連載 タッチの力 対談/山口 創×有本匡男「触れよう、タッチの力」01 タッチとは?

| 山口 創、有本匡男

日本には「タッチ=触れる、触れられる」の機会が少ない。そんな思いから、日本のタッチ研究の第一人者である山口 創先生(桜美林大学教授)を筆頭に、teateセラピストの有本匡男氏(日本ホリスティック医学協会 常任理事)をはじめとする、タッチのスペシャリストたちが集おうとしています(「タッチの力」を広める協会の立ち上げも、現在進行中)。

まずは、去る6月28日に行われたコ2【kotsu】トークイベント「触れよう、タッチの力(山口先生×有本氏対談)」の模様を、五回にわたってお届けします。第一回は、「なぜ、タッチの力に注目したのか?」について、お二人からお話いただきます。

※本連載は、9月29日(金)に開催される第三回ソマティックフェスタとの連動企画です。ページの最後にご案内がありますのでそちらもご覧ください。

 

第三回ソマティックフェスタ連動企画

タッチの力
対談/山口 創×有本匡男「触れよう、タッチの力」

第1回 タッチとは?

語り山口 創、有本匡男
写真コ2編集部

 

山口先生、有本さん

 

日常にもっと、“タッチ”の機会を!

有本匡男(以下、有本) 本日はたくさんの方にお集まりいただき、ありがとうございます。まず簡単に自己紹介します。私は有本匡男(ありもと・まさお)と申しまして、日本ホリスティック医学協会の理事として、またセラピストとして活動しています。

私が提供しているのは、「teateセラピー」というタッチケアです。人間のホリスティックな面(ボディ、マインド、スピリットと呼ばれたりもします)に焦点を当て、身体だけでも精神性だけでもない、人をトータルな存在としてとらえ、そのケアをしていくものです。そして山口 創(やまぐち・はじめ)先生については、いまさらお話するまでもないですが……、自己紹介をお願いいたします。

山口 創(以下、山口) 桜美林大学の山口創(やまぐち・はじめ)と申します。私はここ20年くらい、タッチの研究一筋でやってきました。最初は子供に“触れる”ことが、成長にどのようなよい影響を与えるのか? ということから興味をもちまして、セラピーの現場で、また医療現場で“触れる”ことの効果など、いろいろな分野に興味を広げながら日々、研究をしているところです。今日は有本さんとお話ができることを楽しみにしています。

有本 ありがとうございます。対談のタイトル「触れよう、タッチの力」について、山口先生と僕が共通して思っていることがあります。
それは「日常の中に、タッチの機会をもっと増やしていくことはできないか」ということです。

そのため僕からは実践の現場で感じたことを、山口先生からはタッチの学術的な裏付けをお話することで、みなさんが日常的にタッチを取り入れるきっかけになればと思っています。

実はこの対談のお話をいただいた頃、山口先生をはじめ「タッチ」に関わる方々(それを僕らは“触業(しょくぎょう)”と呼んでいます)と一緒に、タッチの効用を広めていく活動ができればという話になりまして。少しずつ活動をはじめています。

 

人は生まれながらのセラピスト

有本 みなさんのお手元に「タッチについて」という資料があるでしょうか。僕らが活動するにあたって、目指すことなど現在の思いをまとめています。まず読みますね。

 

【人は誰でもセラピストです】
セラピストは心身を癒す人、癒し手のことを意味しますが、何もマッサージなどの専門の技術を持っている人だけがセラピストではありません。
「人を癒すことができる人は、みんなセラピストである」と私たちは考えます。
もともと人は誰もが、生まれた時から優秀なセラピストでした。その柔らかく心地よい肌、純粋な笑顔で、触れ合う人たち(お母さん・お父さんをはじめとする周りの人々)を癒し、元気づけてきたのです。

成長して物心がついた時には、自身や誰かのつらい場面で心が傷むこともあったはず。そんな時、自分の中の「セラピストの種」という優しい心を感じることで、自然に相手に手をのばし、触れ、撫で、時には抱きしめることで、相手を癒し、励まし、元気づける経験をした方もいるかもしれません(無意識の場合も多いと思いますが)。その時には、「誰かを癒すことが自分自身も癒す」という、私たちの中にあるとても大事なことに気づいたのではないでしょうか。

 

有本 特にセラピーを受けに来られる方のなかには「“心身を癒す”なんて、プロの人だからできること。自分には無理」と思っている方は多いかもしれません。ですが、誰でも誰かを癒すことはでき、“触れる”ことの効果はかなり高いことを、僕自身がセラピーの現場で、まさに肌で感じています。

