去る2017年12月23日に朝日カルチャーセンター新宿教室にて、「子育て三銃士」によるワークショップが行われました。
講師三人の共通点は、からだに関わる仕事をされているだけでなく、それぞれが子育て真っ最中の“パパ”であることです。
「心地よいからだでいられれば、子供との時間はもっと楽しい!」。そんなメッセージが伝わってきた講座の様子を、今すぐできるワークとともに紹介します。
コ2【kotsu】レポート
子育てから学ぶ“スッキリ、フワッと”な心と体
取材協力●朝日カルチャーセンター新宿教室
文・写真●コ2編集部(阿久津若菜)
「子育て三銃士」こと、ロルファー™️の藤本靖さん、整体ボディワーカーの山上亮さん、システマインストラクターの北川貴英さん。これまで北川さんと山上さんは、コ2連載「親子体育」で子育てについて対談をされたり、コラボ講座も行ったりしたことはありますが、この三人が一堂に会して「子育て」のことを語るのは初めて。
会場は、お子さんを連れた家族での参加もあり、最初から和やかな雰囲気で始まりました。
生後2カ月の赤ちゃんとも、対話はできる!
講座がはじまって早々、「男性が子育てを語る時代になったんですね」としみじみおっしゃったのは、山上さん。
野口整体とシュタイナー教育をベースにした“整体ボディワーカー”として、子供たちへの手当てなどを伝える講座を主宰されています。
これまで男性目線でのからだの扱い方は、どちらかといえば「いかに鍛えるか?」など、“マッチョなからだ”が語られることが多いなか、
「“育児とからだ”をテーマにすることで、親子で“からだとの対話”を楽しめるようになってくれたらうれしいです」
と、おっしゃいます。
それもそのはず。山上さんの施術のベースである野口整体では、とにかく相手に語りかけることを大切にするのだそうです。
赤ちゃんがお腹の中にいる時も、生まれてからおしめを替える時も、お乳をふくませる時も、抱っこであやす時も……忙しくてつい、流れ作業になりがちな場面でも、まずは“話しかける”。
それは言葉を通じての対話だけではありません。
山上さんの講座に、生後2カ月の赤ちゃんが参加した時のこと。
“皮膚ずらし”というワーク(後ほど紹介)を赤ちゃんに試したところ、
「この方向に動かすと、気持ちいい?」と語りかけると、
「ゔー…?(いまいち)」「うー!(いいね!)」など、
赤ちゃんはちゃんと反応を返してくれたのだそうです。
「親にとって“よくわからない存在”になりがちな赤ちゃんですが、親が子を受け止める気持ちをもってみる。そしてからだを通じてのコミュニケーションをすれば、子供との対話って、何歳からでもできるじゃないか! と思いました」と、山上さん。
【ワーク:皮膚ずらし】
いま紹介されたばかりのワークを、参加者で2人組になって体験しました。
- 触れる人は片手の指2〜3本をそろえ、相手の胸(鎖骨の下あたり)を軽くタッチします。触れる人、触れられる人、お互いが気持ちよくいられるくらいの軽い圧です。
- しばらくしてお互いが「触れる—触れられる」状態になじんできたところで、触れている人はゆっくり、相手の皮膚を上の方(顔の方)に向かって数センチほど動かします。続いて下の方(足の方)でも同じことを。
- そのあと「上に動かすのと、下に動かすのと、どちらが気持ちよかったですか?」と相手にたずねます。
- 上下が終わったら、左右で同じことを繰り返し、上・下・左・右の四方向について「動かされて気持ちのいい方」「そうでもない方」があることを、確認します。
- 最後に、一番気持ちのよかった方向に再び皮膚をずらし、そのまましばらく待ちます。
すると……ずらしていた皮膚がなんと!
