただそうなってくると、一度に一組か二組くらいしか見られないと思うんですよね。なのでまずは技術や考え方を教えていって、理解してくれる人を一人でも増やしていこうかな、と。そうやって理解する人を増やしていけば、少しずつ練習のあり方も変わってくると思うんですよ。僕がダブルアームを教わった時と同じですね。

コ2 ダブルアームですか?

鈴木 首を取る動作を覚えたら、ハーフハッチを覚えて、というように一つ一つ動きを身に着けていったら、最終的にダブルアームスープレックスが完成しちゃいました、という感じです。ただ僕自身は試合に出たいわけじゃないんですよね。ただ見てみたい。こういうルールでやったらどうなるか。もう一度、ファンに戻って見てみたいんです

コ2 かつてロビンソンとかが戦っていた世界を復興させたい、ということでしょうか?

鈴木 うーん。「昔はこんなだったんじゃない?」というのを試してみたいのはありますが、ただリバイバルさせたいということではないんですよね。ロビンソン自身がそういう人だったんで。もちろん「昔は良かった」とか言うこともありますけど、自身の中で技術が日々更新している。だからルールだって更新したって良いと思いますし、それで戻って来ることもあるかも知れない。今、こうして多少でもキャッチ・アズ・キャッチ・キャンが注目してもらえるのも、こうした変化が世の中にあるからなんじゃないですかね

コ2 世の中の変化ですか。

鈴木 ええ。初期のバーリトゥードには忍術使いとかが出てきたりして、雑多なおもしろさがありました。いまだにあの忍術って何だったんだろうって思いますもん。変わり身の術でもしてくれるんじゃないかと(笑)。でもそういう異種格闘技戦から総合格闘技が生まれて、統一ルールとかが生まれ、もともと雑多だったものが一つのスタイルにまとまっていきました。すると再び細分化していくんですよ。こういうまとまっては分かれていくサイクルって、延々と続くものだと思うんですよね。

今はちょうど、別れる時期に来ている。だからメジャーなものばかりが注目されていたのが、小規模な興行や大会も注目されるようになる。その流れの中で、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンにも目が向くようになってきたんじゃないかって思うのです

コ2 もともとなんでもありだったはずの総合格闘技が、いつしかUFCルールに統合されて、それに適した技術に限定されるようになった。その流れが逆転しつつあると。

鈴木 そうですね。昔のUFCは2連敗したらリリースでしたが、最近は勝ってる選手もリリースし始めています。UFCは格闘技イベンターとしてはトップですし、これまではそこを頂点として目指すという流れがあった。これが現役選手の中でも変わりつつあるんじゃないかと感じてます。これは運営が変わった影響もあるのでしょうけれども、統一されてはバラけていくというサイクルって、繰り返すものだと思うんですよ。それは良い悪いではなくて、世の常ですね。その過程でルールも変化するし、制限が増えることもあれば減っていくこともあるのではないかと。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンにしても、僕が始めたときと比べたら、今のほうが需要あると思いますもん。

 

エクレア愛について

コ2 この連載のタイトルにあるエクレアの話がまだ出てきてません。なぜエクレアなのでしょう?

鈴木 好きなんですよ。子供の頃から(笑)。シュークリームよりエクレアですね。ケーキとかパフェとか全般好きなんですけれども、あの皮とクリームの感じが好きなんです。小さい頃、とても美味しそうなものに見えたのを覚えてます。地元の高円寺でもケーキ屋さんに覚えられちゃいました。

近所にエクレアが人気の店があって、早い時間になくなっちゃうんですよ。それで運がいいと遅い時間でも買えるんですけど、お店に入ると店員さんが教えてくれるんです。「エクレアありますよ」って(笑) だから他のを買おうと思ってお店に入っても、エクレア買って帰ったりしてます(笑)。ジュン・ホンマってお店なんですけど、お土産でお菓子の詰め合わせを買ったりするのももっぱらここですね。おいしいし、近所なので。

鈴木秀樹さん
ジュン・ホンマのメンバーズカードを常備している鈴木秀樹先生。

 

