システマ2.0 第0回「システマ2.0」始まります。 

| 北川貴英

ko2でのシステマ連載をリニューアルすることにしました。「システマ随想」はいったんおやすみです。新しく始まるのは「システマ2.0」。ここ数年、創始者ミカエル・リャブコが提示しているシステマの新たな方向性について、筆者なりに解説してみようと思います。

「ニュースクール」や「LV2」と呼ばれるシステマはいったい何なのでしょう。「LV1」や「オールドスクール」と何が違うのでしょうか。

システマ2.0

第0回 「システマ2.0」始まります。

北川貴英

プロセスを身につけさせる「ニュースクール」

ミカエルはあるセミナーでこんなことを言っていました。

「一般的な武術はレストランのように完成した料理を提供します。でも私は食材の入手法を教えます。つまり武術の源を提供するのです。」

「完成した料理」とは様々なテクニックを指します。

パンチやキック、ナイフのディスアームなどなど、世の中には実に多彩なテクニックがあります。でも、それがどのような原理で成立しているのか語られることはほとんどありません。

つまり食材の選定や調理といった、料理ができるまでのプロセスです。

これまでおいしい料理を提供してきたのが従来型システマ。

これに対して料理ができるまでのプロセスを身につけさせるのが、ニュースクールなのではないでしょうか。

それも単なる調理だけではありません。一番の根本となる食材の入手から始まります。

パンを作るのに小麦を蒔く土壌の選定から始めるようなもなのです。

だからとても手間と時間がかかります。

「アカマツのしたにマツタケが生えている」と教わっても、アカマツ林に分け入って自分で探さなくてはいけないでしょう。

行ったとしても時期や運が悪くて一本も見つけられないかも知れません。キノコを見つけても毒キノコかも知れませんし、他の安いキノコかも知れません。

首尾よくマツタケを見つけても、持ち帰る途中で腐らせてしまったり、料理しながら焦がしてしまうことだってあります。

だから完成品を食べるだけに比べたらずっと大変ですし、人によっては全く実にならないこともあるでしょう。

でもその一方で、膨大な可能性を秘めています。自分なりにアレンジを加えて様々なマツタケ料理を生み出すこともできるでしょう。

マツタケの生態を解明して、大量生産にこぎつけることもできるかも知れません。マツタケ料理専門店をオープンすることだって可能です。

このように、活用の仕方次第では、ただ食べるだけよりもはるかに豊かな恩恵を得ることができるのです。

本来なら絶対に企業秘密としてしまうところを、気前よく教えてしまっているのが、ミカエルの進める「ニュースクール」です。とてつもなく壮大なネタばらしなのです。

ただ個人的には、ニュースクールといっても「なんだ、もともとあったものじゃん」と思う程度でした

そもそもミカエルはニュースクールのステージを隠していたわけではありません。

もともとオールドスクールもニュースクールもなく、ぜんぶ一緒くたに教えていたのです。

でもあまりにも完成品を求める人が多くて、もっと価値のあるものに目を向ける人がいなかったので、あえて「ニュースクール」という形で切り出したのでしょう。

そこは生徒たちにもっと良いものを得てもらいたい、さらに成長してもらいたいという、ミカエルなりの親心なのでしょう。

ですからもしニュースクールを「これまでにない新しい技法」ととらえるなら、おそらく意図するところを見誤ってしまいます。先程のマツタケの例えを引き継ぐなら、ニュースクールは画期的なマツタケ料理のレシピではありません。

でももし、ちょっとした頭の切り替えができれば、レシピよりもずっと価値あるものが得られるはずです。

システマ
モスクワ本部のオフィスにて。日本人一行を出迎えるミカエル。

 

キーワードは「感じる」こと

この連載もまた、そのように進めていくつもりです。技法や原理を一つずつ紹介していくような、従来型の技術書では完成品を並べていく従来型と違いがありません。

それよりも読む人の固定解除がぱらぱらと崩れて、いつしか視野が広がっているような方式にできればと考えています。

視野が広がれば見える世界が変わります。

すると身体や動きに対する見方や考え方も変わり、動きそのものも変わってきます。その時にはそれぞれの「正解」も見つけることができるでしょう。

ただ最終的な「答え」にはおそらく行き着くことはありません。正解とは、行き止まりではありません。現在進行形で無限の正解を見つけ続ける状態が、延々と続いていくのです。