癒やしの技術をがんばって身に付ける以前に(技術はとても大切なことですが)、そもそも生まれた時から誰かを癒していた、ごく自然にできていた感覚を、まず思い出していただきたいのです。
では会場のみなさんに、“触れる”ことの効果を体験していただきましょう。これは、今のこの場で緊張しまくっている僕自身のための癒やしでもありますが(笑)。

 

ワーク:肩に手を置かれるだけで、心身ともにゆるむ

有本 では二人一組になっていただいて、イスに座っている方の肩に、背中側に立った方がやさしく手を置いてください。本当に軽く・優しく手を置くだけで結構です。受け手の方は、手の温かさだったりとか、自分の感覚を味わいながら、呼吸が楽になっていくのをしばらく続けてみましょう。

ワーク体験中
1分ほど、「肩に手をおくだけのタッチ」を体験中。

 

有本 はい。ではゆっくりと手を下ろしていただいて。そのまま呼吸を少し楽にしながら、今の感じを静かに味わう時間をとりましょう。以上です。

(二人一組のなかで役割を交代して、同じタッチを体験)
有本 みなさんいかがでしたでしょうか。感想をいただけましたら。

会場 温泉に入ったみたいでした。ほんわか、身体が温かくなって。

山口 そうですね。会場の雰囲気も、全く変わりましたね。

有本 やわらかく、いい雰囲気の場になりました。

 

人生に触れる、タッチ

有本 みなさんいかがでしたでしょう? 簡単ではありますけれど、今体験して頂いたようなことは、なにも特別なことではありませんし、どなたでもできることです。

なのにたったこれだけで、静かな気持ちになったり癒されたりするのはまさに、“タッチの力”だと思います。それなのに、日常の中で「タッチの機会が減っている」のは、非常にもったいないことでは? と思っているところです。続きを読みます。

 

【ふれあいが少ない現代社会】
しかし、最近はデジタルなコミュニケーションの中で、触れあい自体が世の中から少なくなっています。スピードが速く、忙しい社会の中で、疲れきってしまうこともあります。その過酷な状況のなかで、持って生まれたその素晴らしい“種”が花を咲かせる前に、眠らせてしまっている方も少なくないようです。とても勿体なく感じています。

 

【人生に触れる、タッチ】
人はそもそも触れるという手段で、悲しんでいる人を“慈しみ”、“癒すことができる”、
「セラピストの種」を抱えて生まれてきたと信じています。
だからこそ日本にいるすべての人がセラピスト、一億総セラピストの社会は、きっと互いに癒し癒される優しい社会であるはず。それは、実現不可能ではないと考えています。

 

有本 一気に読んでしまいましたが。これは、今の社会のなかで、誰にでもでき、人と人とのコミュニケーションにもなる「タッチ」が、常に人生とともにあってほしい、と考えているからです。

そのキーワードになるのが【人生に触れる、タッチ】です。タッチの機会を増やしていくことで、人の気持ちがやわらぎ温かい社会になり、ひいては世界の平和もつながっていくのでは? と、考えているんです。

ワークを体験中の山口先生、有本さん
“触れる”ことの大切さをお話ししながら、ワークをされるお二人。

 

以上は、いきなり大きなテーマに広がってしまいましたが…まず、タッチについて僕なりに考えていることをまず、お話ししてみました。
山口先生お待たせしました。タッチについて、いかがでしょうか?
まずはタッチについての基本的なところを、ご説明いただけたらと思います。

 

人との信頼関係を強める“オキシトシン”

山口 私の方からは、タッチの基本「どうしてタッチが癒やしの効果をもっているのか?」という簡単なメカニズムを、お話させていただこうと思います。
このなかで「オキシトシン」という言葉を聞いたことある方は、どれくらいいらっしゃいますか?

(会場のほとんどが、「聞いたことがある」に挙手)
有本 これはすごい。今日はセラピストの方もたくさん参加されているようなので、みなさんご存じなのでしょうかね。

山口 これなら、もう説明するまでもなさそうですね(笑)。ではごく簡単に。
オキシトシン(Oxytocin, OXT)」は、特に産前産後の女性の体内のなかでつくられる、“陣痛”の作用がある女性ホルモンとして知られていました。今でも生理学の教科書にはそう説明されていますし、実際、陣痛促進剤の成分としても使われています。

ところが2005年に最初の研究が行われて有名になったんですが、オキシトシンにこれまで知られていた効果以外にも、脳のなかでさまざまな役割があることがわかってきたんです。それは、

  • 人を信頼する
  • 母と子の愛着の関係を築く

といった、人と人との関係をより強める働きがあることでした。

 

噴霧すると好きになってしまうかも!?