あるべき位置(皮膚をずらす前、からだの中央の位置)に戻るのです。
これは、意図的に力を抜くのではなく、触れられることで皮膚が自然と“戻ってしまう”のがポイント。
「触れられている相手のからだがゆるむ=脱力することで、からだが整ってくるから」だと、山上さんはいいます。
こうして参加者がまず、“タッチで自然体に戻るからだ”を味わったところで、北川さんにバトンタッチです。
動きのパーツを増やし、からだの可能性を広げる
北川さんはロシア武術・システマのインストラクターとして、通常の大人だけのクラスとは別に、“親子でシステマを楽しむクラス(通称:親子クラス)”も主宰されています。
親子クラスでメインにしているテーマはふたつ。からだを動かすパーツを増やすこと、人と人との接触を増やすことだそうです。
「人間の動作は、いくつものパーツが組み合わさってできています」と、北川さん。
たとえば「歩く」ことであれば、両足で立つ→(体重を移動して)片足だけで立つ→反対の足を振り上げて前に伸ばす…といった、いくつもの動きのパーツがあります。そして
- “パーツを増やす”ことで、新しい動きができるようになる子供
- “パーツを組み合わせる”ことで、バリエーションのある動きができるようになる大人
というように、からだの使い方の質が、子供と大人では違うといいます。
日に日に覚えが悪くなる大人に対して、動くほどにからだの可能性が広げられる子供たち。
そこで親子クラスでは、日常ではしない動作も含めて、いろいろな体験をさせているそうです。
ここで山上さんから
「以前うかがった話だと、子供の両足をロープで縛った状態から、脱出させるワークもありましたよね!?」とツッコミが。
北川さんは
「からだに不自由さを与えることで、新しい動きのパーツができますから」と、いたって涼しい顔で返答を。
そこで実際の親子クラスでも行われているという「脱出ゲーム」の紹介がありました(さすがにロープは使いませんでしたが・笑)。
【ワーク:脱出ゲーム】
- 横たわる子供の上に、クロスするように寝転びます。さらに足や手を絡めて動きにくい状態にしてもOK。
(上に乗られて苦しくないかなど、お互いの状態をよく観察しながら行ってください。) - このように動きが封じられた状態から、子供が1分以内に脱出するワークです。
会場の参加者同士でも二人一組になって行いましたが、次第に「もっと脱出しにくい体勢にできないですかね……」と夢中になって和気あいあいとした雰囲気に。
このように“人と人とが接触する機会が増える”ことには、対人的な恐怖心も乗り越えやすくなる効果があるのだそう。
親子クラスのメインテーマであるふたつ(からだのパーツを増やす、人と人との接触を増やす)が一気に体験できるワークでした。
【ワーク:段差跳び】
「子供とは、段差があれば跳びたくなり、棒があれば振りたくなり、ボールがあれば投げたくなる、イキモノです(笑)」という北川さん。
会場の片隅に積み上げられたマットから、子供たちを次々と跳ばせ(みな大喜び)、着地の衝撃の和らげ方を実地で試すワークもありました。
「抱っこ」と「おんぶ」は親子を救う!?
そして最後は、この「子育て三銃士」企画の発案者でもある、藤本さんです。
藤本さんは現在、パパ1年生。
日々成長するご自身の赤ちゃんを観察することから、新しいワークを発案したり、子育ての定説に見直しの必要性を感じたりすることもあるといいます。
最近「これは違うのでは…」と感じているのは、抱っこの際の“輸送反応”について。
そもそも輸送反応とは、野生動物が仔どもを口にくわえて運ぶ際に、仔どもが静かになることをいいます(暴れると危ないからだといわれる)。
人間も同じく、抱っこをされると赤ちゃんが泣き止んだり、おとなしくなったりします。
この輸送反応が起きる理由としては、「抱き上げられることで安定感をなくし、赤ちゃんが不安を感じるために、おとなしくなる」のが定説とされています。
ところが藤本さんは、
「自分の子供を見ていると、抱っこされて不安になるとは、とても思えないんです。
抱っこをされることで反対に、赤ちゃんの平衡感覚が整って、神経系が覚醒し、“スッキリ、フワッと”する。いい感じに落ち着いてリラックスするから、おとなしくなるのではと考えています」
とおっしゃいます。そして大人も実地に体験してみましょう! と、ワークが始まりました。
【ワーク:おんぶ、抱っこ】
大人同士で二人一組になって、おんぶに抱っこを。
さらに三人組になり、二人で一人を運ぶワークも行われました。
ワークを終えた藤本さんいわく、おんぶや抱っこはまさに、“スッキリ、フワッとしたからだ”になる経験だったといいます。
「抱っこをされると、相手にからだをゆだねながら、最小限の力で自分の姿勢を維持しようと、一番深いところから自分を支えようとする力が働きます。それが覚醒につながるようですね」と藤本さん。
参加者も同じように「覚醒してシュッとなった」「フワッとしていい感じ」と、心地よさを感じる方がほとんどでした。
このように輸送反応に限らず、自分のからだで試してみると、定説と実際の感覚にずれがでることは、ほかにもまだまだありそうです。
*
こうして子育てまっただ中のパパ三人による、盛りだくさんの二時間半の講座は、あっという間に過ぎていきました。
今回の“子育て三銃士”に共通していたのは
「親も子も、自分のからだの感覚を信じることが、互いの心地よさをつくる」ということ。
そのお蔭でスッキリとしたからだになれたり、他者との円滑なコミュニケーションにつながったりする。
あれ? これって、親子関係に限らず、どんな人との関係性でも成り立つことでは?と、あらためて気づかされた経験でした。
子育て未経験のわたしですが、まずは自分の「からだ育て」で快適さを感じるところから、始めてみます!!
