コ2【kotsu】レポート  ヒモトレ×ロルフィング®×古武術、夢の競演 〜前編

| 大久保圭祐

去る2017年11月28日に東京・代官山にある「晴れたら空に豆まいて」において、ヒモトレ考案者・小関勲先生、武術研究者・甲野善紀先生、ロルフィングⓇの田畑浩良先生によるイベント、「〜ヒモトレ・ロルフィング・古武術 〜 『主体を取り戻し全体性を体感する 〜自分というマシンのスイッチをオンにすることについて』が行われました。

コ2ではこのイベントに参加されたロルフィングⓇの大久保圭祐さんにレポートをご寄稿頂きました。

大久保さんと言えば、コ2で連載中の「もっと!保健体育」にも登場していただいたばかり。果たしてこの三者によるイベントはどのように映ったのでしょう。

前編の今回は大久保さんも体験した、ヒモトレを中心に語って頂きました。

コ2【kotsu】レポート

ヒモトレ×ロルフィングⓇ×古武術、夢の競演

〜前編

取材協力晴れたら空に豆まいて
大久保圭祐
写真阿久津若菜

 

古武術の甲野善紀先生、ヒモトレの小関勲先生、ロルフィングⓇの田畑浩良先生の3名による豪華なイベントに先日、参加してきました。

私はロルファー™️、パーソナルトレーナーとして、クライアントの方の身体の悩みと向き合う仕事をしています。

特にロルフィングⓇは、筋膜へのアプローチ(手技)を介して、クライアントさんの自己調整を引き出す施術であることもあり、「主体性を失わない身体・心へと、どのように調整していくのか?」は、自分にとって一番の関心事でもあります

田畑先生には日頃から大変お世話になっていますが(ちょうどイベントの少し前に、田畑先生主催のワークショップに参加したばかりでした!)、甲野先生、小関先生にお目にかかるのは初めて。この3人のコラボから、何が見えてくるのだろう。高まる期待を胸に、会場に向かいました。

大久保さん 晴れ豆
左から小関勲先生、甲野善紀先生、田畑浩良先生。

 

「ゆるく巻くことで、主体をヒモ任せにしない」

ヒモトレとは、「1本のヒモを“優しく”体に巻くだけで、体が軽くなったり、動かしやすくなったりする、手軽に取り組めるトレーニング法」だといいます

ただし、トレーニング概念とは少し違い、時間を費やしたり、回数をこなす行為は一切行いません。今の自分の全身のバランスを整えるというのが目的となります。整えた状態を試す事によって根本的な運動経験を体験し直すといいます。

体感することが大切と、参加者全員にヒモが配られ、小関先生のリードでヒモトレ講座がスタートしました。会場には、実際にヒモトレを知っている、体験している方も多く、中には“マイヒモ”を持参されている方もちらほら。

まず、何もない状態で、肘の曲げ伸ばしや、キラキラ星の動き(手をヒラヒラと回旋させる動き)を行いました。輪っか状のヒモに両腕を通し、手首の辺りにひっかけた状態で同じ動きをしてみて、「ヒモのある/なし」でどのように感覚が変わるかを試してみました。

※この運動はDVD付き書籍 「ヒモトレ入門」p27に掲載されています。

これまで「ヒモを使って取り組むトレーニング」とだけ聞くと、矯正するためにヒモを体に縛り付けて動いたり、ヒモを使うからこそできる動きをするトレーニングをイメージしていました。つまり、ヒモで身体をシャキッとさせる、ヒモで身体を“がんばらせる”イメージです。

ですがヒモの適度な張力を感じながら動かしていると、ヒモの張力がガイドとなることによって、無自覚の癖(拘縮的状態)を緩和することで、身体のニュートラル状態(抜け過ぎず、入れ過ぎない状態)を維持することができるといいます。それによりナチュラルな身体性を経験することになるということです。

実際試してみるとヒモが適度な軌道を作って、身体が動かしやすくなるのを実感出来ました。それは、まるでロルフィングⓇで体現出来るムダな緊張を発生させることなく、身体を動かす感覚に似ていました。

