書の身体 書は身体 年末特別編 「十二の脳天」で「寿」を簡単に書く!

| 小熊廣美

止め、はね、はらい。そのひとつひとつに書き手の身体と心が見える書の世界。しかし、いつしか書は、お習字にすり替わり、美文字を競う「手書きのワープロ」と化してしまった。下手だっていいじゃないか!書家・小熊廣美氏が語る「自分だけの字」を獲得するための、身体から入る書道入門。
「お習字、好きじゃなかった」「お習字、やってこなかった」「書はもっと違うものだろう」
と気になる方のための、「今から」でいい、身体で考える大人の書道入門!

今回は年末特別編として、年賀状に使える「寿」の簡単な書き方をご紹介いただきました。

駆け込み派の皆さん必見です !

 

書の身体、書は身体

年末特別編 「十二の脳天」で「寿」を簡単に書く!

小熊廣美

 

小熊先生題字
題字・小熊廣美

 

おめでたい「寿」の字

「寿」は、新年を迎えたり、結婚式やら何やらおめでたい席につきものの文字です。

「ことぶき」という言葉は、おめでたい分だけ、様々な書体、書風となって、とんでもない数の「寿」を作っています。

小熊先生 寿

 

そういうなかで、観ることは多々あることだと思いますが、私には書けないと思っている人のために、簡単に書けるよくあるおめでたそうな「寿」の書き方レッスンです

「寿」の旧字が「壽」となっていますが、活字では新旧の文字をそれに決めた!だけです。なにが正しいが、どれが正解か、と一概にいえないのが書の特性とあらためて教えてくれる「寿」でもあります。

ちなみに現在一般的に使われている「寿」は、旧字「壽」の草書の一つとして略されていく中で、形を整えて楷書として活字に採用された一つのようです。

ですから、今の「寿」からは、字源の田んぼのうねで豊穣を祈る字である部分(白川説)や「老」などの部分(他説)などの字形は、まったくわからなくなった省略の歴史をしみじみ感じる字でもあります。

それをふまえて、よくある草書「寿」を書いてみましょう。動きを捉えれば、簡単です。

 

十二の脳天

言葉では「十二の脳天」ですが、それを「十二ノの点(12のノーテン)」と書けば、よく目にする草書の「寿」になってしまいます。

「十」
を書き、

小熊先生 寿

 

次に、その十の縦画のなかに、
「二」を書き、

小熊先生 寿

 

その最後から、続けて「ノ」を突っ込むように書き、

小熊先生 寿

 

突っ込んだ反動を利用して、ほぼ円回転の「の」をぐるっと書いて、

小熊先生 寿

 

「の」のぐるっと書いた勢いが、そのままに空中にいって、おきどころのない気持ちを晴らすように、筆を下して「点」を打つ。

小熊先生 寿

 

そうすると、おめでたい「寿」のできあがり

上手さより、おめでたい感じが出せるかが、ポイントです。

ゆっくり書きながらも、勢いが大事です。

おもむろに書きだし、縦画のはじめをしっかり意識して背骨を作り、後は、左右の振りとその反動を生かしていくだけです。書の動き、身体性を感じられれば、生きた字となっているのではないでしょうか。

小熊先生 寿

 

お正月に是非使ってほしい字ですし、空中に身体をうまく使って書けば、ほぼ太極拳の動きのようです。おためしあれ。

(特別編 了)

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–Profile–

takada hiroyuki (1)

小熊廣美(Hiromi Oguma雅号日々軌
1958年埼玉生まれ。高校時代に昭和の名筆手島右卿の臨書作品を観て右卿の書線に憧れ、日本書道専門学校本科入学。研究科にて手島右卿の指導を受ける。
その後北京師範学院留学、中国各地の碑石を巡る。その後、国内ほかパリ、上海、韓国、ハンガリーなどで作品を発表してきた。

書の在りかたを、芸術などと偏狭に定義せず総合的な文化の集積回路として捉え、伝統的免状類から広告用筆文字まで広いジャンルの揮毫を請け負う。そして、子どもから大人までの各種ワークショップやイベント、定期教室において、また、書や美術関連の原稿執筆を通じ、書の啓蒙に務めながら、書の美を模索している規格外遊墨民を自認している。

〈墨アカデミア主宰、一般財団法人柳澤君江文化財団運営委員、池袋コミュニティカレッジ・NHK学園くにたちオープンスクール講師など〉

web site: 小熊廣美の書の世界