(了)
【講座のご紹介】
山上亮さんの講座が、同じ朝日カルチャーセンター新宿教室にて行われます。ふるってご参加ください!
・講座名:幸せ親子をはぐくむタッチ
・講師:山上 亮(整体ボディワーカー)×山口 創(桜美林大学リベラルアーツ学群教授)
・日時:2018年1月13日(土)12:00-15:00
・詳しくはこちら(朝日カルチャーセンター新宿教室内のページ)→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/adb36ae7-e832-65c2-0319-59f96891ab0d
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–Profile–
●山上亮(Ryo Yamakami)
整体ボディワーカー。野口整体とシュタイナー教育の観点から、人が元気に暮らしていける「身体技法」と「生活様式」を研究。整体個人指導、子育て講座、精神障碍者のボディワークなど、はばひろく活躍中。
著書
『子どものこころに触れる整体的子育て(クレヨンハウス)』
『整体的子育て2 わが子にできる手当て編(クレヨンハウス)』
『子どものしぐさはメッセージ(クレヨンハウス)』
『じぶんの学びの見つけ方(共著、フィルムアート社)』
山上 亮FBページ:https://www.facebook.com/yamakamiryo/
●藤本 靖(Yasushi Fujimoto)
米国Rolf Institute認定ロルファー、ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー。独自の身体論を展開、各地で講演やワークショップなどを行う。著書に『身体のホームポジション』(BABジャパン)、『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(さくら舎)、『1日1分であらゆる疲れがとれる「耳ひっぱり」』(飛鳥新社)、『感じる力をとり戻しココロとカラダをシュッとさせる方法』(マガジンハウス)など。
Web site オールブルー(藤本靖公式サイト)
●北川貴英(Takahide Kitagawa)
08年、モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより日本人2人目の公式システマインストラクターとして認可。システマ東京クラスや各地のカルチャーセンターなどを中心に年間400コマ以上を担当している。クラスには幼児から高齢者まで幅広く参加。防衛大学課外授業、公立小学校など公的機関での指導実績も有るほか、テレビや雑誌などを通じて広くシステマを紹介している。
著書
「システマ入門(BABジャパン)」、「最強の呼吸法(マガジンハウス)」
「最強のリラックス(マガジンハウス)」
「逆境に強い心のつくり方ーシステマ超入門ー(PHP文庫)」
「人はなぜ突然怒りだすのか?(イースト新書)」
「システマ・ストライク(日貿出版社)」
「システマ・ボディーワーク(BABジャパン)」
「ストレスに負けない最高の呼吸術(エムオンエンタテイメント)」
「システマ・フットワーク」(日貿出版社)
監修
「Dr.クロワッサン 呼吸を変えるとカラダの不調が治る(マガジンハウス)」
「人生は楽しいかい?(夜間飛行)」
DVD
「システマ入門Vol.1,2(BABジャパン)」
「システマブリージング超入門(BABジャパン)」
web site:「システマ東京公式サイト」