ヒモを“体に優しく”、“軽くゆるませて”巻きつけることが、身体に変化を起こす

この発見が、何よりの驚きでした。

大久保さん 晴れ豆
小関勲先生

 

小関先生は「ヒモトレによって主体的かつ客観的な運動を経験します。それによってナチュラルな身体の動きと、今までの経験として培われた動きを棲み分けすることができます。ここがヒモトレの大きな特徴の一つです」とおっしゃいます。その上で、

道具や方法に対してあまり身をゆだね過ぎると、動きの主体性が失われてしまいますし、主体がなくなると運動の本質が失われます。だから、そのちょうどよい距離感が非常に大事です

とのことでした。

この“動きの主体を相手に任せない”ことについて、会場の参加者同士でペアワークも行われました。

2人1組になり、どちらか1人が座った状態から立ち上がる動作を行います。もう1人は、それに手を添えて動きをサポートします。そのサポートのしかたを3パターンにわけて、お互いの感覚を比較しました。

まずはパートナーが動くのを見届けるように、軽く触れてサポートします。一番スムーズな関係性で、どちらも力を入れずに立つことができました。次に助けようと強く思ってサポートすると、その思いが強いほど干渉が強くなって、思いとは裏腹にパートナーは動作をしにくくなってしまいました。最後に、サポート役に力を完全に委ねて立ち上がろうとします。すると、どちらも身動きが取れなくなり共倒れしてしまいました。

これもまた、“動いている本人の主体性を失わせない”ことを確かめるためのデモでした。ヒモのゆるさの加減と一緒で、サポートはさりげなくでないと、身体の力が却って失われてしまうのです。

大久保さん 晴れ豆
ヒモトレを実演する小関先生。

 

ヒモは、クライアントに対するロルファー™️の在り方と一緒です。ロルファー™️がクライアントに介入し過ぎても、クライアントが自分で身体を良くするプロセスを邪魔してしまい、自己調整能の向上を妨げてしまいます。そんなロルファー™️の存在を1本のヒモで果たしてしまうなんて衝撃でした。ロルファー™️危うしです。このあと登場する田畑先生に期待したいと思います。

 

甲野先生が語る「驚くべきヒモ効果」

ここで、甲野先生から体調不良の時に経験したヒモの効果のお話がありました。

「のどに痰がからんで咳が止まらない時、のどの回りにヒモを巻くと、巻いた瞬間に咳が止み、のどの調子が落ち着いた。ヒモを巻くことによって、のどの回りの輪郭へ意識が向き、身体のパーツがあるべき位置に戻ったように感じ、のど周りが正常に働くようになった」とのこと。

大久保さん 晴れ豆
ヒモトレの効果と可能性について語る甲野善紀先生。

 

さらにその効果について「瞬時に効果を生み出すヒモは、“ドーピング”の様ですね」と甲野先生がおっしゃると、すかさず小関先生が「ヒモトレは等身大の自分を観せているだけですから、ヒモのイメージを悪くしないでくださいね」と返し、その軽妙なやりとりに、会場からは思わず笑いが起きました。

ヒモを使って改善した2つの症例の動画で紹介されました。ひとつ目は、交通事故に遭って骨盤を骨折した方の姿勢と歩行が、ヒモを巻いて即座に変化するケース。

これについて小関先生は、

「この方の場合恥骨を骨折していて、その怪我自体が治ったわけではないのですが、怪我によって引き起こされている過剰反応によるバランスの崩れを調整したという感じでしょうか。等身大の症状になることによって、本人も治療をされている方も処置の仕方も明確になりるんですね」

と語られ、ヒモを巻いた良い状態のパフォーマンスとコンディショニングが定着した半年後の写真も紹介してくれました。もうひとつは脚のむくみが改善されたケースです。ゆるく体にヒモを巻きつけるだけで、日常動作のパフォーマンスがアップしたり、むくみ改善のようにコンディションアップになったりします。

ヒモは楽器を演奏するミュージシャンやアスリートにも有効だそうです。実際にウクレレを演奏する際に、ヒモを使用した時としないた時との動画が紹介されましたが、音の響きや深さが如実に違うのには驚きました。