こんなことを果たして連載で伝えられるのか。

自分でやたらハードルをあげてしまいましたが、一つのキーワードが頼りになりそうです。

それは「感じる」ということ

私たちは全身に無数の感覚器を備え、神経システムを膨大な情報が駆け巡っています。情報化社会と呼ばれる昨今ですが、全身を流れる情報量はメディアを通じて目や耳から入るそれをはるかに凌駕することでしょう。

でも私たちの意識はもっぱら目と耳から入る情報に追われ、他から入る情報は大部分がスルーされてしまっています。このスルーされてしまっていた情報を拾えるようにするのが「感じる」ことの目的です。

先ほど「視野を広げる」と書きましたが、視覚に限った話ではありません。あらゆる領域において、それまでスルーしてしまっていた情報を漏らさずキャッチできるようにするのです。

脳と全身をつなぐ神経には、インプットとアウトプットの2系統があります。脳から司令を発し、身体を動かすのがアウトプット、全身が得た情報を脳に届けるのがインプットです。

このインプットの能力を高めれば、自ずとアウトプットも向上します。なぜなら自分や周囲の状況がより正確に把握できるようになるからです。

そしてなにより見える世界、感じられる世界が少しずつ変わっていくのは、とてもエキサイティングな体験なのです。

このやたらハードルが高い連載がなんとかなるような気がしているのも、筆者自身がそんなニュースクールの世界を心底楽しんでいるからでしょう。

システマ
モスクワの国際セミナーにて。適切な位置取りとそれを知るための感覚について解説するミカエル。

 

システマ2.0の挑戦

システマとは「System」。

単に「システム」とカタカナ訳するよりも、「理(ことわり)」とか「摂理」と訳した方が本来のニュアンスに近いように思います。

武術、身体技法、リラクセーション、メンタルマネジメント、哲学などなど。その全てでありながらどれでもないシステマ。そういうシステマの大きさがより露わになるのがニュースクールです。

身体が、意思が、精神が、そして世界がどのように運行しているのか。科学はこの世の理を数字で記述する試みであるなら、システマは「生きる」ことを通じて探り、表現する試みです。

それをどれだけ言語化できるのか挑むのが、この「システマ2.0」です。

ニュースクールはその性質上、どうしても人を選ぶ傾向があります。料理は食べるのが専門で、作る方はまっぴらという人が必ず一定数いるのと同じです。むしろそちらの方が世の中では多数派かも知れません。

でも同時に料理の成り立ちに興味を持つ人も一定数、必ずいます。

そういう人に届くことを願いつつ、新連載「システマ2.0」の幕を開けたいと思います。

(第0回 了)

 

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「内側からの動き」に身体が導かれることで、反応できない動きが生まれる。受けはシステマリガのエドモンス。ラトビアを代表する著名なカーレーサーでもある。

 

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–Profile–

北川貴英(Takahide Kitagawa
08年、モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより日本人2人目の公式システマインストラクターとして認可。システマ東京クラスや各地のカルチャーセンターなどを中心に年間400コマ以上を担当している。クラスには幼児から高齢者まで幅広く参加。防衛大学課外授業、公立小学校など公的機関での指導実績も有るほか、テレビや雑誌などを通じて広くシステマを紹介している。

著書

「システマ入門(BABジャパン)」、「最強の呼吸法(マガジンハウス)」
「最強のリラックス(マガジンハウス)」
「逆境に強い心のつくり方ーシステマ超入門ー(PHP文庫)」
「人はなぜ突然怒りだすのか?(イースト新書)」
「システマ・ストライク(日貿出版社)」
「システマ・ボディーワーク(BABジャパン)」
「ストレスに負けない最高の呼吸術(エムオンエンタテイメント)」
「システマ・フットワーク」(日貿出版社)

監修

「Dr.クロワッサン 呼吸を変えるとカラダの不調が治る(マガジンハウス)」
「人生は楽しいかい?(夜間飛行)」

DVD

「システマ入門Vol.1,2(BABジャパン)」
「システマブリージング超入門(BABジャパン)」

web site:「システマ東京公式サイト