でも最近、妙な現象が起こってるんですよ。僕はエクレア好きを公言しているのでファンの人から差し入れを頂くんですけど、最近誰も持ってこないんです。エクレアじゃないスイーツばかり集まっちゃって。みんな「エクレアは誰か持ってくるだろう」とがんばって気を使って、エクレアじゃないものを選ぶんです。それはそれで嬉しいんですけど、僕は声を大にして言いたいです。「エクレア持ってきて下さい」と(笑) 決して催促しているわけではないですけれども

コ2 そんなこと言って、エクレアが山ほど来たらどうするんですか? 日持ちしないですし。

鈴木 全部食べるんですよ(笑)。その日のうちに。

コ2 その日のうちに? 最高何本くらい来ましたか?

鈴木 合計で15本くらいですかね。20本いったかな? 全部食べましたよ。翌日、お腹壊しました(笑)。分かっててもやっちゃうんですよ。エクレア欲には勝てない。「明日、お腹壊すだろうな」と思いながら食べてましたから(笑) もしエクレアを冷蔵庫に入れたまま、翌日何かあって食べられなかったらショックじゃないですか。だったら食べて死んだほうが良い

コ2 良いんですか?

鈴木 良いんです。自分の欲を達成するためなら不健康でも良いんです(笑)

コ2 これ読んだ人が山ほど持ってくるかも知れませんよ?

鈴木 まあ常識の範囲内で。ほんとに死んじゃうのはイヤなんで(笑)。「鈴木秀樹エクレアで死亡」なんて記事が出たら、それはそれでおもしろいですけれども(笑)。

(第十回(最終回)了)

 

『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』
鈴木秀樹さんの初の著書『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』が、現在全国書店、Amazonで発売中です。


対談【中井祐樹×鈴木秀樹】なぜ僕らはプロレスラーを夢見たのか?

中井祐樹先生、鈴木秀樹選手

パラエストラ東京主宰、日本ブラジリアン柔術連盟会長 中井 祐樹
プロフェッショナルレスラー 鈴木 秀樹

 

フリースタイル・レスリングとプロレスの両方の源流でありながら、その実態が謎のヴェールに覆われていた格闘技「キャッチアズキャッチキャン」。
その入門書を上梓した話題のプロレスラー鈴木秀樹が、格闘技界のレジェンド中井祐樹とともにプロレスの映像を振り返りつつ、そこに秘められた奥深い技術や格闘技の未来について語り合います。
(講座紹介文章より)

現役レスラーであり『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』の著者・鈴木秀樹さんと格闘技界のレジェンド・中井祐樹さんとの対談が決定しました! 実際にリングでCACCの技はどのように使われているのか、これからCACCはどのように発展していくのか? 熱いトークが予想されるこの貴重な機会をお見逃しなく!
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「キャッチ アズ キャッチ キャン入門」
 定期講座開催のお知らせ!

これまで単発で行ってきた、鈴木秀樹さん直接指導による「キャッチアズキャッチキャン講座」が、新たに定期講座としてスタートすることが決定しました!
細かな指導が行き届くよう定員11名限定です。
以降も基本的に毎月第一日曜日or祝日の月1回ペースで実施予定です。

  • 5月3日 午前10時〜12時

会場アカデミア・アーザ 3階マットフロア(http://www.academia-az.com/
参加費:5,000円
定員:先着11名

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–Profile–

鈴木秀樹選手

鈴木 秀樹(Hideki Suzuki
すずき・ひでき/本名同じ。1980年2月28日生まれ、北海道北広島市出身。生まれつき右目が見えないというハンディを抱えていたが、小学生時代は柔道を学ぶ。中学時代にテレビで見ていたプロレス中継で武藤敬司に魅了され、プロレスの虜になる。専門学校卒業後、上京。東京・中野郵便局に勤務。2004年よりUWFスネークピットジャパンに通うようになり、恩師ビル・ロビンソンに出会う。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンを学び、2008年11月24日、アントニオ猪木率いるIGF愛知県体育館大会の金原弘光戦でデビュー。2014年よりフリーに転向。ZERO1やWRESTLE-1、大日本プロレスなどを中心に活躍。191センチ、115キロ。
2017年1月に日貿出版社より『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を発表する。

Web Site:鈴木秀樹オフィシャルサイト

『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』