こちらもヒモで強く身体を固定するということではなく、脚、背中、指にヒモをゆるく巻きつけてるだけです。それだけなのに演奏者の姿勢や腕のスイングスピードが別人のように変わり、テンポの速い演奏でも細かい音が歯切れよく明確に聞こえるようになりました。小関勲先生からは

「無駄な緊張もそうですが、無駄な脱力や動きの過不足をヒモを巻く事によって調整ができるようになるんですね。つまり、演奏する、スポーツする以前の身体の状態を整えることによって自ずと表現されるものが違うわけです」

という説明がありました。

そんなヒモトレのヒモには使い方や素材、形状などにこだわりがあるそうです。

大久保さん 晴れ豆
公式ひもトレ専用 スピンドル http://www.m-bbb.com/

 

巻き方は体に締め付けるようにキツくではなく、ゆるく体に掛けるだけ。ヒモの形状は平ヒモではなく丸ヒモであることが大事だといいます。その理由は

「ゆるく巻くことで、等身大の体のフォルムが自覚された上に、その緩さによって動くごとに接触が新たとなり、新鮮さを保つことに繋がります」(小関先生)

と説明されます。

※ヒモトレ自体は“太さ4~8ミリ程度の丸ヒモ、伸びすぎない”などの条件さえ満たしていれば100円ショップのアクリル性ヒモ、やPPヒモでもOKです。

つまりヒモの存在を「意識する」という情報を過去の経験として固定しまうのではなく、ゆるく巻くことで、その瞬間瞬間に新たに得られるヒモとの関係を一瞬一瞬無自覚にできることで、常に感覚がリフレッシュされ自立的に身体意識を調整しているわけです。

普通はなにかを体に装着する際に、ゆるくて自然に移動してしまうものでは駄目だと思われがちですが、ヒモトレの場合は「ゆるさ=触れる」に対して身体が自動反応することを非常に巧みに利用しているように感じました。

実際に、甲野先生は、この「ゆるさに対する信頼」はなかなか理解してもらいにくい感覚であると仰っています。その一方で、

「ヒモを鎖編みにすると、効果が高まったりするので、色々な編み方にトライしてきましたが、いまは鎖編みが効果を高めることが出来ることが分かってきました。また、厚めのダウンジャケットを着た上からでもゆるくヒモを巻くことで効果があるんですね。繊細である一方でそういう図太さがあって、その理由は分からない(笑)。ただやっているうちに無秩序の中にも法則性が生まれてくるだろうと思っています」

とお話していました。

甲野先生は実体験から来るヒモトレの効果として、

「体が寒いからと言って、体を締め付けるものをたくさん着たり、何枚も羽織ってしまっては、体液循環が悪くなり熱が生まれなくなる。そんな環境が続けば、一向に体そのものは温かくならず、却って体は熱を作らなくなるんですね。ところが一信九疑くらいで、寝る時にたくさん着込むのではなく、体を締め付けないゆるい服装にしてみると劇的な変化を感じる。布団に入ったばかりは冷たく感じるが、そのあとは体が熱を生産し、体が暖かくなってくる」

と言い、これはかゆみ、腰痛、乾燥などの体の不調にも有効とのことです。

(前編 了)

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–Profile–

大久保さん

大久保圭祐(Keisuke Okubo)
パーソナルトレーナー、ロルファー™️。大学在学中にキックボクシング部の主将として活躍、プロライセンスも取得する。卒業後はいったん食品系専門商社に勤務するが身体への関心を捨てきれず、パーソナルトレーナーの道を選ぶ。過去の運動や減量経験などを活かしたボディメイクの指導者をするなかで、ボディワークの“Rolfing®”に興味を持ち、渡米してRolf Institute®を卒業する。現在は、各種メディアや店舗にてエクササイズの監修、セミナー講師、コラムの執筆など幅広く活躍中。
著者『筋膜ボディセラピー(三栄書房)』

Web site 大久保圭祐公式サイト