山口 研究では、スプレー状のオキシトシンを噴霧したのですが…スプレーを鼻にあててシュっと噴霧し、それを吸い込むんですね。そうすると鼻の粘膜からオキシトシンが通過して、脳のなかに吸収されていきます。

実は今日も、スプレーを持ってきています(と、カバンからビンを取り出す)。これは医療用ではないので、誰でも、それこそネットの通販サイトなどでも手に入ります。だから大した効き目はないんですけれども。

こうやってシュッっと一吹きすると、オキシトシンが霧状になってでてきます。
あ、隣にいる有本さんはあんまり、吸わない方がいいんじゃないでしょうか?
研究では、目の前にいる人を信頼するようになるといった実験結果がでていますから(会場爆笑)。

有本 いえいえ、僕はそれでもいいです(笑)。

山口 最近では自閉症の治療薬として、世界的にもかなり研究が進んでいます。自閉症の子には、オキシトシンが脳のなかで作られにくい性質があるからです。そこで1日3回くらいのペースでオキシトシンを吸わせ続けていると、自閉症の症状が段々軽くなるという報告があります。

ただし注意が必要なのは、あまり高濃度のオキシトシンを吸わせ続けると、作用がだんだんなくなっていくことも、わかってきました。

よく考えれば、ほとんどの薬がそうですよね。あまり強い作用があるものを身体に入れ続けると、自分で作る能力が衰えてしまい、効き目が減ってしまう。

そこで私は、特に自閉症の子供に対して母親が子供に触れるタッチケアをすることで、子供が自分でオキシトシンを作る能力を高められないか? という研究を進めているところです。

 

タッチにはなぜ、癒やしの効果がある?

山口 なぜならオキシトシンは、人が人に触れることで作られるホルモンだからです。

実際に自閉症の軽いお子さんに対しては、タッチケアがとても効果がありました。症状が軽くなった結果、母親が子供と関わりやすくなったり、子供との間に信頼関係が少しもてるようになったり、母親の育児ストレスが軽くなったり……と、お子さんにとっても、お母さんにとっても、タッチケアが役立つことがわかってきました。

また、タッチをして自分でオキシトシンを作る能力を高めるわけですから、副作用はないですしね。

ただし残念ながら、自閉症の症状の重い子供に関しては、あまりいい結果はでなかったです。なぜなら、自閉症や発達障害の子供たちは「触覚防衛」といって、触れられるのをすごく嫌がる場合がありますから。

有本 「触覚過敏」ともいいますよね。

山口 ええ。過敏に反応するので、触れることすらさせてもらえないことがあります。ですが少し工夫をして、あまり手を動かさずにただ肩に手をおくとか(さっきみなさんが体験したように)、あるいは逆にギューっと強めの圧刺激を加えるなどで、触覚の受容器も変わってきます。

何らかの形で子供たちに触れられれば、オキシトシンがでます。そうすると子供たちが受け入れてくれることが、確率的に多くなることもわかってきました。

タッチは誰でもできることですから、今後もやり方を研究して普及させたいと思っているところです。

(第1回 了)

 

※日本ソマティック心理学協会が主催する「第三回ソマティックフェスタ(2017年9月29日開催)」に、有本さんが講師として参加されます。

本連載に登場予定の“タッチのスペシャリストたち”も講師として多数参加予定です。

翌30日には、山口先生をフォーラム大会長とした、日本ソマティック心理学協会第4回大会「タッチフォーラム2017」も開催されます。

この機会にぜひふるってご参加ください!

【第三回ソマティックフェスタ(2017年9月29日開催)】

日時:2017年9月29日(金) 10:00〜19:00
公式サイト:https://www.somaticworld.org/ソマティックフェスタ2017/
※サイトから、各クラスにお申し込みいただけます。

【会場】
国立オリンピック記念青少年総合センター カルチャー棟
東京都渋谷区代々木神園町3−1

【料金】
各クラス
・事前申し込み 3500円 (9月25日まで)
・当日申し込み 4000円

 

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–Profile–

山口 創(Hajime Yamaguchi
桜美林大学教授/臨床発達心理士。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は、健康心理学、身体心理学。聖徳大学人文学部講師を経て、現職。肌のふれ合い(スキンシップ)が心に与える影響を研究し、日本のタッチ研究の第一人者として知られる。
著書に『幸せになる脳はだっこで育つ。強いやさしい賢い子にするスキンシップの魔法』『子供の「脳」は肌にある』『皮膚感覚の不思議』など多数。
Web site 山口研究室のホームページ

有本匡男(Masao Arimoto
teateセラピスト。幼少期に、仏教の考えに触れ、「幸せとは」について考え始める。2002年よりセラピストとして活動を開始、同時にヨガ、哲学を学び始める。2007年より「teate(てあて)セラピー」を始める。現在は講演、ワークショップを通じて、「teateセラピー」やホリスティックヘルスケアの普及につとめている。
Web site​ ホリスティックヘルスケア研究所